北アルプス/常念山脈東面/中房川支流南中川谷右股


期間:2011年9月22日〜25日(前夜発1泊2日+帰京1日)
メンバー:L渡辺(記)、佐藤、荒井、武井
形態:沢登り

地図はこちら
遡行図はぺージ一番下

 インターネットは便利だ。クリック一発で欲しい情報が大体手に入る。
 しかし所詮、ネット上の情報は全部「誰か」がアップしたものだ。誰も知らない情報はアップされない。
 俺のPCのデスクトップにある「いつか行くリスト」には、「電子国土」で地形図をグリグリスクロールして見つけた「記録未見の沢・ゴルジュ」がウジャウジャある。その中でも、お隣の北中川谷がそこそこ面白そうでハズレのなさそうな南中川谷に、今年はターゲットを絞っていた。そんな海の物とも山の物とも知れぬところに人が集まるはずも無く、最悪単独でもいいかと覚悟していたところ、ようやく佐藤さんを口説き落とす事が出来、MLで計画書提出&追加メンバー募集をかけたところ、荒井さんと武井さんが集まった。ここまでこぎつけるのに結構努力したのに、計画ができてから軽いノリ(荒井:出発直前まで他山行参加予定、武井:直前参加表明)で乗ってたのにちょっと腹が立ち、「気合入れてください」とメール。俺だってそうやって他人のお世話になった事は何度もあるし、二人だって別に舐めてはいないのだが、何せ記録未見の北アの沢である。気合を入れるに越した事はない。

9/22 22:00北朝霞→関越道→上信越道→東部湯の丸IC→中房温泉駐車場

特に問題なし。

9/23 曇り時々晴れ
6:30起床 8:10入渓 8:40北中川谷出合 11:10ごろL字型ゴルジュ 14:00二股
 朝起きたら、駐車場が満杯になっていた。一体どれだけの車が来ているのか?さすが「表銀座」とか抜かすだけある。こちらは登山口と逆方向に進み、有明荘からさらに下ったところにチェーンで柵がしてあるところを目ざとく見つけ、つり橋を渡って中房川本流を越え、中川谷の取水堰堤まで作業道を歩く。
 取水堰堤に着くと全員ドン引き。濁流、それも半端じゃない水量だ。ちょっと躊躇われた。
ナベ「高橋さんたちも濁流で御神楽登っちゃったってことだし、我々も、ま、いけるところまで…」
という感じで遡行開始。
 岩盤がよく発達し、なかなかの渓相なのだが、ちょっとした渡渉ですら身の危険を感じる水量であまり楽しめない。しかも水が超冷たい。ちょっとした、ゴルジュと言うのもおこがましい程度の小滝にも高巻きを強いられる始末。平水なら普通に登れるミニゴルジュで2回ほど高巻きを強いられる。
 やがて地形図(標高1560mあたり)でも顕著な屈曲点で地形図以上のゴルジュが登場。なんとかゴルジュを抜けれないかとさぐってみるが、そもそもが手ごわそうな上に大増水で無理。諦めて、側壁の低い右岸から高巻き。いい感じのバンドはすぐに途切れ、仕方なくさらに上から巻くが、岩に阻まれる。めんどくさいので、あまり良くない木で5mほどクライムダウン気味に懸垂し、その下の巨木で約20m懸垂して沢床に下り、最後の滝を右壁から登って突破。
 沢は一旦広くなり、いい感じの流木が右岸に固まっている。武井さんがしきりに「アレ燃やしたいなあ…」的なことを言っている。適地ではあるがもう少し進みたいので先を急ぐ。すると今度は巨大な斜瀑が現れた。いや、それほど高くは無いがとにかく水量が多くてド迫力。もう少し水量が少なければ水線の横をヌメリに気をつけながら登れそうだが、近寄った瞬間ぶっ飛ばされそうな迫力で最初から巻き一択。ザイルを出して左岸のスラブから草付きに上がって巻いた。試しに石とか木を水流に投げてみたらまるで大砲のごとくぶっ飛んでいった。人間が入ったら粉々だな…
 んで、この滝を越えたらすぐに二股となった。地形図どおりの幕営適地。整地して焚火開始。いい木はあるが炊き付けの枯葉が少なくて、かなりメタを消費した。
 飲みながら今日と明日について語らう。


 佐藤「俺、今日落っこちちゃったよ」
 ナベ&武井「え?どこで?」
 佐藤「ホラあのゴルジュのところで…」
 武井「あ〜、なんかいきなりいなくなったと思ったら…」
 ナベ「そういや、前歩いてたと思ったらいつの間にか後ろにいましたよね」
 荒井「俺滑落シーン見ましたよ」


 人が落ちたところを見てないどころか気付かないのは、信頼なのか放置プレイなのか。
 「明日も水多かったら、出だしのゴルジュがヤバイよな…」
「水引かねえかな…」
「稜線出たら無理してでも降りないと、耐えられないぜ」
とかシリアスな話題も出たが、結局いつもどおり酒池肉林となり、渡辺は早々にダウン。武井さんは日頃積もったアレコレを焚火にぶつけたらしく、深夜まで焚火を燃やしながら奇声を上げていたとか(荒井談)。


9/24 晴れ(時々ガス)
5:00起床 7:40発 9:45二股(1864m付近)10:40上部二股(2050m付近) 10:55 30m大滝下 11:40奥の二股(2250m付近)12:35支流に入る(詰め開始) 14:05稜線 16:15燕山荘 18:40中房温泉登山口 →富士尾山荘にて入浴&晩飯→内村ダムのダム湖公園にて幕

 寒い。一番厚着(乾いた冬用インナーの上から化繊中綿入りジャケットと薄手ダウンパンツ、そしてシュラフカバー)の俺ですら寒かったので、着替えとシュラフカバー(そしてせいぜいフリース)のみの他メンツはいわずもがな。
「今晩は(標高上げるので)これより寒いのか…」
と戦々恐々。朝から焚火して体を温める。そんなわけで準備に時間がかかって出発が遅れてしまった。
 朝一番で地形図上からは恐ろしげに見える屈曲したゴルジュへ。
 まずは出だしの滝を簡単に越えると、以外にもゴルジュ内は河原状。右に大きく屈曲すると、左岸から立派な支流が滝を架けて流れ込んでいる。ゴルジュ内を進んでいくと、ドンづきにはボロ壁の中にこれまた立派な大滝を架けて支流が出合っている。本流は左に屈曲し、2m程度の釜持ち滝。右からショルダーで越えるが、ここで残置発見。30年前のSACの物か?この後も小さな滝を架けながらゴルジュは続くが、この水量でも大した苦労はしない程度。
「案外こんなものか」
と安心していたら2段10mほどの滝が出てきて、一段目を左から越えて、落ち口をジャンプして右に移り二段目を越えた。平水ならこんなジャンプなんてことないが、この水量では恐ろしくてたまらない。
 ちょっとしたナメ滝を巻き、右岸から滝を架けて出合う支流を見送ると、いかにも「出口」といった風情の10m直瀑が立ちふさがっていた。見た目どおり左岸から高巻きして落ち口に出ると、ゴルジュはこれにて終了。案外と楽勝だった。
 この後は、岩盤のよく発達したいい感じの渓相を青空の下で駆け上がる、いかにも<北アルプスの沢>的な雰囲気となる(いや、他の沢知らんけど)。一箇所ショルダーを使って突破した他はさしたる難所もなく二股へ。左の方が明るく開けていて気持ちよさそうだが、当初の予定通り右沢に入る。
 小滝が連続するが快適に登る事ができ、アルプス感を満喫。しかし標高2000あたりの地形図上でちょっと狭そうなところでやっぱりというか両岸が切り立ち、しかもこれが脆い岩で構成されていて汚い感じ。連続する小滝をいくつか登っていくと、出口に10mくらいの傾斜の緩い滝があり、これを登ると上部二股だった。地形図どおり、右の沢は急激に屈曲しているので間違えようが無い。この後はなんだかぱっとしない渓相だが、その奥になんだか迫力のある滝が見え、ドキドキしながら近づく。大滝の手前には、右岸からの支流がなかなかの滝を架けて出合っている。予定ではこの辺で幕営ということだったがまだ昼前だしなんか稜線は近そうだしで、当然のようにそのまま進む。
 近づいてみると、大滝は30m程度、右のルンゼは登れそうだし、水流とルンゼの間のリッジも登れそうだ。佐藤さんがルンゼで苦戦しているのを見て、渡辺&荒井がリッジに乗り移るが、渡辺がラインを読み違えてスラブ上で進退窮まった。
右から巻いたドラゴン荒井にスリングで助けてもらい、そこからはザイルを出して荒井リードで20m。荒井さんがビレイに入る頃にちょうど佐藤さん&武井さんもその辺に到達。結局どっちもそこそこ難しいってことか。
 この後は、時々ガスりながらも、まあまあの渓相の中、小滝を処理しつつ進む。右手からの意外と大きい支流を見送ると、奥の二股に到着した。ガビーンと雪渓が残っている。オーマイガー。
 見た目安定していたがやっぱり怖いので上から通過。しかし側壁が完全にボロ壁で、先に一人で突っ込んでいった佐藤さんが相当苦労している。う〜ん、あれはクライミング云々じゃなく、もう運の世界だよなあ…どうしたもんか…とふと目をやると、雪渓の端に大岩が転がっている。「これでいいか」と思い、そいつに荒井スリングをかけて懸垂開始。たまたま一番後ろを歩いていた荒井さんに「岩抑えといて」と厳命し下降。思ったよりクライムダウンが使えてこれなら安心と思ったが、次の武井さんはガンガン体重かけていた。オイオイ。ラストの荒井さんは当然押さえ役その役がいないわけで、果たしてその事を本人はどう思ったか(笑)。佐藤さんは相当苦労してなんとか沢へ戻った。他3人は沢床から小滝を登って佐藤さんに合流。
 いよいよ沢はガレガレとなってくるが、なぜか水量はまだ結構多い。本流のどん詰まりはとんでもないルンゼとなって一直線に稜線に突き上げており論外。ちょうど右手によさそうな支流が入っていたのでここから詰めることにする。途中で二股になり左の方に入ると、なぜかあっという間に水が涸れ、めんどくさいと思いながらもこれからの長駆を思い2L補給。なにせ、もう今日中に中房温泉まで降りるしか俺達には路がないのである。詰めでどのくらい時間が掛かるか分からないが、下山は20時とかそのくらいだろう。久々の闇登魂か…
 やがて崩壊地形を左に逃げると、急な草付き斜面となり、難しくは無いんだけど一瞬も気が抜けないいやらしい詰めとなる。
なかなか稜線が見えない。例によって偽稜線が何度も現れ、そのたびに「アレが稜線だったら最高だな」→近づいてみてタダの藪を繰り返す。なんとなく「バキ」の「死刑囚VS愚地独歩」で催眠術をかけられた独歩が、かけられた状態のまま敵を打倒し、それを見た烈が「百戦錬磨の愚地氏は、戦いが容易でないことを知っている!」と言ったのを思い出し、「俺達も、いい加減そこそこ経験積んでるんだから、山の詰めが甘くない事くらい知っておかなきゃなあ…」と思い、それをみなに言うが、みな「バキ友」ではないので反応が薄い。ワカってねえなあ…とりあえずバキでしょ?
 まあそれはともかく、しばらく斜面を登った後、右のリッジに逃げると木が生えており安定した。最後に崩壊地形を越えると、そこが稜線だった。


ナベ「稜線ゲットー!」
その他「マジで!?ヤッター!」


 と大騒ぎしていると、なにしろここは「表銀座」です。縦走者がウジャウジャ集まってきました。

若い女性「すごーい、沢登りの人って初めて見ました!カラビナってこんなに持つんですね」
男性「どんなウェア着てるんですが、見せてもらっていいですか?」


 なんだか注目されて面映いが、悪い気分ではない(笑)。佐藤さんも上がってきて、一緒に土方ヤッケを「500円」「山用ソフトシェルの半分の性能で、価格は10分の1」「焚火で焦げても気にならないです」と大プッシュしておいた。
 なおも続々と縦走者が見に来るので、悪い斜面に梃子摺っている武井さん&荒井さんに「ホレ、ギャラリー見てんだから気合入れろ〜、ガンバー」声掛けると、ギャラリーも「ガンバー!」と言い出し、下の二人も場違いな掛け声を上げている。なんなんだ、このシチュエーションは…というわけで、いつものマイナー山域では苦労する全員揃っての記念撮影は、「このカメラでお願いします」のヒトコトで済んだ。

 さて、こうなっちまえばこっちのもん、コースタイムから逆算して、20時くらいまで歩く覚悟なら十分駐車場に着くだろう…という見込みで三々五々歩く。ドラゴン荒井とボッカマン武井は元気だが、俺と佐藤さんは登りで全くスピードが出ない。まあともかく休み休み歩き、いい感じのところで休憩しようとザックを下ろしたら、ちょっと先でなんかトラブっている。
 聞けば、女性がザックを誤って谷底に落っことしてしまったという。ちょうど俺達が上がってきたような斜面で、仮に下って拾ったとしても上り返しが極めてかったるそうだが、まだハーネス付けてたことだし、さっさと支点作って懸垂で探すか、ということになる。ちょっと下ったところの木にFIXして、ザイル1本かついで佐藤さんが懸垂。扇状の斜面を探しながら、いかにもそこにありそうな、扇状斜面の「要」部分まで降りて「広すぎて一人じゃ探せねえ」というので渡辺も懸垂。左手の扇状斜面はモノが止まる傾斜に見えなかったので、右手のリッジ上を横に振り子しながら探したら、リッジ上の平らになったところにザック発見。サイドポケットが開いて折り畳み傘と歯磨き粉がぶっ飛んでいたのでそれを回収し、「開いてたサイドポケットに、貴重品は入れてないか?」と上に確認して、そういうものは入ってないというので捜索を打ち切りゴボウで登り返す。ザックを返すとこちらが恐縮するぐらい感謝される。山の技術が人助けの役に立つ日が来るとは…
 色々雑談したが、一番印象に残っているのは、


女性「漫画の<岳>みたい!」
ナベ「あ〜、あんな人間担いで壁登るとか不可能ですから。なんでしたっけ、あの主人公、独歩でしたっけ?一歩でしたっけ?」
女性「三歩です」

                       

 独歩↓

 一歩(右の、ガゼルパンチ出してる方)↓

 

 

 三歩↓

 
 

 

 山登魂的漫画観と、世間一般のソレとの乖離を感じた一瞬だった。

 そんなこんながあって徳を高めた俺達だが、燕山荘の前まで来ると、はるかかなたまで延びた後急激に落ち込む合戦尾根を見て、ちょっと萎える。まだまだ遠いなあ…
 しかし登った分自分の足で降りるのが登山の厳しさ。歩くしかない。しかし歩き始めてみると、よく整備された道で結構スピードが出る。第一ベンチあたりで暗くなってヘッドランプを出す。それからいくらも歩かないうちに、下のほうに車のテールランプのような明かりが見える。
「えらく早いな」
「こんなもんじゃね?」
などと言ってたら、他パーティのヘッドランプでした。赤いランプなんてあんのかよ…

まあそれでも、思ったより早く駐車場に到着。
身づくろいして温泉探しへ。有明荘は日帰り入浴17時までとなっておりスルー。適当に探していたらナベが富士尾山荘(http://www.k4.dion.ne.jp/~fujio3so/)という民宿の看板に「入浴20時まで」と書いてあったのを目ざとく発見し入店。入り口が完全に食堂で一瞬たじろいだが、ちゃんとした風呂に入ることができ、ついでに飯も食えて満足満足。
コンビニで酒かって、某ダム湖の公園で幕とした。

9/25 内村ダムのダム湖公園→東部湯の丸IC→上信越道→関越道→北朝霞
全く渋滞の無い高速というものはこんなにいいものなのか!あっという間に帰ることができた。

テクニカルメモ:
・足回りはフエルト!詰めも考えるとタビよりもフエルトシューズがいいかも。ヌメリが多いので、アクアステルスは巻きや詰め以外ではかなり役立たず。
・気合の入ったパーティなら普通に1泊2日の計画でOKと思われるが、何しろ北アなので予備日くらいは欲しい。
。テント場は、我々が張ったところ以外だと、初日のL字ゴルジュ抜けた後と、2日目のゴルジュ抜けた辺り(1800mくらい)くらいしか良い所はない。狭くていいのならもっと上にもあるが…。
・とにかく寒かった。登攀具はたいしてしていらないので防寒具をその分持っていきましょう。・参考グレードは3級上くらい?我々は大増水のため苦戦、4級くらいに感じたが、平水なら3級程度と思われる。雪渓、高度、エスケープもろもろ含めると3級上〜4級下くらいか。
・苔の付き方から、常時水量多目の沢であるようだ。そして一度増水すると、越後あたりの沢と違ってなかなか水が引かない。

装備
・ザイル50m×2本→4人いたので2本。もっと短くてもよかったかな?2〜3人なら60m1本くらい?
・ツエルト2張→タープだけだったら凍え死んでたかも(笑)
・タープ→ツエルトの上にタープを張った。雨対策のつもり。お好みで。
・カム→一応使ったが不要。
・ハーケン→ラインによっては使う。長短3ずつ色々とりまぜて持っていけばOK。

↓北中川谷と分かれてすぐのミニルジュ。
 

↓こんな小さな滝でも増水に苦戦


初日ラストに出てきたド迫力の斜瀑。

焚火

2日目、最初のゴルジュの出口


空に突き上げる感じが気持ちいい

雪渓


稜線

遡行図
南中川谷遡行図1

南中川谷遡行図2

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