吾妻連峰/中津川本流遡行(沢登り)



形態:沢登り
期間:2019年7月13〜14日(前夜発一泊二日)
メンバー:Lナベ、イデ(記)
※ページ最下部に概念図PDFあり

2019/7/13 曇り時々晴れ、増水気味
7:00中津川レストハウスより遡行開始
7:35白滑八丁入り口
8:35白滑八丁出口
9:25魚留の滝
10:15取水堰堤
10:50銚子口
13:50神楽滝下
15:20熊落滝下
16:40幕営地(不忘滝上)

2019/7/14 曇り時々小雨
6:30出発
7:00筋滝の大釜下
8:10朱滝下
9:20朱滝上
10:10ヤケノママ(右岸に噴気)
12:50登山道(大凹)
13:40西吾妻山山頂
14:35西大テン山頂
15:35ゴンドラ山頂駅
16:40グランデコ大駐車場
→この後、中津川レストハウス目指して激走するも、当てにしていた林道が自然に還っており途中で敗退し、小野川集落からタクシーにてレストハウスへ


中津川は、白いカコウ岩のナメ、青緑の釜や淵を持ち、大滝や詰め上がった後には湿原も出現する変化に富んだ面白い沢だった。
しかし、一つ一つのセクションがボリューミーであり、未だ沢初心者の身としてはやや満腹感を通り過ぎ若干の苦しさを覚えたことを否定できない。宛ら下山後の食事の様に食べ過ぎたときの満腹感とでも言えば良いのだろうか、調子に乗ってウマイウマイと食べていたらだんだん重みを感じ、終盤では脂汗を浮かべヒーヒー言いながら箸を進めるのに近い。

白滑八丁は、カコウ岩の長いスラブで形成され、写真や記録で確認するよりもずっと長く美しい。中央は水流に削り取られ幅は細いものの水深のある淵を、小滝では釜を作り、曲折する箇所では渦を巻きうねっていた。正直、記録でちらっと写真を見たときは「こんなん寝てるし余裕でへつれるやろ、ヌメっててもちょっと水線歩けば水で洗われてて余裕で歩けるやろ」くらいに思っていたが、思った以上に水線で歩ける面積はない。少ないのではなく、無かった。舐めて歩いてたらヌメリにやられて序盤でドボンした。水は結構冷たく、今回はその後もこの水の冷たさに悩まされる事になった。主にお腹的な意味で。
水流に飲まれるととても進めないため、必然的にへつって前進することになるが、梅雨時だからであろうか、ヌメリが尋常でない。タワシで擦らなければ進めないヌメリセクションが数ヶ所あった。
この時点ではまだ腹も冷えておらず、ヌメリで痺れるなんてヤバい沢っすねとヘラヘラしてた。

魚止め滝までは長い長い河原歩きであった。特筆すべき点は長いことである。魚止め滝以降からだんだんゴルゴルし始め、水に浸かる所、微妙に泳がなければならない所もあった。水は冷たく、いつもウェットスーツ(上着)に守られていた貧弱な俺の腹を徐々に、だが、容赦なく蝕んでいった。この辺りから体温を奪われた俺の腹は声なき悲鳴を上げ始め、腹痛として不調を訴え出した。それに気付かないふりをして魚止め滝を巻き上がり、取水口まではほぼ問題なく歩けた。

観音滝を巻き上がると腹痛はそれなりにひどくなっており、ブツはキャパ以上に辛いものを食べたときのようにシャバくなっていた。

また現れた長い河原歩きにやや辟易しつつも、冷えの恐ろしさを感じていた。スカイ・ハイってめっちゃ終盤に出てくるくせに地味で弱くね?と思ってたけど、考えを改めなければならないかもなとか考えながら無心で歩いた。そのため、この辺りの記憶が薄く良く覚えていない。
(※ナベ注:スカイ・ハイ…ジョジョに出てくる、体温を奪ってその部位の機能を奪うスタンド)

神楽滝はデカかった。水量多く纏まって一条に落ちる様は格好良く迫力があった。登れる気配は全く無く、大きく高巻くが、この高巻きが藪藪で凄かった。その後の熊落滝、朱滝の高巻きも藪藪でヤバかったが、これまでぬるい藪漕ぎしかしてこなかったんだなと実感するほどに凄い根曲がり竹の藪だった。腹痛で身体が重く、ひどく体力を奪われた様でヘロヘロになりながらなんとかナベさんの背中を追いかけた。ナベさんのルーファイと藪漕ぎ早えぇ。ドカヤッケでオレンジのメットで、知らん人が見たらどう見ても土木作業員なのに、カッコ良かった。

夫婦滝は左壁を登った。難しくはないもののまぁまぁ高さがあり下は釜じゃないし落ちたらそれなりの怪我をするんだろうな、そういえば沢で動けなくなったらどうすんのかな、電波入らんし助け呼べないよな、とか考えて登ってたらそれなりに緊張した。

静滝はわりと寝ていて登れそうな気配を感じるものの、釜に入る必要があり、とてもじゃないがここで水に浸かる気にはなれなかった。右岸を小さく巻いた。

熊落滝はそれ自体は大きくないものの、そのすぐ後ろにラスボス的なオーラを醸す大滝との連瀑であり、ここも高巻く必要がある。この高巻きが最も藪っていて先行するナベさんの背中を見失いそうになりながら必死に登った。もう体力も尽きつつありかなりしんどかったが、必死に喰らい付きなんとか尾根を越えテン場にたどり着いた。

薪が濡れててそれなりに苦労しながら火を起こし、一杯煽って焚き火で湯を沸かして夕食を食べて寝た。夜に降りだしたものの、ぐっすり眠れてかなり疲れは取れた。

翌日、5時にお馴染みのアラームで目を覚ましたが、なかなか動けない。ナベさんが異様にテキパキ動いてて強えぇなという思いと先輩働かせて申し訳ないなと思いつつも、なかなか動かない身体をなんとか起き上がらせて支度をし、朝食を摂った。

少し歩き、2つ滝を越えると朱滝が現れる。滝の周囲が崩れまるで円形劇場の様な地形になっていた。岩は脆く、滝の下部はハングになっていた。腹痛は収まりつつあるものの相変わらずシャバくて参った。
200m程下部から高巻きに入るが、どこから上がれば岩盤を越えられるかなかなかルーファイが難しい。上部に出るとのっぺりした地形になり、落ち口を越えるためのルーファイも難しい。考えながら登り経験を積むしかないんだろう。GPSに頼らず歩けるようになりたいものだ。

朱滝を越えると地形図に表示されるような滝はもうない。しかし、微妙な滝でもそれなりに深い釜を持ち、身体を冷やしたくないからへつったり岩を登ったりと思うようにスピードを上げられない。ヤケノママ辺りからは硫黄臭を仄かに感じ始め、岩も硫黄を含むのか黄色が強くなってくる。ここからは順調に歩を進められた。それにしても長い。

大きく左へ曲がる分岐以降、やっと水量が減ってくる。だんだんと源頭に近付いていく雰囲気を感じる。しかし長い。いつまでも水は涸れないし、藪藪してくる。途中から辺りは湿原に変わり、尾根に乗って周囲を見渡しながら登山道を目指す。

ちょうど大凹みの水場がある辺りに詰め上がった。ここより上が水源のようだ。そのため、後で分かったことであるが、水量が減ってからは沢の水は飲まない方が良かったのだろう。

雨で霧も出てて景色も悪いにもかかわらず結構な数のハイカーがいた。登山道に出たらもう終わりだぜと思って舐めていたが、思いの外しんどくて泣きを入れながら粘り強く山頂に立った。

下山も長かった。しこたま歩いた。
ゴンドラ駅からは整地された林道みたいでかなり快適に歩ける。
下の駐車場に着き、着替えて荷物をデポってから中津川渓谷レストハウスを目指して走った。
集落で力尽き、結局タクシーを呼んだ。
恐ろしく快適で車って凄いなと思った。

車を回収し、コンビニで小腹を満たし、ザックを回収してから風呂に入った、タクシーの運ちゃんに教えてもらった裏磐梯温泉センターだったかな?に行き汚れを落とした。まぁまぁの広さで空いてて気持ち良く浸かれた。残念ながら食堂は閉まっており、帰りがけに適当に入って食おうとなった。
ナベさんが持ち前の嗅覚で入ったのは山の駅食堂という趣ある食堂。トマトラーメンがイチオシらしく、二人してこれを頼むことにした。わずか20円増しで追い飯セットに出来るとのことから、ノータイムでこれに決め、脊髄反射で大盛を頼んだ。出て来て物は明らかに神保町二郎に匹敵する圧倒的な麺量で、普通の大盛りとは訳が違った。箸を着けた瞬間に悟った。敗退だなと。それでも気合いで麺を啜り5分の4くらいは頑張るもそこから箸が動かなかった。脂汗を浮かべ悶絶していると、ナベさんが「助けてやるよ」とホワイトナイトになってくれた。今回の山行で一番カッコ良く見えたぜ。そこで、追い飯がまだ来ていないことに気付き、慌ててキャンセルした。危うく飯敗退するところだった。会計すると大盛りは250円増しらしい。道理で気前良く盛ってあったなと奇妙に納得し、安易に大盛りと言うもんじゃないなと、もう何度目になるかわからない反省をしつつ帰路に着いた。

<プランニングコメント>

余裕を持って2泊する方が楽だと思うが、一泊でも無理なくこなせる行程ではあった。
事前情報程魚は見かけなかったので、竿を持ってくれば良かったと後悔することはなかった。
薪がかなり湿っているので着火材を持参することを忘れてはならないだろう。


<テクニカルコメント>

すごく難しいというポイントはないが、全体的にレベルが高い。とりわけ体力は必要だろう。
ルーファイに自信があればロープも30mか40mでも足りる様な印象。安全を期すなら50mだろう。
タワシは不可欠。
ハーケンはブレードが2,3枚はあった方が良いだろう。カムは0.4から75までだったかな?一ヶ所で使ったが、巻くなら不要と思われる。
ナッツキーは折れない物が欲しい。

 

<ナベ感想>
しとしとと毎日降る、典型的東日本の梅雨と、何十年ぶりかの冷夏の中の三連休で行き先には非常に悩んだが、南アよりは東北はまだマシそうだったので東北から選定、「日本の渓谷98・99」の記述やネットに多数記録があるのを見て、なんか楽勝そうに思ってしまい中津川を選定したが、思ってた倍くらい大変だった。

大渓谷なので長い。疲れる。
そして高巻き。神楽滝の大高巻きはほぼ予想通りだったが、熊落滝&不忘滝と朱滝は側壁が想像以上にデカく、かつ、踏み跡も不明瞭なため、「まだ滝の下なんじゃないか、でもそろそろ降りないと」と迷いながらの大高巻きで、結構なプレッシャーを感じた。いやー、想定外でしたわ。イデヤンはこういう本格的ヤブコギが始めてとの事だが、その割にフツーに対応しており大したもんでした。

ナベ「ヤブ、特にシャクナゲのヤブには、パワーで突っ込んむと無限に消耗するで。謙虚な気持ちで、すみませーんと言う感じで行くんや」
イデ「居酒屋の暖簾を潜る感じっすね」

さすが、よくわかっている。
やはりフリー・ボルダー力と体力があれば、あとは記録とか読んで想像する頭があれば大体何とかなるということか。それにイデヤンのGPSスマホに随分助けられた。そもそも地形図の滝マークが実物とずれていることが多々あるので、参考にしかならないが、それでも参考になるのはありがたい。それに、恥ずかしながら一回だけ泳いだときは、あまりの寒さに体が鈍くなり、イデヤンに引っ張り上げてもらってしまった(ただし、イデヤンもこの泳ぎで腹をやられたらしく、その後下痢に…)

ほか、事前に、わらじの仲間さんの記録を読んでいたこともあり、(http://warajinonakama.blog.fc2.com/blog-entry-191.html)夜中に小雨がパラつき出したときは、増水したらマジどうしようかなというプレッシャーであんまり寝れなくなった。(なお、イデヤンはタープからはみ出した顔面に雨が当たっているのに爆睡。本人は「顔を背けましたよ、さすがに」と言うが…)
※わらじの仲間さんの記録→我々と同じく熊落滝&不忘滝高巻き後幕営していたら雨で増水、遡行も撤退も不可能になり西吾妻山までヤブコギ。ワイルド&ハードですわ…

そうしたプレッシャーから、充実の一本だった。ビビるかビビらないかが山登りの良し悪し、とか鮎島がよく言ってたが(和田城志さんの受け売りらしい)、いやーホンマやで。
これで下部の河原が短かくて、ヌメリが少なければ言うことないんだけど・・

今回車to車には失敗したが、タクシードライバーの兄ちゃんから聞いた「裏磐梯温泉センター」が最高だったので良しとする。メチャ広くていいです。700円。フロントの親父がダウンタウンの松ちゃんに似ています。
下山飯は「山の駅食堂 」でトマトラーメン+追い飯セット。
モチモチかつ若干伸び気味の大量の麺の前に、〆の追い飯にたどり着けず残念だった。トマトは美味しいし、チャーシューも本格派であった。

山の駅食堂
https://s.tabelog.com/fukushima/A0705/A070502/7006899/?svd=20190716&svt=1900&svps=2&default_yoyaku_condition=1

ところで、ここのところ、イデヤンと山に行くことが多く、そのたびに、イデヤン下山して定食屋で大盛を頼んで自爆する有り様を見ており、しかも今回はついに大盛頼んでおいてお残しという、チッピングに並ぶ恥ずべき行為をやらかしそうになり、イデヤンは大食いではなく、いや、大食いではあるんだけど、マシュマロを我慢できずに食べてしまう子なのかなあと思い始めた。(マシュマロ実験

しかし、追い飯をキャンセルする必要性を鋭く指摘するなど、ただ我慢できずにマシュマロを食べてしまうだけではない頭の回転もあり、空腹で一時的にバカになっているものと思われる。となると、こちらも調子に乗って「俺も大盛!」などと同調しないように注意しなければならず(何しろこちらも空腹でバカになっているから、つい同調してしまう。三重泉沢の帰りではそれでマジ大変だった)、この男と山に行くと、下山飯も核心である。

登攀ギアは、巻けばほとんど不要。

白滑八丁用にハーケン何枚か持っておけば十分。ザイルは一本なら50、二本なら30が適当と思われる。我々はラインに多少こだわったため、白滑八丁でナッツを、筋滝周辺でハーケン二枚とキャメ0.5〜1番を使用した。
浸かるところが多いので、下半身くらいはウェットスーツ系で固めた方が吉。

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以下写真(写真コメントはナベ)


白滑八丁 落ちるとかなりヤバイ部分もある


魚留の滝


銚子口。右手にバンドがあり簡単


夫婦滝を登るイデ



静滝。珍しく右岸巻き。


熊落滝。右奥の見えないところに不忘滝60mが鎮座しているらしい。
実は熊落滝を登って拝んでやろうと思っていたが、熊落滝に登れるラインは見いだせなかった。
今回水量が多かったので不忘滝の爆風が若干見えた。まとめて左岸大高巻き。



二日目、円形劇場のような筋滝を登るイデ


朱滝。「下部登ってしまえば、中断からは水流沿いに楽勝じゃん」と思っていたが、下部は取り付くシマがなかった…
左岸から大高巻き。


 



本流が西に折れると、いよいよ源頭の雰囲気。



トマトラーメンに苦しむイデ。しかしこの後しっかり運転していた。

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概念図→こちら