■朝日連峰/大井沢川中先沢(溯行)〜障子ヶ岳東面第二スラブ

2011.10.8-.9
鮎島、佐藤、治田、荒井
 オールラウンドに山登りを取り組んできたものにとり、異ジャンルを融合して行うバリエーションはとにかく興味が尽きない課題である。私の場合、冬なら雪稜とスキーの融合だし、無雪期であればそれは沢と岩の融合だ。――沢を遡り、その奥壁の手前で一泊。翌朝、前装備を担いで奥壁を登攀。山頂に立つ―――。なんとワクワクする山登りだろう。
 しかし、素直な形で融合できる課題は、それほど多くない。さらに、ワクワク感・ドキドキ感を味わいつつ一晩を過ごすのはまさに夢のような山屋にとって至福の一晩であると私は信じて疑わないが、そうやって奥壁の前に泊れる課題となるとさらに少ない。大畠沢奥壁、御神楽沢奥壁、ガンガラシバナなどなど、その他にもあるが、せいぜい両手・両足の指の本数に有り余るのではないだろうか。
 さて今回の障子ヶ岳東面スラブは登山大系にも載っていないシロモノだ。そのため、多くの人は存在自体を知らないだろう。ただ、岩と雪41号に8ページにわたって書かれている初登攀記録があった。そこに私が志す沢から岩へ素直に継続できる課題があった。これはもう行くしかないと考えていたら、2007年に初登攀者の坂野氏を交えたパーティは日帰り速攻で抜けてしまった。まぁ、しょうがないし、日帰りとはたいそう素晴らしく感銘を受けたが、それでも私は奥壁の前で敢えて泊りたかった。じっくりと味わった上で奥壁を攀じ登りたい、そうして計画を熟成させていた。
 ただ遠く、そして中途半端な計画になりがちなので、計画を吟味すること数年。9月の例会にて計画をぶち上げるとトーマスさんがこの計画に食いついてきてくれた。治田さんも前々から障子ヶ岳東面には興味があったらしく、参戦の表明いただけたのはたいへん心強い。荒井さんも来てくれるというので、これは楽しい山行になりそうだ。

溯行マップと障子ヶ岳東面スラブ全景&登攀ライン

幕営地から奥壁を望む

障子ヶ岳第二スラブを登攀する荒井

山頂にて集合写真
 加須から4時間半程度かかって駐車地に到着。しかし、なんだか小雨が降っていて、嫌な感じ。宴会も1時間程度で終えて、さっさと寝るに限る。
 しかし、朝、けっこうハイカーがやってくる。我々は今日は、それほど早く起きる必要がないが、いやおうなく起こされる。それでも7時半に起床し、9時前に出発。

 飽きてきた頃、ようやくゴルジュ地形になり、大きな釜を持った4mぐらいの滝が現れる。これは右から登れそうだが、そこまでへつるのがたいへんそう。左からはへつるのは簡単そうだが、最後が登るのがたいへんそう。でも、バンドが見えたのでロープを出して左壁から登ることにする。ここは渦巻いていて、落ちたらヤバそうだし、クライミング自体もけっこう渋いので、ロープを出して正解だった。(でも、簡単に巻けるかも)
 この滝を越えた後もゴルジュが続く。続く滝を腰まで浸かって簡単に越えると、大きな釜を持った4m滝。こちらは巻きもできない。しかも、釜は渦を巻いている。よーく見ると、右壁に工事用の杭が一本打ってあり、その上にも残置ハーケンがある。あ、そこから登るのね。治田さんが空身で取り付く。杭までは一瞬の泳ぎ。その後、ハーケンにスリングアブミを掛けて登っていった。ナイスです。荷上げ&後続フォローであがるが、ウェットつけていても冷たい!もう少し行くと、左岸か支沢が流入したところで日が当たり、休憩とする。あ〜日向ぼっこ、気持ちえぇで。

 その後も、たまにゴルジュ地形となる。一瞬、開けたところから、ズドンと奥壁が眺められ、見とれてしまう。いやー、障子ヶ岳東面スラブ、で・か・い!。でかいなー。
 その後、沢自体は特に問題となるようなところはなく(数箇所、胸まで浸かったような気もするけど)、大クビト沢出合を越えると沢は小さくなり、そして直ぐに中先沢出合。ここまでひじょうに順調。

 進路を右にとり、さらに水流が細くなった中先沢出合に入ると、正面にず〜んと大きな滝がかかっている。うぉーと思ったら支流の沢だった…。っが、本流にも3段20m滝がかかっていた。うん、直登できません。滝下で休憩を入れた後、右岸から巻く。雪国特有の巻きの悪さがあるが、ライン取りが上手く行き、結局、懸垂下降せずに滝上におりられた
 しかし、そのうえにもやはり20mの滝がかかっている。まず、左岸側を治田さんが巻くように登り(20m)、次いで荒井さんリードで草付を左トラバースして、後は滝身の右壁を登り、滝上に達した。それにしても、荒井さんがリードした草付トラバースは悪かった。後続で行っても冷や汗もの。。。よくリードしたよな〜。荒井さん曰く「治田さんから『アライ、慎重にいけよ』なんて言われれば、「やっぱ、ダメですぅ、替わってください」なんて、とてもじゃないけど言えないっスよ〜」とのこと。なるほど、確かにネ。でも、顔だな、顔。

 そんなんで、小滝を越えて、少し河原を進むと、またもや20m滝。一見して巻きである。この巻き、左岸側からのほうが巻きやすそうだが、この滝上にもまたなんか怪しいのがありそう。なので、あえて右岸から流入する支沢から巻くことにした。先ほどの巻きと同じく、ロープをつけるわけでもないが雪国特有のいやらしい巻きから、潅木登り。滝上のいい感じのところでハルさんが懸垂下降を始めたが、
「うゎ、だめ。この先、もっと絶望的な滝がある。沢身に戻ったら、もっとダメ」
とのことで、巻きを継続。途中、右岸から流入する支沢へ懸垂下降25mしたのちも、本流にはこれまた登れそうもない滝が見えるため、巻きを継続。一度、小尾根に上がれば、もう奥壁は近いはず…。潅木を強引に登って、見晴らしに良い小尾根に到着。すると…
「そー、来たかっっ」
なんと、しかも幕営を予定した地形図上の広場に、ど〜んと居座りやがっている。雪渓あるじゃん!まさか、コイツがいるなんて思いもしなかった。見たくないものを見てしまったが、現実を受け止めざるをえない。小尾根をなおも進み、適当なところから懸垂下降2ピッチ(15m+30m;結局、1ピッチ45で十分だった)で、沢身におりたところを幕営地点とする。(懸垂下降のロープが引けなかったため、登り返したけど…)

 場所は沢から近く、決して良い場所とはいえないが、かといって悪くもない。当初は2人・2人に分かれてツエルトを張る予定だったが、平らな場所はそこしかないため整地して、治田さんの2~3人用ツエルト一つに4人が寝ることにした。これが大正解。意外と狭くはなく、また暖かい。また、焚き火をする予定だったが、この時期、夜は寒く、そんなことしないで良かった。終始ツエルトで快適な宴会を5時間ほどできたんだから。ツエルトの中では唄も…。
「♪俺の名前を知ってるか〜い。コー○ン太郎って言うんだぜっ♪」
 まぁ、○にはいる文字のは、4パターンぐらいあるのだが、どれが入ってもお下品なものですわ。オトコ、4人というのがいけないわな。


 10月、それも東北の夜の寒さを覚悟していたが、まったく寒くなかった!やったね。やっぱり、一つのツエルトに4人寝ると暖かいです。治田さん、大正解です。でも、すぐ対岸でブツを仕込むのはやめてください。独特の「ロダンの考える人」風スタイルで仕込む姿、イヤでも視界に入ります。

 それにしても天気は快晴。壁が光り輝いている。トーマスさん着用している「陸上競技」シャツの「陸上競技」の文字も心なしか輝いているように見える。イヤースラブ日和だ。
 その障子ヶ岳東面スラブ。計画では現地ついてからスッキリしたところを登ろう!ということにしていたが、現地についても、朝まで決めてなかったからね。当初は第一スラブかな…とおもっていたけど、正直、どれが第一スラブかよくわからないのよ。いや、第二・三・四・五・六は一目瞭然なのよ。でも、幕営地から見る限り、第一が分からないです。「素直に第二の左なんでしょ?」と思うでしょ。いやーそれが、第二の左は明らかに「本谷スラブ」であり、第二〜六までとは異質でナンバーを振るのが無理がある感じ。でも、それが第一スラブなのかなぁ。う〜む。まぁ、でもとにかく、その本谷スラブに着くまでには少なくとも2個の滝を登る必要があり、取り付き点は結構上だ。しかもその前に雪渓があったりする。しかし、壁としてみた場合、一番取り付き点が下で壁自体の規模が大きいのは第二と第三スラブ。そのなかでも第二スラブの中間部は本当に幅が広くスッキリしている。結局、話し合って第二スラブに行くことにした。

 雪渓を左岸から回り込もうとしたが、グズグズしてイヤらしいので、ステップを刻んで雪渓に上がり、あとはヒョコヒョコと慎重に雪渓上を歩いていく。適当に繋がっているところで台地に上がり、後は第二スラブ基部へと続く小ルンゼ。明らかに壁開始というところで、ロープをつけることにした。それにしても、荒井さん。取り付き近くで熟成ブツを仕込むするのはやめてください。ビレイ中も匂いが漂ってきます…。

 さてさて、治田=トーマス、鮎島=荒井ペアに別れてスラブを登っていく。出だしはルンゼ状で、同じところを辿ったが、2ピッチ目以降は、それぞれのパーティがそれぞれのラインで適当に登った。残置も何もないが、途中のランナーは小指程度の潅木、ハーケンとさらにカムが使えるところも多かったのが意外だった。しかし、基本的にはそれほど難しくなく、ラインを選べばV+ぐらいでいけるのではないか。ただし、途中変化がほしいので、あえて難しいラインを登りたくなるもの。治田=トーマスペアはX級ピッチがあったとのことだが、鮎=荒ペアはせいぜいW程度だったかな。とにかく、第二スラブ中間部は広大なスラブだし、天気も快晴。こりゃ快適そのものです。あー、楽しい。第二スラブ上部になると稜線が直ぐそこに見えるが、ロープが50mいっぱいになるのが早い。最後、潅木に入り、50m程度ヤブをこぐと稜線だった。鮎島=荒井ペアは9ピッチで治田=トーマスペアは10ピッチ。

 稜線休憩していると、老人ハイカーに話かけられるが、とにかく、何を言われているのが分からない。何度か「ん?」とか「もう一度お願いします?」とか聞いて、どうやって岩登るのか、落ちたらどうするのか?という質問をされたことを知るが、途中から受け答えするのが面倒になってしまった。まぁ、でも人はよさそうで、言葉の分からなさも含めて、「あー、東北にきたんだなー」と感慨深い。

 障子ヶ岳山頂まで往復1時間程度掛けて空身ピストン。山はとにかく澄み渡り、すでに始まっている紅葉も合わさって美しい。月山も直ぐそこに見える。山に登ったなぁという充実感いっぱいに紫ナデ経由で下山。ボクは脱水症状になってしまい、途中、肉食いてぇ〜としか考えてなかった。
 確かに難易度は高くない。高くないはけれど、全装備を担いでこうやってスラブを駆け上がる快感はたまらないものがある。とにかく、沢からはじめて壁を望んだときの「で、でかいぞ・・・」という感嘆。これだけでもはるばる着てよかった。そして、壁の前での一泊。これも良い。今回、想定幕営地は雪渓に覆われ、あまり良い幕営地ではなかったけれど、治田さんのおかげで快適に泊まれ、これも大きい。
 登ったらラインについては、壁の規模や中心と言うことを考えれば本谷スラブをいけばより良いのかもしれないが、壁としては一番スッキリして長いのは明らかに第二スラブであり、そういう点で未練はない。そもそも、沢は巻きの連続であるからね、もう二度とこないだろうなぁ。でも、やっぱり中先沢を詰めて、取り付き付近で一泊して本当に良かった。これはおススメである。

 さて、下山後の恒例の良質な動物性タンパク飯。。。下山地にはそんな定食屋があるわけもなく、しょうがなく寒河江SAへ。ここでみんな、カツカレーを頼んだが・・・。治田さん、「テメェ…ラーメン作ってる場合じゃねぇだろ、オレのカツカレーを先に作れよ」といわんばかりに調理担当をガッツリと睨みつけないでください。細谷組長を凌ぐ凄みがありました。とても堅気じゃありません。今年の総会(良質なタンパクがねぇじゃねぇか激怒事件)を思い出しました。でも、そんなのも良い思い出です。皆さん、楽しい山行、ありがとうございました。

2011.10.14 鮎島筆

【記録】
10月8日(土)曇ときどき晴
 駐車地0900、中先沢出合1115、幕営地1530
10月9日(日)快晴
 幕営地0720、稜線1200、障子ヶ岳1320、駐車地1520

【使用装備】
 ダブルロープ×2、カム(〜#1.0)、ハーケン各種、クライミングシューズ各自、ウェットスーツ各自、捨て縄
※奥壁を登るのにクライミングシューズは必要だと思う。
※胸まで浸かるところがあるため、10月登るのならウェットスーツはあったほうが無難。全員ウェット(下のみ)を装着。



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