■奥秩父/笛吹川東沢ヤグラ沢[溯行]
2012.6.9
鮎島、佐藤、田中、大部勝
私は岩と沢の継続、もしくは雪稜とスキーの継続といった異ジャンル融合の登山に興味を持って取り組んでいるが、それと等しく興味を持っていることがある。それは、―――無雪期に登ったところを積雪期に登ってみる、または積雪期にたどったところを無雪期にもたどってみる―――ということだ。
本当に日本の山はおもしろい。なぜなら、彼は四季折々、いろんな表情を見せくれるから。とくに無雪期と積雪期ではこんなに違うのか!と思うぐらい同じところのはずなのに違った顔を見せてくれる。それらを味わい、堪能することは山屋冥利につきると思う。
たとえば、夏の沢登りで登った沢をスキーで下れば、「あ、ここ大きな滝だったのに、雪に埋まると結構スキーで下れるものなんだ…」と思ったりするし、逆もある。スキーで簡単に滑った沢が夏に上ると案外手こずったり・・・。スキーだけでない。アイスクライミングも同じだ。凍った滝をダブルアックスとアイゼンを軋ませて登ったところを、滝肌が露わとなったところを登ると、違う困難に立ち向かう。
そう、同じところを季節を変えてたどることにより、自分なりの新発見があるのだ。それはそれは、とても新鮮なインパクトであり、今でも自分を魅了し続けている。そんなことも、山に向かうモチベーションの一つになるのだ。
前置きは長くなったが、今回、目指すヤグラ沢も、そのような課題である。
昨冬、会山行の班行動の一環で氷床となったヤグラ沢をアイゼンを軋ませて登った。それはロープなんてまったく使用せず、重荷にしか感じないなぐらいの簡単なアイスクライミングだった。しかし、夏はどうなのか?とても興味深い。
さらに、私にとってはこのヤグラ沢こそ因縁の山でもある。前回、この山行後に不注意から凍傷になってしまい、この登山を最後にしばらく登山から離れざるを得なくなってしまった。今回本格的な登山は4か月ぶりとなるが、その治癒後の復帰第一線としてどこから始めるか?はけっこう重要で、それを考えた場合、最後の山をスタートラインにすることはとても興味深いことでもある。
とにかく、冬の感慨をもちながら、夏の同じ場所をたどる。それも、同じく会山行の班行動を共にしたトーマスさんと美穂さんと向かうことはなんとも因縁めいて面白そうだし、さらに新しく入会した大部勝さんと向かうこともなんとなく面白そうで、天気予報は雨にもかかわらず、自分のモチベーションは落ちないもんだ。
天気予報は雨。案の定、雨が降っているが、土砂降りというわけではない。西沢渓谷入口の音入庵に車を止めて支度して向かう。ここは屋根があるので、こうした雨の時は便利である。
しかし、人気の観光地である西沢渓谷を歩く人はいない。やっぱり雨でも頑張るハイカーは少ないみたいね。もちろん、沢屋なんて皆無。う〜ん。雨の時は沢登りをするというのは鉄則なんだけどなぁ。そういえば、ドラゴンがこの前の例会で、「これからの時代は、雨の時はドライツーリングですよ☆」と言っていたが、そっちのほうに流れているのだろうか…。時代を感じて、なんだか淋しいぜ。
東沢に入って、鶏冠谷出合で最初の渡渉。うふぉっ、水が冷たいぃ〜〜。いやー、東のナメを登った時の渡渉でも思ったけど、6月頭の笛吹川って水が冷たいよね…。凍傷を負ってから初めて感じる「冷たさ」にヒヤヒヤだが、まぁ一瞬だからね。でも、これが長時間続くのはまだ勘弁だなぁ。
東沢渓谷道は、今年2月にとおったばかりだが、その時よりもさらに荒れている感じがした。なんだか新たな倒木が2〜3個あったりして登りづらい感じ。ホラの貝ゴルジュをまくところも、さらに道が悪くなった感じだし…。そんな感じで、やはり1時間半ほどかかってヤグラ沢の出合に到着。ここは、会山行で泊まった場所でもあり、何とも懐かしい。
相変わらずの霧雨の中、休憩しながら準備。レーションでこの日のために仕入れた「揚げパン番長」(特売で50円)をさっそく食べるが、これが何とも残念だ。みんなはわかるだろうか?「揚げてある感じが実感できない揚げパン」とはどういうものか。私は今回、ようやく分かった。これほど哀しいものはないね。となると、他の人がどういう行動食を食べているのか気になる。。。
っと、大部さん!定番の「ランチパック」ですか。。。しかしそれを、一気2枚食いっ!!。「スギちゃん」並のワイルドですね。「かっちゃん、ワイルドだから、ランチパックなんて1枚ずつ食わないぜぇ〜」とは言わないが、回転寿司に行ってもおそらく一口で2カン食いしているのだろう。いや、勝手な想像だけれれど、ワイルドだなぁ。
っで、ヤグラ沢。鷹見岩沢とすぐに別れてから5分ほどゴーロをたどると大スラブ滝だ。
これがなんとも微妙な傾斜のナメ滝というかスラブ滝が続いている。ロープ出すかなぁという感じだが、シーズン沢始めだし、念のためということで、2パーティに分かれてロープ出すことにした。グーパーで鮎島=田中、佐藤=大部組にわかれて、登攀開始。
登れるところを登っていく。基本的にはスイスイ登っていけるが、ところどころ怖いところがあったりする。ランナーは残置は一切見当たらずに、ハーケンとカムで自分で作っていくしかない。まぁ、でもそれなりに傾斜がないので、安定した体制でハーケンは打てるし、それなりにリスはある。
大スラブ滝を2ピッチで登りきると、水流左に折れる…。っと、ずっと奥にもスラブみたいなナメみたいな滝がずっと続いている…。うわぁー、きれい☆。決してハズレの沢じゃないじゃん。なんだかうれしいねぇ。でも、ロープを外す感じではなく、つけたまま登っていくしかない。結局のところ、一度ロープをつけると、ロープを出し続けるしかないような感じなのです。
まぁV級、一部V+級のスラブをじゃんじゃん登っていく。しかし、V+級といって侮るなかれ。フレークを使ったり、ハイステップを使ったり…。越後のスラブでありがちな「階段状のスラブ」では決してない。ところどころ、フリクションで登っていくところもあって、しかも越後スラブとはちょっとフリクションも心許ない(濡れているからかな?)。
とにかく、ずっとスラブ?ナメ?が続いていく。一度、コケたら、どこまでも落ちそうな感じ。傾斜は微妙な感じだけど、ロープは出してよかったと思う。でも、残置はやはりいっさい見当たらない。だから、みんなとにかくハーケンをボコボコに打ち込んだぜ。最低10本は打ったんじゃないのかな。いやー、いい練習だぜ。
そんな感じでメンバーはところどころビビりながら、草付きに逃げたり、木に逃げたりしていたが、個人的には滝をすべて直登(やったね★)。いやー、やっぱりフラットソールいいよ。立ちこんだ感覚があるので、細かいスタンスでも立てるぜ。まぁなくても何とかなるけどね。
そんな感じで結局、ロープを出し続けて、7ピッチ(!)で二俣に到着。時間は13時になってしまった。アカン、時間をかけすぎてもうた。右俣はなおもスラブ滝が続いているように見えるが、ここはアイスクライミングで行ったのと同様、ここでロープはしまって左俣を進むことにする。
左俣は、途中、何個かスラブ滝があるが、それほど難しいわけではなく、ノーロープで超える。上流部の倒木をうまいこと進むと、二股から1時間ちょっとで稜線につけた。いやー、冬に来たときは二股から稜線まで果てしなく長い感じがしたが、案外あっさり短く感じたぜ。えがったえがった。でも、虫多いね〜。もちろん、越後のブヨじゃない(ヌカカ?)のでまだマシだが、沢ってこんな感じだったよ。久しく、シーズン初ってことでこんなことすらなんとも懐かしい。
さてさて、あとは下山。石塔尾根を降りるが、やっぱり迷う。赤テープなんかないじゃねぇか!でも、オーブさんのGPSを頼り(!)にCo.1648まで進んで、あとは西沢渓谷方面に下る。昔は道があったとのことで、古い地図には登山道マークがあるが、そんな痕跡は一切見当たらず、鷹見岩窪をそのままくだる。鷹見岩窪はすくなくともロープを出すようなものはないし、クライムダウンで降りるようなところもなく良かった。
不動小屋跡のところで西沢を渡渉し、あとは西沢遊歩道をそのまま下る。そういえば、雨は止んでいる。思えば、午後を過ぎると雨は止んでいたなぁ。えっちらおっちら歩いて、駐車地に戻ったころには雲の切れ間から青空も覗いていた。
今回、雨だったけれど、この沢は結果的に雨の時に登るのがいいのではないか。なぜなら、中央道がこまないから。そう、いつも渋滞する中央道が今回は全然、渋滞なかったぜっ!
そんなことはともあれ、ヤグラ沢の記録なんて、ネットで検索してもmoto-Pさんのアイスの記録しかないが、そこにはこう書いてある。「初級者向けではないし、中級者以上向きではない。あえて言えばM系の人向け」と。これはアイスの記録ではあるが、アイスと沢、両方やってしまった私、トーマス、美穂の3名は完全なM中のMなのですかね…。
いえいえ、そんなことはないです。夏のヤグラ沢は面白い!なにより広・長・明の3拍子揃った「人間様に微妙にやさしいスラブ」が続く様子はなかなかなのです。アプローチが微妙にあるとはいっても、全然記録がない(人気がない)という内容ではないと思う。まわりに東のナメという秀逸な沢があるとはいっても、ヤグラ沢も少なくとも丹沢の水無川本谷の10倍はいい沢だと思うんだけどなぁ。
でも、冬と夏、両方登ったことが感慨深いね。両方よかったなぁ。この流域は西のナメも乙女沢もアイスで登っているからな。こんどはその二つを夏に登ってみたいな☆。また、行こうっと。
トーマスさん、美穂さん、冬に引き続きありがとうございました。オーブさんもまたよろしくっす。
2012.6.12 鮎島 筆
【記録】
6月9日(土)雨のち曇
西沢渓谷入口駐車地0845、出合1000、二俣1300、稜線1430、駐車地1645
【使用装備】
ダブルロープ×2、エイリアン各種、ハーケン多数
※カムは#0.5以上も使えるところが多数。あれば助かるが、なくても何とかなる。ハーケンはナイフブレード、ロストアロー両方何度も使用
※足回りは中央突破する場合はステルスラバーのほうが安心だが、フェルト靴でもなんとかなる。
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