■足尾/倉見川本流〜袈裟丸山〜奥袈裟丸山〜倉見川支流(下)

2012.10.20-.21
治田
 ひそかにね、それは彼との出会いを新鮮な面持ちで待っていたんだ。
 足尾山塊はけっこう通っていて、だいぶ足跡が付いてきた。でも、やはりまだ足りない。
 そんな中、栗原川の遡下降の継続は心に響く感動と充実がもらえた。そんでね、まだ良い谷があるだろうと、ひそかに倉見川に想いをよせていた。
 結果を先に一言にいえば、下中流の渓のヨソオイはgood。上は涸れ沢ゴーロで長く単調。でも、ま、袈裟丸連峰も縦走できるし、関東の近場で楽しめる二日の谷と推薦したい。


ダムからスタート

左岸岩壁の沢床

ナメ滝30m美味

直瀑5m左から越える

落ち着く滝

まず熱いラーメン希望

お宿の全景

最後のつめのナメ

秋の袈裟丸山の頂う
 国道50号から122号の大間々から足尾へ入る。赤城の山腹を周り、根利の集落へ分かれていく。街道から外れて、でも、想像以上に家並みが固まって続く。
 宿もあるそうで、足尾銅山の盛衰による集落の動きがあったようだが、詳しくはわからない。

 林道をひたすらつめる。舗装から砂利になり、ゲートも登場だ。
 あれれ、これはヤバいと思うが、獣除けの柵らしい。開いて閉じてレッツゴーだ。

 新地川の分岐も過ぎて、倉見川の林道の始めに駐車する。
 ネットでそれなりに調べていたが、下部はダム湖があるとのことで林道経由でその上部に入る予定である。


 倉見川の林道はさらに痛んでいるが、わずかな距離なので分岐に駐車する。
 林道を少し歩いてダムのコンクリがあるところから下降する。笹薮からトラバース道でダム上の河原に着いた。明るくていい。


 陽は差すが風は冷たく秋の谷だ。うれしくて一歩の歩が進む。
 左岸の壁が屹立してナメ模様の壮観さ。きのこ取りの若者と出会いしばし談笑。

 滝も出てきて秋風に木の葉舞うなかの漂う遡行は久しく忘れていた自然への回帰願望がよみがえってくる。
 そうだ、山とは挑むものでもフィジカルな運動エクササイズでもなく、ましてや経験値のための場数を踏む所でもない。今ある山に心より感謝して歩き楽しむこと、そこにある。

 ナメや釜をいくつも越えて、砂防ダムも越えていく。
 背中が疲れ、都会の疲れも出始めるころ、時も3時過ぎ。ほどよい空間があった。今日のしめはここに決める。


 薪を小山にする。砂地を撫でてツエルトをこしらえる。火を起こせばもう先の願望の半分は叶えられる。
 焚火缶の蓋が泡で動き出せば、一日の疲れをいやす食べ物、ラーメン、鶏肉、オクラの炭水化物や動物タンパクに青物がそろう。湯気を飛ばしハフハフとほうばる。体に染み渡る。濃いウイスキーをぐっとやる。
 あたりは暗くなってきた。冷たい風が体を通りさらに杯が進む。やっと酔いが廻ってきた。でも、話相手もいず、一人の夜は早い。
 くべるだけマキをくべて体を温め、ねぐらに潜り込む。軽装備だからぬくもりはない。じっと丸くなって山に居る実感、次の願望を楽しむ。



 明けて二日目。

 そこから先はそう変化は現れない。幾つも分かれる支沢からゴーロが続き、延々と連なる。大岩のゴーロで紛れもない袈裟丸火山の跡を記すものだ。

 ここで、ちょっとした転倒だ。だが、無理に防いだ体制で両膝の裏側を伸ばしてしまう。特に左膝をやってしまう。この傷は一か月後にひどく痛みだし曲がらなくなってしまう。このレポートを書いている12月頭でやっと日常の動きができるようになったぐらいだ。
 会の訓練山行やその後もフリーも相当に痛みがあったが何とかなるべえで動いていたが、一時は痛みで寝込んでいた数日があった。


 さて、話を戻す。本谷のルートの読みは要求されるが、どの沢を選んでもゴーロ状である。か細いつめからほんの十数分で山頂だ。

 誰もいない。覗く景色は良好。辺りの山々と久しぶりのご対面。冬型の風が吹いている。苦労した冬の縦走がしのばれる。目の前の前袈裟丸からこの頂までどれほど苦汁したか、でも、その苦労が今では回顧し懐古している。懐かしいのだ。

 また、この寒風の中、谷川の一ノ倉の2ルンゼに入ったいる高橋Pが気になった。百戦錬磨の奴と勢いの若い衆のPだ。問題ないだろうが、万一がある。ザッテルを越えても気は抜けない。状況によっては苦労する気象条件だ。頑張れと応援のエールを送る。


 さて、腰をあげ連峰を縦走する。稜線も孤独の歩行。奥袈裟丸にたち手前の鞍部から下降する。急な谷筋を笹を頼り、ガレを下り高度を下げていく。開けたところで林道の壊れた景観が目に入る。

 これで終わりだ。沢はおしまい。崩れた悪い林道をひたすら飛ばして駐車地に戻るのみ。

 足尾にまた足跡を残せた。一つ一つ刻んでいく。足尾の何たるか。足尾とはなんぞや。言葉でなく体で感じるもの。十分なもてなしに自然回帰願望は叶えられた。
 ありがとうと礼をして林道を走り出した。

治田 筆


【写真】


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