朝日・祝瓶山/野川コカクナラ沢


祝瓶山は、今年の初夏、天候不順でジロト沢の転進先を探しているときに浮上した山だった。東面のスラブがかなり面白そうだと思ったけれど、そのときは雪に埋まっていると思われたので候補から除外し、いつかの秋の行先として温めてきたのだった。 さて、この週末、ここのところ疲労を蓄積しすぎているので山はお休みしようかと思っていたところが、佐野さんから誘いがくる。軽く日帰りならいいかと思ったが、佐野さんの案はなんだかハードそうな越後の沢とかじゃないですか。ちょっときびしー。 どこか提案はあるかと言われれば、頭には祝瓶山があって、それは佐野さんも同じだったのであっさり決定。しかし、遠い。今はすでに金曜日の午後だ。で、金曜夜発って、え?、と思ったけど、帰りのことを考えれば下山の翌日の朝に返ってくるしかない。それなら宴会もできるし調度いい。

祝瓶山、形が良くて、東北のマッターホルンと呼ばれるらしい。沢登の対象としては金目川が有名なようだが、沢+スラブとして探していたので狙いは東面のヌルミ沢とその奥壁だった。 しかし詳しい記録が見つからないため、悩んだ末コカクナラ沢に行くことにした。いつか行くために下山時に登山道からヌルミ沢を観察しようと考えたのである。 コカクナラ沢もまた記録が少ないが、 福島登高会の記録 が詳しく、行けそうだと判断できた。 でもスラブで8ピッチ以上ロープを出したとか、抜けるのに6時間から11時間とか。条件より力量に左右されそうな感じだ。さてさて、われわれはどうなることやら。

荒川沖駅集合2130で常磐道、磐越道、東北道福島飯坂ICから米沢を経て長井へ。現地林道途中0230くらいに力尽きて広場で寝る。道は狭くてうねうねだし、山側にも側溝があったりして落ちそうで怖い。 どんなにくたびれていても、いつも通り遅くまで飲んでしまう。寝るときに聞きたくな いけど聞いてしまった時間は4時半。あああ、6時起床予定なんだけど。

9/27

予定より少し寝坊してから移動開始、まずは林道奥の祝瓶山荘まで行く。祝瓶山荘って一軒ぽつんとあるくらいかと思っていたが、4軒くらいあって集落みたいだ。 駐車場には車が4台停まってた。林道の状況からすると意外だが、よく人が入っているようだ。 電話ボックスにある登山届に記入して出発。

野川にかかる吊り橋をわたってすぐにカクナラ沢に入渓、そして最初に出合う小さな沢がコカクナラ沢だ。入渓早々滝が出てくる。滝はいくつかあったが思ったよりも悪かった。 確か2回ロープを出したが、どちらも巻なのだが、その草付が悪い。一回目は直登した方が簡単かもと思ったが、途中で見てみれば明らかにぶったって、というかかぶり気味で、安易に取り付かなくてよかったと思った。二つ目は滝の途中で行き詰りロープを出した。これまた草付が予想外に悪かった(佐野リード)。 ここで、左のバンドに乗って登ろうとしたが、その先が悪そうなので左の草付に逃げたのだが、ここは上部で滑りそうな樋状となっており、やはり安易に登らなくて良かった。

沢は途中で大きく右へ屈曲する。屈曲点の上には岩峰を持つ壁となっていってそれはそれは悪そうだ。これが見えるたびに、やばいなあ、目指すルートもこんな傾斜だったらどうしよう、と思った。 屈曲点をすぎると、いよいよ目指すスラブが見えてくる。谷はさらに右、登山道のある東尾根方向に逃げて行き、山頂側はスラブの壁となっている。 地図から読める急傾斜部は1100mから1270mまでだ。 ルートはいろいろあるようだが、山頂直下を目指すルンゼっぽいラインが一番よさそうだ。見上げると稜線上の紅葉と青空が美しく、非常に気持ちがいい。 出だしのスラブ滝は右から巻く。しかし、この草付がまた悪い。ニラのような草はしっかりしているが、傾斜は見た目より強く、ぬるぬる滑る足元が硬くまったく決まらない。普通こういうところには弱点があって良く観察すれば、獣か人間の通り道があるはずなのだが、そういう弱点がないのだ。鹿の糞は見かけたので、地面が硬すぎるということなのだろうか。とにかく私にとって今年一番悪い草付だった。

スラブに入ってからも油断大敵だ。この沢はすべてが見た目より悪いのはここまでで学習した。各々自分にとって弱点と思えるところを慎重に登る。 ふと佐野さんを見ればとんでもない急傾斜のところをフリーソロしているように見える。ということは向こうから見ればこちらも同じなのか? 少し谷状となり、どん詰まりの急傾斜部を抜け、傾斜が落ちたところで藪漕ぎに突入する。この藪が非常に攻撃的で要注意だ。やたらと鼻の穴と目を突かれた。 なんとなく弱点に見えた右側方向にそれて尾根に出て山頂を目指す。と、藪が開けた。左下に先ほどの谷が見えているので、そのまま谷を詰めても良かったのかもしれない。 そこからすぐで登山道が横切る。ここでミス、登山道は山頂をトラバースするようについているのでどちらに行けば山頂に行くのかわからず、右側のヌルミ沢側に行き、強引に山頂に登ってしまった。登山道は左側だったようだ。

山頂は半球状に開け、周囲360度、立体角2πの展望だ。どこを見ても山と空。しかも草の背丈も低いので寝転がったまま景色を楽しめる。極楽極楽。うとうとしながら、ここはどこだ?そうだ祝瓶だ、なんて。そういえば先日行ったばかりの大朝日も上の方が赤く色づいている。蔵王や、飯豊の山々もどれがどれか細かくはわからないが、良く見えている。 どれがどの山なんてどうでもいいくらい良い山並みだ。写真ではわからないと思うけど、そういう写真を1枚入れておこう。 のんびりと休憩してから下山する。登りは適当なところから登ってしまったが、下山は登山道を忠実に降りる。山頂直下は虎ロープがあるが、なかったらかなり悪いと思う。

さて、当初の目的、ヌルミ沢のスラブを観察するが、うーん、いったいどこを登るんだ?本流からわかれるスラブルートは大きく3つあるように見える。 上から順に、
一番目は容易なスラブだがほぼ本流をつめるのと変わらず意味がなさそう。
二番目はヌルミ沢のスラブというとこれと思われるが、取り付きからぶったっているように見える。
三番目は沢が左折するところで最初に沢を離れるが、登れそうなスラブが長く続くき楽しそう。これが正面壁だろうか。
とすると、やはり記録のある正面壁が本命だろうか。いつかの行先としてあたためていこう。 登山道がヌルミ沢をわたるところの手前で再び、祝瓶山を眺められる。西日の逆光でよく見えないがスラブが目立ち、やっぱりかっこいい山だなあと思った。 帰路、一度車を止めて祝瓶山を振り返ってみたが、やはりいい山だ。

祝瓶山コカクナラ沢、結局山中では人に会わなかった。コカクナラ沢は祝瓶山東面では 一番登られている沢だと思われるが、踏み跡のようなものが全くなく、遡行密度は低いと感じた。こんなに草付に弱点がなく、苦しめられるとは思わなかった。 改めて写真を見ると藪っぽいしなんだかなーという感じだが、本物はすごくいいんですよ。静かで山深い雰囲気か、空気か景色か、よくわからないけど、とにかく気持ち良かった印象しかない。

2014.10.15佐藤益弘

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【写真】