2009.07.18-20 治田 敬人
泙川湯ノ沢本谷~松木川本流(下)~松木川小足沢右俣~泙川本流(下)
近くて良き山と沢とはどこ?の質問に対して、僕は躊躇なく「足尾山塊」を挙げる。個人的にもう地域研究といっていいくらいコンスタントに通っている。
何がいいのかと問われれば、一言山の静寂さと答える。関東近郊においても人臭さが少なく、自然がまた残っている。未だその主稜線上には山道がないなど、一部の山の賑わいを除いて信じられないほど登高密度が低いことだ。
さらにその沢筋は、ナメも多く滝も源流では連なり、遡って楽しい渓谷が目白推しだ。そしてどの沢も泊りでの山行が求められ、降雪量の少なさから春早くから晩秋まで楽しめる機会がたっぷりと長い。他にも松木ジャンの岩場やウメコバ沢の岩壁。厳冬期には、谷筋が凍りつき、すばらしき氷の瀑布をまとい氷登りも堪能できる。僕が氷好きになったきっかけは足尾にあると思っている。
さて、そんな魅惑な山塊でも、まだまだ登れていないルートやラインは多々あるものだ。今回は当初、東北の白神山地の4大水系の遡下降を企て、まさに突っ込むまいか、というところ、梅雨前線の活動も激しく、天気図からはとても向かう気はわかなかった。
そこで代案が急浮上。愛すべき足尾の山々。こいつなら十分ワイの期待に応えてくれるはずだ。ルートは以前から練っていた、本谷をつなげての遡下降である。
そのコースは、泙川の湯ノ沢本谷~皇海山~松木川本谷~支流小足沢~三俣山~三俣沢支流前小屋沢~三俣川本谷という具合だ。
実働3日予備1日で組立てた。
7月18日
奈良からの林道は悪路だ。チビ軽ワゴンで頑張るが、腹がすり、どうしても二つ目の隧道が抜けられない。でもここまで来れば上等だ。道脇に駐車して、歩行開始。
しかし、変な天候だ。降るようで降らないかと思うと少し降る。ウエットタイツでの林道歩きは体温上昇。本流に降りればやっと流水で慰められる。
三俣川本谷と湯ノ沢出合までも迫力があり、何度来ても美しい。湯ノ沢からは、釣竿片手にのんびりゆくが、スレているせいか、下手なのか、全然ダメ。しかし一回浮いているホンマにでかい尺上はある奴を引っ掛けた。ところが飲み込みが浅いのか、合わせが早く弱かったのか、2,3回引っ張られたあとはスッカンと逃げられた。これは正直、がっくりきたな。「うー、くそ、」と言ったかは不明だが、もう黙々と遡行に専念する。改めて見ると湯ノ沢は渓想としても一流だ。大釜をいくつも交え、滝が顔を出してくる。じっくりと伺い、なるべく登る。上流のホンの小平地を見つけ幕を張る。
7月19日
朝方降雨もあったが、歩いているうちに小降りになる。いい感じのナメと小滝が続きうっとりしてしまう。が最後にボロそうな滝というか壁が路を塞ぐ。大巻きを無理にしても時間もくうし、もう源頭だ。定石に従い左斜面から稜線へ巻き登る。山頂へは踏み後に出てからもかなり登る。今回は白神山地を想定して結構重い荷で来ているのでキツイきつい。何度も小休止して、やっとその絶頂を踏む。
皇海山3回目。しかし、山のてっぺんは何度きてもうれしいものだ。ましてやこの雄峰は百名山。天候が悪いのに幾人ものハイカーが上がってくる。
さて、ワイは予定とおり松木川の本谷を下降する。少し稜線を下り、ちょうど反対側の栗原川からの一般登山道が稜線にぶつかった所が、鞍部であり、松木川の下降点だ。低い笹原をかき分けてジャンジャン下る。右からガレ沢が合わさると、延々と
ガレとゴロ石下りと相成る。傾斜もあるので膝に響く。いわゆる大腿四頭筋の疲労だが、この手のトレーニングは山を想定して常日頃から刺激を与えてはいるが、それでも齢50の体には強火の刺激で、膝はガクガクになる。
それでもナメや大釜など、幾つかの見所を魅せて、やっと小足沢の出合に立った。
ここの雰囲気は絶望的だ。当会の代表、高橋ヒロポンが昔、ここにルートを開かんと志の塊で挑んだというが、その岩壁はでかく凄まじい。高距、幅、スケールとかなりのもんだ。奥の奥まで壁だらけ。あのドス黒く摂理の大まかな花崗岩は、死に絶えた壁というような迫力がある。ワイも無い気合を入れなおし、突っ込むことにする。いきなりゴルジュで滝登り。
ぶっつけの20m滝はまったく手も足もでない。その手前小滝もシャワーでてこずりそうだ。先人の岡田氏の初登ラインを読む。なるほどここしかないという岩稜?が見つかった。かなり悪そうだ。しばしの判断の上、そこは断念する。荷も重くさらに水も追加して、この疲れでこのルートは危うい。踵を返し、代替案の三沢からの山越えに切り替える。
三沢は明るく小滝が続き快活だ。小足沢の下部岩壁が終わるところへ、地図上でみる最低鞍部から舞い戻る。そこは鹿道がいくつも引かれており、動物達も当然あの壁は敬遠するわけで、自然の摂理の道と言えるわけだ。
ここからの小足沢は美しい小滝と釜を従え、ルンルン気分。ちょうどいい泊り地が見つかり幕の準備。
さあ、釣竿片手に勇み足。結果は昨日に続き………。めげずに今日こそ焚火だ。
塩焼きは逃したが、火にはあたろう。メタで点火し………。雲行き怪しき、ポツポツポツ。
「ふざけんじゃねーぞ。良質な蛋白質に出会えんし、焚き木も散々集めさせといて、この仕打ちかよ、くそ」と再度のつぶやき。ツエルトに入ると小降りになり止む。早速飛び出しさっきの続きだ。
「よしよし、これでよし。いい感じでないかい。やっぱ沢には焚火よ」とコメもといで炊き出していい感じになってくると、ポツポツポツ。
「なにー、なんだこのー、くそ、ざけんなよー」と何度も心の中で叫びました。あまりに不順な大気の状態に、とても勝てるわけありません。蒸し厚いツエルトの中で一人宴会に突入でした。
7月20日
今日は青空だ。気分も良し。この小足沢はこれからが、またたまらなくいい。平坦な河原を越していくと滝の連続となる。そのどれもが楽しく登れるグレードだ。大きなものもあるが慎重に行けば問題なし。ただ最後はいくつもの小沢に分かれるが僕のとった沢はもろい壁
とその滝登りがあった。スタンスも非常にあまく、壊れる前に次にというものもあり、一瞬の気合が必要だ。乾いた沢状からガレとなり、森林帯から三俣山に到着。
やっとついた静かな頂。ここは国境稜線なのに明瞭な道が無い。篤志家以外は訪れない愛すべき山頂。隠れた名山・錫ガ岳も間近に見え、ぐるりを山座同定。
これより下降点のコルへ笹ヤブこぎ。前小屋沢に入るところで、何と山からのBIGプレゼント。見事な雄鹿の左の角をゲット。なんつうラッキー。沢の上部はナメが続き歩きやすいが、そのうち河原となり延々と続く。もう嫌になる頃、小滝大滝が連なり行く手を塞ぐ。左巻きで交わしさらに巻き下るが、そのでかい滝の途中から強引に下降した。最後が下れない。でも登り返しの気も起きない。滑れば止まらないけど、わざと滑って岩の突起にぶつかって止まって、を繰り返してやり過ごす。
やっと三俣沢の本流に乗る。もう何度も来ているが、でもいいね、ここは。ナメ床が白く明るい。しかし、釣師が増えたせいか、やたらゴミは多いし閉口する。正直勘弁してほしい。
林道に上がり、暑くなった体に鞭打って飛ばす。熱中症?の恐れもあったが、わずかだからとウエットで汗だくダイエット。やっと林道に愛車を見た時は、疲れの頂点だった。
その後は回転寿司15皿をたいらげ、満足で帰宅したが、幾日か下痢と微熱の体調異変で苦しんだ。
それでも充実した3日間を与えてくれた愛すべき足尾山塊。彼らに感謝の念が絶えない。
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