■大武川赤石沢本谷〜奥壁左ルンゼ(敗退)

2010.7.17〜.19
大部・治田

大武川。増水していて渡渉が重い。
特に遡行スタートが悪い

赤石沢大滝。
見てのとおり水勢も多く迫力満点

Aフランケ全容。岩が堅くすっきりして立ち上がる。
国内の岩にはめずらしいくらいすっきりしている

赤石沢上部。崩壊のためか岩と倒木も多い。
上にはフランス人チムニーが見える

フランス人の割れ目をこじのぼる日本人の大部。
へへと笑いながらずり上がる。なんてね

三日目最終日。朝日浴びての奥壁左ルンゼ。
堂々の貫禄だ。

左ルンゼのF1。は見えない右側を人工とフリーで登攀。
しかし、悪さは右上がりだ
7/16
 治田号で篠沢大滝キャンプ場の先のT字路を右に行き、次の分岐を橋が架かる左に曲がると林道のゲートにつく。ゲートのすぐ近くに幕営。


7/17
 4:30に起き、5:30に出発。軽量化したとはいえ大量のギアと3日分の装備が重い。林道を少し行くと分岐する。大武川沿いの左に入り、右岸に渡渉するが、堰堤で道が塞がれていたので、分岐まで戻って、右に行く。こっちの林道はとても良く整備されている。途中立派な橋で右岸に渡り、林道を3km歩くと山道になる。この道もすぐに崩壊していたので少し戻って沢に下りる。大武川の水量は見るからに多そう。一発目の渡渉から水が重く厳しくスクラム渡渉。入渓してすぐの滝は登れないので左から巻く。右岸にはテープやフィックスやらが沢山ある。一回懸垂をして沢に戻ろうとしたが、その先が越えられそうにないので続けて巻く。巻き道ははっきりしている。沢に下りてからは滝は観賞用なので。基本右岸巻きでどんどん進む。水量が多く渡渉が怖い。ヒョングリの滝やら鵜の滝やらも右岸巻き。巻きが難しいということはなく、大抵歩きやすい。
 赤石沢出合から少しすると連瀑帯に入る、全部まとめて右から巻くのセオリーらしいが、1個目の滝を巻くも、そのまままとめて巻くのは厳しそうなので、一回沢床に降りて2個目の滝は右壁をV級のシャワークライム。次からまとめて大きく巻く。赤石沢大滝が見えてくるあたりで沢に戻る。このころからガスってきて雨もポツポツ。赤石沢大滝はかなり大きくトポの50mよりあるんじゃないかと思わせる。巻きは右かららしく、小休止の後に巻き始める。っが、ここで大チョンボ。オーブが先行していたのだが、できるだけギリギリの箇所を歩き登山体系にあるガリーを探すべきであったのに、2人とも大高巻きだと思っていたので、離れたとこを歩いてしまったためお目当てのガリーは見当たらず通り過ぎてしまった。また、その先で一回沢を横断したのだが、そこでおかしいと思い一度引き返すべきだった。その先を行ったり来たりして、なんとなくそれっぽいガリーを登るも、その先の尾根を越えられる見通しも立たず、大滝から離れすぎていまったので戻る事に。戻る途中で1回懸垂。気を取り直して、再度巻き道を探す。すると直ぐに見つかったそれらしきガリーをハルさんが偵察。オーブも他にガリーが無いか偵察。二人の偵察の結果、どうやら良さそうだ。ただこの時点で雨も強く、時間も結構過ぎていたので、今日はガリーの取り付きの少し下の台地でビバーク。上手くツェルトも張れ、水場もすぐそこで、雨も止み、かなり快適なビバークだった。濡れた服も気づいたらそれなりに乾いていた。治さんは巻きの失敗に関して「ルートファインディングに自信はあったのに…、もう山辞めようかと思ちゃったよ」とのこと。


7/18
 今日は行動時間も長いので3時起き。山登魂にはいってから一番早起きだ。昨日のガリーの取り付きに小さなケルン(大雨とかですぐ無くなると思います)を積んでおいたのでそれを目印に登り始める。ガリーはなんとなく踏み跡があり、尾根を越えると反対側のガリーもノーロープで下れる。結局、大滝の落ち口の近くに降りられた。昨日と打って変わって幸先が良い。30mスラブ滝は上部でロープを出し、治田リードで左から登る。CS滝の上のトイ状5m滝も治田リードで猛烈シャワー。ここらへんですぐ右にAフランケが見える。確かに格好よい。クライマーも1パーティーいる。その先のCSが5個ほど架かる滝はオーブリード。水流が無ければCS越えもできそうだが、さすがに厳しいので右のバンドをトラバース気味に登る。途中でカラビナのついた残置ハーケンがあり、それでロアーダウンして途中のCSの上に降りるようだが、オーブにはその先のバンドもなんだか「行けるんちゃう!?」と某Y崎さん的なラインを見出し、トラバースする。はっきりいって超むずかったです。フラットソールに履き替えればよかったと登りながら後悔。ところどころ薄っかぶりでホールドも甘くパンプするので途中何度もレストしてシェイクしながら登る。ランナーは残置が少しとカムで取れた。フォローのハルさんはオーブが苦戦するのを見て、沢足袋からフラットソールに履き替えて登ってきた。ハルさん曰くYあるんじゃないかと。
 その先は1箇所巻きでロープを出したが順調に登り、沢が倒木で荒れてくると、フランス人のチムニーの下に着。ここでオーブも忍者からフラットソールに履き替える。このころから快晴だった天気もガスりはじめる。フランス人のチムニーはオーブが空荷でリード。左の狭いチムニーを登る。ランナーはチムニーの中のクラックでカムでとる。難しくはないがかなり奮闘的なピッチ。背中から水が入ってきてかなり辛い。傾斜が強くなるとフリーは厳しいのでカムエイド。ただこのクラックは風化している上、ガタガタなので上手くカムが決まらず少し怖い。実際ハルさんのフォロー中エイリアンが外れた。アブミを残置してその先をフリーで登る。滝上のビレイ点をカムで補強して、懸垂で少し下ってから、荷揚げ。荷揚げで少し手間取る。一応その先の小滝もオーブがリードも簡単。その先のCS25m滝は2段になっているので、2回に分けてハルさんが空荷でリード。1段目はそこまで難しくない。問題は2段目で見るからに悪そう。最後のCSにスリングが垂れているのだが、そこまでは簡単。今にも切れそうな怪しいスリングにアブミを架けて進み、CSにエイリアンのオレンジを決めて一安心。ただCSを越えた先も浮石がひどいようで落石を落とさぬよう石を何個も移動させたらしい。そこまで難しくはないが、祈るかビビるかしかないピッチだった。
 そのまま詰めるとガスの中に薄っすらと奥壁が見えてくる。かなり立派。八丈バンドに突き上げたとこが左ルンゼの取り付きらしいがガスって良くわからない。水を補給して岩小舎に向かう。ただ、この八丈バンドはあまり歩かれていないようでところどころ嫌らしく崩壊した箇所もあった。岩小舎は貸切で、とりあえず飲んで食う。濡れた服を乾かすために二人して小一時間ほど岩小舎の前に立ってパンツを出しながら延々と、黒戸尾根を歩く登山者の視線を気にせずに、服をパタパタやっていた。日が暮れるころにスーパー赤蜘蛛(5.11c)を黒戸尾根のアプローチを含めてワンデイという2人組みと、21時過ぎに戦う操縦士(X AA2)を登ったという2人組みが登ってきた。夜はツェルトを張らずに寝たので、とても寒く、2人とも寝ては寒さで目を覚ましの繰り返しだった。ツェルトを夜中に起きたときに張ればよかったなと朝になって後悔。
 余談だがこの日、加藤さんからもらったニフレックというポリタンの代わりにしていたものが壊れてしまった。また機会があったら下さいな。


7/19
 この日は奥壁左ルンゼを登る日。サクッと片付けるつもりであった。5時に出発して取りつきへ。取りつきでトポと照らし合わせるが中々どこを登るか分かりづらい。
1P・治田30m X・A1 (グレードはトポのものでは無く体感です)
 乾いていれば簡単そうなスラブを慎重に直上してから、右に人工主体ででトラバース。ルートがかなり分かり辛く、途中のフリーが嫌らしい。
2P・オーブ25m W・A1
 ビレイ点から基本人工で直上。オーブの部室で拾ったアブミの最上段はやたら低いので、途中2度ほどリストループに立ち込む。最後のフリーが嫌らしい。残置ハーケン×3でビレイ。治さんがキャメの1番を回収し忘れる。
3P・治田30m X・A0
 ビレイ点から少し左に行き残置の軟鉄ハーケンにクリップ。そこから直上しランナウト後にエイリアンの青を決めて左の流水溝に入る。流水溝に入れば簡単。第2バンドまで。ビレイしながら見ていてやたら悪そうだったので、フォーローのオーブは早めに左にトラバース。こっちが正解。
4P・オーブ25m X・A1
 ビレイ点からの1歩が這いあがれず、右往左往しながらもなんとか強引なムーブで突破。その先は垂れたスリングにA0連発。スリングが無ければA1だろう。右にフリーでトラーバースが嫌らしい。シャワーを浴びながらF2右のピナクルの上まで。
 ここまで、4ピッチに5時間以上掛ってしまい、この次のピッチは核心のX・A1。しかし、今までのWの箇所すら体感はX・A1以上。どう考えても次のピッチはやばそう。またこのまま登っても明るいうちに抜けられるかも分からない。抜けた後も、長い黒戸尾根と車の回収がまっている。そんな訳で敗退を決意。少し左に戻り大岩にスリングをかけて第2バンドまで懸垂。第2バンドは左岸の残置×3で懸垂。これで2P目のビレイ点で切る。ここから45m懸垂で取りつきに戻れた。ついでに残置してしまったキャメも無事回収。下降は治さんにおんぶに抱っこになってしまった。申し訳ない。

 右ルンゼで水を汲み岩小舎でデポ品を回収して、下山。黒戸尾根はかったるいが、なんと休憩中に話した遠く長崎から車で来た!!黒戸尾根日帰り往復していたオジサンが横手の駐車場から車のデポ地まで送ってくれた。ありがたいです。やはり、顔か、日頃の行いの良さか。この人はこのまま車で長崎まで1人で運転して帰るらしい。
 帰りは渋滞を考慮して秩父経由で帰りました。
 実力不足と言われればそれまでですが、赤石沢奥壁左ルンゼをのぼれなかった理由としては…

1、ルート(奥壁全体)の崩壊が進ん出いる。アプローチの八丈バンドも一部崩壊していたし、取り付き付近にも、赤石沢上部にも落ちてきた岩が転がっていたし、ルート上にも剥離あとがチラホラあった。
2、トポが分かりづらい。そのためルートファインディングに時間が掛かった。
3、トポのグレードが辛い。RCCグレードの数字一個分辛く感じた。
4、水が流れていた。前日まで沢登りをしていたので、シャワーを浴びても気にならなかったが、落ち着いて考えると岩を登るコンディションじゃない。

以上のような理由と上部は風化が進んでいるという情報から、時間も考え、核心のピッチの手前で潔く敗退です。
 なんか、上手くなったからスイスイと登れるようになるルートじゃない気がします。トポには中級者向けと書いてありますが、どうやらまだまだ我々2人はビギナーだったみたいです。
 奥壁は殆ど登られてないんでしょうね。あまりお勧めする気にはなれません。赤石沢自体は非常に素晴らしかったです。日が短くなっても秋の方がコンディションは良いと思います。途中見えたAフランケも格好良かったですが、アプローチがかったるいので当分行くことは無いでしょう。

大部 記

 んま、振り返るといい山だったな。赤石沢はまさに沢としての登攀性は高く、久々にやる気が湧いた面白い所だったよ。

 また、奥壁はコンデションが悪すぎだわな。どう考えてもあのシャワーを食らうようなラインの人工など冷静に考えると、下降で正解だとやっぱ思うわ。それにしても、崩壊も目立ち、残置支点の抜け具合も感じられ、ルートは読みづらい。国内の古い有名ルートは支点の再考、再整備をしないと忘れられた壁・ルートになってしまうかもしれない。
 確かに標高2500mを越えるところがスタートなんだから、山登りの力もないと登攀力が活かせないから、厳しいのかな。
 それでもAフランケをやった連中はツワモノだわな。長時間の行動後でもあの気合ある言動は実にうれしかったよ。その気合をもらって左ルンゼにやる気で挑んだが、結果はご覧あれ。下降宣言は俺から申したが、やはり、あれ以上の突っ込みは良くないと今でも思っている。下降は良きタイミングだった。

 左ルンゼは大部の一言にもあるように、ワイにも、とにかく悪く感じた。これでは赤石沢の遡行も、足尾のウメコバ大凹角とか佐梨の金山奥壁2ルンゼもまったく準備運動になってしまったぐらいだ。質は違うがスーパーレインも技術では難しいのだろうが、やはり悪さは比較にならないな。それぐらいの緊張の連続だったよ。
 んま、自分自身の下手さを披露したようなもんだが、それも背伸びせず受け止めたいね。

治田 記

【使用ギア】
8m×50mロープ2本、ハーケン各種、エイリアン一式、キャメ0.5〜3(カムはどのサイズもまんべんなく使った、ただキャメの3番は無くても登れるかも)、ボルトは持参したが使用せず

【記録】
7/17
 林道終点530〜赤石沢出合1000〜大滝下1130〜幕営地1500
7/18
 幕営地430〜大滝上500〜フランス人のチムニー1030〜八丈バンド1400〜岩小舎1430
7/19
 岩小舎500〜登攀開始600〜第二バンド1030〜敗退1130〜八丈バンド1230〜1730横手駒ケ岳神社〜1800駐車地

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