期日:2009年10月18日(前夜発日帰り)
山域:谷川岳一ノ倉沢4ルンゼ
メンバー:渡辺(記)、大部
形態:登攀&遡行
10/18 曇り時々晴れ→曇り時々雨
0500土合駅 0610一ノ倉沢出合 0730テールリッジ末端の先の滝の上 0810幻の大滝(二の沢出合のちょい先) 1045本谷バンドと思われるところ
1200四ルンゼ大滝の上 1440一ノ倉岳山頂 1543トマの耳 1800土合駅
土合駅で一夜を明かし、早朝、暗い県道を歩き一ノ倉沢へ。
出合の公衆便所が職場の便所より綺麗で驚く。
今日もカメラ愛好家が出合に陣取っている。すんませ〜んと間を通り一ノ倉へ。天気はどんよりで時々青空がチラッと見えたりする。
まあ、今日は関越国境が二つ玉の間に挟まれた部分に位置しているので、下界の天気予報は晴れ。しかしここは一ノ倉、ロープウエー乗り場が晴れで一ノ倉がどんよりしているなんて日常茶飯事。だから多分、擬似好天的な小康状態になるだろうとおもっていたので予想通り。しめしめ。このまま稜線までもってくれよ〜。
出だしのゴルジュは普通巻くが、我々はここを通過してウオーミングアップ。上に烏帽子だの滝沢だのがなければ、ココだけでも評価に値するんだけどねえ。
ゴルジュを抜けて一の沢出合あたりで、「ひょんぐりの巻き道の入り口がわからなくて…」と呆けているパーティがいた。「そういうことを自分で処理できない人は一ノ倉に入ったらダメでしょ」と言いたかったが俺が言わなくてもそのうち体で思い知るでしょう。
我々より先に巻き道に入ったパーティが少なくとも2パーティはいたので、「どうせ懸垂で待たされるなら、下からいっちゃえ」と、ひょんぐりのゴルジュに突っ込む。
ひょんぐりの滝は左岸にFIXがばっちりあるのだが、残置に頼りたくない気分だったので右岸巻き。見た目より悪いうえに巻き道から懸垂する人の落石が来そうで怖かった。
衝立沢出合(テールリッジ末端)を過ぎ、すぐに「悪い」と噂される本谷下部の入り口の滝。高橋さんたちは本谷下部の核心だと言っていた。右岸から巻く。
先行Pが、いかにも行きやすそうな、やや上の方のバンドを登っているが、その先でハマっている。
我々はそれを見て、基本に忠実に、滝の落ち口を目指すようにトラバース。ランニングはほとんど取れないが、一応、腐れ残置もあり、やはりこちらが正解のようだ。 完全に沢登り。しかも「悪い高巻き」
だ。大部君がリードしたが、さすが危なげなかった。W級くらいか。
一方のナベは、ビレイ中に例のハマっている人から落石を落とされて肝を冷やしていた。しかしこの人達がいなかったら多分同じラインに突っ込んでいただろうから感謝感謝(その場合は大高巻きして上の樹林に逃げてたろうなあ。そしてザイルがシングルだから戻れなかったかも。)。
沢はカクっと右に折れ、狭い淵になっている。大部君はネオプレンスパッツをつけているので膝までつかりながら突っ込んでいくがナベは全く濡れ対策をしていなかったので強引につっぱりで突破。
その後は、全体にU〜V級の域を出ないスラブのぼりで、小滝を愛でながら感動的な光景を独占。これはいい。日本の渓谷98/99の廣川さんの記録では右岸を高巻いているが一体どこのことか?一箇所膝上まで浸かったがそこのことなのだろうか(確かに修行僧ばりの苦行だった)。なんかこのあたりから天気がよくなってきて晴れ時々曇りという感じに。信じられん。
やがて二の沢を分けると…冷気が漂っております。おおう、雪渓だあ。通りで水が冷たいわけだ。
しかもビッシリ。見た瞬間、こりゃあ幻の大滝なんて出てないなと分かってしまって悲しい。
幸い、簡単に雪渓の上に乗ることができた。ゴルジュになっている分、デカイ雪渓と違って安心感がある気がする(気のせいか?)。
ナベ「どうする、この先雪渓が途切れてたら?」
オーブ「両岸ゴルジュだから枯れ木埋めて懸垂しかないでしょう。俺は別山谷で経験済みだから、今日はナベさんも経験してみたらいいっすよ」
ナベ「オメーの方が体重軽いんだからオメーから行くべきだろ。ていうか枯れ木なんかねーな」
オーブ「石で代用っすかね」
ナベ「いやー、無理だろ」
などとジャブの応酬をしつつ進むと、幻の大滝が一応出ている。が、この大滝、登るのは左壁(ゴルジュの右岸)なのだが、その肝心の左壁が雪渓で埋まっている。かといって何かを支点にして懸垂しても(都合のいいスノーブロックはあったができれば願い下げ)、シャワーを浴びながら20mも垂直のチムニー滝を登るのは技術的にも根性的にも水温的にも不可能。
で、よく見ると、雪渓の突端から、左壁の「幻の大滝正規ライン」の上半部に乗り移れそうなのでコレに決定。
ナベがリードしたが、乗り移る時は怖いし、バンドに乗ったら乗ったで雪渓が消えたばっかりの岩特有の砂利がのっかり悪い。
結局、核心は向きの悪いホールドを保持しながらの立ちこみだったので、フラットソールに履き替えるべきだった(この時秀山荘忍者を履いていた)。
上の明るいスラブで、カムを決めてビレイ。セカンドの大部も苦戦していたのでWはあるのか?
次のスラブ滝は右岸のリッジから比較的小さめに高巻きできそうだが、左岸のスラブから滝の落ち口を目指すラインに決定。
フラットソールに履き替えて(以降詰め部までフラットソール)大部がリードするが、トラバースしてスラブのどん詰まりの逆層ブロックの基部にキャメ紫を決めるまでの10mはなかなか、というか相当シビアだった。
この後は、まさに快適そのもの。スリバチ状の一ノ倉沢本谷大スラブをグイグイ登る。我々は流心よりやや右、いわばスリバチの底をはずして登ってしまったのが、その分高度感があって、ガバガバの順層急傾斜スラブはクライミング的には至福の時であった。(ただ、スリバチの底のスラブをめでたかったという気持ちもあったりなかったり…あとで色んな記録を見ると、みんな今回と同じラインのようだ)
遠目に見える滝沢下部はどう見ても絶望的で、近づいてみるとますます絶望的だった。どこにラインがあるんだよ?
南稜を登るパーティがたくさんいたので南稜テラスは分かったが、地形が複雑でどこが本谷バンドなのかわからない。
まあとりあえず滝沢を分けてここからが4ルンゼってことか。確かにこれまでの「本谷」という雰囲気から一変し、いかにも「ルンゼ」というにふさわしい傾斜とスケールになっている。
F滝は見た目簡単そうだったが取り付いてみると結構悪く、ザイルを出すべきだったと反省。
その後ちょっと手ごわい5mクラスのCS滝を4〜5個越えると20m大滝。一瞬ノーザイルでいけそうに見えたがスケールがあるのでザイルを出してナベリードで左壁に突入。行ってみると手ごわく、残置ピンはほとんど信用ならない。幸い中間地点でカムは決まるので、こいつを信じて上部は頼りない残置も一応クリップしつつ突破。滝の上は右手が小フェース(っていうか段差)になっており、これの基部のトイ状にそって7mほど登ったところでフェースと足元にカムが決まったのでこいつでビレイ。残置のビレイ点はハーケンの顎が吹っ飛んでいた。W+くらいはあったか?
大部君を迎え、つるべで大部君に伸ばしてもらう。左の小リッジから直上しようとしたが、出だしの小リッジのっこしで苦戦。そうこうしているうちに後続パーティのトップが登って来た。はえーな。フォローの大部君より早かったんじゃないか?さっきのハマっていたパーティとはまた別のパーティである。今日はなんと敗退も含めて3パーティが4ルンゼに入ったってことか。
上がってきた赤ヘルの男は、ジャージにスニーカー、スポーツ用品店で高額商品を買った時におまけでついてきそうなデイパックといういでたち。
…スニーカー?
今の、低く見積もってもWはあるよね?それでリードしたの?
おそるおそる、「あのう、名のあるクライマーの方ですか?」とたずねるが、「いやあ〜、親からもらった名前しかないっすよ」と温かみのあるお返事。なかなかの好漢である。
彼はきょろきょろとビレイ点を探したが、いいクラックは俺が使ってしまっているので仕方なくハーケン一本ぶちこんで、それでビレイしていた。
やがて大部君から「すいません、沢からおいあげられちゃいました!」とコール。とりあえずピッチを切ってもらってフォロー。確かにこの小リッジへ乗り上げるところが悪いが、乗り上げた後は楽勝。我々は滝の左壁を登ったので、沢に戻ろうとしたら右に出ないといけなかったのだが、大部君はビレイ点が沢状(トイ状)だったのでなんとなく本流を登っている気分になっていたのと、小リッジを登ったことで気が抜けたのであろうか、そのまま直上してしまっていた。リードのビレイに切り替えてもらい、草付き混じりのスラブを右トラバース。途中で赤キャメがガン効きしたが、結局コイツ以外一個もランニングが取れず、フォローの大部君はコイツをはずした瞬間振り子運動の被験者だ。スマン。本流に戻り、CSにキャメを決めようとしていたら雨が降ってきてちょっとパニクる。予想通りとはいえ稜線まではもってくれ!
そうこうしているうちに、件のスニーカー男は、トイ状右の小フェースをのっこしてきっちり本流沿いに登ってきた。
「すいません、クロスしちゃいますけど上行っていいですか」
もちろんいいに決まっている。上に行かないとビレイできないし、第一、ザイルが摺れる危険よりもモタモタして2パーティとも天候悪化でハマる危険のほうがはるかに高い。
今時分の喫煙者は、ちょっとマナーのいい者なら「吸っていいですか?」とか必ず一言聞いてくる。その一言があれば「どうぞ吸って下さい」と円滑なコミュニケーションが生まれるのに、黙って吸うから文字通り煙たがれる。
それと同じで、クライミングのちょっとした掟破りも、一声かけてもらえればどうということはないのだが、その一声が出せない「本ちゃんクライマー」が多すぎてうんざりって感じなのに、この男は好漢である。一体どこのどなた様だ?
大部君を迎え、小雨になったり止んだりといった天気に一喜一憂しながら、急傾斜の沢を登っていくと左手〜正面に本谷奥壁の黒々とした壁がそびえ、沢はカクっと右に折れる。ここで大休止したのち、秀山荘忍者に履き替える。
ガスで全く視界が無い中で、勘を頼りに沢状とおぼしきところを詰めると、大岩のあるところで沢が二股になった。先行している赤ヘル&緑ジャケットのパーティが左に見えたのでなんとなくそっちに行ってしまったがこれは間違いで、右に入り一ノ倉尾根に早めに出るのを目指すべきだった。結局薄い踏み跡をたどって右トラバースして一ノ倉尾根に出たら踏み跡がバッチリあった(烏帽子の諸ルートからそのまま国境稜線を目指すパーティがたまにいるからだろう)。オール本谷通しで国境稜線へ。これぞ真の一ノ倉だ!?
そこから意外と長かったが、やがて登山道に出た。一ノ倉岳、オキ&トマの耳で記念撮影し、西黒尾根をヘロヘロになりながら下山(ちなみに今回、ザイルは大部君が持ちっぱなし、スマン)すると、土合発水上方面行き最終電車の発車20分前に駅に着けたが、着替えていたら自販機でコーヒーを買う暇も無かった。
電車の中で、「最初の巻きではまっている人達がいなかったら俺たちもあそこでロスしてたろうから、間に合わなかったかもしれないすね」と指摘され、本当に今回はついていたなあと思った。
装備:
ザイル10mm50m1本(敗退考えたらやっぱダブルか)
キャメロットC4(#0.5、0.75、1)→全部大活躍
メトリウスマスターカム(#1、2、3各1個)→全部大活躍
ハーケン(ナイフブレードの短い奴を3〜4回、おかげで先っぽがぼろぼろに)
クライミングシューズ、アクアステルス沢靴
資料:
大系、日本の渓谷98/99、日本の岩場、HP
備考:
沢沿いなので残置は全部腐っているが、その分岩は硬いし、入れば抜くのが大変なくらいピトンが効く。
所々にマイクロカムも決まるので、ナチュラルなクライミングが楽しめる好ルート。
岩としてのテクニカルグレードは高くないが、最初の高巻きは完全に沢登りワールドなので、そちらの経験がない方はおとなしく本谷バンド経由で。