2015年10月25日
ナベ(記)、トーマス
以前、幽ノ沢右俣リンネを登った。その際に、二俣から仰ぎ見た中央ルンゼに圧倒されたが、その横の大滝は何となく親しみを覚えた。多分沢っぽいからだろう。帰ってから、大滝が左俣の初登ルートであるとも知り、いつかはやりたいと思っていた。 トーマスさんという強力なパートナーを得て、シーズン最終盤に幽ノ沢へ向かった。
和光で待ち合わせて関越道を北へ。 高崎を過ぎたあたりから路面が濡れ、水上では普通に降っていた。先が思いやられる。今日はモロ西高東低で天候は崩れるが、明日は午後から西から高気圧が張り出す。回復傾向なのは間違いないが、問題は回復が間に合うかだ。 土合の立体駐車場は夜間封鎖されており、さりとて嵐のなかテントを張るのも面倒なので土合駅で車中泊。風が強くてたまに車が揺れた。
5:00慰霊碑上の駐車場出発 6:00一ノ倉沢出合 6:20幽ノ沢出合 6:55幽ノ沢二俣 7:55左俣カールボーデン下の滝下 8:25滝沢大滝左壁基部 10:204P目ビレイ点に集合 12時ごろ5P目ビレイ点に集合 13:20撤退開始 14:40右俣の右岸尾根に上がる 16:15旧道出合
幸い雨は上がっていた。風が強いが、むしろ壁が乾いてありがたい、と思った(愚かすぎる…)。 車を土合プラザよりさらに下、慰霊碑の上の駐車場に停めて出発。全く、一ノ倉まで車で入れた頃が懐かしい。
旧道をヘッドライト頼りに歩き、明るくなった頃に一ノ倉沢出合いに着く。クライマーっぽいのが相談している。天気が微妙なので腹が決まらないのだろうか。案の定一ノ倉の奥はどよーんと曇っている。挨拶して我々は一ノ倉よりまだ先の幽ノ沢へ。 幽ノ沢ももちろんどよーん。しかし回復傾向なのだし大丈夫だろう。戦いのゴングは鳴った。
水が冷たいので沢に入らないように登るとそれなりにたいへん。
展望台横で右岸から滝をかけて出会う支流に一瞬入りそうになったが、二俣はゴルジュを抜けたところだ。ノコ沢のショボい出合いもない。これは違うと見送る。 10m 滝を抜けると沢が開けて二俣となる。
幽ノ沢の岩壁群が一望できる。滝沢大滝は…立ってるな〜。
左俣の出合い滝を水流右から登り、しばらくは沢沿いにすすむが、何しろ寒くて水際を攻められないので疲れる。やがて右岸に踏みあとっぽいのがあったのでこれをたどる。滑りが多く、スリップ即沢底に滑落という雰囲気で危険。次第に沢から外れ、安全度は増してきたが、踏み跡がどこに続いているか分からないので、適当にトラバース気味に沢沿いに戻る。カールボーデン下の滝と、その上の大スラブ、そして目指す滝沢大滝がよく見える。立ってるな〜。
沢沿いは切り立っており、歩いて降りられる感じではない。もう少し進んで、下の大滝手前あたりが歩いて降りられそうではあったが、無理をするより懸垂で降りる事にする。このような地形なら必ず残置があるはず、と探しながら歩いていたら案の定残置があったので懸垂。右岸から見た下の大滝は左壁のバンドから簡単に落ち口に出られた。
ここから滝沢大滝の下までは快適なスラブ。トーマスさんは西ゼンみたいだという。一ノ倉の本谷バンド下のスラブにも似ている。
滝沢大滝下で大休止。ここから見ると、それほどの威圧感はないし、所々濡れているものの大部分は乾いている。天候は風こそ強いものの曇りのまま何とか持ちこたえている。清水峠方面から、我々の目線と同じ高さのあたりを、雲が凄い勢いで湯檜曽方面に進入してくるのが不気味である。
左壁の容易そうなところから取り付く。
容易そうに見えたがそんなことはなかった。岩が冷たく、それだけで手がかじかむのに、濡れたホールドはさらに冷たい。支点も当然プア。ビレイ点は自分で打ったバチ効きのハーケン一本。
一段上がるとアルミハンガーがあった。その上がちょっと難しく、めんどくさいのでハンガーを踏んでA0。その後は容易で、ハング帯を避けて左手のリッジに寄るようにして登る。ビレイ点が無いので、細い灌木と自分で打ったハーケンでビレイ。
核心のチムニー状が30mくらい先に見えるが、そのチムニーから水がしたたりおちて、手前のスラブもびしょびしょ。下から見ると、スラブの乾いているところを拾っていけそうだが、プアプロの濡れたスラブはやはり厳しいらしく、ハーケンぶちこんでそれにスリングかけてA0でトラバースしてコーナー左のフェース基部でピッチを切る。ここは割と信用できるRCCボルトと、腐ったリングボルトで比較的マシ。霰が降ってきた。
リッジ左のフェースはわりと乾いているがリスも残置もなく無理。仕方なく正面のコーナーの草付きを登るが最悪。垂直の草付きを、指ぐらいの太さの灌木頼り。5m位で行き詰まる。左手の乾いた壁に逃げようとしたが、手がかじかんで使い物にならない。意を決し、灌木にスリング巻いて決死のA0で一段右のスラブに逃げ、ハーケンをぶちこんでようやく一安心。 濡れたスラブをチムニー下のビレイ点まで。
ビレイ点が腐っていた&都合のいいリスがあるのでハーケンで補強したいが、手元にはアングルと都合の悪い縦ハーケンしかなく、浅打ちのリングボルトで補強。これで時間を食ったのが運のつき。時々舞っていた粉雪が本格化しだし、対岸の笠ヶ岳は白くなった。
壁は所々白くなって、平らな部分は雪が載っている。ナベが取り付くがチムニーまでの3mのスラブすら、手がかじかんガバも握れない。
ナベ「壁の状態が悪すぎる!撤退しましょう。」
トーマス「撤退も簡単じゃないよ。人工で登れるんじゃない?」
冬壁模様に心の折れないトーマスさんを尊敬しました…ちなみに二人とも寒さで歯がガチガチ言っている。
佐藤さんに交代。佐藤さんは左のコーナーから残置1本カム1発、それにハーケン2本ぶちこんでのエイドで4手上がるが、ギア不足&残置がなく見通しがつかない。おまけに乗っているハーケンがお辞儀しだした。
「トーマスさーん、もうロワーダウンしましょうよ(泣)」
「いや、もったいないよ」
そう言って冷静にヌンチャクを捨てビナに交換していた。いやーマジすか…
最後のハーケンにカラビナ残置でロワーダウン。ビレイ点より撤退を開始する。
※このあたり、状況がシビア過ぎて写真撮る余裕なかったっす!
ビレイ点にスリング2本残置して腐れコーナー下のビレイ点に斜め懸垂。残置を利用して50m一杯懸垂するもアルミハンガーまで2m届かず、ハーケン2本ぶちこんで大滝基部まで懸垂。そこからはクライムダウンも可能そうだったが安全を期してまたまたハーケン2本ぶちこんでカールボーデンのスラブを右岸の緩い傾斜帯まで懸垂。ここまで来ればとりあえず手持ちギアが減っているのも関係ない。一安心。
トーマス「いやー、チムニーの上もヤバそうなスラブだよ…チムニー抜けてからもヤバイね」
手がかじかんだままランナウト。想像しただけでヤバいす。
そこからは右岸尾根の藪をこぐ。下りだし、藪も大した濃さでは無いので藪こぎの割にはスピードが出た。途中から沢に戻ったり踏み跡を拾ったり。沢沿いの藪はかなり危険。 二俣出合の滝は残置が腐りきっていたので、一旦右俣にトラバースして残置を利用。(このトラバースも安全ではなかった)
本流はさすがに残置があり、懸垂一発と残置利用のクライムダウンなどで旧道出合いまで戻れた。 普通これだけ藪こいだり下ったりしたら暑くなるもんだが、四枚も着ているのに寒かった。天気は、撤退開始頃が一番悪く、旧道に降りる頃には晴れ間が見えていたにも関わらず、だ。
下山中はヘッドライトを出さずに済んだが、駐車場では車内が見えずヘッドライトのお世話になった。
湯檜曽の温泉は閉まっており、湯テルメは混むので沼田に出て健康センターなるスーパー銭湯で入浴。生き返った。
回復傾向だからといって、尻上がりに天気は良くなる訳ではない。グラフにするなら、ジグザグを描きながら回復することもあるし、ジグザグの谷が突然大きくなることもある。特に谷川では…
乾いてさえいれば、ランナウトする以外は普通に登れると思います。
持参ギア
ハーケン8本(5本残置した)、ボルト3本(1本残置した)、エイリアン〜キャメ#3(そこそこ使った)
記:ナベ