■奥秩父/笛吹川東沢釜の沢(冬季溯行)

2012年1月8日‐9日
治田、荒井

両門の滝。スケールもありとにかく美しい。
こんな状態で出会え笑みがこぼれる

千畳のナメ+万歳の荒井。
氷床と霜床で、ずっと続く。
こんなタイミングはそうないだろう

両門の西俣の滝を登る荒井。
氷を利用し初トレースだ。
でも氷も甘く水が吹き出て怖い思いもする
 計画から迷っての東沢本流か鶏冠谷の右だった。鶏冠の源流の急傾斜な部分が滝の連瀑帯になっているかなと予想してのプランだった。しかし、現地での鶏冠谷出合は貧相で氷も薄く水も流れている。行けないことはないが、本流の状態が良すぎるので転進することにした。会には携帯で変更連絡を入れようとしたが既に圏外であった。

 さて、本流はスケールも大きく明るくすばらしい。ゴルジュも暗さがない。夏とはあまりに違う状態だ。水は1/10以下だろう。そして氷床部分もあるが大半は霜柱で浮いているのか不明だが、モナカみたいに水線から50センチも上がって水平ラインが連なっている。ザクザクともピシピシとも表現できない歩行で、たまに踏み抜くので少し怖い。
 ところどころ徒渉に難渋する箇所もあるが、回り道をして弱点を探したり、ツルツル箇所はアイゼンを履いたりしてやり過ごす。乙女の滝までは先行者がおりそのトレースを利用させてもらった。僕自身何度も通い西のナメまでは行っているので何となく印象は残っているが、冬季遡行という形ならば雪が少なく冷え込みが厳しい今回が最高の状態と言えるだろう。
 2年前の春の会山行でもここを遡行したが、そのときの苦労した大増水の川渡りとは打って変わって踏み抜き注意の忍者足で釜の沢出合に着いた。

 魚留め滝は左右が氷で陽のせいか、真ん中は水が流れている。釜はでかいがほぼ凍っている。ダブルバイルとアイゼンの完全装備で、いよいよお楽しみに突入だ。
 この滝は左の氷がいい感じでつながっているの軽く上がれる。続く緩い滝も浅い水流なのでカツカツとアイゼンをきしませて歩を進めると、ジャジャーンと出ました。千畳のナメが真っ白な帯となって続いている。
 すんゴイ気持ちいい。だって冬の谷の醍醐味は眠れる大きなブルーアイスに出会う事だが、目の前のそれは白い帯なんだから。こんな景観、いつ誰が味わえるというんだ。ここいるワイらの独占やんけ。
 なんて日頃の行いが良いんだ、いや、なんて顔が良いんだ。やっぱ顔のせいにしてしまう。

 続いての見せ場は両門の滝だ。大きな釜に西俣の滝はしっかり氷、東俣の滝は薄い貧相な氷が少しくっついている。
 東の方は太陽が当たる関係からこうなるのだろう。時間も2時頃で余裕もある。夏はともに登れない滝だ。ここはぜひ冬の遡行の記念として西も東も登ってみたい。
 小休止後左から巻いて西俣の滝に下りる。空身で登るが約20mで上の釜に。V級程度で気持ちいいが、全体が滝の岩から浮いているため穴が開いている箇所から突然水が噴出してきて、よく事情がわからない僕は滝の部分が壊れるのではと感じたほどだ。上部は氷がグスグスで甘いためにアバラコフは不可能。大きなえぐれにロープを巻いて安全を確かめてから氷ボラードで懸垂下降した。
 東俣の方はノーザイルで薄い氷を攻めていく。こちらも難しくないが、万一落ちたらデカイ釜の中にツルリとはまってしまう。この時季に全身が氷水に使ったらあっという間に体の熱が奪われてしまい最悪の事態になりかねない。そういう注意を頭において攻めていく。

 その上も氷が左右に少ししかなく、上部で水流をアイゼンで渡る微妙に悪い滝があったが静過重、静移動で抜けていく。
 そこを抜けると河原の始まりでアイゼンを外す。時間も3時過ぎ、いいところがあればそこに決めようとゆっくり河原歩き。しかし、ここは雪も少なく辺りは秋のようだ。流木も豊富で焚火もできそうだ。

 そうするうちに快適な泊り地が出現。ここにどうぞと言わんばかりの設定だ。
 集めに集めて多量の木々で満足だ。落ち葉から細木の準備で着火一発で炎が上がる。後はガス知らずでいつもの沢の宴会と同じや。乾きつまみからラーメンで始まり、米とつづく。
 やや背中が寒く、汲んだ水も凍る寒さの中、気がつけば22時近い。明日の行程もそこそこなんで、毎度のツエルトに潜りこんでグットスリープ。


 秋の気配の沢筋を辿ると雪もそれなりに増えてくる。気体の上部は読みのとおり水師の出合辺りから始まった。見ても嬉しい。登れるのなら、なお嬉しい。
 早速アイゼンを着けてピックを青氷に刻み込む。うれしいかな、その先もそこそこに続き、さらに進めば顕著な青氷が見え始めた。
 これだよ、これ。ワイでも僕でも、自分の表現はどちらでもどうでもいいけど、予感のとおり、ナメ滝氷が続き始めた。基本のバイル打ち込みで高度を稼ぐ。上がればさらに青氷は素直に続いている。
 落差もあるのでアンザイレンも考慮して荒井と相談するが、やはり中途な斜度なので二人ノーロープで攻めようと相成る。
 それは正解で、各自確かめながら上がっていくので慎重に、でもなんとなくお気軽にガツガツと刻んでいく。いよいよ雪面になりその先はガラ場に変わっていく。
 このガラ場の最上流を見て、稜線は近いと思ったが、無雪期に数回登った経験から沢のツメではなく違うツメに着たなと思ったが、案の定、本流ではなく木賊沢の源流に導かれていた。原因は氷の太いラインをつなげていたんで、そうなったしだいで、数分の猛ヤブ漕ぎで稜線に抜けた。

 ハイウェイのような歩きやすい登山道で甲武信岳にピストン。靴の踏み後はたくさんあるが山頂には誰もいない。ゆっくり山座同定だ。風は冷たいが心地よい。
 とにかく嬉しいね。そして、やったね。これで釜の沢の二冠達成だ。特に冬季は状況が掴みにくく、今回見たいなラッキーに当てるのは至難の業だ。でもその中身は保証したい。冬の沢旅の決定判の筆頭にワイは推したいね。それぐらい良い。

 下降は名前の好きな福ちゃんでなく、徳ちゃん新道。この下りは長く急だ。ゆっくり行くが後半で膝が痛みだす。歳のせいか、使いすぎで関節がガタ来ているので、浅い角度で抑えて下るしかない。背中に疲れが出始めて、駐車地に着く。

 終わればまた次の山だ。今季は氷の谷はそこそこ良さそうだ。またじっくり練ってあれこれ考えよう。

(記:治田)
【行程タイム(おおまか)】
1月8日
 徳和東沢山荘P7:15〜釜の沢出合12:00〜両門の滝14:00 〜 広河原15:30泊
1月9日
 発7:10〜稜線11:30〜甲武信岳12:00〜徳ちゃん新道〜P地15:00

【写真】

笛吹川本流は氷床というより
ぶ厚い霜床という表現がぴったり。
たまに踏み抜くから要注意

乙女の滝とクライマー。
マルチで楽しめるルートだ。
雪が無いせいか少し厚みがない
 

東のナメの迫力の大滝。
南面で凍らず。
でも秋に登っているので
機会を掴んで氷もやりたい

西のナメ前沢。
青い氷が続き登りを誘う。
難しくないけど覗いて見たいね
 

西のナメ沢。
綺麗なナメ滝アイスのワールドだ。
ここいらは泊り地も多く
のんびり登ってみたいもんだ。

釜の沢の魚留めの滝。
釜は凍っている。
水流左の氷を登っていく
 

千畳のナメ+万歳の荒井。
氷床と霜床で、ずっと続く。
こんなタイミングはそうないだろう
 

ナメ床に続き小滝がいくつか。
すばらしい景観に心浮き、
アイゼンをきしませて登る
 

曲がり滝。
釜が深くとても取り付けない。
夏の右の巻き道を利用する
 

両門の滝。
スケールもありとにかく美しい。
こんな状態で出会え笑みがこぼれる
 

両門の西俣の滝を登る荒井。
氷を利用し初トレースだ。
でも氷も甘く水が吹き出て怖い思いもする
 

両門の東俣の滝も登る。
薄い氷を拾っていく。
夏はともに登れないので
絶好のタイミングだった

広河原に入ると晩秋のようだ。
流木を集め新年早々の盛大な焚火の始まり。
おかげで10時近くまで外で宴会をしてしまう

水師沢の手前より上部の氷が連なり出す。
氷ワールドで天国のようだ

段差も小さな氷の組み立てになる。
冬季遡行型で各自マイペースに歩を進める

緩いナメ滝が現れだす。
この先400m以上は氷の上を歩く事になる。
幸運なるバイルとアイゼンの世界だ

こんな感じで上まで続く。
気持ちいいけど滑ったら
一気に下まで流される。
優しいけれど手は抜かない

さらに上の源流部もこのようだ。
降雪の無さと寒気の強さに感謝する。

さらに先の最源流もこうだ。
あたりの静寂さと青い氷に不思議な感覚になってくる

やっと立てたよ甲武信の頂。
絶景かなー。これから徳チャン新道でワイの膝が痛みだす


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