奥羽山脈/焼石連峰/焼石岳東面/尿前川本沢



トンネルを抜けると、そこは自治区であった。

 
山域:奥羽山脈/焼石連峰/焼石岳東面/尿前川本沢
隊員:高橋、渡辺(記)
日程:2010年7月19-20日(前夜発1泊2日)
形態:沢登り
 
7月18日 16:00西国分寺→東北道→24:00ごろつぶ沼登山口
 
 そもそも南アの加加良沢に行く予定であったが、集中豪雨の影響で遠山郷の道という道は寸断され、役場に問い合わせると「30箇所くらい崩れてるからねえ…」と、言葉の裏に「空気読め」コールが見て取れる返事。
転進先を考え、谷川方面という案も出たが、せっかくだからと遠出を決意。新百名谷の尿前川・本沢に決定。
 
 長い長い高速の旅を終え、夜の397号を走る。次のトンネルに入るといよいよ尿前渓谷で、道の右側に林道入り口があるはずなので目を皿にして探さねばならないのだが、なぜかトンネル内に車が並んでいる。
 工事でもしているのかな?と列の後に並ぶと、前の車が急発進したので、「なんだ?行っていいのか?」と追従。
 車は20台くらい並んでおり、大半が無人に見受けられた。
 「野外違法フェスでもやってんのかね?」
 とか言っていたが本当にその通りだった。
 
 トンネルを出ると建設中の橋があり、当然ゲートがあって入れないようにしてある。
 なんで道は急角度で左に曲がるのだが、そこに前の車は猛スピードで突っ込んでいった。
 ええ〜とか思っていると、前の車は、そのスピードのままいわゆるひとつのドリフトをかましてそのまま左へ消えていった。
 ワイは「あ!こいつらローリング族や!無人の車はギャラリーや!」とすぐ分かったが、ということはぐずぐずしていると彼らのレース?の邪魔をすることになり、従って袋叩きにあったりするかも知れない。事態を薄々感づきながらも「おいナベなんだありゃ?」とか言っている高橋さんに、「とにかくさっさと抜けちゃいましょう!」と言いアクセルを踏み込む。すごい下り坂で、路面はタイヤの跡で真っ黒になるほど「走りこまれて」いる。やはりここはローリング族の自治区のようだ。確か聞いた話だと、一般車が紛れ込んだ場合は無線連絡したりして正面衝突しないようにするとか言うので、今回は先行するドリフト野郎が「露払い」なんだろう。坂を下りきるとドリフト野郎がハザード出して停まっているのでさっさと抜いて県境方面へ走る。しばらく行くと良い路肩があり、そこで鳩首会談。
 
 「ナベ、尿前林道の入り口って、エアリアだと今走ってきた区間にあるぞ…」
 はっきり言って右側を見ている余裕なぞありませんでした。
 
 意を決して引き返す。
 坂のスタート地点(彼らの「レース場」のスタート地点)には2〜3台屯しているが、ハザードを出しており先行する様子はないので、おそらく「行け」ということなんだろう。急ぎつつも今度は左側を注視するが、そこらじゅうに工事用の資材置き場やら出入り口やらがあってサッパリわからない。トンネルまで登ってきてしまったのでここでUターンし、また坂を下る。
 
 高「あんまりウロウロしててオヤジ狩りに遭ったらどうするんだよ」
 ナベ「それもそうですけど、現実には正面衝突のがヤバイすよ」
 
 とにかく奴らの勢力圏内から逃れるべく秋田県境方面へ行く。
 当初は全く予定していなかったつぶ沼登山口に、同業者のテントを発見し、「ここなら安全だ!」と逃げ込み、テントを張る。
 果たして奴らのアクセル音&タイヤのキュルキュル音は一晩中鳴り響いていた。
 
 高橋「あの時、オレが運転の番じゃなくて良かった!」
 
 
7月19日 7:00ごろ起床 10:15中沼駐車場 10:50尿前川本沢入渓(遡行開始)  14:00右岸から高巻きした大滝
16:15夫婦の滝  17:15ビバークポイント
 
 昼は我ら一般市民の時間帯だ。どうせ短いので思いっきり朝寝。テントを張ったポジションが素晴らしく、強烈な朝日を浴びずに熟睡できた。ちんたら準備して出発。この後、ダム工事現場付近で右往左往。どうもここが中沼方面の林道入り口かな?という所には「こちらではなくあちらです」みたいな看板があるし、あちらのほうは例のドリフトゲートでどうしようもない。看板に戻ると、地元の「ダム協議会」とか何とか書いたステッカーを貼った車がゲートから出てきていて、すかさず情報収集。どうやら入山禁止となっているらしい。このオヤジは地元の釣り師で、地元の人間にのみステッカーを配っていてステッカーがない車は入ってはいけないようだ。オヤジは入山しようとする我々を止めたいらしいが、今まさにそこから出てきた弱みがある手前入るなとはいえないようなので、そこに付けこみ「あざーす」とか言ってゲート突破。
 で、どうにかこうにか中沼登山口駐車場へ。林道も駐車場も立派なもんだ。
 
 廃道寸前の天竺山方面への林道&登山道を30分ほど辿り尿前川本沢へ。第一印象は「どうしようもない沢だな」(高橋)。全くその通りだが奥のほうに既に滝が見えており期待が持てる。さっそく遡行開始。
 
 F1はいきなり魚止めとなっているようで、結構でかい。ここからしばらくゴルジュが続きかなり楽しい&結構手ごわいのだが、記録としてまとめられるほどの記憶がない。というのは、ワイの場合、遡行中は遡行図と目の前の風景を関連付けて記憶し、遡行後は遡行図を見て「あそこはああだったなあ」という風に記録を書くのだが、その遡行図が全然現場と異なっているのだ。
 というわけで一つ一つは良く覚えていないが全体的印象として結構水量があったのと水が白いので深さが分からず、難しかった。しかもホールドが脆い。普通沢の横の岩って硬いもんだけどなあ…。
 写真とキャプションで断片的に情報提供するので各自脳内補完してください。確か、ゴルジュ抜けた後、左岸からスラブ登って小尾根ごと高巻いた滝があったんだけど写真がナッシング。(確かこんな滝だったと思うけど…)


 尿前川本沢下部ゴルジュ入り口 尿前川本沢下部ゴルジュ
最初の方の滝。いかにも脆そうでしょ?ゴルジュの中も脆いんです。  結構きわどいジャンプでクリアした滝。ナベはジャンプ失敗、セカンドでよかった!(落ちると下の滝からボブスレーの如く飛ぶ) 

尿前沢下部ゴルジュ

尿前沢下部ゴルジュ
ゴルジュ内。ガチャを回収する隊長。 天気に恵まれました。

尿前沢下部ゴルジュ

右岸を高巻きした滝
ゴルジュ内。水線通しに行けるが増水していると多少手ごわい。水白くて底が見えないのもネック。 右岸から高巻いた大滝。
高巻き中 
高巻きも悪かった。 戻る時も高橋さんがドンドン行っちゃうモンでキモを冷やした。

 唯一はっきり覚えているのは夫婦の滝の前の大ナメと夫婦の滝で、ここのナメは本当に凄い。で、夫婦の滝も、一見して弱点は左壁しかないのだが、しかしその弱点となる壁がどう見てもプアプロのモロフェース。ここまでの遡行でこの沢の岩は脆いけどスタンスやカチは意外とあるということは分かっていたので空身でナベリードし、傾斜が緩まったところでほとんど効いていないハーケン2+効いているハーケン1でビレイし、荷揚げ。ここから夫婦の滝の左股側滝の肩めがけてさらに1Pザイルを伸ばし、登攀終了。テンバを探しながら歩き、ちょこっと歩いたら右岸にちょっとした台地状の河原を発見したのでここで幕とした。ゴツゴツして寝にくかったが、ここ以外には寝る場所は無かったと思う。ちなみにどういうわけか流木も少なかったが焚火はできた。

尿前のナメその1

尿前のナメその2

尿前ナメ 尿前ナメ2

尿前ナメその3

尿前ナメ3 途中で滝が出てきて飽きさせない構成がニクイ!(ここからナメ写真連発)

まだまだナメ

フカしながらナメを行く隊長

広大なナメ

まだまだ続くナメ

尿前のナメはすごい

尿前夫婦滝

ナメ。先に見えているのが夫婦滝(の左股側の滝)。滝の左のブッシュのちょい左の岩を登った。 夫婦滝。いわゆる両門ですな。
夫婦滝右岸の登攀

夫婦滝上から。

夫婦滝右岸(左壁)。リスは全部エキスパンドします。 夫婦滝から来し方を振り返る。

夫婦滝よりちょい先で無事幕場を見つけました。 ナメが多いと聞いていて癒し系と勘違いしていたナベは、500ml缶なんぞ持ってきていた。


 
 
7月20日 5:30起床 7:15出発 8:45ごろ登山道 →デポして焼石岳ピストン → 10:15 → 10:50銀明水 →12:00ごろ中沼駐車場
 
 今日は流程も短いし楽勝だ、と思っていたら意外と小滝の巻きが悪かったり、側壁登りもこれまた悪かったりして肝を冷やす。治田さんが「尿前はなめらんないよ」と言っていたらしいがホントその通り。グレードとしてはどこもMAXでV+の域を出ないのだが、とにかく気が抜けない。
 
尿前川本沢上部 尿前川本沢上部
上部は意外とコケコケ系 雪渓は二股の先まであった
 
 
 
 
 やがて遡行図通り雪渓が出現。二股の少し先で雪渓は終わる。その後は崩壊した雪渓などが出てきて、高橋さんルーファイで巻くときにお花畑を蹴散らして進みながら、
 「お花畑を蹴散らしちゃっていいのかな、でも誰も来ないからな、てことは荒らしちゃダメって人間様中心の価値観だよな、大体お花畑はダメで藪はいいのかよ、まあでも普段蟻やゴキやネズミといった大自然の驚異に脅かされている俺は自然を脅かす権利があるかもな、いやそんなこと考えてると罰があたるかな、いや神様がいるならとっくに罰当たりな人類なんか全滅だよな、そーださっさと大地震おこんないかな、そしたら火事場泥棒して大儲けだぜぐへへへ、でもオレだけ生き残る保証もないよな、やっぱ信心深い方がいいのかな」
 とか余計なことを考えているうちに、思ったよりあっさりと登山道に出る。ヤブコギなしで素晴らしい。ガッチリ握手(沢に突き出た枝が多少邪魔)。ザックを置いて焼石ピストンに出るが、山頂は猛烈な風と霧で、写真だけ撮って一瞬で下山開始。曇っていて助かった(炎天下よりマシ)とも言えるが。
 
 銀明水をありがたく頂き、約20分でつぶ沼・中沼分岐。封鎖されている中沼登山口方面へ下降開始。中沼は特筆に価する美しさであった。
 
銀明水 中沼のお花畑
銀明水は、銀をイメージしたと思われる柄杓がやたら重い。 中沼のお花畑。ここはオススメだが現在通行禁止のようだ。
 
 駐車場に降りると、富山ナンバーのマイクロバスと、宮城ナンバーの乗用車が停まっており、バスの方のオヤジ×2から以下の情報を集めた。
 
・俺たちは10人くらいの団体(山の会)で、富山から色んな山を登るため各地を巡っている。 ←なかなかアナーキーなオヤジ達である
・昨日登った山は忘れちゃった(アルコール臭い方のオヤジ)。
・さっきダム工事の管理官が来てめちゃくちゃ怒られた。
・今日現場があったら(管理官も把握していない)、現場終わるまでここからださねーぞとか言ってる。
・とにかくここは入山禁止。そこに入る貴様らは不届き者。
 
ふーんとかへーとか言いながら聞いていると今度は現場監督が来て、低姿勢に「もうすぐクレーンが来てこの先にアメダス設置するんだけど、あんたらいつ下山するの?工事始めたら1時間くらい通れなくなっちゃうんだけど…」みたいな事を言っているので、仲間が降りてこないバスのオヤジ×2に別れを告げさっさと下山。
行き道を良く覚えていなかったため最後はダムの躯体工事やってる現場に飛び出してしまい、いつ管理官に見つかるかひやひやしながら右往左往し、入ったときとは全然違うゲートからなんとか国道に出た。(小沢胆沢ダムの工事現場はちょっとした街くらいにでかいです)
 
ナベ「まったく、夜はローリング族、昼はダム関係者の自治区かよ。岩手のイメージは最低だな。」
高「俺たちを取り締まってる暇があったら族を取り締まれよ!」
ナベ(まあ管轄が違うんだろうな…)
高「大体なんでダム関係者がそんなえらそうなんだよ。つーか林道走れないってなんだよ。元は税金だろ!?」

 
でも、ひめかゆ温泉の質の高さと、397を走りながらナベが目ざとく反対車線側に発見したキッチン「南部駒」
http://www.its-mo.com/doko/15/508052454/140906456/
のおかげで、実に満足の下山メシをご馳走になることができ、「また岩手に来たいな」と思ったのであった。

 
 
使用ギア:ザイル8.2mm×50m1本、ハーケン長短各3、アングル1、スリング
※上流部ではコケが多く、フェルトの方が有効と思った(今回二人とも足回りは渓流タビ)
※カムは全く使えなかった
※ハーケンは過不足なかったが、アングルもう1本くらい欲しかった
※不安がある場合はボルトも持っていくべき
※大系の5時間は嘘くさい。日本の渓谷97の記録はあまり当てにならず、参考程度。トマの風HPにいくつか記録あり(コレとかコレとか)
※なぜか流木が少ないので、鋸を持っていくと数少ない流木資源を有効活用できる(大きすぎて運べない奴を短くして運べる)
※幕場は、我々が遡行した範囲では沢の中には1箇所(今回泊まったところ)しかなかった。尾根に上がればいくらでもありそう
※胆沢ダムが完成するまで、尿前渓谷沿いの林道は使ってはいけないらしい。詳細はこちら。http://www.yakeishi.com/
 従って、つぶ沼登山口から中沼に出た後中沼登山口に出るなど、一手間かける必要が出てくる。
 日曜以外はたとえ祝日でも工事しているので、もしどうしてもゲート突破して中沼から行きたいなら日曜に日帰りでやるしかないと思われる。自己責任でどうぞ。

山登魂HPへ