10/31(一日目) 快晴(夜から時々雨)
10:30屋久島宮之浦港 13:45潜水橋 15:30ごろ?幕場(第一巨岩の手前)
伊佐美は朝、部室で酔いつぶれているナベを見て「今日は無理だな」と思ったらしいが酔っていてもやるべきことはやらなければならない。ナベは前日飲みすぎて記憶のないまま7:00発のフェリー屋久島丸に乗り込むも完全二日酔いで、佐多岬を見て「屋久島だ!」と叫ぶ有様。タクシーを捕まえて宮之浦林道を進み、工事現場の先から30分弱の歩きで潜水橋。ここから入渓し、大渓谷の雰囲気を満喫しながら、2時間ほど進んで、ナベカケ沢出合の先の右岸側に、枯れた沢の中に平たい大岩を発見したのでここでビバーク。この日は実質アプローチである。
潜水橋。 | 第一巨岩までは大味な渓相が続く。 |
巨岩の上にタープを張った。 | いつもどおり焚火。しかし軽量化で酒抜き! |
11/1(二日目) 曇り時々雨
7:00出発 9:40竜王の滝 12:30ごろ?竜王の滝左岸にて幕
昨晩は激しく雨が降り、シームテープが剥離している鹿大タープはガンガン水が漏れてきた。このタープで少なくともあと1泊かと思うとうんざりする。ちょっと出遅れて出発。天気は悪い。が行くしかない。
ちょっと増水しているが遡行には問題なし。資料第三巨岩を左の隙間からザイル使用で登った以外はさしたる困難もなし(汚い残置があったが無視)。資料「屋久島の山岳」に「ここを越えられるかが遡行の成否を決する」などと書いてあるF10は左岸巻き、さしたる苦労もなく潅木帯に上がる。そのまま本流沿いに巻くと、ドン詰まりで草付が剥げてスラブが露出していたので、斜めに懸垂してスラブを渡った。こんなんが核心?楽勝なんですが。
するとその先にドガンと大滝が見える。これが竜王の滝か。名前負けしていない。凄い迫力である。これだけのデカさと水量をもった滝はちょっと思いつかない。
記念撮影をしたあと、左岸のチムニーにとりつく。
<1P目>25m V+ ナベ
出だしというかチムニーに入るまでが少々難しいが、入ってしまえばそれほど難しくはない。右と左に別れるところがあったが資料を見ると左っぽいのでそっちに行く。資料では一気に40m伸ばしているが、明らかに核心と思われる被った抜け口を見てギア不足が気になり、明らかにザックがあったら抜けられなさそうでもあったので、チムニー内のテラスでピッチを切る。
<2P目>15m X ナベ→伊佐美 (ザックは荷揚げ)
傾斜がきつい。マスターカムとピトン、それに残置でそこそこのランニングはとれるが、最後の抜け口がどうしてもこなせず、色々試しているうちに力尽きて伊佐美と交代。伊佐美は思い切って突っ込みフォール。ザイルにほとんど荷重がこなかったのですべっただけなのかと思ったが、なんと体がチムニーに挟まって止まっていた。フォールを自力で止めた?二度目のトライでなんとか突破。左壁に回り込んで荷揚げしたのちナベフォロー。これはむずい。昔はCSがあってさらに難しかったらしい。雨がだんだんひどくなってきた。
<3P目>40m W ナベ
さきほどよりも傾斜はないがプロテクションがとりにくい。一箇所、チムニーが狭まってザックがつっかえてしまいにっちもさっちもいかなくなる。上段の枯れ木にスリングを巻いてなんとかザックをそっちに預けて脱出し、一人荷揚げで突破した。セカンドのビレイに入ると、しばらくは快調であったがやがてザイルがぴくりとも動かなくなる。伊佐美もあそこでハマったらしい。本流のほうを見るとどんどん増水している。上がってきた伊佐美のザックは穴が開いていた。
結局このチムニーで2時間半はかかったか?潅木帯に上がると、本流は濁流と化している。時間的にはこの高巻きを終え、本流に戻って対岸に移るところまでは行けそうだが、この様子では渡渉は無理だろう。しばらく踏み跡をたどってから都合のいい窪地で幕。水場は、そこらじゅうが小川となり困ることはない。
時間があったので先の偵察をしてみると、少し上がったところに赤テープがあり、ここから左岸スラブ沿いにバンドがあった。これを辿ると二段目だか三段目だかが見える。ここから懸垂して下の潅木帯から滝を攻めるというのも魅力的だが、危険すぎる。もし行き詰ったら最後だ。赤テープに戻りそのまま直上してみるが全然踏み跡らしきものはなく、スラブに無理やり木が生えている状況なので結構腕に来る。うーん、みんなあそこで懸垂しているのかなあ?でも残置も何もないしなあ…
タープに戻り、やはり懸垂は危険すぎるのでこのまま藪をこいで直上しようと決める。幸い雨が止み、焚火で体を乾かすことができた。
感想:高巻き中心の遡行内容には不満を感じる。伊佐美が「沢登りっていうかヤブコギ」と高巻き中に言っていたのを思い出す。はっきり言ってそれほど楽しくない。まあ、そういう目にあった分、源流帯で癒されて満足、ってのが宮之浦川の醍醐味なのだろうが、我々は悲しいかな今年一番の寒波につかまり、全く余裕がなくて詰め部を楽しめなかった。しかし、そうは言ってもこの満足感はどうだ。この満足感は、あの圧倒的なスケールの沢を、あのシチュエーションで、遡行し生還(笑)できた喜びなのだろう。
二日目にもう少し進めていれば、3日目は稜線に出た頃にヘッドランプとなり、登山道をヘッドラ行動で鹿の沢小屋まで進めたのだろうが、あの水量で渡渉は絶対無理だと思うので竜王の滝左岸で幕とするしかなかった。そのせいで3日目の晩に苦しんだのだが、こうして振り返ってみると3日目の行動終了&幕場選定でミスった以外はそれほど間違っていないと思う。本当に、あの天気でよく登った!
装備:
ツエルト&タープ(両方あったほうがいいと思う)、ザイル8mm×50m、メトリウスマスターカム#1〜3(竜王の滝左岸チムニーで使ったり、エイドしたり。結構役に立った)、ハーケン(竜王の滝左岸チムニーで使用した。残置も結構あるので、カムを持つならハーケンは薄刃の長短が1本ずつくらいで十分)、クライミングシューズ(結局使わなかった)
ウェア:下半身→ジャージ+ネオプレンスパッツ+カッパ
上半身→冬用長袖インナー+Tシャツ+長袖上着(※寝巻き用だったが4日目は行動着に転用)+土方用ナイロンヤッケ+カッパ
足回り:秀山荘忍者(アクアステルス) ※フエルトタビに比べて、それほど優位性を感じなかった。結構コケが多いので、むしろ河原歩きで不利かも。
テクニカルメモ:
越後や東北のエグイ草付に比べると、宮之浦川の草付は全くもって楽勝です。しかしスケールがでかいので、天候判断、ルートファインディング力、幕場の判断など総合力が必要となります。竜王の滝左岸チムニーは別に初登の時みたいに大高巻きしてもいいのでは?やたら難しい割に、登ったからといって結局高巻き気味の登り方をするので遡行価値が大きく上がるとも思えないし…また、自信がない方はマイクロカムだけでなく、キャメの#2〜3周辺があると楽だと思います。軽量化ということでヘキセンやトライカムなどの大き目のナッツで代用するのもありかも。竜王の滝左岸チムニーは基本内面登攀なのでたち込みはほとんどなく、クライミングシューズは不要です。
増水が極めて早いため、幕場の選定は重要です。マンベー淵に入る前に一泊し、翌日にF17の巻きの途中のコルで1泊、翌日夕方に稜線に抜けるのが最もスマートと思われます。これなら、両幕場とも撤退が容易です。(コルからは、引き返して高塚小屋方面に上がる沢を詰めるかそのまま尾根を登ることでエスケープできます)F18〜31の間も、まいている途中にいい幕場がポツポツとありました。
我々は増水のため竜王の滝左岸で幕としましたが、翌日の行動が長くなります。その場合は、上部廊下の左岸巻きから沢に戻る時に使う支沢で幕とするといいと思います。そこからなら稜線まで3〜4時間なので同日中に下山できますし、源流帯はあまりいい幕場はなかったように記憶しています。
山登魂HPへ