海谷/烏帽子岳 山スキー&雪稜


【ルート】

焼山温泉〜アケビ平〜吉尾平〜烏帽子岳東稜〜烏帽子岳(中退)〜前烏帽子岳〜早川

【形態】

スキーと雪稜

【日程】

2015年3月21日 前夜発日帰り

【メンバー】

佐藤、佐野

【報告】

この時期山スキーはどうしても雪質が悪く、残念な感じになりがちだ。なので足拍子あたりの雪稜でもと提案していたのだが、ここのところの気温の高さから、ボロボロと雪が落ちていて、藪と不安定な雪にやられそうな気がする。 いろいろ案を出し合ったが、「スキーと雪山どっちがやりたいの?」と問いただされれば、スキーが好きだが、雪稜の練習をしておきたいということになる。その目的で海谷が再浮上した。

海谷はもともと佐野さんがこだわっていた。私はといえば、昨年四月の昼闇〜焼山〜火打のスキーのときに初めてあのあたりの山々を見ただけで、漠然としかイメージがない。しかし、白山書房の「山スキールート図集」で、スキーとしては異色なルートとして紹介されている烏帽子岳が気になっていた。「スキーとザイルワークのコンビネーション」と紹介されており、まさにうってつけだ。 一方、純粋にスキーとして楽しめそうな前烏帽子岳のルートがネットで見つかった。この二つのルートのいいとこ取りをして日帰りとして実行することにした。 「スキーと雪稜両方やりたい。烏帽子か阿弥陀に立ちたい。吉尾平から烏帽子、阿弥陀岳を眺めたい。前烏帽子の北東斜面がよさそう。」 佐野さんと二人で考える山行はいつも妥協がない。そのとき一番満足できる山行を目指すのだ。

今回の山はひさびさにマイナールートなので緊張する。緊張しながら集合場所に向かう車中、頭の中でいろいろシミュレーション。スキーデポして登攀具つけて、雪壁を登って、アンザイレンして....あれ?ロープ忘れた!、というわけで、引き返して40分ロス。高速をとばし25:30に能生インター。降りてすぐに車中泊。軽く飲みながらアプローチのルートの検討して寝る。現地1:30着で2:30に寝て4:30起床。今回はいつも以上に睡眠不足だ。

まだ暗いうちに焼山温泉につくと、なんだか車が多い。ヘリースキーをやっているらしく、係の人が早くも車の誘導などしている。普通の山スキーの人もいるのかと思ったが結局、道中見かけたパーティはなく、山の中での人の痕跡は単独のトレースを一回横切っただけだった。

前夜の検討で、急がば回れ作戦となったので、昼闇谷の左岸の尾根を登るところまでは、昨年の昼闇〜焼山〜火打〜焼山北面台地のときのアプローチと同じだ。しかし、かなり遠回りなので、昼闇谷を渡るところで谷に降りてそのまま右俣に入って谷沿に遡行した方が早かったかもしれない。谷の割れ方にもよるのでなんともいえないが、うまくいけば30分以上短縮できるはずだ。

風景がすばらしい。今回の目的の一つは吉尾平から海谷の山々を眺めることであったが、とりあえず、それは達成。すばらいい景色なんだけど、広すぎるのでがんばって歩き続けているのに景色に変化がない。それでも飽きることはない。

思ったより時間がかかり、予定より1時間近く遅れて烏帽子岳東稜のコルについた。見上げる烏帽子岳は、、、、、雪が割れている。そうこうしているうちに隣の阿弥陀岳で全層雪崩。白く美しかったのに茶色い壁になってしまった。うーん。これは恐ろしい。

敗退やむなしという気分になったが、いけるところまで行くことにする。 スキーで東稜を登り、いかにも取り付きという感じの所でスキーを脱ぎ登攀具をつける。この取り付きは雪が割れている。それより注目すべきは、左側の今日崩れたと思われる藪だ。水が流れている。なるほど、雪がとけて地面との間に水が流れて雪が滑り落ちるのだなと、付近の雪崩のメカニズムに納得する。つまりこれから登ろうとしているところの雪の下はずっとそんな感じで壁か藪+水で雪が滑り落ちる準備万端ということか。恐ろしい。これは敗退の理由に十分なのではないか。でも、どういうわけか佐野さんは口には出さないがイケイケだ。それならついて行くよ。と思ったら取り付きの割れ目にはまったので、最初は佐藤が先行。すぐに交代。ラッセルと言うほどではないが、結構な急斜面なので下降を考えると憂鬱だし雪崩も怖いし精神的にくたびれる。

やがて他の記録の写真で見たトンガリ。このトンガリはもともと左右が切れ落ちているが、今回は左側は雪が落ちて藪が出ているし、右側は雪庇っぽい。さらに取り付きが割れていて正面からは取り付けない。 ロープを出し左の垂直の藪を木登り、そこから急な腐った雪壁に乗り移る。あああ、これは登ったら帰れぬ。どうしよう、どうしよう、どうしよう。「怖いー」とつぶやきつつ、止まったり、動いたりしてたら、佐野さんも「適当に懸垂して降りていいですよ」と言っている。うーん、うーん、うーん、と、じわじわと進むと、意外と雪は安定しているような気もするようなしないような、引き返すか、いや、これ以上刺激を与えると丸ごと崩壊しそう、と逡巡しながらてっぺんに立ってしまった。

そのままコルまで行き、スノーバーを埋めて佐野さんにも来てもらう。同ルートを引き返すのはどうしても怖くて嫌で、右(北側)のルンゼを下降するしかないと思ったからだ。もちろん敗退は決定だ。上を見上げると、雪が割れてて難儀しそうだし、その上も不安定そうに雪がついた藪がつづいている。もしかすると登れば登れるのかもしれないが、今日はとてもそんな気分になれない。ここまででもう十分。 でもいちおう、その割れているところま往復してから撤退開始。ビレイしながら45mクライムダウン、さらに灌木から25m懸垂。ここでやっとアイゼンを装着し、ノーロープでアイゼンでクライムダウン。回り込むように尾根上に復帰して、さらに歩いて下降して取り付きに戻った。

ここからスキーで滑降、腐った雪は尾根のてっぺんをちょっとでも外れると雪崩が発生する。下に人がいなくてよかった。コルまで降りきり、シールをつけ前烏帽子へ。すぐ山頂。前烏帽子からの景色はすばらしい。焼山から昼闇、鉢山、阿弥陀、烏帽子そして、反対側には放山。ゴール地点の焼山温泉も見えている。 前烏帽子からは予定の北東斜面は直下で割れて藪が出ていて滑降不能。少し東側から回り込む。なかなかいい斜面が続くが、雪が腐りすぎていて、ショートスキーではつらい。下降ルートは焼山温泉への谷ではなく、一本北側の林道のある谷だ。やや複雑な地形を感を頼りに進むが、一カ所雪がつながっておらず、板を脱いだ。あとはだらだらとした緩斜面がつらい。どうにか早川へ出て、ゆっくりと焼山温泉に戻った。

久々に敗退だねーと言ったら、佐野さんはこれは敗退とは言わないと言う。確かに、完結した気持ちがある。いっぱい歩いて、いっぱい登って、滑った。通常の一日行程となる前烏帽子山のスキールートはトレースしている。天気に恵まれ景色を楽しんだ。十分に満足だ。でも、これでもし、山頂に立てていたら、大感動があったんじゃないかな。なんて思ってしまう。でも、また、改めて登りたいかというと、もういい。それより鉢山に登りたい。昼闇のカールも滑りたい。

2015.3.27 佐藤益弘

【記録】

焼山温泉0600-昼闇谷0800-烏帽子東稜コル1030-取り付き1100-撤退地点(1385m)1300-取り付き1450-前烏帽子岳1530-早川1700-焼山温泉1730

【使用装備】

スキー(一名はスキーベンチャー)、ダブルアックス、ロープ50m、スノーバー、捨て縄

【写真】