■房総/丸山川滝ノ沢{滝ノ沢の滝ゴルジュ}(仮称)
2010.11.14
鮎島仁助朗
私は、ボルトを打ったことがない。それは、クライミング倫理によるものではなく、ただ単にその作業が面倒なため、自信がなかったために過ぎない。しかし、多少のアドヴェンチャーを志す以上、やはり、少なくとも、「俺はいつでも打てるんだ」という自信ぐらいは常に持っておくべきではないか…と、最近、とみに思い始めている。
このボルト能力の研鑽だが、ゲレンデでただ単に打っただけでは意味がない。マジで練習するなら、やはり、自分が打ったボルトを利用して突破するぐらいの真剣みがなければ、自信には繋がらないだろう。その点、昨今の倫理はひじょうに邪魔だ。
だから、人気薄のエリアで行うしかない。そして、突破を目指す…。とは言ってお、実質初ボルトでしかも単独となれば、ある程度の保険はほしい…ということで、房総半島のゴルジュで試してみることにした。
なつかしの軽自動車から移設したカーナビ(但し、配線むき出し)を駆使し、館山道から安房中央ダム近くの集落へ。あー伊予ヶ岳頂上岩壁が懐かしい!(オーブ。。。アソコを登ったなんて自慢できるぞっ!)
集落の小道へと入っていくが、道がとても狭く、プジョーが精一杯。それでも、路肩になんとか車を停める。
沢へ。ちょっと迷いながらも、滝に到着。。。なるほど。資料どおりの連瀑帯。巻くことは不可能な感じの渓相に6m+5mの滝が続いているように見える。その最初の6m滝はフリーで登るのは論外なわけで、かつ、残置類は見当たらない。早速、ウェットを着込み、ガチャガチャを装着!!
まず、最初のボルトを打ち込むが…。あれ、10秒で入った!・・・泥岩というよりは土壁。「ホントに利いているのか?」と疑問に思うより先に、「ラッキー」って思ってしまうのがボルト初心者の情けないところ…。
あまり気にせず、2mほどフリーで上がって、さらにもう一本打ったる。今度はちゃんと3分ぐらいかかったぜ。このボルトにアブミに乗り込み、手を伸ばすと、なんと左にカムが聞きそうなクラックがあり、エイリアン緑を差し込む。やっぱり、カムって、ボルトよりラクチンでええなぁー。ヨシッ、これに乗り込んで・・・
「っあ」…………”ぼっしゃ〜ん”。抜けた〜〜〜。抜けやがった〜。
ケツからハデに釜に落ちてしまった…。徐に、取り付きに打ったボルトを見ると、完璧に抜けていた…。なるほど、単独システムで登っててもそりゃ落ちるわな。
グランドフォールをしたものの、幸いまったくの無傷なので、気を取り直して、再トライ。
先ほどの地点まで戻り、クラックに再度エイリアン緑を決めようとしたが、完全にエキスパンションして決まらぬ!うーん、”デイガン”とカム類の相性は悪いようだ。しょうがないので、安定しない体勢でボルトを打つ。無理した体勢でなんとか打ち込むんだが、「イマイチ」なボルトちゃんしか打てない…。正直、あんまり入っているとは思えないが、体を安定させるだけで、全体重をかけるわけではないし、気にしない。ここからが核心の小ハングの乗り越し。「イマイチボルト」で体勢を安定させて、「納得ボルト」を完璧に入れ込んだ!その「納得」にぶら下がり、もう一本!…しかし、この先に適当ないいところがないんだよな〜。なんか脆すぎて…。それでもなんとか、「怪しいボルト」を入れ込んだ。そこに、アブミをかけて、恐る恐る全体重をかける…。
「うぉぉ〜」
なんとかセーフ。あとは傾斜が落ち、フリーで登って、滝上に出ることできた。。よっしゃ。
しかし、上についても、また懸垂して戻らねばならぬのが、単独登攀システムの哀しいところ。あいにく、木とかCSとか、自然の良い支点がないので、これまたボルトを打つ羽目に。そこらへんの石に打つが、これまた10秒で空く。…ラ、ラッキー!
どうせまた、戻ってくる予定なので、カムとかサイレントパートナーとかを滝上において、さてそのボルトを支点に懸垂下降。…と、2メートルぐらい下りたところで…、
「ボンっ」…………”ぼっしゃ〜ん”。
一瞬何が起こったかわからなかったが、無重力を感じてしまった…。あー、懸垂支点のボルトが抜けたのね…。”ぼっしゃ〜ん”。
「う、う・・・」
しばらくは、声も出ない…。しかし、とにかく、無事のようだ。落ち着いてみると、切り傷や打撲ぐらいなもんで、とくに致命的な怪我はないのが運が良いところ…。でも、さすがに、戦意喪失です。ともあれともあれ、五体満足でスタート地点に戻れたわけだ。じゃ、このまま帰ろうかなー。。。。
いや、アカン。上に、総額10万円を越すガチャ――サイレントパートナーに、カム各種、その他――を置いてきちゃったじゃん。。。オレの馬鹿〜〜。…10万円、10万円、じゅうまんえん………。お、惜しい…。まったくもって惜しい。。。
しょうがない。回収しに行くか…。そんなモチベーションで、再度、登りはじめる。「イマイチ」から「納得」までは余裕で次の「怪しい」へ。しかし、、、、
「っああ〜ん」…………”ぼっしゃ〜ん”。
最初のときは、なんとか耐えてくれたこのボルトも、2回目はダメだったらしい…。
再トライ。「納得」で体を安定させ、j今度は「怪しい」に代わるボルトうち…。アー右手首いてー、左手も疲れる〜。ふと嫌気に襲われるが、これも10万円の回収のためだ…。時間をかけて、なんとか一本打ったが、この作品もなんとも「残念なボルト」になってしまった…。うーん…。んま、もう一本打てる余力もないので、落ちる覚悟で「残念なボルト」に乗り込む。なんとか騙し騙しでなんとか緩傾斜までいった…。やった〜〜。
サイレントパートナーちゃん、カム類ちゃんに再会。そして、抜けやがったボルト穴にも対面。
彼らを無事に回収後、さらに続く滝を見る。5mぐらいの川原の後、続くは5m滝が続いているのだ。これも、フリーで登るには厳しそうな滝である。。
というわけで、もちろん、当初の目的、10万円の回収ができたので、無理せずにサクッと帰ろう…と、よくよく見れば、滝左の出だしのワンポイントだけ乗り越せば、あとは凹角から抜けられそう…。ここまで来たんだから、ついでにやっちゃおうかな♪ということで、やる気になってしまった。。
5m滝の左から取り付いて、またボルトを打とうと思ったが、なんだ、いいリスあるじゃん♪♪ロストアローをぶち込む。それにアブミをかけて登れば、あとは目論見どおり、ズリズリっとフリーで登れた!
この上も、ゴルジュで、それなりだが、ただ歩いていける。やったぜ。。突破完了!!
チョックストンを支点に懸垂下降し、5m滝を下り。問題の6mの滝上へ。。。さっきは、支点が抜けて見事に落ちてるからなー。。。さっきの反省を活かし、同じ轍は踏まないように、しっかりとボルトを2つぶち込んで懸垂下降。よしっ、今回はバッチリだ。。ハンガーのみを回収しながら懸垂し、無事、スタート地点に降り立った。やったね☆
帰りは、高橋さんがお勧めの保田漁協直営の「ばんや」で飯を食べて帰った。なかなかに混んでいたが、お勧めなだけあって、美味でボリュームもあって納得です。
祝!房総ゴルジュ初突破。
でも、今後、ここを登ってもボルトをなぞるだけ。あまり、クライミングとしての楽しさはないと思う。もし、続登がいるとするなら、それはこの初登者の気持ちをシンクロする以外の目的はないだろう。だから、そんな罪なことをした初登者の責任として、長々とここを登った心情などを書き記しました…なーんてね。誰もいないぜ、そんなヤツ。
それにしてもいやー、よく落ちたなー。3回もグランドフォールだもんなー。しかも単独で…。特に、懸垂支点が抜けてのフリー落下は、たしかに無重力。下が釜で本当に良かったと思うことしきりだが、「もう勘弁」。今回、「滝つぼがあるところでやろう!」と保険かけていて、それがッ見事なまでに還元されたとはいえ、致命的な傷はなかったからいいけど、自分ながらあぶないことやってるよなー。
でも、そのおかげで、まじめに、本番さながらの練習ができ、多くのことを学ぶことができた。
<学んだこと>
(1)泥岩質とカム類は相性が悪いぞ。
(2)ハーケンと泥岩質の相性も悪い。ただし、横リスのときは大丈夫っ!
(3)泥岩質とボルトの相性もそれほど良くない。オールアンカータイプのボルトじゃないと信用ならない。
(4)オールアンカータイプでも、10秒で空いたボルト穴は、利いてないと思え!
(5)ボルトは安定した体勢で打つことが好ましい。
(6)「工事用のオールアンカーボルト+ペツルのハンガー」がコスト的にも強度的にも最強の組み合わせだ
(7)懸垂下降をするときの支点は、必ず2つ以上作りましょう(しっかりした立ち木のときは除く)
…などなど。とくに(7)なんて、基本中の基本だが、懸垂支点までも抜けて、ようやく気付いたんだけど、みんなは真似しないように。
ボルトね〜。結局、「利いているかどうかは打った本人じゃないとわからないね★☆」ということがよ〜くわかった。言い換えれば、「残置ボルトはよくわからんね〜。」ということかな。これまでボルトというだけで、全面的に信用していたけれど、そうじゃない!ということに気付いただけでも、今回はとても有意義だった。
一方のボルト打ち…。なにせ、今回、泥岩という特殊な岩質だったからな〜。本当に練習になったかどうかは、イマイチつかめていない。だから、もう一度、しっかりとした岩でボルトを打つこともしてみたい…なーんて思ってたりして。ボルト中毒かな♪しかし、結構、体力的にボロボロなのよ。まず翌日から今日まで、ずぅっと右手首がいたいのです。腱鞘炎かな??しばらくは、打ちたくても打てましぇん。
2010.11.17 鮎島筆
【記録】
11月14日(日)曇
駐車地0730、滝下0735、滝上1130、駐車地1200
【使用装備】
ボルト(オールアンカータイプ×7)、ハーケン(ロストアロー×1、ナイフブレード×1)、アブミ1s、フィフィ、サイレントパートナー、ウェットスーツ上下など
※リングボルトは脆い岩質のため論外。オールアンカーでないと利かない。
※カムも使ったが外れ、落ちた。あまり有効ではない
※リスも結構あるが、どれもエキスパンションして外れるため、有効ではない。
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