2011/08/13-14 治田、武井、荒井
足尾沢、超激の名渓でした。
デカく悪い滝、巻を許さないゴルジュ、いつ崩れるか知れない大雪渓、二時間半闘った大巻、激流ゴルジュ・・・。
暇無く叩きつけられてくる挑戦状に、自分たちの全ての力を集めて突破する歓び。
そして、ボロボロになりながら突破した我々を労ってくれるかのような長い長いナメの癒し。
沢の面白さ、厳しさ、恐さが凝縮された山行でした。(荒井)
8/5(金)
前夜金曜に関越を飛ばし、越後湯沢経由で八木沢集落に午前1時半頃到着。
駐車場にテントを立て、前夜祭で乾杯の後、3時に就寝。
8/6(土)
八木沢集落06:00 - 鹿飛橋07:05/07:20
- 足尾沢橋08:30/08:55 - 千ノ滝09:00/10/10 - 3m垂直滝10:20/11:15 - 5m垂直滝11:35/12:00 - スノーブリッジ帯通過12:05/12/35
- 12m滝13:20/13:45 - 2段40m大滝14:30 - 高巻き終了地点(ビバーク)17:00
駐車場のテントを撤収し、更に奥の遊歩道入口駐車場へ移動。早々に出発準備。
清津峡遊歩道を快調に飛ばすが、夜行発の3時間睡眠が崇る。中間地点の鹿飛橋で、大の字でうたた寝して回復後、後半へ。
このルートは名こそ「遊歩道」だが、特に鹿飛橋から先は荒廃が進んでおり、崖っぷちの細い通路は草に埋もれ、危うく路肩を踏み崩す。
清津峡温泉まで歩き通すのは、まさに「ハイグレード・ハイキング」であろう。いわゆる普通の「ハイカー」は、立ち入るべきではない。
出発から2時間半で、ようやく入渓地点の足尾沢橋に到着。休憩と装備到着の後、いよいよ遡行開始。
5分足らずで、第一の難関「千ノ滝」に到着。遡行図では「左岸より高巻き」とあるが、ハルさんリードで右岸のやや滑る壁を登攀。
沢へ戻る下降点の選択には少し迷ったが、結局滝の上部近くへ懸垂下降。
更に5分程で、次の3m垂直滝。高さこそ大したことはないが、切れ落ちたゴルジュ帯をスッパリと塞いでおり、垂直の壁を突破するしかない。
ザックを下ろし空荷になったハルさんが、左岸の柱状節理を攀じ登る。
取り付き点の上部から滝側までは手掛かりも足場も無く、打ち込んだハーケンを支点に振り子の要領で移動(ハーケンは残置)。
全員のザックを引き上げた後、後続の登攀開始となるが、滝壺の近くは水深があり、一歩目の足がかりまで届かない。スリングの即席アブミで突破。
その後も、柱状節理のゴルジュ廊下を進む。一見キワドそうな滝や水の冷たそうな釜が連続するが、5m垂直滝以外はザイルを出す事無く、順調に突破。
冷気が立ち込め、霧で視界が無くなったと思ったら、巨大なスノーブリッジ帯に到着。長そうな氷のトンネルを前に少々迷うが、高巻きもかなり危険。迅速に突破。
複数のスノーブリッジをくぐる合間も、釜の突破でズブ濡れになるが、水は上流から直接に来ており、雪解け水というわけでは無い。
覚悟して水に浸かったが、それ程冷たくは無くて助かった。
12m滝を藪漕ぎの高巻きで突破し、いよいよ40m大滝に到着。両岸ともに、到底登攀対象にはなりそうもない岩壁。
しばし休憩の後、本日の核心である大滝高巻きを開始。
右岸の急登ルンゼを攀じ登り、大滝の上段より高い位置へ。かすかな足場と、草木の手掛かりを慎重に探りながらの進行は非常にキツく、トラバースでは滑落の恐怖。
おまけに、大量のアブがたびたび顔にたかる。きわどい場所で掴んだ枝や草付きを手放して追い払ったり、時には握り潰しての対処を迫られた。
2段40mを高巻き突破後も、記録が乏しくて厳しそうな連瀑帯が続く。かなり高い位置にいた事もあり、そのまま高巻きを継続。
急斜面の草付きを下降して沢に降り立ち、苦行の2時間半はようやく終わった。
高巻き開始前は澄んでいた筈の沢の水は、何故か薄い泥水のように濁っていた。水辺の岩を見ると、つい先程まで約20cm増水していたような、濡れた形跡。
この2時間半の間、急激な増水と減水があったようだ。上流にダムがある訳ではなく、源頭部の雁ヶ峰辺りで、ゲリラ豪雨でも降ったのだろうか?
濁り水は気になったが、高巻きの奮闘でカラカラになった喉の渇きには抗えない。沢水をガブ飲みした。
もう少し先へと足を伸ばすが、すぐに次のゴルジュ帯。時刻も既に17時過ぎ。高巻き終了地点の狭い河原を、今夜のビバーク地点とした。
岩を掘り起こし放り投げて整地して、何とか3名が川の字で横になれる範囲を確保。
地面のデコボコが気になったが、周囲にたくさん生えていた草を刈って敷き詰めたら、格段に寝心地は改良され、荷物置き場も確保。
実に原始的且つ、合理的な解決策だった。
狭い河原ながらも、何とか一晩分の薪を拾い集めた。手を伸ばせば水を汲めるような場所で、焚き火の宴会。
酒とつまみと鍋を次々平らげ、荒井さん持参のハムは一口サイズに切り分け、木の枝に刺して直火焼き。
途中のうたた寝と復活も挟み、大いに盛り上がった。
【補足】
ビバーク地点で荷物整理中、携帯電話の電源切り忘れに気付いたが、その際、ちょうど大滝高巻き時間帯の連続着信履歴を発見。
あんな谷底の地形で携帯(au)の電波が入っていたこと自体不思議に思ったが、送電線の鉄塔が見えていたので、送電鉄塔併設型の携帯基地局が設置されていたと推測。
尚、ビバーク地点はまったくの圏外だった。
いずれにせよ着信音はOFFにしていたので、緊張が途切れない高巻きでは気が散らずに済んだ。
ちなみに、身に覚えの無いフリーダイヤルからの連続着信は、帰宅後に番号をググったら、あっさりと「迷惑電話」と判明。
某クレカ契約者向けに、闇雲に生保勧誘している業者らしい。いやはや迷惑・・・。
8/7(日)
出発06:30 - 釜突破07:50/08:20 - 林道通過10/50/11:00
- 稜線通過13:40/14:00 - 10m滝懸垂 14:15/14:20 - 15m滝懸垂14:25/14/35 - 林道通過(外ノ川橋)15:45 - 送電線巡視路16:30
- 林道16:40 - 八木沢集落17:30
草を敷き詰めた寝床の御蔭か、前夜発の疲れも相まって、熟睡出来た。無洗米を炊いた雑炊をたらふく食い、6時半出発。
今日の後半戦、第一の目標は「足尾沢完全遡行」。
参照した記録は全て林道で遡行を終了しているが、更に上流まで遡行し、雁ヶ峰北東部の源頭で尾根を越えて外ノ川を下降してみたい。
その為には所要時間を考慮し、初日に大滝の高巻きを終了しておく必要があった。本日も天気上々で、目標達成が見えて来た。
出発早々、滑る岩肌と危うい草付きのトラバースでの高巻きを強いられる。ゴルジュ地形は、まだまだ続く。
幾つかの滝を正面突破しながら進むが、ウォータースライダー状態のゴルジュを両足めいいっぱい広げて突破などは、スリル満点。
一箇所だけ、水量が多く足場手掛かりの無い釜で、苦戦を強いられた。
ザックを下ろしてライフジャケットを着用したうえで、3名交代で泳ぎでの突破を試みたが、何度も激流に押し戻された。
リトライを重ねた結果、ハルさんが突破に成功。先にザックをザイルで引き上げ、後続も釜の奥に辿り着いた。
林道の橋を、11時に通過。この時刻なら、十分上流遡行に挑戦できる。
水量は減ったものの、渕には下流では殆ど見なかった魚影があちこち走り、美しいナメ滝や階段滝が待っていた。
林道で遡行終了してしまうのは、やはりもったいない。上流への完全遡行も、ぜひお勧めしたい。
水が乏しくなった辺り、沢の分岐ではあまり雁ヶ峰側へ進まないよう、ルート選択に要注意。
標高1,509mピーク北東の鞍部で、背丈以上の笹薮を突破後、いきなり急傾斜の下降開始。
水量が増えたあたりで、10m滝と15m滝が連続して登場。いずれも高巻き下降は難しく、それぞれ岩と樹木に支点のロープスリングを残置して懸垂下降。
稜線から2時間足らずで、外ノ川橋の下を通過。当初はここから、地形図に載っている外ノ川左岸沿いの歩道を進む予定だったが、藪を突破しながら探しても見つからず。
既に藪に埋もれて廃道になったと判断し、外ノ川の下降を継続。途中、沢を横切る送電線巡視路を見つけ、林道へ出た。
久々のアスファルトに安堵しつつ、やはり沢足袋には負担。林道2時間歩きの筈だったが、苗場山から下山してきた親切なハイカーが車で八木沢集落まで送って下さった。
全員濡れて汚れた格好にも拘わらず、実にありがたかった。
駐車場では急ぎ着替えの後、そのまま帰路を急いだが、関越トンネル手前から雨脚が強まり、水上側へ抜けたら集中豪雨。
この土日はあちこちの山で豪雨や雷雨に見舞われたらしく、標高の低い谷底を攀じる沢登りが、辛うじて天候に恵まれたようだった。
実にハイグレードな厳しい沢だったが、後半は思いがけなく癒し系の渓相になり、外ノ川への下降を含めた完全遡行達成も、大変満足な結果となった。
(記録:武井)