■房総/伊予ヶ岳頂上岩壁「逃魂ルート」(仮称) [登攀]

2010.3.10
鮎島仁助朗、大部良輔
 うーん、天気が悪い。創立記念日で会社がお休みなのに…。しかも、あいにく、家にはドラゴンボールもワンピースもないので、ホントにやることもない。
 っが、なんだか思いのほか天気の回復が早そうな気がする…らっき〜〜。ということで房総半島へ。当初は、王道のキンダン川でムフムフしようかと思ってたが、房総のマッターホルンの興味ある写真をみて、びびっときた。しかも、「千葉県で【岳】がつくのはここだけだ」とか、「標高は300m強の低山だけれど、標高的にはランドマークタワーよりも東京タワーよりも高いぞ」なーんていう刺激的な文句もある!もちろん、一般登山道以外の記録なんてないので、テキトーにラインを引いて、登ってこようと思う。ヤブこぎ、ヤブ岩、もろい岩…。かかってこい。オーブが全て登ってやるぜ。
 …はい。山登魂、最年少にして「房総暴走」王を自他共に認めるオーブ氏に房総とは何たるかを教えられにいこう。なにせ、私が千葉県に突入するのは、今年まだ2度目なので。一回目はデ×ズニーシーだし。。。

♪大雪が降ったせいで 車は長い列さ〜♪
 うーん。『ロード』のメロディが浮かんでくるなー。前夜の雪の影響か、それとも午後から天気が回復するという予報を見込んでの朝8時に待ち合わせが、やっぱりラッシュ時間と重なったのか、とにかく渋滞がすごい。FMの交通情報では、関越道と中央道で大雪のため通行止めとかいう情報が流れている。それでも、なんとかアクアラインから房総へと入ると、車の量はガタ落ちとなり、ココまで来れば、伊予ヶ岳なんてあとは近い近い。
 インターを降りて、車を西に向けると、どんと見えました。うん、まぁ確かにマッターホルン…っお、おぉぉ〜〜〜。歓声が出たか、出なかったかは定かではないが、とにかく見栄えがする。いちおう、いろんな方向から頂上岩壁を視察した結果、林道の駐車スペースに車を置いて、そこからヤブをこいで目指すことにした。

 着替え終わって、さて出発という段階になって、いきなり、雨が降り出してきた…。でも、いくしかない。ッおい、オーブ。「ホントに行くんですか?」みたいな顔で見るなよ。オレだって、帰りたいよ。でも、着替えちゃったし、ハーネスも履いちゃったんだから、行くしかないだろ。わかってくれ。
 しょうがないので、ボクが先頭でヤブを先導していく。駐車地からその岩壁まで本当にすぐそこに見え、ちょっとの間の辛抱だ、と甘く見てたが、いやはや。トゲトゲが多い、多すぎるぞ!このやろー。「いてっ、いてっ。」となる。オーバーアクションじゃなく、本当にいたいのよ。でも、オーブの口からも「いてっ」という声が聞こえたのは、なにげにうれしい出来事だった。以前、オーブはなぜか、鈴木(仮)さんの後継者を目指しているキライがあった(赤岳東壁の記録参照)が、どうやらこの1年間で正気に戻ったらしい。私としては、この成長がとてもうれしいのである。

 尾根上みたいなところに入るとトゲトゲからも開放され、また獣道があるのでだいぶ楽。が、前日からのアメで、ドロドロだ。いつしか無言となり、苦労して上り詰めていく。
 ようやく岩壁近くにたどり着いた。当初、駐車地から「なんか登れそうじゃね?」と思っていたセンターリッジ(中央稜)は明らかに、高度感があり、またハングしているところもある。いやー、雨降ってるしなーというわけでパスし、写真で見た中央チムニー狙いでそのまま藪を登っていく。
 あった、チムニー。ルンゼからチムニーへと続いている。なんとなく登れなくはなさそうな気がする。登れなくても、左に逃げられそうな気がする。というわけで、オーブにリードしてもらう(!)。っえ?いやー、ここまでほとんど藪リードとルーファイは僕がやっているわけよ。一番おいしいところは任せないとね。

 なにげに、靴を履く体勢も厄介。ドロドロになりながら準備を終え、さぁ上り始めようというとき、雨も風も強くなり、すぐそこに見えていた下界の国道も霧で何も見えなくなった。う〜ん。ま、こんなこともあるでしょう。オーブは、安定して登り、ルンゼにたどり着いた。「あゆさーん、ボロボロっす♪」というM男らしい悲鳴を上げつつも、無難に登っていく姿はカッコいいッす。しかも、使えるはずもないキャメ5番ももち、肩を食い込ませているのはM男の成長をまた感じさせる。
 さぁ、これから核心のチムニーに入ろうとしたところで・・・。下界の正午を告げるチャイムがあたり一面に鳴り響いた。

 「♪め〜りさんのひつじ、ひつじ、ひつじ〜♪」

 …よりによってチャイムが『メリーさんのひつじ』かい!正午のチャイムといったらフツーは「ロッキー」とか「軍艦マーチ」とか、なにかこころ揺さぶる音楽でしょ…お昼なんだし。それなのに、心の隙間にしみいるユルユル音楽…。こころが寒くなってくるぜ。そして、心なしか、雨も風も強くなっている気がする。
 オーブがこちらを見てきた。青い500円ヤッケのフードすら被っている男の目が語っている。そうか、オーブもメリーさんにやる気が失せたか!吹き付けるアメ、風。かじかんだ手の指。ボロボロの岩。支点なんか取れそうもない岩質。そして下界から聞こえる「メリーさんのひつじ」…。
 メリーさんさえなければ、何とかなったかもしれぬが、ちょっとこのタイミングでメリーさんは確かにきつい。しかも、ハウリングして、「どんぐりコロコロ」みたいに、「め〜りさんの、め〜りさんの、め〜りさんの〜〜」って何度も何度も何度も、「メリーさん攻撃」を食らわせてくるしな…。メリーさんを言い訳にして申し訳ないが、とてもではないが、攻めるにはちょっと勇気を振り絞れない。こうも五感を痛めつけられては、ここは逃げるしかないのはしょうがない。勇気ある「逃げ魂」も必要なときがある。今はそのときなのだ。

 「オーブ、左から巻こうぜ」…「ハイ…」

 オーブは左へ巻くように草付を登り始めた。滑りそうで、またなんだか抜けそうで怖い草付をかじかんだ手でこえると、すぐそこが頂上で終了だ。
 頂上につく頃には、雲も晴れ、いわば「ピーカン」照りだ。もう1時間早く天気よくなってくれれば…。ピーカン照りの山頂で、いろいろ反省会をしてみたが、いやーどっちにしても、「メリーさん」攻撃の前ではムリだったな…。
 絶壁の上に立ち、「愛してるぞ」コールをいちおうして、下山。30分ぐらいで駐車地に着いた。山は近い。

 こうして、伊予ヶ岳の中央稜(仮称)と中央チムニーの課題は残された。この二つの課題はきっと、未登であろうと思われる。誰か登ってみるのもいいかもしれない。とにかく、景色はいい。見栄えはとても良い。アプローチも遠くない―――。
 前からわかってはいたが、アプローチも登山道から山頂へ登り、下った方が、明らかに早いとおもうし、また、頂上から懸垂して、試登すれば二つの課題もイケるんじゃないかと思う。
 でも、私はあえて終了点から下ってアプローチしなかったこと、さらには登山道を使わずにアプローチしたことに少なからず満足感を覚えている。その点では、いいクライミングができたと自負している。

 オーブさん、お付き合いくださり、まことにありがとうございました。また、この報告での「上から目線」、いろんなことにに免じてご容赦ください。

2010.3.11 鮎島 筆

【記録】
3月10日(水)風雨のち快晴
 駐車地1100、取付き1200、頂上1300、駐車地1330
【使用装備】
 キャメロット(#1.0)、ダブルロープ50m×1、スリング5本くらい

【ポイント】
・鋸南富山ICから現地まではコンビニがない。地元の商店を活用すべし。
・12時にはチャイムが流れる。やる気をなくすメロディーなので、事前に心構えを。
・登山道から取り付けるかどうかは不明。林道からヤブをこいで取り付く場合には、トゲトゲに要注意。心なしか、尾根上のところにはいればすくなく、また獣道も発達しているので楽になる。
・中央チムニーを登る際の支点はキャメ5番とかそういう世界ではない。ビッグブロぐらいが有効なのかな…。でもピナクル全部が折れそう。
・中央稜(仮称)はハングもあるので、ボルト&アブミの世界になると思う。高度感があるので、こわいと思う。
・逃魂ルートは、自称、「弱点を最も突いた合理的なライン」。25m、W-級くらいか。

【写真】












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