2015/11/3(前夜発日帰り)
佐野、佐藤(記)
当初予定の雪国方面は全面的に雨の予報。一方、関東は晴れ。そこで、奥秩父の東のナメ沢へ転進することになった。 東のナメは、以前冬に見たとき、乾いたスラブがとても美しく、いつか行きたいと思っていたのだ。以来、頭の片隅にはあったものの、なかなか実際に行きたいと思えるタイミングがなかった。鮎島ナベ組の記録から手強い印象を受けてビビっていたせいかも。 転進案として東のナメを出してきた佐野さん自身は慎重な感じだったが、私はといえば、紅葉と東のナメの明るいイメージが広がり、このタイミングだ!山が呼んでいる、絶対楽しいに決まっている、という感じだった。いろいろと悩まず、ただ行きたいとだけ思えたのは自分がリーダーじゃなかったからかも。佐野さんありがとー。
アプローチの中央道ではときおり激しく雨が降っていて、明日の天気がちょっと心配になる。道の駅みとみに0時頃着。車中泊。
めずらしく二度寝せずアラーム1回で起床。車を西沢渓谷の入り口に移動し出発。東沢の道は鶏冠谷出合で渡渉し左岸を山の神まで。その後は河原を何度か渡渉しながら進み東のナメ出合。太陽の角度のせいか、出合い付近は日陰で、以前見た記憶よりしょぼく見える。
下部は日陰で濡れている部分が多い。それに昨日の雨で水量が多いのかもしれない。濡れているところに試しに足を置いてみると、つるつるとよく滑る。まったく油断ならない。少しでも乾いて欲しくて、ゆっくりと準備し、登攀、いや、登坂開始。
途中、ちょっと行き詰まりかけたりしながら、ノーロープで二段目下のテラスにたどり着く。ボルトもあるので、ここからロープをつける。出合から見たとき、大きく3段に見えたうちの2段目だ。 ロープをつけてからは、ずっと左側(右岸)のルートだった。
出だし、レッジに上がると、その先はなにもなく怖い。足下の穴にカムをつっこみ、よく観察するとボルトの跡がある。試しにバイルのピックをつっこんでみたが、意味無し。シューズのフリクションだけを頼りに進むしかない。(この記憶は3P目と混同しているかも) やがて緩傾斜帯となり、そのどん詰まりに土と同化した残置ハーケン2本と腐ったシュリンゲがあったので、ハーケンを打ち足してピッチを切る。
よく見たら左上10mくらいのバンドに、ボルト3本のビレイポイントが見えたので、そこにビレイポイントを移す。それまでより斜度がある。つまり、落ち着かないビレイポイントだ。
いきなり20m以上ランナウトし、途中残置ハーケン2カ所のみでロープいっぱいまで。カムもハーケンも決まらなかった。ビレイポイントは、ハーケンだったかボルトだったかが2本。 リードは、支点を探しつつ右へ左へとルートをとっていたが、フォローは、左から回り込むような感じで登った。支点が少ないおかげで、フォローは自由に歩きまわれる。
それまでのピッチと比べて、リスもあり、プロテクションは取りやすい。傾斜がゆるくなると左の壁とのコーナーにカムがきまりそうだが、湿っていていやなので、離れたところをぺたぺたと進む。楽しいピッチだった。ほぼロープいっぱでで、三段目の滝(下から見て一番最後に見える滝)の水流左の凹角のとりつきに着いた。アングルが気持ちよく決まり、それとカムでビレイ。
出だし凹角状からクラックをたどって登ると、上部は再びつるつるスラブになり、ワンポイントが怖い。ボルトやハーケンはいくつかあった。他の記録の通り、途中で振り返ると、登ってきたスラブが一望でき、絶景。その上の滝(出合からは見えない4段目の滝)の左側の灌木まで進む。
サノ隊長お勧めの右岸スラブをトラバースするラインは見るからに悪い。しかし、ビレイポイントの位置関係的にそこが手っ取り早いので、えーい、行ってしまえ、と、取り付いた。一段上がると残置ハーケンがある。ということは、登られているということか。 トラバースし始めるが猛烈怖い。さらに数メートル横の縦皺にもハーケンがある。じわじわと進み、やっとの思い出いでハーケンにたどり着いたが、まったく効いていなかった。その先もフリクション勝負のスラブが続くので、どうしても支点が欲しく、微妙な体勢でハーケンを打ち足したが、それも回収時の感触では全く効いていなかったらしい。 さらに、じわじわと右上に2mくらい進むと、傾斜がゆるくなってスタスタと歩けた。手頃な灌木でビレイ。 このピッチがいちばん怖かった。「寿命縮まったねー(笑)」と佐野さんに言われてしまったが、私には本当にいっぱいいっぱいだった。 ここは、他の記録ではだいたい水流右から登っているようで、それらでは苦労したという記述は見当たらない。唯一高橋さんの記録に左側を登ってフリクション限界で10cmすべったと書いてあったが、もしかしてこの辺りなのだろうか。
ここまでで大滝は終了。沢靴に履き替える。
滝二つを左から巻き、一ノ沢に出合うと、東のナメ沢は樹林のなかになり、暗く、落ち葉や倒木も多く、美しくなくなる。しかもよく滑る。最後はシャクナゲの藪こぎとなるのでたまらない。バテバテで稜線に出た。下山と反対方向に100m行ったところに(地形図の)鶏冠山山頂があるので、一応踏んでおく。ここには山頂を示す標識などはない。
鶏冠尾根の踏み跡は非常に明瞭。しかし、迷いやすい。鶏冠尾根第三岩峰は、巻き道を指す壊れた道標を見間違えて、ピークを通過してしまう。すると、そこに鶏冠山山頂の道標があった。鶏冠山山頂とされている場所は二カ所あるようだ。しばらく行くと、懸垂支点があり、懸垂下降。降りたところで巻き道が合流しているのだが、そっちを下山路だと思って、行ってしまい。「なんだよ、登るのかよー」「道標がある。あっちが木賊山?(なんか変だな)」「ここ見たことある!」という感じで一周してもとの場所に戻ってしまったことに気づいたのだった。
もはや、まったくルートに自信が持てぬ。ということで、第二岩峰付近もいったりきたりしながらルートを確認しながら進む。第一岩峰のあたりで真っ白なテン(オコジョかも)を見かけた。
第一岩峰を降りて大きく左へ向かっていくところもそのまま下っていってしまい少し間違えた。なぜか赤テープがあったし、そもそもどこに登山道がついてるのか分からなかったので仕方が無い。
左へ左へといくと、やがて広く緩やかな尾根状となる。どうやら日のあるうちに降りられそうだと思ったときには、ほっとした。鶏冠尾根の下降は3回目だが、今回が一番迷った気がする。
そういえば、東のナメ付近の紅葉は終わっていたけど、このあたりは紅葉が見事だった。そういえば、冬も急に氷が出てくるし、ホラの貝あたりを境に大きく気温が変化するようだ。
歩道に出ると、間もなく日没だというのに観光客が結構いる。ぐんぐん気温が下がる中、紅葉を楽しみつつも足早に歩き、暗くなるのと同時に車に着いた。
東のナメの大滝は、その後の遡行と詰め、鶏冠尾根の下降を経ると全体の行程に対して短く、下山したときには、遠い朝の思い出となってしまう。一ノ沢を詰めれば、すっきりと登れて下降も楽なようなので、スラブの大滝を登った感触を残せるかもしれない。でも、やっぱり本流を詰めて山頂に立ちたかったし、鶏冠尾根第三岩峰から見下ろす東のナメ沢も良かった。
大滝は、リードは決死の覚悟で恐怖と戦っているが、見た目はそうは見えない斜度だし、実際フォローはほとんどスタスタ歩く感じだ。なので登攀グレードはIV級もないのだろう。人によってはただ坂を歩いているだけなのかもしれないが、怖いものは怖い。 残置は各ピッチのビレイ点と中間に1,2本はあって、思っていたよりは多かったけど、もっと欲しかった。われわれの結論としては、「スラブはロープがいらないくらいのところの方が楽しいよね」だった。
2016.3.28 佐藤益弘
2016/11/3 駐車地6:30 - 東のナメ沢出合着8:30発9:00 - 大滝上12:00 - 稜線14:00 - 鶏冠谷出合16:30 - 駐車地17:00
ロープ 50m、ハーケン 各種3、キャメロット#0.75、沢靴、クライミングシューズ