■北関東(栃木) 大小山天狗岩

2011年11月23日
メンバー:高橋、渡辺(記)
 登魂通信に絶賛連載中の「B級魂」。編集部である俺のところに、鮎島から原稿メールが送られてきた時、「あいつはなんで、画像にこんな加工をしたんだ?」と思った。岩壁に「大小」(厳密には左から順に「小大」だが)と書いてあるのだ。常識から言って、岩壁にそんな文字が書いてあるはずが無い。
 ところがググって見ると、本当にそんな岩場があるという。しかも小大の文字は看板で、鮎島の原稿によるとわざわざ工事して据え付けてあるらしい。面白すぎる。
 是非小と大の間に入って、両手離して手を腰に当てて人間文字「中」を作ってみたい。
 登攀禁止かも知れんし、登っている最中に公権力(役場・ポリ公)や私的権力(地主)に中止させられる恐れもあったが、行ってみないことには始まらない。
 高橋さんも、指をパキってシリアスな壁は登る気にならないらしく、「たまには鮎課題登ってやんねえと、ふてくされて連載しなくなるかもしれねえしな」と賛同してくれた。


そそり立つ天狗岩

登攀ライン

重要情報の記載されたプレート
 朝出るときにカメラを忘れた。しまったな〜と思ったがまあ携帯でイイや。
 ナビ様の案内に従いひたすら高速をかっ飛ばし、高速を降りてからも唯々諾々と案内に従って田んぼ路を走っていると、

「で、出たあ〜!」

 と二人して驚く。
 もう、本当に麓、というか街から丸見えなのである。
 今まで、壁のデカさやぶっ立ち具合、モロさ、ランナウト具合などにビビッたことは何度もあるが、「麓からの丸見え具合」でビビッたのはこれが初めてだ。
 ぐずぐず登っていると

地元の人「大変です!<小>と<大>の看板を盗もうとしている人がいます!」
地元署「すぐに出動します!」

 といった流れで、PM(Police Men)が来る事は想像に難くない。ロープを使う人=泥棒という年配の方は結構いる。我が社(窓拭き業)も20年の歴史の中で2回通報されたことがあるとか…。
 しかしここまで来てしまった以上行く道は行くしかない。

 いよいよ「小大」の文字が大きくなってくると、「大小山ハイキングコース」の案内看板が現れ、それに従って走ると広場状の駐車場に着いた。水場もトイレもあり、早くも車が数台止まっている。人気ハイキングコースなのかな?
 案内看板が2枚設置してあり、どちらも挿絵にはきちんと順番まで実物と同じく「小大」が描いてある。普通は「大小」と描いてしまいそうだが、こだわりがあるようだ。「大小の看板は両毛線の車窓からもよく見え…」等と要らん事も書いてある。
 まあそれはともかく、ハイキングコースは、駐車場から

右回り:駐車場→妙義山→大小山→見晴台→男坂(女坂)→駐車場
左周り:駐車場→男坂(女坂)→見晴台→大小山→妙義山→駐車場

 となっているようで、当然我々はさっさと取り付いてさっさと登りたいので左回り。
 我々は一応男なので、高橋さんに「男坂経由で行きますか?」と水を向けると「(楽そうだから)当然女坂でしょう!」とのこと。
 急なスロープ状を詰める。藤坂ロックガーデンの林道にそっくりで、そういえば場所も藤坂に近いので「まあ多分、藤坂みたいなチャートなんだろうな」と想像しながら歩いているとあっという間に見晴台についた。
 ここからは異様な迫力を持って「小大」の看板が見える。本当にこんなものを作った奴はアホだが、それを登ろうとする我々はもっとアホかも知れない(※実はこの小大看板、江戸末期から代々、地元民の手により、阿夫利神社のご神体である大天狗・小天狗のご利益の返礼として掲揚されていた由緒正しき看板だと、下山してからググって知った。アホとか言ってすいません。深くお詫び申し上げます。てっきり土木屋と議員が結託してでっち上げた「町おこし」かと思ったので…)。

 東屋にザックを置いて、立ち入り禁止の鎖を越えて偵察。思ったより岩場は小さく、1ピッチで終わってしまいそうだ。看板のせいで、壁が立ってるんだか寝てるんだかよくわからない。岩は予想通り藤坂そっくり。そこそこ固そうだがリスが全くないしクラックもあまりない。しかし看板まで行ってしまえば、看板を固定しているステンレスの16mmボルトからスリングで支点が取れることは分かりきっている。
 なんで登る前からステンレスの16mmボルトなのか分かるのかって?岩場の基部に掲示された、施工方法を示したプレートを目ざとく見つけ、プレートには「ボルト SUS16φ 大26小34」と書いてあったからだ。SUSの厳密な意味は覚えていないが確かステンレスの意味。そんで16φはボルト径が16mmということ。ゲレンデにぶち込んであるヒルティのスタッドアンカーは10mmなので、それより太いのだ。これはもうもらったも同然でしょう。
 ほぼ文字「大」の真下あたりから、左上するバンドがあったのでそこから取りつく。


<1P目> ナベ 35m W A1
 左上するバンドを辿ると、いかにも登れそうなすっきりした岩が出てくる。そろそろ1本目が欲しいな、でもハーケンなんか入りそうもないしカムも決まらないな…とか思ってたら、錆びたリングボルトがあった(笑)
 こんなバカなことをやる奴が他にもいたのかと思うと、なんだかうれしくなるし、自分のラインを見る目にもちょっとは自信がつく。
 もちろん遠慮なくクリップしそこを登ると、どんどん傾斜が強くなり、なおもボルトは常識的な間隔で連打されながら、直上して文字「大」の2画目の下側末端へ続いている。俺はそんな攻撃的ライン登れないので傾斜の強い部分を右に左に逃げながら文字「大」の2画目の下側末端へ到着。
 当然「大」と「小」の間へ入ろうとトラバースを開始するが、足が全くない。おまけに看板が邪魔だ。色々試すが時間ばかりが経過してトラバースの活路は見出せない。ちょうど俺は「大」の二股の下にいるので、今、麓からこの大小山を見た人は

「あれ、<小大><小太>になってる?」

 といぶかしむことであろう。
 ちなみにこの時、下界でサイレンが2度鳴り響き、

ナベ「げ、ひょっとして俺じゃねえだろうな!?」
高橋さん「おい、ナベのことじゃねえだろうな!?」

 と二人してビビる。

 まあそれはともかく、看板の縁をガバつかみすればトラバースできそうだったが、もしぶっ壊してしまったら洒落にならないのでそれは却下し、大人しく普通に登れそうなラインを探す。
 文字「大」の裏をくぐり、「大」の右上に出るラインはなんとかなりそうなのでそれにする。
 看板の裏側は傾斜が強く、しかも背後の看板が邪魔で、岩から突き出た16mmボルトをホールドにしたりスタンスにしたりせざるを得ない。クライミングの厳密なルールに則ると、これはA1であろう(笑)
 そんなクライミングでようやく「大」一画目の右上の空間に出る。看板の裏でさんざんプロテクションを取ったので安全と思いきや、ここからは落ちると看板に突き刺さって自分も看板もクラッシュという事態になりかねず慎重になり、都合のいいクラックにキャメの3番を決める。同じネタで恐縮だが、この時麓から大小山を見た人は、

「あれ、<小大><小犬>になってる?」

 といぶかしんだ事であろう。
 少し登るとそのまま右上に抜けられそうな感じであったが、せっかくなのでもう少し壁の中央部を登りたい。気合で左トラバースし(1歩がちょっと悪い)、そのまま直上すると、登山道のすぐ下だった。ここで太い木を支点にビレイして高橋さんを迎える。
 高橋さんも、最後のトラバースでちょっとてこずっていた。
 なお、ビレイ中、ハイカーが10人くらい通ったが皆様好意的で、なかには「写真撮ったから送ってあげるよ!住所教えな!」という方も(写真は欲しかったがお断りした)。

 高橋さんを迎え、二人で虎ロープを越えるともう山頂だった。眺めは最高。ちょうど筑波山みたいに、平地の中の小山になっているので誠に見晴らしがいい。
 登山道を下ってデポを回収。東屋でパッキングしていると、例のプレートを高橋さんが見ながら、
 高橋「おいナベ、見ろよ!勾配85度って書いてるぞ!」
 呼ばれて見てみると、例のボルトの記述の下にこう書いてあった。

勾配 大85度 小78度

 「すげーじゃん、ほぼ垂直じゃん」と二人で喜ぶが、すぐに、「これは看板の勾配であって岩壁自体の勾配ではないだろう」と気付く。もし小と大の間を行ったらそのくらいの傾斜になるかも知れないが…(薄被りのリッジとなっていた)

 下山は男坂経由。こちらはかなりの岩尾根で、登りでこれを使っていたら高橋さんが敗退・転進を言い出していたであろう事は想像に難くない。
 下山したら駐車場にはPMが待ち構えていた、なんてことはなく車が溢れていた。相当人気の山のようだ。確かにハイキングコースとしては「近い」「短い&楽」「景色最高」と3拍子揃っている。


 さて最後のシメは下山飯である。コンビニで旅行雑誌を立ち読みし(このコンビニからも「小大」が見える)、「岡崎麺」がよさそうだとリサーチ。まだ時間があるのでこんな事でもないと絶対に来ないであろう佐野厄除け大師を参拝して時間をつぶし、「岡崎麺」へ。
 う〜む。雑誌で絶賛されるほどでは…トッピングのナルト・チャーシュー・メンマは昔ながらのドライブイン風味(決して悪くは無いが…)。そして肝心の麺がどうにも細すぎて腰がない。何度も食ってるとハマる食感なのだろうか。黙々と啜る。スープはなかなか。勘定しようとすると店主に声を掛けられる。

店主「どっから来たの?」
ナベ「東京からです。大小山を登りに…」
店主「あ〜大小山!もう登ったの?早いね」
ナベ「ええまあ…」

 なかなか好感の持てる店主であり査定ポイントアップだったが、高橋さんは「ま、次はないな」とヒトコト。
 こうしてシメが決まらないまま佐野を後にし、祝日午後の上り線はほとんどノンストップ、池袋に帰ってもまだ13時であった。

使用ギア:50mザイル(シングル)、スリング&カラビナ多数、キャメ#3





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