■奥日光の小さな沢とヤブ尾根(温泉ヶ岳ドビン沢&南東尾根)

2012.7.28-.29
治田
 疲れに疲れて、どうにもならなくて、仕事から逃れるように山に毎週通っている。プランは、寝る前のわずかな時間にイメージして盛り上げる。
 近場の日光の山域はフルシーズン通う。今冬の幾つか行った山行も記憶に深く激しい山だったので記したいが、それはワイの心に残してしまう。
 それで気になるドビン沢。
 昔、ハクション大魔王という漫画があったが、その魔王が「アラビン、ドビン、ハゲチャビン」と言うマジナイがあった。沢名の由来は不明だが、地図を見ると不思議なことに沢の切り込みがシンメトリー。これは左右対象の地形という事だが、何か俄然、覗いて見たい興味が湧いてきた。

ナメ状の滝

源頭の大ガレ
 夏の奥日光は林間学校ハイ盛りで子供のハイカーがにわかに多い。その集団の前後に入り湯元からドビン沢の入渓地に踏み込む。
 小峠から一歩登山道から外れれば静寂の域に舞い立つわけだ。
 下ったクボ地は若い林を形成しつつある。ほどなく小さな流れに遭遇。
 やがて二俣。右に入り黙々と歩を飛ばす。

 さて、滝が登場だ。約10m。左に取り付くがもろい所もあり、中央から左ラインに移動して抜ける。次ぎの滝もナメ状かな?小さな沢だけどそこそこ楽しめる。
 明るいガレガレが続き、その先ももろそうな滝がある。右から左を登り、その上の左沢に入ったが、支流なので右に戻る。既に源頭だ。

 小滝が一つ。何ということない奴。正面から行くか。そんで取り付いたが、少し大きな岩が飛び出してやや力系での乗っこしムーブなので、初っ端の滝のもろさが気になったので、それは辞めて左から攻めるラインを仕切り直す。トラバースは静かに移動し大きなホールドに立ちこむ動作だ。
 幾回もやっているその動作に、何と大きな狂いが生じた。
 右足の大きなホールドに体重を預けると、おお、まったく予期しないで抜けてしまう。やばっ。さらに、伸ばして保持している右手の岩も崩れてしまう。
 「おお、うわー」
 嘘だろー、超やばー、落ちるでー。
 さらにさらに、右手だけでなく左手周辺の岩も崩れ完全に体は落ちていく。でも、なぜかスローモーションでその描写が広がっていく。
 踏み抜いた岩は4、50センチの塊で大きく、股から膝の辺りで回転している。とにかくヤバイ状況は理解できている…なんで、必死にその岩から体を離そうしたが、お互い無重力になったその物体はどうにも慣性の勢いをずらせない。
 1回ほど足が斜面にぶつかり、弾んで着地したというか、止まった。手のホールドの小さな石は辺りに飛んでいる。
 しかし、この股間にあった岩は最後まで体にくっつき、ドスンと転がり乗っかってきた。やばいぞ、これは。骨は折りたくない、だけど折れたかな?
 即座に危険を感じ、どかそうしたが、動かない。左腿と腹に乗っている岩が重すぎて右手では動かせないのだ。
 次ぎにこの連鎖で正面の岩が落ちてきたらおしまいだ。体がつぶされる。必死だ。気も焦る。
 「おおー、だあー、」
 腰のブリッジと右手でその岩を何とかずらし除ける。アドレナリン全開なんで、自分がどういう状態になっているのか、冷静に見れない。状況打破のため、両拳に力を入れて気合の声を出す。
 「おす、オス、おッす」。
 流水で泥と下半身の砂利を洗い裸になる。怪我の状況を見るためだ。左太ももが何筋かの切り傷と左脛の打撲と出血、着地時に体を止めた左右両肘の小手部分の切り傷を見ただけでたいした怪我はない。痛みはあるが、まったく動ける。あれだけの岩との接触と着地の衝撃からこんな傷ですんだのが不思議すぎる。ありがたや、ありがたや。

 動転する気を落ち着かせ、平素で沢のツメにはいる。
 平坦な地形に緩い支沢の状態でリングワンデリングとなり左右逆の地形で1時間はロス。登山道しばしで今宵の宿、念仏平避難小屋に着。
 ほかに2パテーティの泊りとなり、交遊を交わし横になる。楽しき夜だな。


 ノンビリの起床で根名草山の往復。
 何度きても頂は立ちたいものだ。立つことにより山行はピリッと締まるしけじめはつくのだ。やはり、山のテッペンの存在は山行には欠かせない。

 帰りは温泉ケ岳からの南東尾根にする。
 この尾根は本年の3月にスキーで根名草山を狙い登高と滑降した尾根だ。このときの山行は冬型になり激しいものになった。一人で延々と急登&ラッセルをこなした後に急な温泉ケ岳の通過は本当に疲れ怖かった。新雪の急斜面はいつ雪崩てもおかしくない状況で、板を担いでアイゼンでトラバース。二日目もさらに降った雪の中、正面直登で越えたのだった。そんな苦労をしたからこそ、その無雪状態を見てみたい、なのだ。
 早速、笹薮の尾根に突入する。ヤブは深くないがところどころ険しい抵抗にあう。また、こんな尾根にも篤志家はいるのだろう?赤テープがたまにあり、導きと安心と勇気をいただくことができる。
 大体大きく2箇所に難RF箇所があるが、地図とコンパスを振れば湯元の道へ導いてくれる。でも視界のないときはやはり踏み込まないほうがいい。
 楽しいけれど、そう簡単には下れない尾根とワイは断言する。

 振り返れば、ドビン沢はまずまずの沢だ。予期せぬアクシデントがあったが、恐怖は無事過ぎれば、体験談となるだけ。でも、やはり山は何が起こるかわからない。運が悪ければ簡単に死ねる所ということが見に沁みて良く分かった。

記:治田

7月28日
 P地10:30〜小峠〜ドビン沢右〜稜線13:00〜避難小屋15:30泊
7月29日
 発7:00〜根名草山往復〜温泉ケ岳〜南東尾根〜P地11:30



@小峠の先から下れば静寂の林がドビン沢のスタート地点だ

A第一の滝。下部はもろい所もあり中央から左に抜けてクリア。

B前後に小滝も少々、これは気持ち良く登れる。

Cナメ状の滝。グイグイのGO。この先も短いがナメが続く。源は近づく

D明るい大ガレ、ザレ。近年の豪雨で山抜けたのか、
壮大な勢いでガレザレが続く。この先にも滝はある。


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