■奥只見/大津岐一の沢〜袖沢ミノコクリ中門沢〜会津駒〜串ケ峰沢の一人旅

2013.8.9-.11
治田
 今年は諸々いろんな事が重なった。まず冬場にスキーの帰りに凍結でスピンして事故を起こして、車をオシャカにしてしまった。自治会の役員になり月一回は定期的に会合がある。また、藤坂の事故と閉鎖には、昨年からの会員の事故続きと重なり、ゲレンデ的岩登りとは何ぞやと気が滅入った。仕事はさらに難しくなって、5月下旬に天下分け目の大工事があった。そして、6月に義父が亡くなり、続けてこの8月には実父が亡くなった。悲しいことだが、共に人生を全うしたと思っている。何だかずっとバタバタしているし、疲れが抜けない。それでも何とか時間を作り室内クライミングは続け息抜きをした。そして何とか沢に行き出した。6月から数本向かい調子を戻していった。
 不思議なもので、山に行き、水に浸かり滝を登り藪を漕ぎ、ゼーゼー息を乱していると少しずつ山の勘が蘇ってきた。無理して毎週行ったら弱っていた足腰も痛みは発症するものの多少は強くなった。嬉しいな。前から練っていた只見の沢継続をやれる準備は整ったのだ。
 この計画には誰も乗らないと思っていたし、誰かをあてにしていたらこの沢はできないだろうと感じていた。人を限定して誘うのもどうも苦手だし、そんなわけで案の定、一人になった。また、この先幾つか考えている長期長大な沢に向かうためにもこの只見はこなしていきたい一つだった。
 親父の見舞い(最後になった)後に、現地へ車を飛ばす。尾瀬の御池を越えて小沢平の手前でテントを張り横になる。

大津岐
一の沢滝が現れる
大津岐
続く滝も楽しみながらクライム
大津岐
下の沢で熊の新鮮糞
大津岐
下の沢の明るいナメ滝
大津岐
ミノコクリは悠然とくゆる
大津岐
釜に浸かり右からクライム
大津岐
8と9寸の岩魚塩焼き
大津岐
中門沢は滝と釜もそこそこある
大津岐
ナメが絶品だ。うっとりしてしまう
大津岐
頭上の大きなナメ滝に感動
大津岐
中門の頂の池塘
大津岐
緑の憩いで白米飯を食らった
大津岐
串ケ峰沢のナメ滝
大津岐
下れない滝、左巻きから懸垂

8月9日


 早く起きて現地の林道をつめる。2011只見豪雨の爪痕がすごく何か所か工事をしていた。
 一の沢の発電所の近くに車を止めるが早速メジロアブが襲ってくる。
 万全の準備をして林道を歩くが、この林道は既に車の通行はできないほど荒れている。


 取水口から入渓。砂が多く堆積しているが明るい沢だ。
 白沢岳の尾根越えをするため上部の右岸の沢をつめるが、その前に滝が連バクでご登場。さらに雪渓まで崩壊して出迎えてくれる。メットをポンポンと叩き、貼り付けているお守りに、突っ込みますんで御守護のほどよろしくと唱えて慎重に通過していく。
 また、登れる滝を越して、標高1175m近辺の小さな沢で一休憩。

   ここを250mほどつめると稜線だ。この支沢は小滝がかかるが、山越えラインとはしては正解だ。


 稜線からは袖沢ミノコクリ沢の支流下の沢を下降する。急斜面を灌木を頼りに足早に進んでいく。沢床へはやはり雪国の沢なんで立木が少しでも続いているラインを探して降り立つ。
 この沢も下りには向いているものの、クライムダウン可能な緩い滝ばかりでなく、上部で3つ左巻きでやり過ごした。

 やや広がってくるとクマの糞と遭遇。でかいしヤリたてだ。
 こりゃ親父(熊)の存在を感じ取らないといけないな、親父の住処に入り込んでいるのワイの方だもんな。

 明るいナメ滝を越して、さらに滝が出てきた先に、その親父はいた。途切れた雪渓の上に堂々と歩いている。
 でかい。ワイが見た過去3回のクマよりこいつはでかい。大熊だ。毛並もいいし肩の動きが歩くたびに上下し美的でもある。ここ界隈での王者の風格が漂っていた。
 野生はいいが、眺めてもいられない、こんなんがこちらに来たらひとたまりもない。体当たりをされたら吹っ飛んでしまう。
 こちらの存在を知らせるために、笛を吹き腕を広げたりの体操をするが反応はない。大声で脅かしてはヤバい。考えて「ほーほっ、ホイホイホッ 」とやや高めの声を連発した。
 驚いたことに繰り返したらその声に気付き、物凄い勢いで急斜面を駆け上がっていく。その姿の躍動がまたかっこいいのだが、ワイはビビりで腰が抜けそうだ。

 しばらく声は出し続け、親父の気配が無くなったと感じて下り始める。
 なるほど、マタギが言うようにたとえ大熊でもその性格は臆病なんだなと感じた。逆に臆病だからこそ出合頭とか子連れで鉢合わせしたら、一発で襲ってくると思う。人を食うためでなく熊自身が身を守るために襲ってくるのだ。
 襲われたら正直どう対処していいかわからない。両手を上げてこちらを少しでも大きく見せ威嚇するのか、手持ちのバイルで一発の打ち込みを狙うのか(ただバイルは体に紐で付けているので刺されば自分の体も引きずられる)、どのみち襲ってきたら奴の動きは半端なく速いので逃げられない。あの大きな巨体で向かって来られたらと考えると答えは出ない。
 落ち着けばなんで写真を撮らなかったんだと思ったが、やはりそんな状況ではなかったのだ。
 それからはこの山行は、沢筋では絶えず声を出していた。


 さらに滝を下り、大きな雪渓も潜り抜け、ようやく袖沢ミノコクリ沢に出た。
 本流は御神楽沢だが、このミノコクリ沢も負けずに大きいし、水が重たい。いつかは中門と想い、ようやくここに来れたことに感謝する。
 握飯を食らい、いよいよ渡渉して攻め歩く。滝は大きいものはないが水勢も強く、釜もありで、いつものごとくすぐに取付くことはせず、ラインを読んで滝登りをする。

 金山沢は河原上で出合う。時間も早いが、予定のウグイ沢(地図上はドングリ沢)で泊まりの陣を張り、釣りなど楽しもうと決める。

 ウグイ沢でミノコクリは中門沢と名を変える。少し小ぶりなるが、その先の右岸に小台地があり泊り適地だ。でも数年は客も来ないのか?人跡は見当たらない。


 ツエルトを設けたら、夜のタンパク質の捕獲だ。ウグイ沢に行ってみる。エサは一の沢林道で捕ったバッタだ。30分で4尾。一つは逃がしてこれでおかずは十分。戻って今度は中門沢でテンカラだ。まともに竿を振るのは数回で、今回もダメだろう的な気はあったが、辛抱強く下手な振り込みを続けると当たった。目は悪いのでいわゆる遅合わせ。小さな奴だったが一発目は何よりうれしい。気を良くし浅い釜を手前から攻めてみる。キラリと魚体が反転して食いついたようだ。これも遅く合わせでガッツリ引き抜く。以降食べごろサイズが2尾。でも全部リリース。飲み込まれていなければワイは、逃がすのを基本としている。
 明るいうちから焚火で酒をやる。イワナは塩焼き2尾とイワナ汁にした。やっぱ谷の恵みは美味い。飯もたらふく食い横になる。一人なんで夜は早い。ラジオに耳を傾けウトウトして過ごした。


8月10日


 行程は長いので6時過ぎに出る。

 この中門沢は一言でいい沢だ。お勧めだ。名は通っているので隠れた名渓ではないが、楽しませてくれる。
 大きくはないが登れる滝が続き、釜もゴルジュもある。でもナメがいちばん多い。綺麗でキラキラ水面を反射させながら岩床を滑り落ちていく。ごつい激なゴルジュや滝登攀も嫌いではないが、ここにこれを求めてワイは来たのだ。その予想に反して気持ちの良い渓相は沢登りが素晴らしいと言わしめるほどだ。しかも、交通が不便だからこそ、人臭くなく厳として存在している。中門沢は人跡から逃れた貴重な沢といえるだろう。つまりはこの沢に想いを込めた人しか訪れない。そういう喜びを感じながら一人黙々と遡っていく。

 詰めは最後が密な笹藪。結構きついが辛抱すればパッと湿原に飛び出す。また、笹漕ぎをして登山道に出る。


 中門の名は沢だけでなく岳もいい。とんがりはなく池塘が散らばっている。今しがたの藪から解放されて狐に抓まれたようだ。昨晩炊いた飯にフリカケで腹を落ち着かせる。
 緑の湿地を堪能し鑑賞したら会津駒へ縦走。その頂はもう何回立ったろうか?幾本の沢から、雪のスキーから、春の縦走からと10回は越えている。


 小屋の前の人混みを避けて次のセクションに突入だ。大津岐川の本流の赤柴沢、上流を串ケ峰沢という。登山道から支沢を急降下だ。
 特に水が出てからは滝がないのだが、急で下りづらく足腰、特に膝の抑えが必要だ。

 本流に乗れば、豪雨で噴出したゴロ石だらけでしばらくはガレガレの下降だ。
 滝も幾つか出て、一つ一つは滝頭からラインを確認しながら降りていくが、やはり下れない代物も登場する。落差もあり強引な下りでミスれば致命傷になる。
 左巻きと懸垂下降で切り抜ける。気持ちは充実しているが、思ったより行程は進まない。できれば最終日はスクノシロウ沢をやろうと目論んでいたが、この具合から取りやめることにする。

 大倉沢出合までと思っていたが、小さいが良さそうな幕地があったのでそこに決める。

 本日も竿を出すがまったくだめ。沢は荒れているので中門のようなわけにいかない。
 夜は焚火と酒だ。つまみもよいとある。昨晩同様に米2合を炊き、たらふく食う。1合ちょっとは明日の行動のふりかけ飯にと袋に入れる。なにも握飯状にしなくても自然に団子になり、そこに3種のふりかけで楽しむのだ。今宵は昨晩と同じでゆっくり横になる。


8月11日


 一人の朝は早い。

 行動しすぐに滝が下れずに左巻きから懸垂で抜ける。
   その後に大倉沢を合流し規模も大きくなる。ガレガレもあるが、滝も釜も存在する。大沢岐沢を合流し、しばらくで地図上の道探索をする。

 右岸にあるようなのだ。藪を漕ぐとかすかな人が通れる道があった。だが、藪に埋もれかなり荒れた状態だ。
 丹念に拾い、途中、小ヨッピ川の人工吹き出しの取り水口を眺め、林道終点に着いた。

 おわっと、驚いたことに即メジロアブがまとわりついてきた。歩きながら対策を考える。
 車に着く頃はこの数では済まないだろう。まだ少ない今時点で準備は済ませ、車近くでの着替えと装備着脱はしないとした。
 防虫ネットを被り、登攀具はザックにしまう。ただ熊が怖いのでバイルは手にし ていた。
 凄い数になったので散々殺生をしたが、暇つぶしに数を数えた、59匹をつぶしたから、その前を含めれば100匹以上になる。

 長い林道歩きで途中、あまりに美しいミヤマカラスアゲハの乱舞に感動しそこで腰を下ろし観察しようしたが、メジロの凄さに歩くしかなかった。500匹近くはまとわりついていたと思う。


 車に着いても行動はしない。じっとして殺しながら少しでも退散するのを待って一瞬で中に入るがそれでも30匹は入ってしまう。
 汗だくの恰好だが、とにかく本線に出るまで辛抱だ。林道から舗装道へ出て、着替えをし、往路とは逆コースで帰路につく。桧枝岐の駒の湯で汗を流し、3日間を回想した。

 今回とった只見の大津岐川の沢とミノコクリ中門沢は実によき沢と山だった。名声は届かず数えるほどの沢屋しかつめ上げていないだろう。総合的に3級ぐらいの難度かなと思うが、楽をして立てる頂ではないと思う。特に沢の継続という工程が意義深い。つまりここは道が少なく限られた所しか歩けず入山できない。それを計画しつなげて周遊するには沢を辿り沢を下りの繰り返すしか術はない。地図を眺め情報得て、どんな経路として計画を企てるか。それ自体とても楽しいことだが、それを現地で実践すれば、机上の想い以上に様々な事柄が発生する。うまくいくことや苦労すること、それらを一つ一つ解決していく。汗をかき足が棒になり口はへの字になる。何度か諦めムードも出たりする。でもそれ でも、やりたいと願った沢だ。
 また一つ只見のそこに、ワイのハートをぶつけた3日間があった。

治田 筆

【記録】
8/9
 一の沢林道7:15〜一の沢上部右岸支流9:30〜白沢岳稜線10:30〜下の沢下降袖沢11:45〜ウグイ沢13:15 泊
8/10
 幕地6:15〜中門岳10:40〜会津駒11:30〜串ケ峰沢下降12:00〜本流12:45〜大倉沢合流手前15:00 泊
8/11
 幕地6:30〜赤柴沢下部・大沢岐沢8:30〜林道・大津岐ダム〜車11:00

地図1/25000 会津駒ケ岳・高幽山


【写真】
大津岐 大津岐 大津岐 大津岐 大津岐 大津岐 大津岐 大津岐 大津岐 大津岐 大津岐 大津岐 大津岐 大津岐

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