■谷川岳/一ノ倉沢二ノ沢本谷
2010.10.16
高橋弘、鮎島仁助朗
快適な一ノ倉沢本谷下部スラブ |
二ノ沢出合から二ノ沢を見上げる |
三俣下大滝 |
三俣下大滝から二ノ沢上部を眺める |
三俣下大滝〜本谷大滝のゴルジュ状スラブ |
本谷大滝を登る高橋 |
本谷大滝上のスラブ |
東尾根直下 |
鮎、俺達よく登ったよ。
これで二人で行くとまず敗退のジンクスから解放されてよかったです。
戦前の最高級のルート・・・我々は戦前のレベルだということがよ〜くわかりました。
明るいスラブ、豪快なゴルジュの前評判だったが、実感は一日中日が差さない寒いスラブに暗い湿っぽいゴルジュとヌルヌル大滝。
いや、初登の杉本光作氏はハーケンを持ってなかったという事実を下山後知った今、はるかに及ばない自分たちだった。
ファーストアッセント昭和4年・・・理解不能、あの人たちはとにかく凄いね。
「雪渓から乗り移るところが滑りそうだったので草鞋を脱いで裸足になってスラブに飛びついた」って、なんのこっちゃい。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
自分は二ノ沢で敗退したことがある。
強烈にインプットされた記憶はアプローチの藪こぎのキツさ。あまりに時間がかかって疲労も激しく二ノ沢に懸垂で降り立ったあと、スラブをちょっと登って時間的・実力的に無理と判断し、無駄あがきしたスラブを自分で打ったハーケンで初めて懸垂下降してもどり、更に懸垂で降りてきた草付きをほうほうのていで登り返して帰還したのだった。多分二ノ沢右壁を目指したんだと思うが(この辺記憶曖昧。ただ本谷はターゲットでなかったことは確か。)、そもそも無理だったのだ。己を知らず敵も知らず、藪こぎで苦労したのは神様の配慮だった。ありがたや。
一ノ倉本谷を登ったとき、”来年は二ノ沢本谷かな”と話した仲間のうち、高田さんは垂直の世界に一直線、寺さんも地元名古屋でフリークライマーと化し、一ノ倉の岩と沢のマージナルワールドに残ったのは、鮎と俺だったわけだ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
経験上、戦術的なポイントは二ノ沢までのアプローチだった。
群馬北部金曜午後雨の予報が気になる中、とりあえず行ってみようと決めたのは、濡れててダメでもアプローチだけでも固めて次回の足がかりにできる腹積もりが、実はあったのだ。
5時ロープウェイ駅を出る。一ノ倉出合出合で準備やらトイレで6時半出発。
テールリッジへの取りつきに懸垂して本谷を辿る。
途中の右岸のトラバースが気がかりだったが、本谷は良く登られているようで数年前より草付きが剥げ、登りやすくロープは全く必要がなくなっていた。きれいな本谷のスラブを登り、二ノ沢出合にあっという間に着。
”アプローチは本谷に決まってるでしょう!”
という鮎の言うとおりだった。ここからの本谷は暗いゴルジュになっていて(本谷の滝は全く雪がなかった)白いスラブが広がる二ノ沢の方が美しい。
白く固いスラブは快適。そろそろ予兆の出てきた足攣りくんが暴発しないようにゆっくりと言い聞かせて登り、記憶に残る地帯を越えると次第に傾斜が増してきて、両岸が狭まると三俣下大滝が出現。
昨日の車中で三俣下は鮎、本谷大滝は高橋と決めてきたので、自分としては気楽に近づいてみると、そもそもその直下の5m滝が登れそうもない。右の草付きコーナーを巻き気味に越えるしかないかと見ていると、鮎が水流左に残置スリングを発見。かぶり気味なので、
”こんなとこやだぜ”
と思ったが、
”草付きよりはましかも”
と思ってロープを出して、とりあえず高橋が越える。気がついたら残置スリングをむんずとつかんでいた。
さて三俣下大滝。
左の方が若干やさしいとあったが、もろそうに見える。鮎は右のリッジを選択してリードしていった。リッジの陰に見えなくなってロープが止まり、再度じわじわと出ていくと思いもかけない水流右脇のどスラブに姿を現す。さらに際どいトラバースを続け、一本のリングボルトにどうにかたどりつき、そこでフリーズ。
鮎 「もう、戻れませ〜ん。この先も何もなく自信ありませ〜ん。とりあえずここまで来てくださ〜い」
”…バカ、そんなとこ行きたくねえよ。勘弁”と思いながらも、鮎の軌跡を辿ると、リッジ上部は濡れ濡れヌルヌルとなっていて、そこからトラバースに移っている。非常に悪そうで鮎のとこまで行くふん切りがつかず、あたりを見回すと、本ルート中唯一のがっちりきいたハーケン3枚のビレイポイントを発見!
高 「どうにかして戻ってきてくれ!(笑)」
と言いながら、敗退ムード。
後ろを振り返り、どの辺から草付きを登って一・二ノ沢中間稜に出ようかと観察に余念のない自分であった。スラブをクライムダウンし続けるには傾斜が強すぎに感じるし、懸垂を続けるにも鮎がハーケン持ってくるのを忘れたのだ。
鮎は、カラビナを残置して、テンショントラバースでどうにか戻ってきた。
…そばまで行ってやれなくて悪りい。でも無理だった。あそこからノーピンで落ち口まで行ける自信はお互いになかった。
鮎は戻ってきて「だってリッジの上部も同じくらい悪いんですよお」と言っているが、「もう一度やって見る」と気を取り直して再開。
「落ちるかも知れません」
と言ってどうにか草付きに乗り移った。
フォローも冷や汗噴出。ヌルヌルで外傾した手掛り足掛りがしかなく、どうにか落ちずに草付きに乗り移ってからも傾斜がきつく、乗ったスタンスごと剥がされそうなのが暫し続いた。お互いに
「これでV〜W級かあ。やっぱ谷川のグレード厳しすぎ」
とぶつぶつ。ここの突破に相当時間がかかった。
ところで、二ノ沢は対岸の衝立・烏帽子方面と逆で午前中全く日が当たらなく寒い。
三俣下大滝を越えると、そこに出合がある右股は入口の小滝の奥が明るく開けているみたいで、陽が充満しているように思える。三俣下大滝がこれじゃあ、W+の本谷大滝を越えられるのか?
右股への転進に魅かれるが、もっと痛い目に合うに違わないと言い聞かせて前進。
谷の幅は狭まりながらもまた同じようなスラブ。狭まっった分だけ水流を避けるわけにもいかなくなってくる。
そして出ました大滝。黒く障壁となって谷を塞いでいる。おいおいって感じの迫力だが遠目でもルートは水流左のあそこしかないってのがわかる。ルーファイが難しい三俣下の滝より、その点は楽だ。その点だけは…。
外傾、ヌルヌル、逆層、シャワー。錆びついた残置が何本か残っているのでどうにかフリーで登れたが、今シーズンではカンマンボロン洞穴ルートのトラバースピッチと並んでキビスィ。
鮎 「高橋さん、ミシン踏んでますねっ?」
…だからなんだってんだあ。どしようもねえじゃねえか。スタンスがねえんだよ!
この種のに登ってるとき、取りついた自分を呪う時があるが、それはない。だってここを登るしかないんだから。前日まで雨だった二ノ沢に来てしまったことは今さら悔んだ。
傾斜の強い部分を越えてもスラブが続きビレーポイントがない。ハーケン二本打ちこんで体重を預けビレイ態勢に入った。
高 ”テンション掛けるときは慎重になあ!”と叫ぶ。
鮎 ”落ちられないってことですかあ?”
高 ”そお!!”
つるべで鮎が傾斜が落ち着くところまでワンピッチ伸ばし休憩。ずぶ濡れになるとは想定外。セーターに着替えたり、カッパを着こんで震えの止まらない体を落ち着かせる。太陽があればなあ。
そこからまたキレイな白いスラブが復活。最後はロープを結んで草付きを4ピッチでガスの中の東尾根に這いあがった。
東尾根上部の岩峰を越えたとこ、頂上まで歩くこと100mの直下と言ってもいいところだった。
”いやー、二度と来たくないっすねえ”
”ああ、全く”
”ビッグルートでしたよ!”
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
鮎にあの最高級なクライミングシューズを見せてくれとせがまれたが、結局、入山から下山までアクアステルスの忍者のまんまだった。フリクションは問題ないし、何んたってやっぱ沢?だったからこれで良かった。鮎は底にパターンのあるクライミングシューズ着用。
テールリッジ末端から山頂直下までスラブが途切れることなく続きテラスはあんまりない。大滝2つを除いてフリクションは効くので心配ないが、雨が降ったらなんて考えたくもない。多分、今回は通常よりも濡れていたと思われる。そうじゃないと困ちゃうの。
高橋 記
【タイム】
一ノ倉出合 06:30 - オキノ耳13:30 - 駐車場 16:00
【装備】
ダブルロープ50mx2、ハーケン6本、エイリアン青〜赤まで5本、ボルトセット、ツェルト
*敗退したとき用にハーケンはナイフブレード中心に二人で合せて8〜10本は欲しいし、エイリアンはあまり使えないので青・緑・黄色の三本で充分。
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