■北ア/梓川中又白谷[溯行]

2009.8.15
鮎島仁助朗、山崎洋介、渡辺剛士
過去行った下又白谷は垂直のゴルジュというべき厳しいもので、南アの大武川赤石沢とともにアルペンティックあふれるすばらしい渓だったと記憶している。だから、下又白のひとつ隣の中又白はいつか行きたいところだった。結局、かなり強引な手腕で中又白谷から前穂東壁の継続へこぎつけることにしたが・・・。
 前日からバタバタあって、最終的に3名になってしまった。東京組は昼には上高地に到着。よって14時ぐらいには徳沢についてしまって、飲んだくれるしかない。夕方に山崎さんが徳沢に到着。一緒に飲んだくれる。ここで、装備忘れが判明。実は鮎は、ジャージを忘れており、あわてて波田の町で購入したが、それだけではない。鮎=ヘッドランプ&地図、ナ=トポ&はし、山=地図&ナベ&トポ。。。う〜ん、気合が入っていないぞ。というわけで、今回の山行テーマを設定することにする。テーマ「濃」。なにしろ山崎さんが「濃」(こい)という見たことないキャンディを大量に持ってきたのをみて閃いたのだ。我々に不足しているのは、まさにこの心なのだと。

 翌朝。4時に起床して、いらない荷物を新村橋あたりにデポする。新村橋近くの押出をつめれば30分ちょっとで中又白谷のF1だ。30mくらいかな・・・。傍らには雪が少し残っているが、問題はない。それにしても快晴。空がまぶしい。鮎はその後ずっとサングラスをかけて遡行した。
 さてF1。右側が弱点のように見えるので、そこを攻めようとしたが・・・。ツルツルで簡単に取り付けるシロモノではないことが判明。もっと右のハイマツから巻くことにする。これがまた、難儀な巻きだった。なにしろ踏み跡なんてないし、このハイマツが厄介なこと。また傾斜もけっこう強いし。大変だ。それでも、うまい具合に巻いていくと、ノーロープで落ち口に降りられた。冴えてるね。
 F2はどれだっけなーていう感じで越え、ボルトが打たれた大岩をA1アンド荷上げで越え、CS5m滝を空荷&荷上げのスタイルで華麗なレイバックを越えると、谷は左へ折れる。このあたりは気持ちがいいところだ。ここにかかる滝は、水流左のスラブの簡単なラインを選んでしっかり登れば、ロープは必要なかった。(但し高度感があるのでロープはあってもいいかも;残置ハーケンはけっこうありました)
 そこを越えると、ドドンとF8の黒滝50mだ。とにかく、ここまで一切の見せ場がなかったナベがリード・・・。せっかくなのでクライミングシューズ装着し登り始める・・・。いつも同様、独り言なのか我々への注意喚起なのか、「うぉぉ〜悪ぃ」を連発しながら饒舌に登っていく。しかし20mを過ぎるとパタッと止まった。限界らしい。登攀エースの山崎さんにリード交代。確かに悪そうだ。なにしろ傾斜もあるし脆い。リスは少なく、クラックもなくカムも使えない。残置も少ない。後ろからでも緊迫した心が伝わってくる。最後には空荷になって越えていったとき、あぁ良かったと思うことしきりだった。X級くらいはつけたいらしい。しかし、よくよく考えれば、初登はあの小川登喜男。彼はもっと貧弱な装備でここをクリアしているのだ。う〜、良くこんなところを1930年代に登ったものだ。天才だね。
 ここで、衝撃的な事実が判明。なんと、山崎さんが「濃」キャンディを下にデポしてきてしまったのだ!「ナニやってるんですか!昨日、テーマは『こい』だって決めたじゃないですか!下においてきちゃダメでしょっ!!」士気低下は免れないが、F8を登った後でよかった。(その後、やはり持ってきていたことが判明)
 F8のうえは軽く小滝が続いた後は、まるで西ゼンのスケールを小さくしたようなすばらしいスラブ帯だった。白い花崗岩と青空。まぶしすぎるぜ。途中、山崎さんがあえて難しいほうへ行き、案の定ハマっていた(上からロープをたらしてあげました;すばらしい友情!)が、総じてロープはいらないやさしいスラブ。ステルスラバーのソールが本当に良く利く。ただし、ひたすらスラブという感じ、容赦なく照りつける太陽、容赦なく照り返しする白い花崗岩が体力を蝕んでいき、最後は3人ともバテバテ。ようやくスラブ帯を過ぎると小川っぽっくなり、そこまでくれば奥又白池まではすぐそこだった。
 時間はまだ昼過ぎ。メスナーテントを張ってゆっくりする。外で酒を飲み始めるが・・・・かゆい。蚊だ。しかもでかい。服の上からさしてくる。たまらないぜ。テントの中に入って寝る。

 夜からなぜか、雨がぽつぽつ降り出した。そして、起床予定の朝3時。雨脚が強い。前穂W峰正面壁の松高ルートに行こうと予定していたが、出鼻をくじくこの雨。まるっきりやる気がなくなってしまった。朝5時過ぎに再び起き、蚊の襲撃をさけるため中で飯を食って6時過ぎにテントを出てみると、なんと外は快晴だった。う〜ん。へへへへ。
 山崎さんは行きたそうだったけれど、一度落ちてしまったモチベーションを再度上昇させるのはたやすいことではない。・・・帰りましょう!奥又白池から下る道はけっこうワイルドな下山道。急勾配だ。おそらく、この登山道を登ることは二度とごめんだなぁと思いつつ、となれば前穂東壁を登る機会はないののかなーと思いつつ下山。さすれば、恨めしい気持ちになるが、しょうがない。だってすでに目標は、河童橋を渡ることへ切り替えたのだから。

 中又白谷はなかなかだとおもう。難儀な巻き。魂のクライミング。アルペンティックあふれる景色。すばらしいスラブ。ひと気なさ。終了点の奥又白池。すばらしすぎる天気だったことを差し引いても、いい沢だと思う。でもなぁ、これにやっぱり前穂を継続するとさらに充実するんだろうな・・・。すんまそん。山崎さん&ナベ。御免!最近、以前にも増して我が身がかわいく、ちょっとでも気合を殺ぐ要因があるとダメなんだよねぇ。もう私も29歳だからね。はい、言い訳だす。
 でも、本当に中又白谷はそれ単独でもいい谷だと思いますよ。また、もし前穂東壁に行くのなら、あのかったるい登山道を登るよりかは中又白をたどってアプローチした方が絶対にいいと思いますし。
 なお、下又白の方がもっとハードなので、そっち嗜好の方は下又白谷もおススメですよ。

2009.8.19 鮎島 筆

【記録】
8月14日(金)晴
 上高地1200、徳沢1400
8月15日(金)快晴
 徳沢0530、最初の滝0700、F8(黒滝)下0900、奥又白池1215
8月16日(金)快晴
 奥又白池0600、上高地1000
【使用装備】
 ダブルロープ50m×2、ナイフブレード1、クライミングシューズ各自、テント
※カム・アブミは使用せず。
※念のためボルトを持っていった方がいいかも。
※ずっと水は流れているので、水は持参しなかった。

【写真】






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