北アルプス/槍ヶ岳硫黄尾根


期間:2011430日〜54日(GW)
山域:北アルプス
形態:残雪期縦走(バリエーション)
メンバー:L渡辺、高橋、大部、伊佐見(記録)

 

 硫黄尾根は槍ヶ岳西鎌尾根の途中から北へ分岐している長い尾根だ。有名でよく登られている「黒くてかっこいい」北鎌尾根に比べると、硫黄尾根は岩質が「脆く」「地味で黄色い」尾根だった。そんなことを言うとまるで「不健康なウ○チ」みたいだが、そんな素晴らしい尾根から槍ヶ岳に立つことが出来た(確かに歩いている途中で臭う、硫黄で)。当初は槍ヶ岳登頂後、千丈沢乗越から千丈沢〜水俣川を下降し、七倉山荘まで戻ってくる予定だったが、事情により新穂高温泉へと下った。

 

429
西国分寺駅20:00〜中央道〜信濃大町〜七倉山荘2;00

 駅に集合するが、渡辺さんのブーツが無くなる。家か下手したら山手線かも、と最初から山行自体が危ぶまれるが、高尾駅で発見されたとのこと。よかったよかった。多少時間が遅れたが、高橋さんの車で七倉山荘まで向かった。伊佐見の運転が危うかった。

 

430
起床5:00〜ゲートOPEN6:30〜林道終了7:45〜水俣湯俣出合9:30〜硫黄尾根取付10:242031m付近(たぶん)14:00

 曇り。登山届を出して、予約していたタクシーで高瀬ダムに向かう。登山センターで流れているニュースによると白馬岳大雪渓で雪崩が起きて死人が出たそうだ。

 高瀬ダムには80L ガッシャーを持ってきている大学山岳部らしき三人組がいた。北鎌を登るそうな。辛そうだった。高瀬ダムに溜まった緑色の水を見ながら林道を歩く。長いトンネルを抜けると、芽吹いたばかりのフキノトウが生えていたりする。林道はダムまでで途切れ、それからは登山道を進んだ。時に雨が降ってきてうんざりする。今日は晴れじゃなかったのか。雨は明日からだったはずじゃないか。そういえば硫黄尾根から敗退してきた1パーティとすれ違ったが、天候悪化が原因だろうか?

湯俣山荘手前では間違って吊り橋をわたってしまうが、本来はカラ沢を越え、水俣川に掛かる吊り橋を渡るだけでよかった。その吊り橋の後危ないフィックスがある。だがそこへ取り付こうとしていた渡辺さんから「アーッ!!!」という声が聞こえる。お、落ちた!?いや渡辺さんのザックの雨蓋から物が落ちて流されていく。ありえーん!運良くテルモスは救出したが、行動食とヘッドランプを紛失したらしい。またしても山行自体が危ぶまれる。しかしまぁ何とかなるだろうと進むことになった。

 300mほど進むと赤と青の紐が垂れ下がっているのでそこから尾根に取り付く。針葉樹林帯の尾根上まで笹のブッシュを漕ぐ。ここからやっと雪が積もってくる。尾根は結構細めからだんだん広くなった。

気分良く登っていたが、何だか空がゴロゴロ鳴っている気がする。飛行機だろうか?いややっぱり雷だ!

「ヤバそうだから良さそうなテン場があったらすぐテントを張ろう。」

「あ、あった!早く踏み固めろぉ〜。」

「ギャー降ってきた。ぎゃーぎゃー、早く入れぇ。」

「ドドーン!(雷)ザー!(雨)」

・・・こんな感じだった。この後も激しい雷雨が続いた。高度計を持参していなかったが、高橋さんの希望的観測によるとジャンダルムT峰直下、すぐそこらしい。

 この日の夕食はもちろん持ち寄り鍋だった。伊佐見はひよこ豆の缶詰を持ってきた。この缶は渡辺さん専用の「ション缶」として役立つのだった。ところで場の空気を読んで言わなかったのだが、このひよこ豆(ガルバンソービーンズ)で頑張るぞーという意味も込めていたのだったが。ま、いいか。
高瀬ダム右岸林道を行く 湯俣から見る硫黄尾根
高瀬ダム右岸林道 湯俣から。最初アレを登るのかとビビった(アレは硫黄岳前衛峰の支稜でした)
水俣川のトラバース 節電
湯俣のつり橋渡って即・こんなの。北鎌のアプローチは大変そうだなあ… 珍しくろうそく。


51

 雨が降り続いていたので沈殿。卑猥な話をしながら、時々晴れ間を突いて用を足すといった具合だった。

52
起床3:00〜発5:04〜W峰付近7:09〜小次郎のコル8:10〜硫黄岳11:00〜雷鳥ルンゼ13:11〜硫黄岳南峰14:002370m稜線上?17:00

 晴れ。樹林帯を少し進むと、樹林が西斜面のみに生えてくるようになり、硫黄岳ジャンダルム群となる。合計6峰あるらしい。T・U峰の岩を越え、V峰から千丈沢側に225m懸垂下降する。そこから雪面をコルまで登って、W峰岩峰を巻く。ここでひとまず休憩。小次郎のコルから硫黄岳までの長い登り返しが目に入る。X・Y峰と高度を稼ぐが、小次郎のコルまで下る。このコルは確かにいいテン場になるだろう。

 硫黄岳までは細い雪稜、嫌な岩場を登り、千丈沢側へ伸びている尾根へ交わってから右へ曲がる。しばしば雪が腐ってきてズボるので体力を消耗する。右手の大きな雪庇に気をつけつつ登ると平らな硫黄岳だった。しばらく余韻に浸る。ずっと登りだったのでクタクタだった。

 だだっ広い硫黄大地をズボりながら進み、2511mピーク(硫黄岳南峰ではない)の少し先から湯俣側ぎみに伸びた雷鳥ルンゼを225m懸垂で下る。硫黄岳南峰2459mまで登ると、ニョキニョキといくらあるのか分からない赤岳ジャンダルム群そして顕著なU字型の中山沢のコルが見えてくる。今日はその中山沢のコルで泊まる予定らしい。遠くないか?

 この辺りから岩質が脆くなってくる。時間が迫っていることもあり、気も滅入ってきた。南峰から湯俣側の雪面・岩をクライムダウンすると、左手にいいテン場になりそうなところが出てくる。「ここで泊まりたい人がいたら泊まるけど?」と聞かれるが、誰も泊まりたいと言い出さない。変なプライドのせいで自分から言い出せず、「誰か泊まりたいと言ってくれぇ」と念波を送るが不発に終わる。先に進むということになって、(念波のせいか)疲れた。

いくらでも出てくる岩峰は右から巻いたり、直登したり、その場で判断する。時に出てくる雪面のトラバースは楽しい。次に大きめ岩峰が出てくるのでロープを出す。大部さんがトップで登ってくれた。ラッキー。そこから225m懸垂し、地形図上の赤岳を含めた2つピークを残して、2370mほどの稜線上に幕営。槍ヶ岳のアーベンロートは絶景だった。

渡辺さんと伊佐見は大量にお茶を飲むが、小便が出ない。どうやら軽く脱水症状が出ていたようだ。反省。

硫黄岳前衛峰群を望む

硫黄岳前衛峰群登攀1

硫黄岳前衛峰群を望む 硫黄岳前衛峰群1

硫黄岳前衛峰群その2

硫黄岳前衛峰群3
硫黄岳前衛峰群2 硫黄岳前衛峰群3

懸垂待ちでタバコをフカす高橋

いかにも5月の雪稜

ハイライトはいつになったら安定供給されるのか… 硫黄岳前衛峰群4
硫黄台地を進む。バックは北鎌尾根&槍

雷鳥ルンゼの懸垂

硫黄台地。バックは槍&北鎌尾根 雷鳥ルンゼの下り

硫黄岳南峰の登り返し

雷鳥ルンゼを振り返る

硫黄岳南峰への登り返し 雷鳥ルンゼを振り返る

赤岳前衛峰群へ

赤岳前衛峰群1
赤岳前衛峰群 赤岳前衛峰群1

後光差す大部

フォロー組
赤岳前衛峰群・ビレイする大部 フォロー
←細い雪稜上を丹念に整地して幕営。テントがもう少し小さければそこらじゅうに幕営適地がある。


 

53
起床3:00〜発5:05〜中山沢のコル6:20〜白樺平8:00〜西鎌尾根9:3911:38千丈沢乗越

 晴れ。雪稜から抱えた岩ごと落ちそうな岩稜を登っていつのまにか地形図上の赤岳を越え、その先のコルから雪面を25m懸垂すると中山沢のコルだ。ここはクライムダウン出来たのかもしれない。絶好の幕営地だろう。ここから先が赤岳主峰群らしい。傾斜があって難しそうなT峰だったが、登ってみると上手い具合に雪がついていて登ることができた。U・V峰も難しいらしいが、ほとんど雪面登りだったので赤岳ジャンダルム群の岩稜より安心して登れた。

 W峰からは楽しい雪稜となり、しばらくすると白樺平に到着する。白樺はほとんど生えておらず、真っ白、まっ平ら。ここから200mほど登ると西鎌尾根に出合う。硫黄尾根完登できた!

 ここからは千丈沢方向に張り出した雪庇に気を付けつつ、千丈沢乗越に向かうだけだった。乗越でこの日に槍ヶ岳を獲るべきか迷ったが、明日晴れるとの予報だったので、無理せず、明日登頂することになった。また明日のうちに下山する予定であったので、飛騨沢から新穂高温泉に下山することも決まった。14時半ほどからはみぞれ交じりの雪となった。

赤岳前衛峰群

アサイチからきつい登り

赤岳前衛峰群後半戦(以下中山沢コルまで連続写真)

中山沢のコル

中山沢のコルへ懸垂 中山沢のコル

赤岳主峰群の登り

赤岳主峰群の登り(以下白樺台地まで連続写真)

白樺台地にて
白樺台地を望む 白樺台地にて
硫黄尾根の最後の登り
西鎌尾根は目前 硫黄尾根・最後の登り
残雪の西鎌尾根
残雪の西鎌尾根を進む 西鎌尾根上(千丈沢乗越近く)に幕営

 

54
起床3:00〜発4:58〜肩の小屋5:45〜槍ヶ岳6:20〜肩の小屋6:50〜千丈沢乗越7:54〜槍平9:37〜新穂高温泉13:20〜池袋2:00

 曇り。あれ?天気予報では晴れと言っていたが、かんばしくない。登るにつれ晴れてくるのだろうと判断し、出発する。高橋さんは以前登ったこともあり、首の方が心配なこともあり、今回はテントキーパーをしていただいた。千丈沢乗越から尾根伝いに西鎌尾根を登り、大岩を右から巻き、肩の小屋に到着する。しかしながら天候は良くならない、そして寒い。かろうじて槍の穂先が見えるかどうかといったところだ。まぁ登れるだろうということで進む。鎖も出てくるが、途中から雪や氷に埋まってしまっていたので、ダブルアックスで梯子まで登った。鎖が無くなって怖かったが、付いていくほかなかった。梯子を登ると念願の槍ヶ岳頂上だった。頂上ではほんのひと時だけ晴れた。初めての槍ヶ岳をこんな形で登るとは思いもしなかった。

 槍の下りはもっと大変だった。225m懸垂とクライムダウンでおりるが、やはり鎖がないと怖い。小屋からさっさテントに下ると8時ごろと予定より早かった。早すぎて高橋さんはあまり十分に寝られなかったようだ。

槍の頂上だけはガスを残し、晴れてきた。飛騨沢でシリセードを交えつつ下る。伊佐見は一回マジ滑落をして激しく滑り落ちていった。楽しかった。槍平以降、飛騨沢では滝谷観光をしながら何も考えずに下りてしまい、高橋さん以外の3人はルートを外れ、白出沢を林道まで登り返す羽目になってしまった。高橋さんを新穂高温泉で待たせることになってしまった。反省。

 帰りは七倉山荘まで車を取りに戻り(その時のタクシーのおっちゃんがえらく物知りだった。話は面白かったが、時速30qとか…もうちょっと早く走ってほしかった。)、高瀬館で温泉(700円)に入って帰路についた。

大変疲れたが、充実したルートから槍をゲットすることが出来た。

5月でも冬壁チックな槍の穂先1

5月でも冬壁チックな槍の穂先2

槍の穂先への登り。5月だが完全に見た目は冬壁 見た目冬壁だが、後に小屋が見えるのが哀しい
槍ヶ岳山頂
ありがたいハシゴ。 槍ヶ岳山頂
撤収

千丈沢乗越から飛騨沢を下降

撤収 千丈沢乗越から飛騨沢を下降
グリセード部隊

槍平小屋にて

グリセード部隊 槍平小屋にて

 

持っていく水の量が少なかったことや下山にルートを間違えるというミスはあったが、それ以外はそれほど問題無かった。個人的にビビってしまうことが多かったが、そういう経験が出来てよかった。

記:伊佐見



メモ:
・ザイルは50mを2本持っていったが、残置支点はまあそこそこあり、50m2本つないで一杯の懸垂というのはほとんどなかったし、つないで降りた時も途中に都合のいい木があったりしたので1本でもなんとかなる。我々は4人もいたので2本持っていったが、人数が3人以下なら1本でもいいと思う。ただし一人が先に下りて、見通しの立たない先の岩峰を偵察、というパターンで結構時間を稼げた気がするので、担げるなら2本持っていったほうがいい。
・ハーケンを8本も持っていったが、下降用の支点は豊富。4本くらいで十分。一箇所のぼりでザイルを出したが、結局打たなかった。そういえば初めてバイパーでハーケンを打ったが、ビレイ点ならともかくリードしながら打つのは無理なように思えた。(ハーケンは回収した)
・私はバイパー2本(うち1本はグリップエンド削り落としてアッズも改造したウォーキングアックス仕様)で行ったが、結局ダブルアックスとして使ったのは槍の穂先でのごく一部。ほとんどがダガーポジションやダブルシャフト、そして歩き。よって大部の「古典的ストレートピッケル+沢バイル」や伊佐見の「ベントシャフトの今時風ピッケル+バイパー」などが適当。高橋さんは両手カンプの山用バイルであれはあれで良さそうだが、やっぱりバイルは高いし重い。
・テントはエスパースゴアテックスの4〜5人用テントだったが、幕場に困る事はなかった。ちょっと無理やりな整地も含めれば、まあどこでも張れる。
・やはりこの時期は雨が一番怖い。アウターはカッパ、テントはゴアのシングルウォールor本体+レインフライのダブルウォールがいい。(奇しくも全員ミズノの「ベルクテックス」を着ていた)。ゴアテンは雨の時に出入りするたび入り口に雨が入り込んでウザイし、外が雨やら雪やら低温やらだと透湿してくれない。居住性はダブルウォールの方がいいのではないだろうか。槍ヶ岳山荘周辺に張るとなるとレインフライでは耐風性に問題があるが、それ以外の場所でならレインフライでも耐風性は十分と思われる。
・燃料を一人一日0.15本(中缶を0.5、大缶を1とカウント)としたが、空焚きするとあっというまになくなる。初日に景気よく空焚きしてしまいあとでビビッた。空焚きしない場合はこの程度でいいが、するならもう少し増やさないとダメ。
・エスケープは容易に感じた。千丈沢・天丈沢のいずれかに逃げればなんとかなりそう。
・GWは水多目にしないと、行動時間が長いので足りなくなる。伊佐見とナベは500mlのテルモスしかなくてヘロヘロになった。
・槍の穂先では2人の登山者に会ったが、それぞれピッケル1本…のぼりは良くてもくだりがおそろしくありませんか?と思った。我々は安全を期して2回も懸垂したが、自分で言うのもなんだがそこそこセットも回収も早かった。それにしてもあそこだけ「どこのWCM(ウインタークライマーズミーティング)だ?」って氷結っぷりでした。(渡辺)


山登魂HPへ