2010/12/18-19 治田
日光太郎山の頂
みちのく和賀や飯豊に越後の渓谷に、9月いっぱいまで満喫浸りした。
どれもこれも充実した沢登りで、もうお腹いっぱい、てな気持ちになっていた。
それで、空気の冷えた秋はフリーを少しは専念したいと考えていた。
古賀志を少しと奥武蔵の権現堂の初見山、8年振りの聖人岩と、これまた、どれもこれも充実で楽しく、相応の成果は出て大満足だった。
12月は背伸びして、クライムコンペにエントリーしていたので、このたった2ヶ月間が、僕に許された羽ばたける(?)フリー専念時間なのだった。
結果は、まあ、文句は言えない。簡単に言えば参加24名で6位という具合だった。
予選11Dのトップ通過の決勝8名内に残り、決勝で再びの戦いを行う。
12Bくらいのルートだが、3~7位は半手や一手違いの僅差。目標は5位以内だったが、これが努力の限界で、その結果にも大満足だったのだ。
甘えを捨てて、短期間集中した結果なので素直に喜べるものなのだ。
さて、そんなセンチな干渉にもまったく浸っている暇もない。今度は冬山の体を作らなくてはいけない。
会には黙っていたが、この数年は冬季の積雪期に単独で幾日か、こもっての縦走をこなして来たが、昨年没になった足尾~奥日光を実現させたく、コンペの翌週から山に登って、年末こそは【担ぎ・歩き・頂に立つ】をやりたいと願っていた。
早速、フリーの疲れをひきづったまま、下半身中心の刺激を与えるトレーニングを行う。
大それたものでなく、簡単な大股歩行、2段抜かしの階段昇降、スクワット&カーフレイズなどを日常の動きの中に取り入れる。
肝心のミドルセクションの腹と背中の部位は、ジムのアップに取り入れた。
そういう意識で取り組めば、まとまった時間を割かなくても、相当量の負荷を体に与えることができる。
もちろん激しい冬山はそんなレベルで通用しないのはわかるが、50過ぎの体は、より以上の激しい事をやると、強くなるより怪我や組織が壊れていくのである。
ほどほどにやれば、あとは現地でやるだけやるという事である。
日光・太郎山。言うのもなんだが名山である。特に冬は頂稜部付近が気高く、貫禄が漂ってたまらなくいい。
でもこれは、行かない奴にはわからないし、行っても乗っかり山行だけの輩には、山の本質の良さがつかめないかもしれない。
名声では奥白根と男体山と女峰山に隠れているが、実に山の魅力を秘めている孤独な峰と推奨したい。
もちろん孤独さでは、錫ケ岳にはおよばがないが、太郎の名に恥じぬ素晴らしい山なのだ。
さてさて、本題にやっと移る。昨年もこの山を狙ったが直前の大雪で挑戦したものの、まったく頂には届かず一人のラッセルの限界を痛感した。
でもだからと言って負けたわけでなく、力を付ければ立てる頂と感じた。また、軽量化は冬はいざというときに弱い。
防寒と燃料はしっかり背負わないと、攻め切れないと感じた。遅くてもじっくり担ぎ攻めれば必ず取れる。
この太郎山は徒党を組みチームで取ろうなんて考えも浮かばない。一人で何とかできそうなら何とかしたい。なのだ。
2010/12/18
光徳牧場の立派な駐車場に愛車を止める。トイレつきで無料で文句なしのパーキングである。
寒さは格別だ。また、年末山行を考えて荷はがっつり重くしている。
昨年は浅いラッセルでスタートしたが、いくらもない雪の合間に楽に歩を進めることができる。
山王峠から山王帽子山。この山がアクセントだ。ここまででもう疲れは背中に感じ、2回の大休止を入れるハメになる。
ハガタテ薙ぎの登山道が土石流で荒れて廃道になった今、太郎山を取るにはこの帽子を踏まなくてはならない通過頂になってしまった。
昨年よりはるかに少ない雪登路を味わう。無念の折り返し地点を過ぎると、いよいよ太郎山の高さがまじかに感じる。
急登を呼吸を合わせて、頑張りの連続でやっと小太郎山に立つ。なるほど、立って見て昨年の敗退の判断は正しいと感じた。
おおよそ昨年の深雪の状態なら、あと3時間かけても、小太郎山に届いたかどうかの距離だった。
本峰は目の前に指呼の間にある。だがそれは視覚の上で、肉体的にはもう二た踏ん張りが必要だった。
一回腰を下ろし、陽が傾く中にやっと立てた。
寒さはひとしおで風が冷たい。誰もいないし、山以外に何もない。そう、これが堪らなく良い。
たった一人で味わえる孤独の峰。これを求めるために、雪に足跡を着けてはるばるやって来たのだ。
下り初めて、平坦なお花畑に今夜の宿をこしらえる。風を避けるための場所を探し、整地からお決まりのパターンでテントを張る。
雪を溶かしながら、ウイスキーを胃に流し込む。早く酔いたい。早くこの冬山の雰囲気に溶けたい。
2杯、3杯とグビグビあおり、熱いラーメンの汁を飲み干すと、だいぶ落ち着いて、ラジオの音に耳を傾けられた。
今日を振り返れば、やっとここまで来れたという感は強い。疲労度は相当のものだ。昨年よりかなり少ない雪でこの状態だ。
冬山登山の基礎体力の必要性をいやというほど教えてくれた。
冬はまともに山と闘ってはダメだ。状態を見て効率よく攻めなくては、とても通用しない。
酔いの中で何度も反芻するのだった。
2010/12/19
翌日は気分の高まりか、暗い中6:30にはテントをたたんでいた。
今日は下降だけだ。新薙の通過が難所とエアリアマップには記されているが、雪も安定しており問題ない。
その後の急降下で、落ち着いて足サバキを繰り返せば、林道に出る。あとは雪と部分氷の人工の舗装道を延々と歩くだけ。
けっこう長いが、なぜかうれしい。太郎山が良かったからだ。
日光太郎山。冬季の彼は実にいい。行けば分かる。これ以上は言わない。どうぞお試しあれ。