■足尾/栗原川と支沢の継続の沢旅

(栗原川八林班沢〜法師岳〜栗原川六林班沢(下)〜栗原川ツバメ沢〜栗原川ケヤキ沢(下))

2012.7.14-.16
治田
 足尾にあしげく通い、大方の尾根や沢も足跡を残した。でも、まだまだ。地域研究の岡田敏夫の文献を目にし、彼に学ぼうと軌跡を探訪している。もちろん、資料を見て行く沢もあるし、後から調べて彼の足跡を拝見することもある。
 さて、栗原川だ。始めに言うが、僕はこの本流がこれほど価値のあるものとは思わなかった。しかし、遡行を終えて自分のいかにもたいした事をしていない目を恥じた。関東近辺にこれほどおおらかにナメと大滝とゴルジュを従えた本流が、今まで、そう遡行者を迎えることなく存在していたことに驚いたのだった。紛れも無く栗原川はもっともっと沢の愛好者に辿られても良き物の内容だった。
 仕事は正直激務の連続。嫌になるほど文書を書き、添削し練り上げていく。それは勤務の時間に対しての報酬からは、ハイわかりました、と素直にとてもなれない内容なのだ。でも、それさえ、山に向うときは「屁でもねえぜ」と一蹴し強がりは自分に見せておく。辛いが山へのこだわりは未だあるわけだ。

遡行マップ

本流のナメ

源公の滝

円覚・大善の滝

ケヤキ沢大滝
 三連休は朝方から降り始めた雨は、里では上がったが、山に行くほど激しく振り続いていた。林道の水溜りを踏むたびに引き返したい気持ちは膨れてくる。
 林道途中の釣氏の一言「本流はニゴリが入り、昨日夜はかなり降った」は効いた。うーんでも、やるだけやりたい。とにかく本流そのものを目で見てから判断したいと思った。

 下降地点に駐車したら、なぜか雨も上がり気分は逆転。足早に下降し本流にご対面…。濁りはなく、直感でこれは行けると感じた。確かにでかい。一面の水は増水しているが、たいしたものではない。これで行ける…なのだ。
 明るく広大なナメが続き実にいい。まったくこれほどのスケールのある沢がそうそう沢屋の中で口に出なかったのが不思議なくらいだ。
 堂々の幅広滝8mを越えて、名のある源公の滝。本流の水を一気に受けての下部ナメ滝から絞りこんだ上の滝。右岸の岩棚の戯れと相成り、観賞の滝の要素はピカイチだ。源公は過去足尾銅山の繁栄で、集落があったらしく、石積みの道や家の敷地が残りもの悲しい。

 この栗原川を選定した一番の理由に実は名に惹かれたものがあった。それが「円覚・大善の滝」なるものだ。地形図で見ての、なかなかの凝縮された何かを感じていた。
 遡行スタートから2時間を越え、前方になにやら高い壁が見え出した。
 いよいよ来たか。緩い滝を二つほど越えると、両岸は狭まり、豪瀑の音が壁に木霊し出した。気合を体に入れる。腰近い徒渉で第一の滝に取りつく。ハーケンは幾つかあるがそれほど難しくない。上の段に上がると斜状したナメ滝の上に圧倒的な水量を噴出す豪瀑が現れた。
 一目見て合掌の円覚・大善の滝。
 この各滝のどれがそれを指すのかわからない。畏怖の念の後に、不遜にも気合の相棒がいて、それようの登攀具があれば、このナメ滝を泳いで取付き、豪瀑の左壁に1ピッチのラインが引けるかもしれないと眺めていた。
 そんな想像をしばし。お辞儀して滝を下降する。なぜか鉄杭が打ち込まれ、懸垂支点のスリングもあった。でも、畏れ多いこの滝への別れはフリーダウンで締めくくる。

 この大滝とゴルジュ帯を高巻くために、手前の滝も戻り、小沢から大きく巻いた。
 すると地図で見る緩い地形地点つく。ここも石積みがあり、どう見ても集落らしきが存在していたようだ。
 そして、下降点を見つけるべく右往左往するのだが、本流への傾斜は壁であり、急な樹林をつなげて降りるが、最後は懸垂となってしまう。手持ちのロープは40mだが、足り無そうだ。行ったり来たりで1時間は探索するが、僕自身はGOの判断ができなかった。先達の岡田氏はここを下降しているが、ラインは読み取れなかった。それはそれで致し方ない。やるだけやってその判断を下したのだ。

 不動沢から山こえで本流に入る。それも戻るようにP1106の尾根を下降した。 
 下降地点からさらに出合近くに行こうとしたが、大滝の手前の大釜の滝で下降は諦めた。

 本流は滝が続きすばらしい。誰もいない静かな谷筋。ようやくに釣り糸を垂れる。なんと一発で上がった。気分上場、でも、糸を流すがそれ以降まったくダメ。
 ナメと小滝、8mの美爆など皆登れる滝で酔いしれる。古い堰堤が現れ左から旧道を使い巻き終えると、河原が延々と続く。予定の泊り地の砥沢までは行く気も失せて十林班沢の出合で幕とする。

 焚火を集め、岩魚の串焼き、酒は腹に染み渡る。前回の会山行の大騒ぎとは逆の静寂の谷の夜だ。
 夜間、急な雷雨でびびった。増水もあるだろうと思ったが、長時間は降らなかった。



 二日目の行動は長いのだが、まあ、のんびり7時過ぎに出る。単純に体を休めたかったし起きれなかっただけなのだ。

 大釜の滝を二つ右から越えると本流の八林班沢と左俣である六林班沢に分岐に着いた。ここの上が一大集落の砥沢だ。小雨を降り続き、先に歩を進めたく集落跡地の探索は下降後にする。

 小滝が続き、河原、そして見たくもない林道手前の重機の工事跡。林道そのものはかなり広くしっかりしているが、その必要性は正直疑問だ。
 醜い人工跡は足早に過ぎて、また静寂の谷に足を運ぶ。難しいところは一つもない。

 でも長い。稜線まではよいとある。でも稜線に出ても苦労は減ぜない。
 なぜなら道はないからだ。笹深いヤブ漕ぎで、やっと法師岳に着いた。まったく感無量。

 笑われるかもしれないがこんな山に僕は三度立っている。一つは25年前の秋の縦走。
 二つは2年前の年末の冬季縦走。そして今日沢からのこの時。この小さな頂に何か求める山の存在を感じずにはいられないのだ。
 さて、ここからも六林班峠まではけっこうしんどい。笹のラッセルだ。ひたすら辛抱の連続でその峠に着く。ここも僕が山を学んだ30年以上も前に通過した所だ。

 ここより廃道を辿って六林班沢を下降する。道は沢から離れて蛇行していく。迷っても幅広の道形はあり、急降下していく。やはり途中で不明となり沢の下降。二汗かいて横断林道に出る。ここには小屋もあり、中を覗くと泊れそうだ。
 ここからも砥沢まではよいと距離がある。旧道があればいいが、純粋な沢の下降では 相当な時間がかかると読んで、古い資料の左岸の旧道を探して見る。
 するとしっかりした幅のある道がみつかった。ルンルン気分で下り始め、砥沢近くで沢に下降する。
 左の台地が平坦になったので覗いてみると、なんと小屋がある。皇海荘という名の山小屋だ。これは足尾銅山が華やかりし時に群馬のこの地から木々を送っていたらしい。最盛期は千人を越える人々が住んでいたという。あたりを散策する。
 石積みと平坦地が続く。長い歴史で埋もれた一大集落だったことがありありとわかる。

 泊りたいが気分を変える。
 僕は僕でこの山行を一つのステップとして捉えていた。それは3日の沢の継続をやること、未だ大きな沢をやりたい。それにはこの足尾はやはり体力的にアップに過ぎない、それに尽きた。林道や楽なものに逃げたい気も無くし、この栗原川を堪能し歩き尽くす。荷を担ぎ沢の下降に気持ちを切り換えた。

 本流を下り、頃合を見て竿を出す。幾つもの釜に投げ入れるが、まったく空振りの連続。嫌になり疲れる頃、十林班沢の手前で幕を張る。
 少し暗いが流木が豊富にあり、焚火が楽しめそうだ。早速ウイスキーを胃に流し込む。今宵も一人の焚火からラーメンを食し米を炊き喰らい、存分に酔いしれて沢の夜を満喫した。



 三日目は6時ちょっとには行動する。下降から支沢の登降に気を引き締めてスタートだ。

 古い堰堤から右岸の旧道を辿り、ツバメ沢の手前まであっという間に到着。
 ツバメ沢はナメが続き実に歩きやすい。首都近郊にあったなら一押しの有名デート沢になっただろう。
 途中10mの見栄えのする滝を直登し、上流を踏み跡にならい詰めていくと林道に出る。上手く利用して下降のケヤキ沢に最短で乗かっていく。

 ケヤキ沢は栗原川の支流という存在を越えて、一つの独立した沢の存在感を漂わす。
 源頭は獣道や釣氏の跡も伺えるが、中流部は険しくなる。特に大滝の出現には度肝を抜かされる。およそ地形図からは読み取れない地点にそれはある。事前に資料では調べておいたが、その想像以上にデカイものだ。
 左右の岩壁から落ち口の空間は、今までの沢から空気が違う。高度感が凄まじい。まったく円覚・大善の滝に劣らない。
 右岸からも巻きも悪く、ボロルンゼの下りは慎重に足を運ばなくてはならならい。沢床に立ち見上げる大滝はこれまたすばらしい。頭上遙かから水を何条にも落とすその姿は、文句のない堂々のケヤキ沢大滝だ。畏怖の念はまた鼓動を打ち響く。

 緩く楽になった渓相に足は速く、ナメが一面に明るくつながり出すと本流へ一息。
 ナメ滝2段を下降し、あの本流の広大な流れを目の前にして、この沢旅の終りを感じた。


 やったやった、50台中盤の仕事や諸々に疲れよれた体で満足なる継続の沢ができあがった。もう本当に嬉しさで目じりを潤ませたかった。
 気温の上昇も感じつつ汗だくで登り返し、主人を待つ軽自動車に再会だ。
 「うぉーぉー、やったーぞーー」自然に出た、久し振りの大声をだった。


治田 筆

【記録】
7月14日
 林道10:30〜本流〜円覚大善滝〜本流〜十林班沢出合16:30
7月15日
 発7:15〜二俣〜八林班沢〜法師岳11:45〜六林班沢〜十林班沢手前16:30
7月16日
 発6:15〜ツバメ沢〜林道〜ケヤキ沢〜本流〜駐車地12:00 



栗原川本流は明るくでかく、沢旅人を誘った

幅広の8m滝は右より巻く。
上には驚きの広大なナメが待っていた

これが関東近郊に臨める景色なんて圧巻。
自分の沢経験を恥じた

源公の滝右岸の集落。
銅山繁栄時はここで生活していた人々がいた

源公の滝。下段はナメ、上段は緩く水を吐き出すが
とにかく岩盤が明るく綺麗で爽快。
ある意味で名瀑

源公の滝上段。右から登る。
右岸の岩棚のコントラストがいい。
のんびり寛ぎたい衝動にかられ小休止する

いよいよ側壁が高く豪音が轟く中、目指す滝に近づいた。
腰近い徒渉で滝の左に取付き登りだす

この滝の上には鉄杭と下降用と見られるスリングがあった。
過去に何人もの人々がこの滝を崇めに来たのだと思う

これが円覚・大善の滝か。
増水で水も多く辺りの岩壁と相成って凄い迫力だ。
合掌の末よく拝見した。左壁に登攀ラインの可能性はあった

すばらしい本流を遡りやっと泊り地で焚火。
成果は一匹だがこの上なくうれしい

本流八林班沢の上流のナメ。
ここは静寂でさらに人寂しい尾根へとわけ入っていく

六林班峠から沢を下り古の砥沢集落に足を踏み入れる。
そこにはここで生まれ育ち故郷を愛す者達が
皇海荘をいう小屋を立てたまに訪れるという

支流のツバメ沢はナメが多く癒し系だ。
それでも一つ華麗な滝があった。
ここは左側を越して行く

圧倒的な迫力のケヤキ沢大滝。
その存在は辺りの岩壁を相成って凄まじい。
下降も悪い右岸から道?
底から見上げる滝は神々しい

ケヤキ沢出合の2段のナメ滝。
ここに立ち感慨無量にふけた。
僕は想いを込めたこの3日間の足尾の沢旅を忘れない


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