■「奥日光の隠れたる沢の登降」

(日光柳沢川隠れ滝沢〜三俣山〜シゲト山〜柳沢川南沢下降)

2012.8.4-.5
治田
 気になる沢がとにかくたくさんある。
 遠出のもの。これは構えないとなかなか行けない。遡行して一つ減らす代わりに三つ増えるのが遠出の沢だ。つまり、この手の沢は永遠に無くならないわけだ。
 逆に行動半径から身近な山域に合わせ、行きたい沢も幾つかある。
 これは存分に地図や資料を眺めて、絞りこむだけに一本の沢を拾うのに苦労する。こうして何とかたくさん集めていくわけだが、減る一方だ。

 そいで、日光の極めて聞かない隠れ滝沢?沢名は不確か。中禅寺湖の奥の西ノ湖奥の滝名にちなんでそう付けてみた。記録はそうない。セットした南沢もまずない。それがいい。実にいい。

見よ、これが隠れ滝だ

隠れ滝沢の第2発の滝

これが南沢の下部のジャリガだ
 現地は菖蒲浜のP地に車を着け、暑い真夏に湖岸道を辿る。この湖岸道がいいね。この日光は山々もいいが、それ以上に自然の景観地として内蔵しているものは国内でも一流だ。山に向かうのに、湖の浜辺、砂浜の景色がたまらない。もう、ここにたたずみゆっくり杯を傾けたくなるくらいの雰囲気を漂わすのだ。
 観光船の巨大な船の船着場は意外だったが、そこよりさらに奥の平坦な林をくり貫け、西ノ湖に辿りつく。人もそこそこいるが、ここもいい。

 で、ここから山のスタートだ。地図にはまだ隠れ滝の印があるが、人はいなくなる。明瞭な道はあるのに寂しい限りだ。

 さて、その隠れ滝にご対面。
 一言で名の如く陰の滝。山の裂け目にCSを持って深い釜に落ち込んでいる。その滝の全容は、沢を一歩徒渉しないとお目にかかれない。つまりハイカーは裸足になるか靴を濡らさないと伺えない代物なのだ。日光名瀑というが、なんとも言えない。あなたの目に任す。

 この滝の巻きから沢の始まりとなる。左岸を辿るが踏み後らしきはない。
 沢に戻り落ち口を覗けば数段の滝から隠れ滝の頭が見れる。

 明るい沢が続きナメや岩床も続く。これは、まあ、当り沢かな?
 それでも人跡は皆無だ。多少沢を歩いているワイにはそう感じた。

 登れない8m滝を右から巻いてほどなくして二俣。
 早いがここで泊る。今週は何かと疲れていたし、とにかく山の只中で横になりたかったのだ。薪を集め火どこをこしらえ、明るいうちから火をくべる。
 誰もいないこの空間が、この上ない至上の間であり贅沢な時を過ごせる最高の場となる。
 BEERで乾杯し、後はお決まりのウイスキー。焚き木をくべて、一人の寂しく嬉しい山の夜を満喫する。


 明けて二日目。
 変哲のない沢が続くと暗いナメが登場だ。しばらく続き、やがて源頭に入る。ヤブも無く稜線に抜ける。

 けじめに何度も立った三俣山に挨拶に行く。
 道はない。頂から錫ケ岳がよく見れた。旧友に再会した気分だな。

 戻って南沢を下るために稜線歩行。途中笹のヤブの中に祠を発見。深く礼拝する。ここを修行の場として修験僧が走ったのか?定かではないが、皇海〜奥白根の稜線にも幾つか祠は見られる。ワイ自身山をさすらい身をそそぐ仏門にはまったく縁がないが、ひたすら歩き登リ続ける山岳修験には憧れもあるのがほんとのところだ。

 シゲト山の手前の穏やかな斜面から南沢に入る。南沢は傾斜はあるが、小滝が続く下降向けの沢だ。グングン下れば、地図上で開けた地点に自ずと立てる。そこには水は無く、延々と河原が続く。いいや、ここは河原の表現では全く足りない。そうだ、氷と雪の氷河があるなら、石と砂利のジャリ河があっていいか。そうかジャリガか。なんかピッタリ来るな。

 両岸を削られて、そんなジャリガを飽きるほど歩けば、やっと西ノ湖の辺に出る。ゆっくり寛ぐ。しかし皮肉なことに休ませてくれない出来事が起こる。
 おお、浅瀬に水面を割る魚影がある。心踊り、静かに近寄る、そおっとー。一度は遠くに逃げられ、でも待てばまた回遊してきた。波の下に腹が光る。デカイ、とんでもないマスかひょっとして岩魚か?うわわ、60センチはゆうにありそうだ…。
 ん、んんん、でもなんだな、その正体は鯉だった。肩を落としがっくりしたが、そのやけに細長い魚体からこれは養殖の血が入っていない真鯉ではないか?確かに池やお堀で見るあの鯉とは体型がやや違うように思えたのだ。

 あとはまた来た道を戻る。
 途中、あまりに見事な巨木に足を止められ樹皮に触れた。そうして元気をもらった。
 大地に脈々と息づくこの生命体は確かに一歩も動けないが、この地に幾百年生きてきた証が伝わる。細かいことはわからないが存在感と風格が押し寄せ堪らなくなって近寄って触ってしまった。
 幾つかの浜をまた見て、普通の山なら見られない景観を再度楽しみ帰りに着いた。

記:治田

【記録】
8月4日(土)
 菖蒲ケ浜入口10:30〜西ノ湖11:30〜隠れ滝12:30〜二俣14:00泊
8月4日(日)
 発7:00〜稜線〜三俣山8:30〜シゲト山手前10:00〜南沢下降〜西ノ湖12:00〜P地14:30



@中禅寺湖の浜は山に囲まれ最高ー、うっとりだ

A観光船の船着場。砂浜で遠くにどっしり男体山。沢に向う気がなかなかわかない

B西ノ湖のほとり。だいぶ奥まってきた。目指すは名の知れぬ小さな沢

C見よ、これが隠れ滝だ。くさびの割れ目に流るる清水。
緑の釜も深く幽邃の感あり

D隠れ滝を右から巻いて人跡稀な沢筋一息で第2発の滝。
暗く光り登れそうだが難しい?早速右巻きで越える

E二日目の三俣山からの錫ケ岳の頂。何度も立っているがまだ沢を変えて訪れたい

Fシゲト山に向かう途中の笹原の石祠。
突然の出合に深くお辞儀し参拝する。昔足早にかけ抜けた修験僧を想像する

Gこれが南沢の下部のジャリガだ。
写真以上に凄く両岸を削り延々と続く。石の雰囲気から2011の秋の豪雨のつめ跡かも知れぬ

H触れて挨拶を交わした巨木。確かに幾星霜生き抜いた風格と温かみがあった


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