■北関東/奥久慈の彷徨・竜神川と安寺沢と男体山

2009/10/11-12 治田 敬人


常陸の沢は僕にとってもお初かな?記憶を辿っても思い浮かばないからたぶんそうだろう。で、だからこそ楽しみは膨れに膨れた。

低い山並みを穿つその渓流美は?いったいどんな渓相を魅せてくれるの?情報は多少あるものの、それはやはり想像でしかない。

先週行った奥秩父のホラの貝沢とは180度違う、登攀性とはかけ離れた、ただ歩くに近い沢を彷徨したい。いわゆる癒しを求めて旅立ったのだ。


10月11日(日)

 

下道を愛車・チビ軽ワゴン(EKワゴンの別称)を飛ばすこと150K。竜神ふるさと村に駐車して早速、竜神峡へGO。

今回は軽装第一。ガチャ類は極少、スパッツも省く。濡れるのはわかっていたけどほんの一部だ。

かろやかに渓谷を闊歩したいのが、コンセプトなのだ。さて、亀が淵は深い丸釜。このゴルジュは想像以上に暗く、湿った谷筋だ。

集塊質安山岩?凝灰岩かは不明だが、コンクリに小石がくっついているという具合だ。動いて見るものの、へつりは無理。泳ぐ気にもなれない。

左岸の道を少し行き、そこより遡行開始。膝から腿まで浸かり放しでこの亀が淵をやり過ごす。かろやかにフッ飛ばす。小さなボルダーの林立。

その合間のショートクライム。ルートで悩むことはない。即直感で行動を見切る。見切ったら突っ込む。

うーんいいねこのリズム。暗ったいけど良い。もろいけど良い。雪国でも南国でもない、常陸のこのゴルジュ。実に楽しく有酸素運動をさせてくれる。

でかい釜も深い淵もたまにある。それぞれ1回づつ左から巻いた。

 

上流は延々と続いたゴルジュは未練なく途絶え、代わって延々とナメ床が続く。嫌になるほど続く。

賢明な読者諸君にあえて言うが、ご多分に漏れず、これも黒く暗い。でもこれもまたいいのだ実に。

癒し系の沢旅は、求めてはいけない。胸に響く、強い何かを求めてはいけない。あるがままを楽しみ、享受する。そう僕は今日は「有我登」になる。

 ※ 有我登は、ありがとうとは発音しない。するときもあるけど、このときは 「あるが のぼる」という人名。

  「登る我れ、ここに有り」で、山好きな連中の心の中に必ず宿る尊いお方なのだ。

 

でもあまかった。強烈なものが出てきた。何なんだ、のトンネル3連発。

さすがにメゲて、これをもって舗装道に這い上がる。あとは秘境、持方の集落から男体山にえっちらほっちらで登頂。

大円地越は以前ファミリー登山をしたときに休憩広場だったことは知っている。そこにツエルトを張り、暗くなるまで外でウイスキーをちびりちびり。

雑木林に風が吹き、いい雰囲気だ。今にもそこら辺の土が盛り上がり、ツチノコがひょっこり頭を出すのかと期待したが、まったくその気配すらなかった。


10月12日(月)

 

山道を下り舗装道を安寺集落へと下る。途中より道路工事が通行止め。

丁度安寺沢の上流なのでそこより入渓。おとなしい沢筋から突如、周りが切れて滝のが飛び出す。覗いても急で深い釜を持ち、滝の下降は無理だ。

右より小巻で下れば、写真で見覚えのある不思議な形の滝。表現はない、写真を見てちゃ。

その後はナメ床から例の竜神川とよく似た渓相となった。でもホンの少し違うかな。ここも自然のリズムで飛んだり跳ねたり、大石を越えていく。

一箇所多段の大岩滝があるが、左の凹角の残置コードを使い下降した。

この沢は最後は国道に出てしまうが、車を回収するため、その手前の右岸から入る支流を登り、ついでに武生山に立って戻ろうを企てていた。

その支流は本流よりさらに恐ろしく暗く、メゲそうだ。その内登れない滝に出合う。

両側壁も急で高巻いても苦労しそうだったので、巻きではなく支尾根を登り、そのまま武生山につめあがることにした。

 

しかし、これが今山行の核心だった。この山域の地質は岩が多く、谷筋で顕著。

集落名の武生は、滝生というの根源らしく、雨が降るとそこいら中に滝が生まれるということらしい。そういう谷筋の尾根は岩尾根だ。

尾根では表現が悪く、急ないわゆるリッジ状だ。

楽しみ半分から、こりゃ手抜いたら落とされるな、ぐらいの状況になり、さらに相棒いたらロープ張るかな、となり、終いには真剣にホールドを探し、体重移動をしていく自分がいた。

ナメテはいないが、その意外性に笑みがこぼれる…、これだから山は辞められない。

 

山頂は立派な舗装道が横切る。無事のありがたきを歴史ある武生神社に詣でた。駐車場では土産の親父と話し込んだ。車の主、つまり僕はどこに行ったのか?と

二日間心配していたようだ。何でも竜神川は一昔、コチョウランが自生していて、それを採取するため随分の人が訪れ、随分の人が亡くなったらしい。

事故のたびに地元は駆り出され大変だったという。なるほどとうなづく。確かに沢筋を辿る分にはいいが、あのゴルジュをへんに高巻くとか斜面を登ろうとかはかなり危険だ。

それをラン取りたさに近づいては、危なすぎる。欲もほどほどにしないと身の破滅ということか。

 

さらに山に谷にも詳しいので、僕の行動も感心していただいたが、僕からの「ツチノコという寸詰まりの蛇らしきを、見たとか?うわさとか?爺婆からきいた?とかありません?」に対し、驚くなかれ、僕の読みのとおりというか、前々から常陸の袋田の周辺は怪しいと訝しんでいた予想の返答とは180度違い、「いや、そんなもん聞いたことねぇ、何か喰えば腹は膨れるがそんなんじゃない」だった。

んま、幻だもんね。怪しい蛇だもんね。そう簡単に情報は入らないか。

 

ある意味、毛色の変わった名渓探訪だった。上流に集落があり、ゴミは多少はあるが、特徴あるゴルジュ、ナメのひたむきひたすらさが余韻を残す。

暇があれば沢・山の篤志家には、ぜひお勧めするところだ。


 <行動タイム>

10月11日 竜神ふるさと村7:30~中武生への中間地点10:30~持方13:30~男体山14:30~大円地越15:00 泊

10月12日 泊まり地6:00~安寺沢7:30~支流10:00~武生神社11:00~駐車地 11:50


 


一行目竜神川のゴルジュ
こんな感じで延々と続く


大チョックストン
水も綺麗で渡渉して右の窓を潜る


今度はナメ攻撃
暗ったいナメが周りの森とマッチしている


輝くボックストンネル
2発目だが、3発目でめげて遡行終了


安寺沢上流の不思議滝
中に深い黒い釜がある。けっこう神秘的


武生神社の太郎杉
太くごつくりっぱ。男ならこうありたい


安寺沢のナメと甌穴
見惚れてしまう悠久の流れだ


武生神社に山の無事を報告
これからの安全登山を願った