■日光/金精山笈吊岩<登魂®リッジ(仮称)> [登攀]

2009.6.7
鮎島仁助朗、大部良輔
 本命山行の鬼ヶ面の翌日・・・。
 最近、ガッつかなくなくなった私は、さっさと<おかわり>せずに帰りたかった。だが、オーブがそれで許してくれるはずもない。なにせ食べ盛りなのだ。こわいこわい。
 しょうがなく、<Naked Mountan East Wall>という姿カッコは素晴らしく、でも実は3時間程度で往復できるところで誤魔化そうとしたのだが、なぜか夜半から大雨。朝おきても、視界はいっさいない・・。う~ん、帰りてぇ・・・。しかし、言い出せる雰囲気になく、これまたとっておき代案<笈吊岩>を持ち出して、ゴマカシPartⅡを図ることにした。

 私は、実は<いつか>のために、おもろげな山をいくつかリストアップしている。笈吊岩はその中のヒトツ。
 あれはそう、50年ぐらい前の岳人。その日光バリエーション特集が組まれたそこでは<早稲田の山岳部がここ数年来、金精山の笈吊岩でトラバースの練習を毎年している>との記述があった。それまでは、正直、この存在を知らなかったが、興味を覚え、まずは地図で確認、確認。ふむふむ・・・ここか・・。おぉぉ、アプローチ、近い!近いやんけ!。
 地図で読み解くとあきらかに駐車地から歩いて1時間かからないところにある。こりゃ、いい!。それに、登山大系にはもちろん、ネットでもここを攀った記録はない。誰かが登ったなんて話はいっさい聞かないということは、どうせチンケなんだろう。2時間ぐらいであっさりと終われるし、地図なくてもいける。これは、いつかのために使えるぞ・・というわけでめでたくリストインしたのだった。
 というわけで、関東は晴れという予報のもと、軽い気持ちで向かうことにしたのだった・・。
 と・こ・ろ・が・。
 いやぁ、写真すら見ていなかったのは失敗だったね。金精トンネルを抜けた駐車地に車を置いて、ふと目を走らせると、まさに唖然。
 <笈吊岩って、あ、アレ??おい。あれ、ヤバいじゃんっ・・・>
 確かに間違いない。駐車地からすぐ近い。本当にすぐそこ。しかし、ブツは明らかに脆そうな岩を屹立させてブッ立っている大岩壁だった!!おいっホンマに登れるんか??記録がないのもうなづけるのですが・・。

駐車地から見る笈吊岩とルート(赤線)
取付きへと向かう(赤線はルート) 3P目。眼下に金精道路と戦場ヶ原、湯ノ湖が広がる
 まったく登れるとは思えないが、案外、取付きに近づくと傾斜が緩く見えるかもしれないということで、まずは取付きまで行くことにした。
 駐車地の片隅に車を停め、駐車地裏の涸沢をつめる。最初の木でできた堰堤から左の尾根へと逃げ、あとはこの尾根を忠実に藪をこぐ。途中踏み後らしきはあるが、鹿道だろう。だんだん疲れてくるころ、この尾根は崩壊となって消えているので、反対側の沢状地形へ降りるが、そこもすでに崩壊だ。オーブはなれていないのか、ビビッていた。こういうところは経験の差が出るね!あとは、忠実に草付っぽいところを、登っていく。なお、やはり取付くには、駐車地裏の沢をつめるのではなく、一本下の沢をつめるほうがよかったみたいだが・・。
 さて、駐車地で目星をつけたルンゼへと向かう。このルンゼ、中央から見ると岩壁のちょうど真ん中に走り、カッコいい。そして、取付き近くから見ると、なんか登れそうな雰囲気も少なからずある。
 しばしばある落石に気をつけながら、靴を履き替え、ロープを準備。じゃんけんで勝った、鮎島から。

1P(鮎島、20m、Ⅳ+)
 取付きから、ワンポイント残った雪から取付く。取付きから、悪い。なにせ、ドロドロ、浮いている、逆層と見た目以上に悪いことが判明。一段上がって、完全に浮いている岩でエイリアン黄色を決めて右トラバースするところが核心。悪いね。そこからまた左へトラバースするところが、とても怖しく、秘蔵のクロモリペグ15cmを草付にぶち込んでしまった・・。そこを越えれば、あとはルンゼを忠実に、突っ張りのぼりで10mのぼる。CSを左から越えると、顕著なチムニー。短いが、ここでピッチをきることにする。
 なお、これだけ顕著なルンゼなので、登られた形跡があるかと思ったが、残置いっさいなし。もし完登できたら、<登魂ルンゼ>と吊づけようと心に決める。
2P(大部、25m、Ⅳ)
 オーブはチムニーを直登しようと、奮闘していたが、狭い。<M男注意>のシールが貼られたヘルメットが邪魔らしい。断念。もちろん、私はヘルメットどころかおナカ周りですでにアウト。頑張る気にもならない。だいたいが、この通称オーブチムニーを越えても、上は明らかに悪いスラブなので、越えてどうなるものでもないはずなのだ・・。私はこの時点で、敗退?という二文字がよぎる。
 よくよく見渡すと、左側には立派な木が生えており、それが上まで続いているように見える。<登魂ルンゼ>はあきらめ、<登魂リッジ>へと弱点つきでの完登を目指すことにする。5mトラバースして木へ。やはり、木は続いているようだ。するすると登っていき25mでピッチをきった。フォローしてみると、う~ん。悪い。確かに木は続いているが、遠い。傾斜も垂直に近く、スタンスもないに等しい。、木に縋るしかないが・・・。とっても疲れるのだ。いやぁ悪い。オーブはよくリードしたよ。
3P(鮎島、45m、Ⅲ+)
 ビレイ点から同じようなほぼ垂直の潅木登りで10m登るとピナクル状のところに出た。そこからはナイフリッジっぽいのが続いており、それを忠実に辿る。難しくはないが、高度感がある。ロープをぎりぎり延ばしたところまで。右下には<登魂ルンゼ>が見えるが、まぁこれは・・。登るにはボルト連打が必須でしょう!あそこで巻いて潅木に入って大正解だった。
4P(大部、45m、Ⅲ+)
 左にルンゼが見える。そっちに行こうかという話も出たが、安全策で潅木リッジを忠実に辿る。慎重に登れば、それほど難しくはない。ロープをいっぱい伸ばした潅木まで。下から見ると<組み易し>と思えた左のルンゼは、上のビレイ点から見ると、明らかに悪そう・・。潅木リッジを忠実に辿ってよかった・・・。

 その上は、傾斜が落ちた草付き&潅木帯。ロープを解いて、クライミングシューズから沢靴に履き替える。
 それにしても、あぁ、眺めがよい。金精道路は真下に走り、男体山、真吊子山など日光の山々、戦場ヶ原などが指呼の位置にあるようだ。うん、裸山にいかなくてよかった。
 笹薮&潅木をこぐこと、およそ100mで稜線の登山道に飛び出た。あとは登山道で30分。途中、すれ違ったオヤジに<笈吊岩?マイナーなところ登りますねぇ>といわれれば、何気に気持ちよし。そして、駐車地から眺める笈吊岩。自分らの辿ったラインを振り替えれば、笈吊岩のほぼ真ん中を直登しているライン。それがまた、とても余韻に浸らせるんだな。
 治田さん、<登魂®リッジ>と仮称してもいいですか?もちろん、<®>はいれさせていただきますので・・。
 そう、<登魂>の二文字を付けたいほど、とても充実したクライミングになった。トンネルを抜けて、この笈吊岩を見たときの率直な感想は<あぁこれはムリだな>というもの。その気持ちの中で取付き、やはり途中で<やっぱ、これはムリだ>と思いつつも、自分らでラインを読み、完登できた。ほどよい緊張感の中、登れたのはとても得がたい体験だろう。
 そして、笈吊岩自体、登られているかどうかはわからない。残置などの痕跡はいっさいなく、実際に記録も未見。途中から潅木登りに徹したとはいえ、壁の中心部の弱点を登った素晴らしいラインと自負している。もっとも、オススメはしないし、もし登るのであれば、それ相応の覚悟が必要だと思う。
 オーブ殿。あざぁぁす。いやぁ、よかったね。勉強になりました。

2009.6.9 鮎島 筆

【記録】
6月7日(日)晴
 駐車地0900、取付1000、稜線1400、駐車地1440

‎‌ 【装備】
 ダブルロープ50m×2、15cmクロモリペグ×1、カム(#0.1~1.0)、スリング多数
※登魂ルンゼを直登する場合は、ボルトが必要?

【写真】

左/駐車地からの笈吊岩 右/沢をつめて笈吊岩基部へ。
 

左/取付きから上を眺める  右/1P目をフォローするオーブ
 

左/オーブチムニーをトライする  右/ヘルメットには<M男注意>の文字
 

左/2P目終了点にて。後は大岩壁  右/3P目をフォローするオーブ
 

左/4P目をリードする  右/登山道から笈吊岩を降り返る
 



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