■丹沢/塩水川栃窪スラブ

2011年4月2日
鮎島、高橋、大部
 検索エンジンで「丹沢 スラブ」と入力すると、一つの記録がヒットする。それが、この塩水川栃窪のスラブ記録である。曰く、「丹沢の各所にこれを匹敵する高度差の岩場は幾つかあるが、燦々と日があたり、明るく、開放的な岩場は他には知らない」とそそられる文言もある。それにつられ、私のインタレストリストに長らく入っていたわけだった。  自分の中でもさほど優先度が高いわけでもなく、まさか本当に行くことになるとは思いもよらなかったが、いろいろやり取りの末、興味を持ってしまった3人で向かうことになった。
 車を走らせ、宮ヶ瀬湖のバックウォーターを走り、塩水橋で車を停める。案外、車は停まっていた。

 塩水林道をてくてく歩くこと15分。記録と地図とで目星をつけた栃窪の出合に到着。…林道からその窪の上部を眺めてみると、スラブなぁぁぁ…。ぁぁぁぁアレかなぁぁ〜。うーん…、アレのぼるのかぁ、見栄えせんなぁーという感じ。いやー期待していたよりも…、いや、もちろん期待なんかしていなかったが、仄かな淡い感情より明らかに下回る感じ。すなわち、「冴えないガケ」じゃん!!!
 っでも、取り付きから眺めると案外…という更なる仄かな感情をもって、一箇所2段8mの滝がある沢(栃窪)を登る。最近、みんな、山に登っていないので、大汗をかきながら、岩壁の基部に付く頃(林道から約15分)にはゼィゼィである。

 基部から上を眺めると…。「あー、やっぱりなぁ。うーん」というシロモノ。………。取り付きから眺めれば…という淡い期待は見事に裏切られ、近づいてみれば見るほど、めちゃめちゃ草に埋もれ、見栄えもしないスラブ、いやガケがそこにあった…。自分が言うのもなんだけれど、こんなやつを登ろうというやつ、普通はおらんだろうなぁ。なんか細かな落石が多いし。。
 まぁ、それでもはるばる来てしまったし、上のほうはスッキリしてそうな感じに思え、案外上に行けば、快適な岩登りできるかも…とさらに微かな希望を持って、登り始めることにした。なぜか最終ピッチのリードに確定しているオーブは抜きに、リード順番をかけたじゃんけんの結果、高橋さんが栄えあるファーストクライムの足跡を刻むことになった。

1P目(高橋、45m)
 取り付きのリスはすべてエキスパンドするので嫌な予感はしたが、出だしから5m地点がやっぱり激モロでここが核心。あとは傾斜が緩くなるので多少登りやすいが相変わらずモロく、ハーケンもあまりきまらない(すべてエキスパンドしてしまうようなリスしかないため)。但し、イボイノシシはバチ利きである(回収に5分かかった)。40mちょっと伸ばすとテラスになり、そこでハーケン4本で分散支点を取ってビレイ点。なお、登っている最中は落石が多いので要注意。
2P目(鮎島、40m)
 まず緩傾斜帯を簡単に登り、右の小ピナクルを目指し登る。それからまた5m簡単に登るところまではノーピン。ここからかなり傾斜がきつくなるが適当なリスも何もないので、ここではじめてのボルト打ち。安定した体勢で10分弱で納得のボルトを打ち込めた。そのあと、ほぼ垂直の草付をホコリだらけになりながら、なんとか突破。その最中、動くたびに細かな石を落とし、後ろで苦笑が聞こえるがしょうがない。抜けたところの小テラスでピッチをきる。ビレイ点は長いナイフブレードともう一本オールアンカーを打ち込んだ。
3P目(大部、30m)
 傾斜の緩いルンゼ状を登るが、途中から完全にガリー。落石が激しいぜ。中、右の潅木帯に逃げ、一度そこで切る。
4P目(大部、35m)
 オーブは3P目終了点で終わりにしたかったようだが、隊長からの「やっぱり上まで行かなきゃだめでしょ」という御達しで、再度オーブがリード。傾斜は緩いが崩壊もいいところ。なんとか登りきって、安定した木まで。

結局、ボロボロの壁で口の中がホコリくさい。。。。
帰りは、左岸の潅木を支点に懸垂下降6ピッチ(ロープ一本で)で沢床まで降りて終了〜。下から見上げても、あぁー、よく登ったね、登っちゃったね、あの期待はなんだったんだろうね、と感慨深い。

さて。まだ13時。
「時間が余ったからボルトうちの練習しよーぜ。こんな岩場、どうせ誰も来ないから打ち放題だぜ!」
 ということで、各自、もってきたボルトセットを準備する。
 が、「でも、ボルトの錐って一本3000円くらいするんだよなー」
 なる代表発言で、オーブがビビり(!)、ボルトうちを惜しもうとしている。
「そんなところも『小市民』だとか『保身』だとか言われる所以なんだよ〜」
 とさっそくヤジをいれ、結局3人仲良く、カンカン打ち始める。
 オーブは意味不明の「両利き」らしく、右手・左手交互に打っていて、
「両利きって羨ましいぃなー」
 といわれながら打っていたが、疲労の蓄積が一番ないはずなのに進捗具合が明らかに一番遅い。…ボルトうちの速さはどうやら、腕相撲の強さに比例するようだ。
 何だかんだいいつつも、なんとか穴を開けて、オールアンカーボルトを埋め込み、別につける必要もないが試しにハンガーをつける。オーブ曰く、
「だいたいゲレンデに埋め込まれているボルトのハンガーの向きって鉛直方向にじゃなくて若干右なんですよね。だから11時20分とか25分の方向に埋めるのがいいですよ」
 …らしい。最初は、
「あー確かにそうかもしれないね、へぇぇ〜」
 と素直に感心したが、 「でも、若干右ということで「20分とか25分の方向」というのはわかるけど、でもなんで11時なの??時間は何時でも良くない?」
 と若干の疑問が…。
「あーでもさー、11時20分というのは時計の針がまっすぐになるからな。な、オーブ、そういうことだろ?」
 とさすがのフォロー…。あぁ、すごいな、と心底から思った。
 下りて、対岸の林道から全容を見ても、「あーオレたち、あんなところ登ったんだ…アホだね…」としか言いようのないような、単なる“ガケ”であった。本当に見栄えもしないし、規模も大きくなく、なんとも気恥ずかしいガケである。きっと初登は初登なんだろうけれど、それを誇りに思う気持ちはこれっぽちもない。なんでなんだろうねぇー。一体なんだったんだろうねぇ。自分でもわからない。
 …帰りに寄ったラーメン二郎も含めて将来的にも3人の笑い話にしかならないんだろうな…。まぁそれも良し。

2011.4.5 鮎島 筆

【記録】
4月2日(土)晴
 塩水橋0740、取付0845、終了点1200、取付1300、以後1445まで取り付きにて練習、駐車地1530
【使用装備】
ダブルロープ50m×2、エイリアン緑、ボルト3、ナイフブレード7、アングル1、イボイノシシ1。



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