■上州武尊/薄根川荒山沢右俣[溯行]

2009.6.21
鮎島仁助朗、渡辺剛士、山田恵
 過去に、これほどまでに切羽詰まった心の叫びを聞いたことがあっただろうか。
 「はやく、俺を踏んでっ。踏めって、はやくっ!」・・・。
 はい、M男の懇願です。どんなシチュエーションかって?まぁ想像してください。
 それでも、このナベのお言葉のお陰で我々は完登できたといっても過言ではなく、満場一致でこの山行のベスト一言賞の受賞が決定したのでした。そんな、終わってみれば楽しい山行になったわけであります。

 日曜朝。4時半。「うひ〜」という題名のメールがナベから届く。曰く「結構雨降ってるね〜」。メグさんもそれに追随。曰く「こっちも雨が降ってきました」。・・・。ナニを言いたいかはもちろんわかっちゃいる。わかってはいるけど、明言しないの方が悪いのだっ。気づかないフリをして、「予定通り6時に高坂SAで集合するように」という厳命メールで返信することにした。ナベ&メグさんには複雑な思いはあっただろうが、クーデターをおこしはしなかった。「裸隊」3名はこうして高坂SAで集結したのだった。なお、雨はじゃんじゃん、わんさか降っている。
 当初の計画はあの「裸」。しかし、雨の中スラブなんて論外ですぅ。でも、すでに関越道。そっち方面の代替案を考えるしかない。
 ところで、代替案を提案する際の鉄則。その三つをここでお教えしよう。

 1)あえて、選択はパートナーにまかせること。これによって、「キミが選んだほうだから」と自分が悪者にならずに済みます。
 2)代替案は二つだすこと。三つ以上は悩んじゃうのでダメ。一つだけの提案だと、自分で他案を考えてしまう余地を与えてしまう。2つというのがミソ。
 3)自分で行きたい方とそうでもない方はしっかり決めること。しかし、そうでもない方にも多少のメリットは載せて、「見え見え」にならないように気をつけるべし。

 この鉄則を踏まえて、私が提案したのが、「妙義にもあった泳げる沢」金洞沢と「上州武尊の隠れた名渓」荒山沢の二つ。この二つの提案を<どっちがいい?>とメグさんに聞けば、そりゃ誰が考えたって、答えはやはり「あっち」でしょ。もちろん、ワタシの希望通りの結果。さらにメグさんにとっては「自分が選んだ」という重い十字架を背負わせてしまったわけで、なかなか、ワイもワルじゃのぅ。イヒヒッ。・・・。メグさん、ゴメンね。

 大雨だった天気も、前橋を過ぎるころからは小ぶりへ。林道終点にある野営場の駐車地には本当に立派な小屋があり、雨の中でも濡れずに着替えるところがうれしい。
 登山道を20分ほど辿り、分岐を不動だけ方面へ。少し下ると沢の横断地点。そこから溯行開始。
 う〜ん、明らかに水量が多いのですが。流域は小さいはずなんだけれどなぁ。渡渉とかに苦労するほどでもないのでそのまま進む。すぐに左岸からの支流。う〜ん、水が多すぎて1:1にしか見えないんだよね。左へ進み、すぐにCS10m簡単に巻き登って、右岸からの支流をあわせる。
 ゴルジュ地形となり、奥にはあきらかにブッ立っている滝が・・・。オイオイ。近づいてみると傾斜は緩い。なるほど。これが30mナメ滝か。って、水流が多いから大迫力なんですけどっっ!!!ナメ滝ってふつう、穏便な感じがするんだけれど、それが圧巻のド迫力!いやぁ笑っちゃうね。平水なら直登できるのかもしれないが、この水量じゃ絶対ムリ。右岸のルンゼ(普通の支沢にしか見えなかったが)との中間リッジを藪漕ぎして巻く。この大ナメ滝は上から見てもすごい迫力だ。上にはさらにゴルジュ地形の中に、5mぐらいのナメ滝が連続している。これが、どれもいい迫力を醸し出してるんだな。いやぁ、直登はこの水量じゃムリっしょ。右岸から巻くが、その上も何個かド迫力のナメ滝が連続しているので、何個かまとめて巻く。最後、沢に戻るところが、ワンポイント悪く、お助け紐を出した。
 次いでのCS滝を完全シャワーで越えると、傾斜の強いCSナメ滝3m。これがどうしようも巻けないんだな。つっこむしかない。唯一、ステルスラバーの沢靴のワタシが、シャワーを浴びつつ、細かいスタンス、ホールドを拾いつつ、渾身のクライミングで抜ける。
 問題はフォロー。3mと小滝なのでスリングをたらし、ゴボウで登ってもらおうとするが、スタンスが細かいところでフェルト底じゃきついし、なによりすごい水圧。メグさんは苦労している。ナベはいいやつだ。メグさんがスタンスに苦労しているのに気づき、自分がスタンスになろうと思い立ったのだった。もちろんメグさんの靴が、先週のナベの靴(ウ×コを踏んだ靴)だったらどうだったかわからない。でも、スッと迷うことなく行った。しかし、問題がある。そこは完全に水流の中。ショルダーの土台になるということは、完全にシャワーになるわけだ。メグさんは、これまで人を踏んづけたことはなかったらしく、やはり抵抗があるのだろう。なかなか、ナベを踏もうとしない。でも、時間が立てばたつほどナベが苦しくなっていくわけで・・。そういうなかで、発せられた言葉が、「はやく、俺を踏んでっ。踏めって、はやくっ!」・・・・・。
 おそらく、あの場にいたものではないとわかるまい。この言葉がいかに切羽詰ったお願いだったかを。それはとても演技で出せないM男の渾身の依頼だったのだっ。すごかったね。あの迫力は。その懇願に勝てるものはきっと人間じゃない、動物ですらもない。意を決し、メグさんはM男を踏んだ。めちゃめちゃ踏んだ。これでもかというぐらい踏んだ。踏んで踏んで踏みまっくった。それでようやく抜け切ることができたわけだった。完登と敗退を分けたなんとも感動的な瞬間だった。うん、うん。
 トンネル(!)をくぐって抜け出て、チョイ休憩。
 その上もやはりド迫力のナメ滝。う〜ん、めちゃめちゃ連続してます。ステルスラバーは威力発揮。楽勝で登れるが、増水したナメ滝でフェルトはヤバそう。ロープを出す。つづく20mナメ滝は右岸巻き。その上もド迫力のナメ滝が連続しているのでまとめて巻いて、潅木から懸垂下降8mで沢に戻る。ヘトヘトです。しかし、上にはド迫力のナメ滝がまだまだ続いている・・・。う〜ん、すごい。確かにいい沢。人気度★(星一つ)の隠れた名渓だけはあるね。でも、こんなハードなの?明らかにNaked Moutainよりもきつい。
 メグさんは、「鮎ナベコンビに騙された〜」とか「なんで転戦先のほうがハードなの!」とか言っている。「でも、メグさんが選んだところですから」とズルく返すが、「最初から選択肢2つしかなかったじゃん、しかも一つは論外だし」と。ごもっとも。さすがにあのトリックはバレてたようだ。まぁ、最終的には「鮎・ナベと行くと、こうなるんじゃないかと思ってたんだよね」と楽しんでくれていた(?)ようなので問題なし。
 そのすごいナメ滝(15mナメ滝×3)は傾斜もそれほど強くないので、平水なら水流を登れるかもしれないが、こんな増水じゃとんでもない。右岸の笹を掴みながらの腕力勝負で何とか越えるとようやく落ち着いたような。それでもまだまだ続くナメ滝や意外と手ごわいCSがあり、まだまだ気が抜けない。最後の猛笹薮を10分ほどこぐとようやく待望の登山道だ。ナベがほえた。メグさんは・・・。
 なぜか稜線に出ると、晴れた。また抜け出たところは、美味しそうにいい感じでみずみずしく、ブっとい根曲り竹がたくさん生えていて、今晩の夕食にとナベはベラボウに取っていたが、あんな数の皮、本当にむいたのだろうか??ナゾである。10分ほど右へ行くと、前武尊。山頂にいる日本武尊像、通称「タケちゃん」は山登魂アイドル「タケちゃん」と顔の輪郭だけそっくり。アイコラしたくなります。
 ドロドロになりながら下山(2時間弱)し、地元の温泉センターへ。これが弘法大師ゆかりの湯と謳っているやつなのだが、絶対に突っ込みたくなるね。加えて、ここの売りは、地元の方々のカラオケをマジ聞きできること。もちろん演歌。久しぶりにガンガン聞きました。紅白以来です。では、歌っていただきましょう、堀内孝雄で影法師!「♪そんな影法師ぃぃぃ〜〜♪」う〜ん、たまにはイイね。でも、ここでメシを食べるのはさすがに勘弁ですぅ・・。だって、良質なタンパクを食らうとき、いかに高橋さんがLOVEだろうと大音量の浪曲をBGMにしたくないでしょ。それと同じなのです。

2009.6.22 鮎島 筆

【記録】
6月21日(日)雨のち曇
 駐車地0900、入渓0930、稜線1300、駐車地1445

【使用装備】
 ロープ50m×1
 ※ロープは30m×1で充分。
 ※沢靴はラバーソールのほうが良く利く。





大増水。 増水にほくそ笑む(?)鮎島と、マジメに遡行図を見るメグ(不安だったに違いない)

とにかく増水。ノーマルな沢登りとは程遠い。 核心となったトンネル。(この後M男出現)

トンネルから這い出る。 ナメっちゅーか、滝?増水が凄い。

とにかく増水。ナメっつーか滝。水圧が凄く水流沿いは無理。 タケちゃんと写真。





山登魂ホームへ