越後/三国川支流/芋川ジロト沢右股
期間:2011年8月14日(前夜発日帰り)
メンバー:ナベ、荒井
行動概略:
14日 東松山21:30→24:30林道終点近くのP
15日 6:30出発→8:10右股の布晒前衛滝→8:45布晒しの大滝登攀開始→11:50懸垂してスラブ滝に下り立つ→14:05スラブ滝落ち口→14:30ごろ中間尾根に突入→14:50ごろ左股に下降成功→15:20展望台→16:00雨量計小屋(三国川ダム雨量ロボット)→17:35ごろ林道駐車場
あれはもう3年も前になるのか。
2008年、鮎島君に誘われジロトの左股に行った。
衝撃だった。
集落の脇のショボイ川の上流に。スラブの大伽藍があった。その時見た右股は我々の手に余るように見えた。
で、2011年8月中旬、適当に募集メールを出した際、なんとなく候補に上げたジロト右に荒井さんが乗ってきた。
マジか?どんだけヤバイのか分かってんのか?と思いながらも、これはチャンスやで、あわよくば俺がおいしいピッチ全部リードしたれとシタゴコロを抱いて計画書を書いた。
8月13日
電車の中で、ザックを網棚に上げる際に気付く。
「あ、ハンマー忘れた!」
もはやどうしようもない。
メールで荒井さんに「代わりになるものない?」と、ちょうどいいトンカチがあるという。それで行くか。
東松山に集合し、さっそく見せてもらうと、確かに十分な打撃力のありそうなトンカチだ。
よしよし、なんとかなりそうだ。
関越道をスカイラインGT-Rで爆走し、野中集落を抜けて、工場ゲートを突破させてもらい、【釣り人駐車場】と書いてあるとこで幕。
テントの中でトンカチに落下防止として捨て縄をガムテでくくり付けて即席クライミングハンマーの完成。
8月14日
本流遡行開始。いきなり巨大砂防ダムがあるが仮設足場を利用してクリア。
しばらく行くと右岸が山崩れして谷を埋めており、天然ダム湖まである有り様。泳ぎたくないので巻き。朝から大汗だ。
タキ沢出合を見送り、ちょっとした滝をいくつか越えると右股、そして布晒しの大滝が見えてくる。もっと近い印象があったが駐車場から結構かかった。
前衛20m滝を左からザイル出して越え、いよいよ布晒しの大滝とご対面。
右壁?確かに傾斜的には無理ではないが、どうやってプロテクションを取るのだろう?恐ろしい…
というわけで左から登る。
ちなみにここで荒井さんは足回り変更、渓流タビ→クライミングシューズ。ナベは秀山荘忍者のまま取り付く。
【布晒しの大滝左壁】
1P目
ナベ 45m
W
ルンゼ沿いに登るがいきなり行き詰まり、左から危うい草付きリッジを騙し騙し登り、右トラバースしてルンゼを2本越え、灌木でビレイ。
右手には鼻のような垂直リッジが見える。いかにも脆そうだが木は生えている。取り付くならここから一段下の台地からだが、ビレイ点から右上するバンドから凹角を上った方が簡単に見える。
フォローしてきた荒井さんは「悪いっすよ!」を連発。確かに見た目より全然悪かった(が、実はこのあとリードでもっと悪いところを行く羽目になる…)。
2P目
荒井 40m
X?(フォローはW・A0)
「簡単そうだから言ってみる?」というナベの全くの見当違いの言葉にウカウカ乗った荒井さんが、とっても簡単そうに見える右上バンド〜凹角のラインを行く。
しかし、凹角下あたりで蝉になっている。ナベは「ガンバ」「上がダメなら横は?」「時間ね〜からいい木でビレイして」などと無責任な声援?を送る。結局、一時間くらいかけて凹角を突破しリッジに出た。
フォローしてみるとバンドもあんまりよくないし、凹角に見えたところは垂直。しかも脆いし、欲しいところに木がない。
これはヤバいで(^_^;)
ちなみに荒井さんは本チャン初リード(笑)
よー行ったわ…
はい、私正直に申し上げますと、時間がもったいないってのもあってA0ぶっこきました(笑)
ビレイ点で
ナベ「よく行ったね!」
荒井「ヤバかったっす」
ナベ「顔かね?」
荒井「顔っすね」
と例によって会話にならない会話。
ヤバイ沢に久々に来ると、こういう「ラインが読めない病」が怖いなあ。
3P目
ナベ 40m
V-
出だしは垂直木登り。それをこなすと急な潅木リッジ。
沢に降りようと右上しながら偵察するが、フリーで降りれそうなところは見当たらず、ザイルが重くなったところでちょうどいい木があったのでピッチを切る。
懸垂して右股へ降り立つ。
ここから先は大したことない傾斜のスラブだが、背後に布晒しの大滝が控えているのが凄いプレッシャー。スリップしたら100mダイブだもんね…。
というわけでつるべで4Pロープを出す。ナベが奇数、荒井さんが偶数。ナベもクライミングシューズに履き替えた。
技術的には問題ないが、スラブのスケールがでか過ぎて遠近感が狂う。ビレイ点がすぐそこに見えているのに「ザイル残り10!」という掛け声が聞こえる。
ナベの3P目リードの時であった。
「そういや、このトンカチでハーケン打てるかな?」
出だしに1本ぶち込む。お、入る入る。
気をよくし、その上のいかにも難しそうなところでもう1発。
するとトンカチのヘッドがぶっ飛んだ( ̄○ ̄;)
「あ!」
予想外の出来事に、「ラク!」と言うべきところ、そんな声しか出なかった。
黒い鉄の塊であるソレは、一回壁に当たるとそのまままっすぐ持ち主(すなわち荒井さん)の方へ飛んでいった。
荒井さんもまさかトンカチのヘッドがぶっ飛んでくるとは予想できず全く身動きできない。すんでのところで腕でガードし怪我はなかったが、危うく顔面に箔をつけるところであった。
4P出すと一旦テラスとなり、なおもザイルピッチで2Pほどスラブ滝が広がっているが、一旦テラスを挟んだため「スリップしてもここで止まるかも」的気分と時間が押していることからここでザイルをしまう。ここを楽勝でこなして落ち口へ。
和式便所みたいな落ち口の淵を見送り、すぐ先で靴を沢靴に履き替え、小滝を越えると二股になっていた。
左股に入り、ちょっと行ったところから中間尾根に突入。二股くらいから上がった方が楽みたいだが、ワケわかんないルンゼに迷い込むのが怖かったためあえてやや奥からトラバース開始とした。
傾斜が緩いのはありがたいが、ジロト平と呼ばれる台地状に出ると案の定右往左往。もしE〜Gルンゼに入ってしまったらやだなあと思って、意識して右より(南東)寄りを進んだら、藪の中で方向感覚が狂い、いつしか南西(大兜山方面)へ登っていた。あぶねーあぶねー。幸い視界がよかったため、左股右岸の雨量計小屋が見え、その上流側を目指して下降する事ができた。視界が悪いときはコンパス振って東へ東へと進んだ方がいいが、藪のなかでまっすぐ進むのは大変だろうなあ(※作業道を下降中にジロト平方面が見えたが、E〜Gルンゼはジロト平から断崖絶壁となって落ち込んでいるため、間違えた場合はすぐに分かるだろう。)。
うまい具合に枯れた流水跡を見つけ、岩盤を快適に下って左股へ。
予定通り、浅いゴルジュで中が河原状となっている辺りに出た。トトロの森・沢バージョンて感じでいい雰囲気だ。ここより左股下降開始。
ちょっと下るとすぐに、滝と釜の連続する左股上部の白眉ゾーン。ヌメリに気を付けながら下降し、やがて、超深い幅1・5m淵。一番楽なのはこの淵の上流側の右岸スラブを登って、すぐ上に見えている展望台に出るコースだが、安全策を採って、淵を突っ張りで越えて下流側右岸のリッジ(要はスラブの左の藪)を藪こぎして展望台に出た。
ここから雨量計までは目と鼻の先なのだが、尾根が広い部分は藪が濃く、全然進めない。もがいているうちに夕立が来てびしょ濡れになったが、とにかく雨量計まで行けば道があることを知っているので気は楽。踏み跡になったり藪になったりしながらやっと待望の雨量計小屋に到着。急な作業道を所々FIXをわしづかみにしつつ下って行く。
下りながら、
「いい沢だったなあ」
「しかし、意外とあっさり片付いたなあ」
「この間の幽ノ沢敗退の方がドキドキしたなあ」
などと、満足感と共に物足りなさも覚えていた。
行きに山崩れを起こしていたところで作業道も消滅していたため、崩壊を滑り降りるようにして沢に降りる…と、アブが集ってきた。
うおー、なんじゃこりゃ。
行き道では数えるほどしかアブなんかいなかったのに…夕方でおなかが空いてるんですかね?勘弁してください!
少しでも立ち止まると集中砲火を受ける。具体的には、靴紐を結び直そうとしてしゃがんだ瞬間、視界の半分がアブで埋まるくらい。
意を決して立ち止まり、二人がかりでナベのザックから虫除けスプレーを出す。
噴射開始!
どうだコノヤロー( ̄^ ̄)
…全く効かない┐('〜`;)┌
頭がおかしくなりそうだ。一周回って真人間になれる可能性があったとしても、この苦痛には耐えられない。
止まらずに歩くしかない。血のにおいに惹かれるのか、吸血中のアブを叩き落したせいで出血した左腕には文字通りアブが集り(あつまり、ではない。たかり、と読む)TAMARIMASEN。
高速で沢を歩いて、最後は左岸の作業道に入って砂防ダムに到着。足場を使って越えてもまだ少数ながら追いかけてくる。林道に上がるとさすがに消えた。
が、駐車スペースのすぐ脇には、小沢が流れている…
案の定、車の周りはアブだらけ。しかしここのアブは防虫スプレーにひるんでくれたので、大量噴霧してなんとか着替えて車に乗り込む。何匹か車の中に入ってきたが、なぜか車に入った連中は必死に外に出ようとするばかりで先ほどまでのように人間様に特攻してこない。窓から追い出して快適なドライブ。
なぜか、先ほどまで感じていた物足りなさは消えうせていた。
俺はひどい目に遭いたいMなのか?命を危険にさらしたいアドレナリンジャンキーなのか?そんなことを思いながら窓を眺める。すると、左手に「コシヒカリ定食」なる看板をナベが目ざとく発見し「ここしかない!入ろう!」と主張。(確かAコープ五十沢の先だったと思う)。スカイラインGT-Rが鄙びた定食屋の駐車場に停車する。
「(主食)米に(おかずが)米だったらどうする?」
戦々恐々とするが、コシヒカリ定食の値段(1800円)を見て諦め、トンカツ定食(1000円)とあじさい丼(800円)なる店名を冠したメニューを注文するが、これが大当たり。ボリューム、味ともに良し。小鉢の漬物などが全部手作りなのもポイント高し(なんと紅しょうがも手作りで旨い)。山行・下山飯ともにパーフェクトに決めたぜ、と思いきや、渋滞に飲まれてかなり遅くなって東武線に乗車。二人でゴタゴタ話をしながらの電車旅。埼京線沿いの荒井さんは川越で下車。ナベは有楽町線終電で家に帰った。
帰ってからのビールは旨かったが、おそらく焦って噴霧した虫除けスプレーを思いっきり吸ってしまったからであろう、体中に蕁麻疹が浮き出て、翌日の現場でもずっと色々なところを掻きむしっていた。
テクニカルメモ
・結局布晒しの大滝左壁はどういうラインを通っても、ある高度(ちょうど滝がハングってるあたりであろうか?)あたりに脆い層があるようで、そこが核心となる模様。
・上部スラブ帯はクライミングシューズなら技術的にはロープレスで十分行けるが、常人は背後に布晒しの大滝があるというプレッシャーに耐えられません。
・中間尾根の乗越は視界不良時は結構大変かも。晴れていれば雨量計小屋が見えるので楽。いずれにせよ、下降路下見も兼ねて先に左股を遡行しておくのがベター。
・足回りは、岩が登れて草付きにも強いアクアステルスがオススメ(全体を通じて苔は少ない)。ただし、布晒し大滝上のスラブ滝はクライミングシューズが圧倒的に有利。どうせ日帰りなのでクライミングシューズくらい担いでもバチは当たらない。
持参装備:50mロープ2本(必要)、マスターカム紫・青・黄・赤(スラブ帯で使用)、キャメロットC4#0.4・0.5・0.75(スラブ帯で使用)、ハーケン10(スラブ帯で使用、半分で十分)、軍手(ヤブコギに必要&下降でFIXを掴む時に必要)、スリング多数(布晒しの大滝左壁で潅木に巻いてプロテクションとして多数使用)
参考資料:登山大系、
http://www.tomanokaze.dojin.com/Kiroku/2008/20080831_Jiroto.pdf