■穂高/西穂高岳西穂高沢(滑降)

2010.4.10
佐藤勝(シーハイル)、鮎島仁助朗
 お互い所属している会と住んでいるところは違えど、毎年、この方とこころに残る一本を狙うことにしている。
 今年の狙いは、直登ルンゼ。そのために、沢渡に4時にタクシーを手配することにした。っが、沢渡で、私がヤッケ下半身を忘れたことが発覚。やってもうた…!まぁ、日帰りなら、ヤッケなしでもいけるだろうということで、釜トンネルからどこか穂高方面を狙うことにした…。焼岳はすでに何回も行っているし、霞沢岳は快適なスキーはできなさそう…、となると西穂高岳以外にない!西穂で山スキーか。地図で見ると、西穂高沢、西穂高前沢は頂上付近は岩々マークでよくわからないけれど、現地に行って見れば滑れそうな気もするし、もし、だめでも、独標からの善六沢は確実に滑れそうだ。ということで、急遽、狙いを奥穂から西穂に変更した。
 沢渡から釜トンネルのタクシー。料金3300円なり(深夜割増料金)。「あぁー上高地から西穂までむかし2時間半で登りましたよ〜」なんて、ウソだろ…と思う話を聞きながら、釜トンネルに到着。
 兼用靴すらも担いで、ジョギングシューズで暗い釜トンネルへと黙々歩き出す。いつも思うが、結構な傾斜だ。ボクは、今回、舗装車道対策としてキックボードを持参したが、もちろんこのような急坂では押して歩くよりほかない。何とか抜けても、上り坂。こういうときは押すに限る。たまにある下り坂では威力を発揮するが、大正池前の工事用道路分岐のところで、舗装道路除雪は終了。いや、工事用道路はちゃんと除雪されているのだが、そっちは舗装されておらず、キックボードは使用できない。ここに、キックボードをデポし、工事用道路をすすむ(タクシーの運ちゃんにこっちを歩いた方が早いと聞いたため)。
 田代橋のところが西穂山荘への登山口。門みたいな小屋があって、ジョグシュをデポし、兼用靴で登り始める。朝6時前で雪面は硬く、シールで歩くよりも担いだ方が早い。急傾斜のところは雪が途切れ、登山道が所々出ている。結局、山荘前1時間程度のところの傾斜がゆるくなるところまではスキーは使わなかった。
 山荘からはロープウェイ方面から登ってくる登山者が多い。従い、トレースも多く、スキーを履いて登る必要もない。順調に独標手前まで。そこからアイゼン・ピッケルを出して、独標についた。
 これまで多くの登山者とすれ違ったが、もちろん、スキーを担いでいるのは我らだけ。片っ端から「どこを滑るんですか?」なんて質問攻めに合うが、実のところまだ決めあぐねていたりするので回答につまる。確かに独標の南面(善六沢上部)は非常に広大なバーンでそそられるが、明らかにいつ来ても滑れそうなところで、今日のような好条件に滑りたいところではない。そう、好条件である。天気は快晴、雪も緩みがち。実際に、独標直前のコルからの西穂高前沢は雪の状況がよく、明らかに滑降可能。どうせ滑るのなら、ルンゼだということで意見は合致。しかし、独標からこの西穂高前沢をすべるか、それとも西穂高岳までいってそこから西穂高沢を滑るか…、なかなか判断がつかない。
 実は、すでに標高差1300mを登り切り、ちょっと困憊気味であったりする。

 「けっこう、西穂山頂って遠いッすね…」

そうっ!こういう時に限って、山頂は遠くに思えるもんである。加えて西穂山頂に登ってきた縦走者からの情報。曰く、

 「西穂山頂付近はガリガリですよ」…。

・・・。う〜ん。しかもこの縦走者が、竹内洋岳さんみたいな、「イケてる感じのクライマー」風で、なんともこの言葉に重みがある〜。いやー、くじけそう。くじけちゃいましょうか!

 「まぁ待て、茶でも一杯飲めや」

しばし休憩。休憩するとなんだかいけそうな気がきた。竹内さん(仮称)もニセモノに思えてきた!それに、ここでくじけたら、絶対に後悔しそうな気がしてきた!!独標での長い休憩の後、二人で相談しあって、安全パイをあえて捨て、前進すると決めた。もちろん、確固とした根拠はお互いにない。でも、ツーカーで「これはいけそうだ」と通じ合ったことが重要だと思う。おそらく、単独であれば、ココでくじけていた。あー、このときはしびれたなぁ。
 トレースはバッチリ。そのためロープを出すようなものでもないけれど、それなりに緊張する雪稜を進む。ピラミッドピークを越えたあとは、右側の沢筋をチェックしつつ進む。すでに雪は緩んでいる。臨みこむルンゼ、ルンゼ。すべてが博打でもなく滑降可能に見える。疲れた体では、今すぐにでもドロップインしたい誘惑に駆られるが、お互い愛する人の名前を叫んで気合を入れることにより、なんとか西穂まで頑張れた。西穂の山頂には雪庇がかかっているため、滑降不能に見えたため、西穂直前のコルにスキーをデポし、頂上を往復。頂上は…。よい。よく頑張ったぜ。「愛してるぞ〜」
 さて、これからが本番。ルンゼ滑降だ。…えへへ。雪の緩み具合もナイスなんじゃないの?!。滑り出しは35度から40度ぐらいだが、ノドはなく、威圧感もない。…よっしゃ〜!勝利(?)を確信してしまう。しかし、油断は大敵。雪が緩んでいるということは、側壁からの落石の可能性もあるし、もちろん雪崩の危険性もあるということだ。
 ヘルメットを被り、しっかり芍薬甘草湯(!)を仕込んで、ドロップインっ!。
 すこし、硬いところはあるものの、予想通りのナイス斜面っっ。一人滑っては一人待ち、一人滑っては一人待ちをくりかえし、一気に標高をおろしていく。標高を下ろしていけば、沢は左に曲がり、すると一気に岳沢まで一直線の広大な中斜面。いやー、きもてぃぃぃぃ〜。YaHOOOO〜!あとは、腐り雪に気を払いつつも、滑りこむだけ。振り返ると、アルプス独特の感じの岩がむき出しで、アルペンティックムード溢れる沢で、なんとも達成感がある。
 途中から古いデブリがあって、それをよけながらという感じで下り、岳沢に合流。合流後も古いデブリで快適なターンとはならないが、上高地の右岸林道までずっとスキーをつけて滑れた。あとは、この林道をテクテク歩いて戻るだけだ。
 …それにしても開通前の上高地は静かだ。来月、ここで結婚式挙げるんだなぁなんて、感傷に浸りかけるが、車道歩きでそれもぶっ飛ぶ…。なげぇぇ〜。ま、それでも大正池の分岐に置いたキックボードを手にすれば、あとは自動的に釜トンネルじゃ。あーでも、釜トンネル内の暗闇キックボード下りは、この行動中、一番こわかったりした。…こわくてしょうがなかったので、最後にはヘッ電、出しちゃいました。弱いな、ボク。。
 おそらく、穂高でのルンゼの中では、「入門」という部類なのだろう。穂高の山頂は4つしかないが、その中のひとつから滑降できるのでとてもよいルートだ。そのくせ、純粋な滑降としてのレベルは高くない。また、上高地まで車が入れる季節であれば、上高地からワンデイで狙えるところだ。もっとも、正直言えば、上高地から「あれが西穂高沢だ」と指摘するのは難しいぐらい、実はまったく見栄えがしないルンゼであるんだけれど…。
 しかし、あえて上高地が開通する前で釜トンネルから歩いた体力的な充実感。初めて穂高でスキーをするという高揚感。入門ルートとはいえ、アルプスの盟主を舞台にする山行でのビビりと緊張感。静かな上高地を味わえたこと、穂高カルテットの一角をなす西穂高岳山頂から滑降できた(厳密に言うと山頂から滑らなかったけど)こと、さらには穂高の岳沢側の概念がよくわかり、「次回」へモチベーションが上がったこと――。すべてが重なり、終わった今でも、確実にその余韻に浸っている現状を鑑みても、つまるところ、今のボクのレベルではものすごく「よい山登り」ができたわけであった。
 それに加え、結婚1年目、さらに結婚式を直前に控えたそれなりに忙しい今年に、昨年までと変わらず、気合が入るスキーを変わらぬパートナーとできたこと。これは、ボクにとってはたいへん意義深いことである。だからこそ、この山行はこころに残る会心の山スキーの一つである。
 さて『次回』…。いけるかなぁ〜。

2010.4.13 鮎島 筆 

【記録】
4月10日(土)快晴
 釜トンネル0430、西穂高岳登山口0545、西穂山荘0930、西穂独標1130、西穂高岳1300、上高地1530、釜トンネル1700

【スキーセット】】
 佐藤=板:BlackDiamond「Nunyo」167cm、ビンディング:Diamir「FREERIDE」、靴:Nordica「TR12」
 鮎島=板:SALOMON「Teneighty Thruster」153cm、ビンディング:silvretta「Pure Performance」、靴:SCARPA「Spirit4」

【使用装備】
 アイゼン各自、ピッケル各自

【写真】









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