2014年9月6日〜7日(前夜発一泊二日)
佐藤、佐野
室谷川の駒形沢を登りスラブから駒形山に立つ。そして反対側の西の沢を下降し、室谷川本流のハイライトセクションをおいしく下降する。 はて?どうしてこんなハードな計画になってしまったのか?
そっちから言いだしてくれたのはうれしいけど、これ、きついよ。 日本の渓谷97の浦和浪漫やトマの風ほかいろいろの記録をベースに計画した行動時間が初日11時間、二日目8時間の行程。余裕はまったく見ていない。しかも記録は少なく、登山大系にも紹介されていない。不確定要素が多いのだ。 順調に進み、且つ楽しめる可能性は5割くらいか?それでもやりたくなる何かがある。Ok,やる気のあるときにやるのがベストだ。天気も味方してくれている。
ちなみに佐野さんは抱返(湯檜曽川)より楽だろうと思ったそうな。そんなわけないでしょと言ってしまったが、そんな感覚が心強い。そういえば、もともと水曜日までは抱返沢に行こうとして天気予報をチェックしていたのだが、二人ともだんだん今回は抱返は無しという気持ちになり、直前の木曜日になって室谷川方面に行くことにしたのだった。 そこで、以前から提案していた駒倉沢〜倉沢谷のプランが浮上したのだけど、「山頂に立ちたい。スラブいいね」ということで駒形沢となり、さらに「同下降ではつまらん」となってあれよあれよという間に、内容盛りだくさんの妥協を許さないプランになっていた。 こうなると期待MAX、気合い120%、気持ちが入ってきた。直前に決めたにもかかわらず、昔から思い描いていたルートのような気持ちになっていた。
アプローチは佐藤の自宅近くの荒川沖駅21:00集合で現地一時過ぎ着。仕事やトレーニングの疲れをひきずっており、少しでも楽をしたかったので助かった。津川で高速を降りたのも日付が変わったすぐあとで土日割引に入りタイミングがよかった。 アプローチ中、佐野さんがクライミングシューズを忘れたと言う。今回現地で相談して決めることにしていた装備はツェルトorタープ、クライミングシューズ、ウェットタイツの有無といろいろあったが、1つは確定した。他はツェルト、ウェットタイツ使用となった。
室谷川の林道はしっかり舗装されていて走りやすい。入渓点の堰堤手前の砂利道に入ると車を10台くらい停められそうな広場があるのでそこに停める。満点の星空だが、蚊が多いので星をのんびり眺めたりはできない。
予定では6時発だったが、どうしても起きられず寝坊して7時発。見えている堰堤へ強引に藪漕ぎしていき、堰堤を巻こうとすると…道路に出た。道路側から回り込めばよかったらしい。その場合は駐車地から3分で入渓できるだろう。
入渓早々まさかのアブ。しっかり噛みついてくるから鬱陶しい。しかしどうだ、この明るい雰囲気は、水はきれいで、石がカラフルに輝き美しく、ゴーロ歩きですらたのしい。 進むにすれ、どんどん雰囲気が美しくなっていく。まったく期待を裏切らない。駒倉沢の出合いをすぎると、瀞が出てくる。ああ、美しい。こんなところを泳げるなんて。しかもいい天気で水温もプール並みに高い。
淵の先に滝が見える。この先はどうなってんだ?行けるのか?と思うが行ってみると陸があって、大きな釜のある5m滝だった。右岸は柱状節理の壁になっている。手前の淵もすごかったが、なかなかの光景だ。ここはトマの風の記録と同じく右から登る。見た感じ悪いが、実際悪かった。リードは空身で荷揚げ。しかし、ワンポイントどうにも滑りそうでリードもフォローも10分くらい蝉になった。落ちてもドボンだろうけど怖いもんは怖い。 そして落ち口にまた釜。面白い。どうなってるんだこの沢は。うっかり流されれば、滝からおっこちちゃうかもしれないので必死に泳ぐ。実際には流れが遅いので危険はない。…たぶん。 このあたり、今日の行程のメインを駒形沢のスラブとするならば、まだアプローチの前半なのだが、すでにかなりの楽しさと充実感だ。
駒形沢出合いの手前の長い瀞は先が見えず恐ろしいので巻いたが、なかなか沢に降りられない。ここは帰りは沢の中を泳いで下った。ここは日本の渓谷97で「右岸に30mの垂壁を持つ淵」とされているところだろう。
いよいよ駒形沢だ。駒形沢は水量は少ない。しかしやはりここもやはり美しい。しかも展開が早い。ナメや樋状などいろいろだ。少し滑りやすかったか。そして巨岩帯になっていく。トマノ風が遡行したときには雪渓が嫌な感じに残っていたようだが、今回雪渓に悩まされることはなかった。 巨岩のトンネルを過ぎるとわずかな平坦部を経てスラブ帯に入っていく。少し悪いスラブ滝を登っていくと、二又となる。日本の渓谷97では右又から行っているように読めるが、ここは左だろう。トマの風は左のようだ。左のずっと先に「桃尻スラブ」らしきスラブが見えている。 何度か流水溝を乗り越えて左へ左へと進む。駒形沢では流水溝はだいたい山頂より右へ向かっているので山頂を目指すと左へと乗り越えていくパターンとなるようだ。 桃尻スラブは右側の階段状から登り、左へとトラバースして入った。割れ目に入ってしまえば、傾斜の強い部分はツッパリになるがだいたい歩ける。入らずに右端を進むと細かいポケットを拾って登って少し悪かったらしい。
桃尻スラブを超えるとまた草っぽい沢になる。途中、6m程度の滝が現れたが、中段で行き詰ってそこから不安定なショルダーで越えた。トマノ風の記録にある「登りづらい小滝」だろうか。この滝の上で水線は右の切れ込みに入っていくと行き詰り、戻って左のスラブ状に乗った。
垂直の割れ目のある立った壁が見える。その右上にはさらにドームがありそこも悪そう。左は簡単そうだが遠回りでめんどくさい。ということで、右から登りドーム基部をトラバースして中央に戻る作戦で登ることにする。傾斜が緩くなるところに生えている灌木を狙って行ったが調度灌木のあるあたりが悪かった。ドームの下を回り中央へ。ここは脆い。岩の表面が手で取れる。「引っ張ると取れるけど乗る分には大丈夫」(by 佐野)という理屈でどうにか切り抜けた。さあ、山頂か、と思うとまだ岩が続く。もう近いはずだが、こういうときは遠く感じるものだ。ときどき傾斜も強くなるが、岩の状態を確認しながら慎重に登る。ロープ出せよと思っても支点はほとんど取れそうにない。そんな状態が思ったより長く続いて精神的に疲れた。
最後は藪漕ぎ20mくらいで山頂に到達する。周囲を探すと5mくらい横に少し倒れた三角点の標石があった。藪に覆われているかと思いきや、展望はよい。矢筈岳、御神楽岳がよく見える。
下降は稜線を少し歩いて踏み跡を探そうかと思っていたが面倒になり、藪に突っ込んで下降する。10分もすると流水溝に入った。下降していくと次第に合流していき沢らしくなっていく。何度か滝が現れ、灌木をつたって巻いて下った。時間が押しているので、いいところがあればすぐにでも泊まろうと思ったが、なかなかいいところがない。 結局、700mくらいのところでちょっとした河原があったのでそこに泊まった。しっかり整地したので寝床は快適。なんとか薪を確保し、たき火もできた。ただ、ちょっと沢が近く、20cmも水位が上がれば水没しそうだった。
焚火をしながら飲んでいるうちにぱらぱらと小雨が降り出す。気がづけば23時を回っていたようだ。焚火をしていると時間がたつのが早い。
雨が降っている。佐野さんは増水が心配で何度も起きてチェックしていたそうな。佐藤は何度か目が覚めたものの、ほぼ熟睡。ツェルトの中で茶を飲みラーメンを食べ、外に出るころには晴れた。
西の沢の下降が続く、意外に滝が多いが、だいたい巻いて下ることができる。 駒形山の形のせいなのだろうが、駒形沢も西の沢も下部は平坦で急傾斜で立ち上がる沢なのだ。 本流に降り立つまでに懸垂は4回したが、25m滝は途中の細い灌木でピッチを切った。15m+10mくらいだったので50mロープなら届いたかもしれない。
沢の様相が落ち着くころ、右手には「裏の山」のスラブが目立ちはじめる。それよりも前方に見事なスラブの山がちらちらと見えて気になった。次の目標か!と思ったが、未だにどこか同定できず。どこかの尾根の一部なのだろうか。
室谷川本流には懸垂で降り立つ。本流の流れは非常にゆるやかで、「(行先は)あっちでいいんだよね?」なんて言いたくなるくらいだ。 ここからの本谷はすばらしい美しさだった。つぎにどんな美しい光景が待っているのだろうとドキドキしながら進む。白くなめらかな壁にかこまれたゴルジュ。水温は高いので泳ぎも快適。魚も泳いている。オタマジャクシも泳いでいる。蛇も泳いでいる。とにかく楽しい。それがかなりの時間続く。西の沢出合がら駒形沢出合までがまさに本谷のハイライトなのだろう。
駒形沢出合をすぎても、巨大な淵(行きは巻き、帰りは泳ぎ)、5m滝(行きは登攀、帰りは懸垂)、そしてまた淵と泳いだりへつったりする。いいかげんくたびれてきた。駒倉沢をすぎれば一気に平凡な河原歩きとなる。日差しは強くて暑い。暑さのせいか浸かりっぱなしの冷えのせいかよくわからないが、なんだか気持ち悪くなり体調がおかしくなってしまった。帰りに温泉に浸かったら復活したので、やはり冷えたのか。
駐車地ではアブがたくさんいて、何匹か車への侵入を許してしまった。御神楽温泉みかぐら荘で入浴。風呂から出ると調度、食事処の夜の部の開始時間の17時となったのでついでに夕食も食べられた。帰りも渋滞知らずな磐越道、常磐道で21:30頃つくば駅で解散。
会心の山行だった。期待をはるかに超えていた。もう今シーズンの沢は終わりでいいと思ったくらいだ。目いっぱい楽しんだし、すごく疲れた。内容盛りだくさんだったせいか、細かいところの記憶が飛んでしまって、この沢の魅力を十分に伝えられないのが残念だ。いや、他の記録を見てもやはりうまく伝わってこない感じがする。言葉や写真では表せない良さなのかもしれない。とにかく我々はあのとき最高に楽しく幸せだった。それだけはここに記しておきたい。