谷川岳一ノ倉沢衝立岩中央稜
山域/谷川岳一ノ倉沢衝立岩中央稜
メンバー/渡辺、岩田、T(会外)
期間/2014年7月12日(夜行日帰り)
週末、金曜夜行でどこかに行きたいな〜と適当に行きたいリストをMLに流したところ、「じゃあ中央稜くらいなら」ということで岩田君が組んでくれることになった。
…今にして考えれば、何が「中央稜くらいなら」なのか。俺も岩田君も、「衝立岩中央稜は、一ノ倉デビューの1本目にちょうどいい、簡単な岩稜」くらいにしか考えていなかった。
木曜の晩に、久しくザイルを組んでいない栃木のTさんに声をかけると、実に軽く、一緒に行こうかという話になる。
いやあ、「一ノ倉を舐めたらいかんぜよ」と、出発前の自分たちに言い聞かせてやりたい(笑)。
7月11日
最終で水上駅へ。ここで岩田君にピックアップしてもらい土合ロープウエー駅の駐車場へ。ビールを飲んで寝る。
実は、スキャンした資料やネットの資料、計画書一式が入ったUSBを紛失し、そうしたものを全部水上のコンビニで出力するつもりだったので、資料が全然ない。
岩田君はチャレンジアルパインを持ってきてくれたのだが、それは南アルプス編だった…
7月12日
5:50ごろ土合ロープウエー駅駐車場出発 6:40一ノ倉沢出合駐車場 7:00テールリッジ基部 7:45中央稜取り付き 11:00ごろ5P目終了点(ピナクル) 12:40衝立の頭
15:35衝立前沢 16:45本谷に上がる 17:00一ノ倉沢出合駐車場
朝、栃木から来たTさんと合流。Tさんは、登山大系のコピーと、「冬の」中央稜の資料を持ってきた。
おまけに来る途中パンクしたらしい。
朝飯を食いながら、「どうもツキ回りが悪いから、とにかく、下降の懸垂は基本を守ってザイルの末端結束はしっかりやろう」と打ち合わせる。
ちなみに我々がテントをたたんでいる間にも登山者やクライマーが続々出発していく。でも寝不足も危ないしね。
指導センターに計画書を提出し(このために都岳連に加入しているようなものだ!)、ショートカット旧登山道と忌々しい林道を経て一ノ倉沢出合へ。
ゲートで封鎖してバスを走らせるのは水上の貴重な財源として我々登山者も理解するが、せめてクライマー用時間(朝5時くらい)にも1本走らせてほしいものだ。
出合でクソしたりしてからガチャを付ける。すでにテールリッジに何パーティか見える。
本谷はすぐに雪渓に覆われ、ひょんぐりの滝も完全に埋まっており危険な雰囲気はみじんもない。
あっさりテールリッジに着く。途中2人組に抜かれる。この二人は南稜であろうか。
大汗をかいて中央稜基部に到着(水は各自2L担いだ)。一息入れて取り付く。先行はすでに3P目くらいにいる。
1P目 岩田 3+
すぐ上に見えているビレイ点まで。近くに見えたのは錯覚で実際には30m以上ロープが出た。ビレイ点手前がちょっと渋い。
2P目 渡辺 3-
ビレイ点のすぐ横にもうひとつビレイ点があり、そこから真上に残置が何本かあるが、こんな直上ライン上れるはずがないのでトポを読むと烏帽子側に回り込むとあるのでその通りにしたら浮き石だらけの階段状に出た(帰ってから資料を見たら、直上のラインもあり、10aらしい)。
ペツルと腐れのビレイ点でピッチを切ると、頭上を落石が通過し、そのあと土が大量に降ってきた。ビビる。ていうか帰りたい。
3P目 渡辺 4
ビレイ点から少し下がって右にトラバースするがこの2手ほどが極めて悪い。ちょっと魂が口から出る。もっと下からトラバースだったのか?
おまじないのカムを決めてなんとかトラバースすると、ご褒美のように快適なリッジ&フェース。
4P目 渡辺 5-A0
なおも快適なフェーズにザイルを延ばすと段々行き詰まり、右手のチムニーに。チムニーに入るまでが脆く、「まあ、これは【危険】を回避するためだから」とフィックスを掴んでバランスを取る。チムニーに入ってからは、悪い上に濡れている。怖いのでキャメ0・5、0・75を固め取りしてから右壁に背中を押し付けずり上がるが、抜け口で怖くてピトンをスタンスにA0。た、魂ィ〜!言い訳しようのないA0であるが、ま、フリーをやりに来てるんじゃないしな(笑)岩田君はちゃんとフリーで上がってきたようである。さすがだ。Tさんはランナーを取り忘れて1テン。雰囲気に飲まれたか。
5P目 岩田 4
クラックの走った快適なフェースを岩田君がリード。楽しそうだ。フォローするとやっぱり楽しい。ところで岩田君は残置主体で登っていたが、せっかくクラックがあるんだからもっとカムを使った方がよいと思った。
ピナクルの裏でビレイ。このピナクルのせいでコールが通らずちょっと時間をロスした。
ちなみに南稜には3パーティほど取り付いており、彼らのコールはものすごくよく聞こえる。烏帽子奥壁(変形チムニー?)に取り付いているパーティもいる。
7〜10P目 岩田 おおむね3-
登山大系には、まるで草付の踏み跡みたいに書いてあったが、ザイルが要らなさそうだけどやっぱり要る微妙な部分が続く。システム的にこのまま岩田君に引っ張ってもらった方が楽なので都合4Pもトップをお任せしてしまった。で、結局衝立の頭までフツーにスタカットしっぱなし。どこが踏み跡だよ!!足並みが揃った力あるパーティならコンテはありだと思うが、ノーザイルはないと思う。
ちなみに久々にハーネス履いたままウンコしてしまった。ずっとカマしたかったのだが、土曜日にルート上でカマすと間違いなく日曜日に迷惑を蒙るクライマーが出るので、「ルートから外れ、かつ安全にできるところ」を探していたのだが、ボロいビレイ点の脇に50cm四方の平らなところが衝立沢側に突き出ており、「ここだ!」と、ビレイ点にカウテールをクリップしてビレイを取りつつカマした(フォローなのでメインザイルからもビレイされている)。
ビレイ点に着くと、岩田君から「お土産」がズボンやハーネスについていないか心配されたが、俺はこの道ではちょっとキャリアを積んでいるのでそんな心配は無用である。
Tさんからは「隠してきた?」と聞かれたが、隠すための材料は石しかなく、それを使うと落石の恐れがあり、落石よりはウンコが視界に入る方がいいよなあと思って公開したままにしておいた、と答えたら微妙な顔をされた。
都合10Pで衝立の頭に到着。一服して下降開始。(登ってきた方から見て)右手の踏み跡を辿るが結構交錯している。いちばんしっかりした踏み跡を辿ると、物凄い高度感のジャンプ台的岩場に立派なステンレスチェーンアンカーが整備されているではないか!安心して懸垂。40m3発で深い笹藪に到着し、踏み跡(スリップ要注意、時間があるなら懸垂でも)を辿ってもう一発。確かまたしても藪に出る。さっき踏み跡が悪かったのでそのまま踏み跡を辿るように懸垂していくと「浮いた立ち木」に出る。根の一部が浮いているだけで全然大丈夫そう。こいつで「50mロープでも完全には届かない」空中懸垂をするが楽勝で下の岩場(コップスラブ)のフィックスに届いた。
ここでなぜか藪の中から2人組が現れる。中央稜を先行していたパーティで、北稜の下降で誤ったラインを下ってしまったようだ。実は岩田君の知り合い。藪でだいぶ体力削られたようで大休止を始めた。
我々は先に下り始めたが、このフィックスを辿ると本日最悪の支点での懸垂を強いられた。最初のステンレスアンカーとギャップがすご過ぎる。「ひどい!これはない!」「これ駄目でしょ」「なんか打ち足せない?」「あっちの藪から下れない?」「ダメ、ゼッタイでしょ」などと色々話し合うが結局これを使うしなさそうだった。ちなみに「ダメ、ゼッタイ」は本日のキーワードで、いろいろな場面で使っていた気がする。もしボルトキットを持ってきていたら躊躇なく打ち足しただろう。スリングも腐っていたが、場所が悪すぎてスリング切断も怖い雰囲気。あきらめてこいつで懸垂。
いいだしっぺの俺がトップバッター。抜けたらコップスラブをバウンドしながら本谷まで転がって「即ロク」であろう。10mほどの垂壁部を無事降りると心底ホッとする。その後は顕著なピナクルに向けてトラバースするように懸垂。ピナクル基部で合流し、無事を喜ぶ。ここにもなぜか支点があり、既に死んでいるリングボルト3本(1本はリング破断)に腐ったスリングと、なぜかピカピカの環ビナがついている。岩田「ビナだけ立派でも意味ねっす!(笑)」確かに。岩田君は事あるごとに水戸弁で笑ってくれるので、こっちも楽しくなる。
ピナクルからは顕著な踏み跡がありこれを辿ると沢に出合うので、渡渉して対岸の広場っぽいコル(これが略奪点か?)に上がり、目の前の枯れ沢を下る。これが衝立前沢か自信がなかったが、虎ロープや赤テープ代わりのスリングが出てきて一安心。
ところが最後の最後で滝が出てきて、しかも本谷の雪渓は船の舳先のようにこちらにハングしながら突き出ている。「マジで〜?」と思わず声が出る。
とりあえず左岸の立ち木で懸垂し滝をクリア。雪渓に近よって弱点を探す。5月に急傾斜の雪渓でハマって「誰か〜!」と叫んでいる登山者を助けたばかりのTさんに「どう思う?」と聞くと、「潜ってみてはどうかな?」。ブラックすぎる冗談である。ちなみに底からは白い冷気が漂っている。
右岸に登りやすそうな所があったので、悪い草付きトラバースで雪渓に取り付き、カッティングとダブルアックス(ハンマー二刀流)で上がる。特売で買ったミゾーのミニバイルと岩田君から借りた同じくミゾーのロカは、どちらも十分効いたが、やはりミニバイルの方がこういう時いい。ちなみに帰ってから資料を読んだら、滝を懸垂した後左岸の踏み跡に入る的なことが書いてあったがおそらく今回は雪渓が邪魔でその踏み跡はつかえなかっただろう。我々が雪渓に上がったところで、水戸の2人組が滝上に現れ、懸垂が必要な滝と上がりにくい雪渓に、我々と同じく「マジで〜?」と声を上げていた。
まああっちはもっとピッケルに近いハンマーを持っていたので上がるのはより簡単であろう。悪いがお先に行かせてもらう。軽アイゼン持参のTさんはサクサクと、俺と岩田君はじわじわと雪渓を下降する。すぐに傾斜が緩み、あっという間に対岸の踏み跡に入ることができた。
出合に出てテントの人に写真をお願いし、集合写真。あとは林道を、疲れた体を引きずって駐車場に向かって歩く。ジュースで乾杯して解散。岩田車に同乗し水上駅で降ろしてもらったら、ちょうど高崎行が行ってしまったところで、次を待とうにも定食屋の類はすべて暖簾を下ろしている。一軒だけ開いていた土産屋で聞いたら、温泉街まで行かないと飲み屋とかは開いてないよ、と言われ、岩田君の好意に甘えて前橋まで送ってもらった。
<感想>
突発的な山行だったが、非常に充実した山行だった。同ルート下降ではここまでの充実感は味わえまい。「山を登った」という気がする。
登りは(全然フリーの練習をしていなかったせいなのだが)十分に手ごたえがあった。
下降では、慎重に踏み跡を探し、支点を探し、地形を見て、絡まないように慎重にザイル操作し…と一生懸命で、最後には雪渓処理。
Tさんが「何か、総合的に力を使ったのがいいね」と言っていたがまさにその通りだ。そういえば、カッティングなど学生の頃以来か?
そして最後に振り返ると、自分の登ったルートがハッキリ見える。これはいい。
結構疲れたので、もし雨とか降ったら結構ヤバかったと思う。一ノ倉と言うところは本当に恐ろしい。
ところで、Tさんが、山行中何度も「誘ってくれてありがとう」と言っていた。本当は今週末どこかハイキングでも行こうかなと思ってたけどなかなか最後のやる気が出なかった、と。
他人からの誘いは、そういう踏ん切りがつかない所で、背中を押してくれる。
山岳会にいると、そういうのがあっていいね、ともTさんは言っていた。
その通りだ。自分で計画を立てなくても山に行ける。
でも、たまには、自分が背中を押す側にならないといけない。
誰かにもらったものはいつか誰かに返さなくてはならない。それは「社会」を支える基礎的で素朴な習慣だ。習慣だから、情報化だのなんだのが進んだ現代では、金が媒介となって「サービス」だのなんだのに置き換わっている。でも、我々登山界では未だに、媒介なしに、直接に「貰い、返す」ことをしていかないと、いずれ立ち行かなくなる。…などと、代表らしいことを色々考えさせられる山行だった。
同行してくれた岩田君・Tさんに感謝。
<テクニカルメモ>
・マスターカムの青・黄と、キャメロットの#0.4〜#2を持って行ったが、大活躍。でもさすがにキャメ#2は不要だった。エイリアンサイズ〜キャメの赤(#1)までを持っていくと安全性が高まるし、それほど重くないと思う。
・コールが通りにくいところが何か所かある。笛を積極的に使うとロスがなくなると思う。
・ハーケンは持って行ったが使わなかった。肝心なところではリスがなくて使えなかった。
・何があるか分からないのが谷川。やはりボルトキットは持って行った方がいいと思う。最後の懸垂支点は脱法ハーブで車を運転するくらいには危険だった。思わず「ダメ、ゼッタイ」と言いたくなる。
・ミゾーのミニバイル実戦デビュー(俺の割にはずいぶん張り込んだ)。雪渓の上り下りでは、ハンマーよりちょっとだけ長いシャフトとちょっとだけカーブしたピックが威力を発揮した。しかし沢の下降とかでは微妙な長さが邪魔だとも思った。一長一短か。でも実は、ロカより軽いのよ。
文責:ナベ
↓本谷
↓4P目をフォローするTさん
↓5P目をリードする岩田君
↓衝立前沢の下降
↓出合にて