大峰/大台ケ原/大蛇ーP3南壁「ここにもあったぞエルキャピタン」ルート登攀


2024年5月4日〜5日(前日発1泊2日)
形態:無雪期アルパインクライミング
メンバー:ナベ、ムラマティ、山崎


2024年5月3日 晴れ
東京→奈良・大台ケ原駐車場(アプローチ)

長時間運転で疲れた。途中林道でハマっているキャンピングカーがいたので手助け。
敗退用に持ってきたボロスリングが活躍。とても感謝されたが、まさか活躍したスリングが1m200円位とは思わないだろう。

2024年5月4日 晴れ
0410大台ケ原駐車場 0500大蛇ー展望台 0850「ここにもあったぞエルキャピタン」取り付き 1000ごろ3P目(日本の岩場2P目)登攀開始
1400ごろ5P目(日本の岩場4P目)登攀開始 1500ごろ6P目(日本の岩場5P目)登攀開始 1900ごろ7P目(日本の岩場6P目)終了点に全員集合→ビバーク


駐車場を4時に出て、約1時間で大蛇ー展望台。目の前に見えているP6へ、一度ならず2度ほど大崩谷方面へ落ちる尾根に入りかけて若干ロス(展望台の右側から巻き下りる踏み跡があるのでそれを辿り、展望台真下を左トラバースして展望台左下あたりからルンゼに入り、少し下って右トラバースするとP6へ通じる尾根に乗れる)。
登攀倶楽部京都・大阪の記録や登山体系はP4・P5のコルからの懸垂、改訂新版日本の岩場ではP7・P6のコルからの懸垂とあるが、そもそも各ピークが分かりにくそうなうえ、行く手は藪が濃そうだったので改訂新版の経路を採用し、最初のコル(おそらくP6・P7のコル)から懸垂。
50メートルダブルの懸垂3回で大蛇谷。浮き石が多く、先に懸垂した者は、仲間を待つ間は必ず退避する必要がある(小さいのを一発こめかみに食らってしまった)。
大蛇谷では谷が険しそうだったので最初から右岸を巻き気味に歩いたが、多分谷沿いに歩いて滝が出たら右岸に入るほうが早かったのではないかと思う。ここも浮き石が多い。
やがて15メートルくらいの滝が出てきたのでシングル懸垂するが、残置スリング発見。その後はノー懸垂で下っていくとP4の側壁と思われるパッとしない壁を山崎さんがコレちゃうかと言い出す。絶対違うと言い張り更に下ると、圧倒的な岩壁が出現。間違いなくコレが大蛇ーP3南壁だろう。確かに谷にキレ落ちるカンテはヨセミテのTHE NOSE風?

ズドーンと出てくるP3南壁
大蛇ーP3南壁

大蛇ーP3南壁動画(全景。右上の岩壁は三角岩壁。未踏と思われる)

登山体系の記述通りナメ滝(と言うには立っているが)からトラバースをかけるといい感じのバンドがあり簡単に南壁下に。カンテを回り込むと正面ルートのハングが見えるのでその手前のルンゼだろうと絞り込めたが、それでも2〜3本の候補があり、どれが取り付きか協議。結局、水場すぐ左の(迷った中では)スッキリしているルンゼを選択。出だしに何本か太い木があるのが目印か?(水場は秋は枯れてそう)
なお大蛇谷はP3南壁のあたりではまあまあ水が流れていたし、取り付き右の水場の水はとてもおいしかった。ここまで水を合計12L担いだのは何だったんだ…


日本の岩場1P目下部(当パーティ1P目) ルンゼの藪こぎ→右のルンゼにトラバース ナベ  30m V級

我々は50メートルザイルなので改訂新版日本の岩場(以降日本の岩場)1P目を分けて登る必要がある。出だし1本目の立木にはダイニーマスリングとカラビナ2枚が引っかかっていたので回収。すぐに激藪となり藪の中の強傾斜を木登り。日本の岩場の記述通り右手のルンゼに移り(というより藪がすごすぎてそのまま直上は困難)少し先の立木でビレイ。

1P目出だし。これでも周辺のルンゼに比べるとスッキリとしている(がこの後激藪)。
ここにもあったぞエルキャピタン取り付き


日本の岩場1P目上部(当パーティ2P目) ルンゼの藪こぎ(若干すっきり)〜CSのテラス ムラマティ 30m V級  
ルンゼを行き詰まるまで登りチョックストーンのテラスまで。困難な箇所はない。さっきよりはスッキリしているが基本藪。

日本の岩場2P目(当パーティ3P目) 傾斜の強いフェースを左上→トラバース→直上 脆い 山崎 30m 5.10b?・R

核心ピッチ。左トラバースし、残置ハーケンにクリップ跡、キャメ3番をキメたところで行き詰まる。ファイントラック2013-14秋冬カタログに載っている記録ではハーケン乱れ打ちとあるが、そもそも両手を離せる傾斜ではないように見える。そして脆い。しょっちゅうホールドが剥がれている。やがて限界が来たのだろうか明らかに強傾斜の部分へデッドポイントかましてフォール。3番はガッチリ止めてくれたが全員ドキドキ。戻ってから頼りないブッシュでランニングを取りつつさらに左トラバースし、上記カタログにある「傾斜が緩んだ部分」を直上していくが他よりマシって程度で全然傾斜は緩くない(残置ハーケンあり、一体どうやって打ったのか?)
フォローもホールド剥離でフォール、そのままテンショントラバースしてしまったのでグレード感不明(山崎さんは「10bでええんちゃう、脆さはムーブのグレードに入れへんからな」とか言ってたと思う)。
このピッチ、後に登る日本の岩場7P目ほどは大トラバースって感じではないので後続はテンショントラバース覚悟ならそれほど危険はないが、トップはプアプロかつ、剥離しやすいホールドでのリードとなり、相当ヤバい。ワンフォール入ったとはいえ、フリーで登った山崎さんは凄い(この傾斜でリードしながらハーケンを打ってフリーで登ったというファイントラックのカタログの記録も凄い)。ビレイ点はコーナー下部の右手の立木(左のスラブにボルトがあるが無視)。

トラバースしていく山崎さん


恐怖の傾斜&ランナウト


日本の岩場3P目(当パーティ4P目)  コーナークラックからヤバい破砕帯を左上  ナベ 30m 5.8+のちW級 
若干パカパカ言ってるもののまあまあ硬くキレイなコーナークラックで快適だが、ムーブ的な核心は硬い岩が終わる部分のフェースムーブと繁茂している謎の苔。動くたびに苔が舞い上がる。恥ずかしながら前のピッチでパンプしていまっていたのでワンテンション入れてしまった。レストした後抜け口を越えると「破砕帯」。要は積み木のように積み重なった浮石ゾーンで、乗ってる岩ごと落ちそうで生きた心地がしない。ルートは左上だが恐ろしいので、まだ安定してそうな右に一段上がるがやはり左トラバースが掛けられない。さらにもう一段上がっても同じだったので、一段戻って腹を決めて左上の細い木に向かって突撃。このピッチ、ムーブとしては下部、精神的には上部が核心。ビレイ点はハーケンとリングボルト2本のまあまあ広いテラス。右上に細い木があって頑張れば補強できる。5.8ではちょっと辛い。

下部は快適なコーナークラック



上部は恐怖の破砕帯。右手ホールドに注目



日本の岩場4P目(当パーティ5P目) ビレイ点左の凹角とカンテでステミング ムラマティ 15m 5.9
テラス左にバンドが続き、強傾斜のカンテで遮られている。カンテの手前には広めのクラックがある。ファイントラックのカタログには「凸部を登る」とあるがこのクラックのこと(凹部の間違い)であろう。あるいはカンテの事を凸部と言っているのか?クラックにカムを決めつつ左カンテにステミング。ゲレンデに出てきそうなムーブで快適だが見いだしにくいムーブのうえ傾斜も強く、5.8ということはないと思う。立木でビレイ。割と安定したビレイ点。




日本の岩場5P目(当パーティ6P目) コーナークラック(大オープンブック)を直上 山崎 30m 5.9

コーナ状のスラブを登る。プロテクションは左のコーナークラックから取れるが、スラブには苔が生えている&たまに岩が浮いているので油断ならない。ここも5.8は辛い。なお、トップが落石するとビレイ点は逃げ場がない。



日本の岩場6P目(当パーティ7P目) コーナークラックとワイドのダブルクラック→右に出て短いフェースを残置A0→再度コーナーから脆いフレークを利用 してカムエイド右上
ナベ→山崎 30m X-級A1 ※フリーで通した場合、絶対に5.8ではない(多分10+以上ある)。内容がアルパインなのでRCCグレードで表記

狭いコーナのビレイ点からコーナークラックと右フェースに走ったワイドクラックのダブルクラックを登る。プロテクションはそこそこ取れるし岩はまあまあ硬いし(浮石落として山崎さんのメットに直撃させてしまったが)面白い。フリーで言えば5.8くらいか。
面白いのは最初だけで、ワイドクラックを辿り右フェースのカンテを回り込んで右手に出ると浮石だらけのレッジ。レッジごと落ちそうで怖い。左上するようだがムーブも全然分からん。頭上にサビサビのリングボルトがあったのでスリングタイオフしてA0で抜けてコーナーに戻る。頭上にはヤバいフレークが浮かんでおり、とても触る気はしない。1手上がって、垂壁に張り付いた右上するフレークに触って見るがパカパカ言ってる。そもそもスタンスもヤバく、クラックから飛び出たパカパカ言ってる石しかない。石の上にフットジャムしフリーで抜けようとするが全然無理。A0に切り替えてカムやトライカムを乱れ打ち。行く手はさらに傾斜が増し、A0では進めそうにない。一応日本の岩場では5.8となっているところでA1するのはちょっと…という葛藤ののち、山崎さんならフリーで抜けられるかもという期待を込めて交代。
しかし山崎さんも同じ箇所で止まったのち、スリングアブミ攻撃開始。山崎さんでもA0どころかA1か…5.8なわけ無いじゃん!
山崎さんが終了点につく頃には薄暗くなっており、フォローはヘッドランプ装着。フォローでも重荷でA0では厳しく、途中から荷揚げした。
ちなみに後半のフレーク帯の落石はビレイ点に直撃は免れそうな雰囲気でそこだけはポジティブ要素。
ビレイは灌木だが、全部レッジの足元に生えていて使いにくい。

出だしのダブルクラック。ここは面白いが…

振り返ると河原まで一直線



3人目のナベが登り終わって全員が日本の岩場6P目終了点集まったころにはほぼ日没していた。この終了点のレッジは、幅こそ3メートル位あるが、奥行きは 40センチほどしかない上、段差で寸断されており、そこに太い木が一本と細木がたくさん生えている状況。ぱっと見ここでビバークは不可能。レッジに立った状態で支点が取れてないので安定していない。ムラマティに至ってはレッジに立てず立木と壁の間で挟まって死に体になっている。しかし進むにせよ戻るにせよ、狭いレッジ上でギア・ロープ が混乱しており一旦整理しないと何もできない。全員でレッジより上側の支点を構築。幸い左側にちょっとカパカパ言ってるもののマシなフレークがあり、真ん中あたりにはフレア気味だがキャメやトライカムの決まる部分があった。右側が一番広いが、足場が斜めっている上に頭上にクラックがなく、腰より高いところにある支点は細い木しかなかったが、リスにハーケンで補強。全員何とか立って壁に向き合うことができた。
どうするか協議。
ムラマティは進んでみたいというが闇夜のトラバース10aはヤバすぎるので却下。
常識的には撤退だけど、撤退したら二度と来ないだろうし、ムラマティのチャレンジの機会を奪うのは忍びないし、この状況でビバークは辛そうだが楽しくもありそうだ。
「常識的には退却だけど、ここで一晩耐えられればワンチャンスあります、どーしましょうか」
と山崎さんに水を向けるてみた。するとノータイムで
「ここで立ちビバークでええやろ」
と返って来た(笑)。多分このくらいのビバーク何度も経験しているので何とも思ってないのだろう…
ビバーク決定となり、足下が200メートルくらいキレ落ちたレッジでオープンピバークという状態に俺もムラマティもちょっとワクワク。
着れるだけ着込んだりしていたらなんだか意外と普通に一晩過ごせそうな雰囲気になってきた。お茶を飲みながらなるべくバカ話して引っ張り時間を稼ぐ。「電車の中で立ったまま寝るサラリーマンの真似」は結構ウケたと思う。
他バカ話例…ナベ「明けない夜はない!」
山崎「今夜が、人類が迎える初めての<明けない夜>かも知れへんで」
他にもイイ感じの替え歌を思いついたりしたが忘れてしまった。
やがてネタもつき就寝。
ナベ、ムラマティは尻を木の上においた状態でのお座り、山崎さんは斜面で滑るのでしがみつくような形?で、みな時々腰やら尻やらが痛くなって動いたり、立ったり、また座ったり。約2時間おきにお茶を沸かす。
ほぼ無風で助かった。

さあ、楽しいビバークの始まりだ!



2024年5月5日 晴れ
0550ごろ日本の岩場7〜8P目(当パーティ8P目)登攀開始 0910ごろ「ここにもあったぞエルキャピタン」終了点〜大休憩〜1000ごろ行動再開  1015フィックスのある岩場 1045不動返し尾根に上がる 1130P?(多分P4?)の左手のルンゼからV+くらいのクライミング 1310ごろ大蛇ー展望台 1410ごろ大台ケ原駐車場


夜明け。意外とうつらうつらと寝れたが、明るくなってくると足元の切れ落ちっぷりに改めてビビる。
ビレイを取りながら狭い場所で戦闘準備。

待望の夜明け

ビバーク後の準備は遅くなると相場が決まっている




日本の岩場7〜8P目(当パーティ8P目)ムラマティ 2〜3段下がりながら左トラバース後、浅いフィンガーサイズフレアクラックを無視してルンゼっぽい所 を直上 トラバースがヤバい 45m 10a・R
ファイントラックのカタログでは5mとあるが8mくらいトラバースして左のカンテっぽいところまで、そこからルンゼ状を直上。ファイントラックのカタログによると「一段下がって5mほどトラバースの後、フィンガーサイズから徐々に広がるクラックやブッシュを交えて登る」とのことだが、ムラマティはルンゼの手前のフレアしたフィンガーで迷ったのち、明らかに弱点である奥のルンゼっぽいところを登っていった(ビレイ点からは見えない)
普段人工壁やゲレンデではガバを追ってしまうが、このラインでは(というかトラバース一般では?)スタンスを追う。よく見るとちゃんと繋がっている。
トラバース部分はプアプロで、イマイチ信用できないカムが2つしか決まっていない。ビレイしていて恐ろしかった。
フォローしてみると、ムーブ自体は確かに辛めの10aといった所だが、何しろ昨日あれだけホールド剥離で苦労しているのに、縦カチで体を振ったり、マッチしたりと、精神グレードは相当高い。トラバース中に2〜3段くらい下がるが、リードは最後の方で、フォローは最初の方で落ちると本当に大変なことになる(特に我々のようにトップがザイル2本引いて、フォロー2名には各ロープ1本の場合、フォローが落ちた際にロープが切れる確率は高いと思う)。
ルンゼ状に入ってしまえば容易でグイグイ上がると広いテラス(バルコニー)に出る。
日本の岩場8〜9ピッチ目をリンクして登った形の模様。日本の岩場とも若干記載が異なり、後で首をひねることになるが、このライン以外登りようがない。まさかあのフレアしたフィンガーを登るということは無いだろう…
なお、バルコニーは、草部分はやや斜めっているが十分ツエルトが張れそう。一段上の岩の上は平らで寝心地良さそうだ。

恐怖の下りトラバース(後続はもう一段下から入ったがそれでもさらに2段くらい下がったはず)

フォロー中、ルンゼに入ってから後ろを振り返る

フォロー中、ルンゼの中の登り


9P目 ナベ W級A1 30m 左のクラックをカムエイドと残置で2段登り垂壁基部を右トラバースして右側の弱点からトップアウト 
最後の岩壁はスラビーな幅広の岩。正面のリングボルトから取り付くが、最初にカチが2つあるだけで後は何もなく、とても5.8のムーブでは登れない。
左手のクラックから人工で2段上る。最後はスリングアブミまで動員。上部岩壁基部を右トラバースして右の弱点から巻き上がって立木でビレイ。多分正面ルートのラインだと思う。
後続の山崎さんはフリーで中央直上ライン。これは日本の岩場の「ここにもあったぞエルキャピタン」のラインで、「ボルトの左から取りつき、右上→直上。すぐに傾斜がおちて楽になる。出だしのボルトと最上部の浅打ちハーケンの間がノープロテクションというのはヤクザすぎる。」とのことで、グレードとしては5.9・R程度とのこと。
ムラマティは「正面ルート」の左のクラックを1段登ってから右トラバースして「ここにもあったぞエルキャピタン」に合流。10a程度とのこと。

最終ビレイ点から。各自好き勝手なラインをフォロー



終了点の尾根は実に平和な樹林帯で、しばし休憩。シューズを履き替えて展望台を目指す。
不動返し尾根までの登りは急かつ藪が濃く、しかもスラブのトラバースが出てきたりして大変(スラブには古のフィックスがあった)。沢タビでトラバースしたら肝が冷えた。
尾根上に出ると相変わらず藪は濃いものの、鹿道がしっかりとあるので、これを利用し登る。沢登りでこういうのに慣れている人なら問題ないだろう。1か所、岩峰を左から巻いてルンゼを登る際にクライミング要素があったほかは基本的に歩きと急斜面藪こぎで済んだ(この部分は細いフィックスがあったが木の根っこ掴めばノーザイル・残置無視で問題なかった)。終了点から3時間程度で展望台に到着。展望台は観光客が結構いて、鎖乗り越えて安全ゾーンに入ったら喜びたいところだがそそくさと上がり、登山道の日陰で休憩。ムラマティは登山道に入った瞬間に足を攣ったとの事。のんびり駐車場へ。

平和な終了点


不動返し尾根手前のフィックスのあるスラブ。クライミングシューズに履き替えなかったことを後悔。


不動返し尾根直下の登り、シンドイ



不動返し尾根P4(またはP5?)と思われるピーク。ピークは明瞭でなく、ぶっちゃけよくわからない。

上記写真の岩峰を左から巻いたらルンゼにさえぎられたので、ルンゼ左岸を登攀。不動返し尾根で唯一クライミングっぽい部分だった。


やったぜ!


駐車場に戻ると、隠しておいた車のキーが無く途方に暮れるが、ビジターセンターに届いていた。行き路で親切しておいたのが効いたのか?親切は回りもんだなあと感激。
翌日は御在所とか計画していたが天気が悪いことと体が悲鳴を上げていることから中止とし、今日帰るか明日帰るか、という話になるが、渋滞予想が本日ピークであることと、昨日の晩ほとんど寝ていなくて運転が危ないことから、今晩はのんびり打ち上げて、明日帰京することとし、くらや食堂(https://maps.app.goo.gl/uq9PhtrnYbJRfJ1PA)にて飯。途中の酒屋の自販機でビールを買い(https://maps.app.goo.gl/zjt9TUaXZygWpUtS6)、某所にて打ち上げ。
ムラマティがアプローチの際にショッピングプラザたけよし(https://maps.app.goo.gl/Aj47tNHEqj8SkpSD9)で仕入れた日本酒(金嶽しぼりたて)は今どき5合瓶、アルコール度数20度という、外観・スペックだけでも個性派だった。味も非常に個性的で、口に含んだ瞬間ズドーンといい意味でのアルコール感が押し出してきて、いつまでも押してくる(なかなかキレない)という、相撲でいう電車道のような酒で、大いに楽しんだ。そして就寝。平らな地面はありがたい!本日もオープンビバークで3日連続だが、平らかそうでないかは大きく違う。
翌朝、近鉄榛原駅にて山崎さんと別れ、昼前に八王子でムラマティを下ろし、13時ごろ帰宅した(混んでなかったのでとても早かった)。

【テクニカルメモ】
・水を駐車場出発時点で一人頭4L(合計12L)くらい担いで(実際には各自ペットボトル飲料などもあったので13.5Lくらいか)、取り付きで補給し満タンだったので、水だけで13.5s、これをフォローの2名が担いだ。ほか各自のカッパ・ヘッドランプ・防寒着・シュラフカバー・行動食・お座りビバーク用マット(結局使えなかった)と、共同装備のガス缶&食器(1個でお茶を沸かして回し飲み)・ツエルト(結局使えなかった)で、フォローは10s近くのボッカとなった。フォローとはいえコレだけ担ぐと大変だった。これがアルパインの難しさ(と面白さ)でもあるのだけど。
・もともと終了点またはバルコニーでツエルトを張ってのお座りビバークを想定していたが、予想外の日本の岩場6P目の人工でたどり着けなかった形となった。まあ案外いい経験になった。今後10年はこの話で酒が飲めそう。
・ギアはキャメ0.2番相当〜1番を3本、2~3番を2本、4番を1本、ナッツを1.5セット、ボールナッツ1個、トライカムエボ1セット(0.25〜0.5、1、1.5、合計4本)、ハーケン6本を持って行ったが、過剰だった。日本の岩場2P目はそもそも相当の達人でないとハーケンは打てない(両手が離せない、マジでどうやって打ったんだろう)ので、ビレイ点補強用に3〜4本くらいで十分。カムも番手下の方3セットはやり過ぎた。ビレイ点に意外と残置や木があって、ビレイ用にカムを取られるということが少なかった。日本の岩場6P目(当パーティ7P目)で人工する場合3セットあってもいいが、長丁場であることを考えると軽量化したい。間引いて2.5セットくらいにするか、2セット+トライカムエボが最適解か。ナッツも1セットで十分だった(敗退用に持って行ったという部分もあるので仕方ないが)。
・ロープは50×2で十分だった(日本の岩場1P目はリンクする必要全くなし)。敗退を考えると60でもいいが、この壁を直線的に降りるとどうなるか分からないのでルート沿いに下った方が安全と思われ、そうすると50で十分。なお、下降はブッシュで可能(2024年時点)なので敗退用としてジャンピングセットは不要。
・グレード感は全員協議して記載した。6P目(我々の7P目)は絶対に5.8ではないので注意。全体に、デジマルグレードだけでは言い表せない難しさがある。今回の記録はそれを表現したつもり。私としては、安全に登ろうと思ったら1.5周りは余裕を持った自然璧OS能力(5.11後半くらいのOS能力)または山崎さんのようにステータス欄にアルパイン適正Sが必要と感じた。核心の5.10bと5.10a以外は5.8じゃん、と安易に取り付くと後悔する。
・アプローチは落石に注意。終了点〜展望台は沢登りで藪こぎをやっていれば問題ない。しかしどう考えても展望台から岩場までのアプローチと、終了点から展望台までの脱出に合計6〜8Hはかかるので(我々は約7H)、日の長い時期でも相当な猛者でない限り日帰りは困難。我々は視界良好だったのでサクッと(もちろん疲れたけど)不動返し尾根を登り返したが、視界が無かったら不動返し尾根はハマる可能性が高い。どのような計画を立てるかも含めて経験とセンスを問われる。なお、敗退した際は、この岩壁の開拓で活躍した登攀倶楽部京都・大阪の方々は東ノ川に降りて不動返し尾根を回り込んで中揚谷(中崩谷)を登り返している。こっちの方が元来た方を登り返すより容易な模様だが現在はどうか?

【感想】
ナベ:ファイントラックのカタログがきっかけで興味を持ったルートでした。名前も個性的でいい。けど、思ってたのとは違いました…(笑)。去年の6月くらいからこのルートを意識し、全ピッチ俺がトップしてやるくらいのつもりでトレーニングしてきましたが(この1年で人工璧10cは確実に、10dは8割、11aは2〜3割オンサイトできるというところまで持ってきた)全然足りませんでした(人工璧なら12aOSくらい必要?)。3P目と8P目はちょっと…(8P目はフォローでも危険度あまり変わらないので、トップでも時間かければなんとか行けたと思いますが、3P目は無理です!)
ともあれ、P3南壁の、下から見上げた時のデカさ・威圧感は凄まじく、それを完登できたということは素晴らしいと思います。オープンビバークも心に残るものになりました。打ち上げの酒も旨かった。
ムラマティ・山崎さんありがとうございました!関西・奈良らしい物が食べられなかったのだけが心残りですがそれは次回ということでよろしくお願いいたします。

ムラマティ:今回ナベさんからお誘いいただき、初めて大蛇ー登攀について調べたとき、そのスケール感の大きさや記録の少なさなど、これまで経験してきた、いわばゲレンデ的な本チャンクライミングとは異質の冒険性を感じて心躍ったことを覚えています。
とはいえ登攀前のイメージとしては、「ここにもあったぞエルキャピタン」というルート名や、硬砂岩という岩質からしても、硬くて大きな岩壁の中を、多少ランナウトしながらも快適に登っていくというイメージでした。しかし実際登ってみると、終始ボロくて不安定な岩を、ほぼランナウトしながら登るというメンタル核心な内容でした。
さらに激狭レッジでのオープンビバークや、不動返し尾根の激藪の急登も含めて甘さがなく、自分にとってはかなり全力感のある山行となりました。
なお個人的ハイライトはやはりビバークです。
日没してからようやくたどり着いた終了点が、1人もまともに座れずに、かつ支点にも不安があると分かったときの悲壮感は強烈でした。
しかしその時の山崎さんの「ここで立ちビバークでええやろ」という、蕎麦かうどんどっちにしよう、くらいの気軽な発言には、この人正気か?と内心ツッコミましたが、やってみればなんとかなるもので、なるほどこれも経験の差だなあと思いました。
いずれにしても、岩壁の真ん中で空中に生えた細い木に座り、ツェルトやシュラフカバーすらも使えずに過ごした一晩は、過酷でしたが刺激的で、おそらく人生通して忘れることはないでしょう。
結果、ナベさん&山崎さんのおかげでいい山やれました。
本当にありがとうございました!
またよろしくお願いします!

山崎:久しぶりにアルパインの気分が帰ってきた。
フリーでスマートに、などという気分は最初の藪こぎで溶け始め、支点のない脆い壁をトラバースするうちにきれいさっぱり蒸発していた。
終了点を睨みつけ、目を戻して眼前のムーブを考える。
「落ちられない」というプレッシャーが喉をひりつかせる。
不安定な岩角を掴みながら頼りないブッシュにタイオフして手足を進める。
事前情報も残置支点もまったくなかった初登者に比べれば、などと言っても怖い物はコワイのだ。
だがその恐怖や逡巡、脆い岩や先の見えない不安も、すべてがアルパインクライミングの大切な要素なのだ。
そして時間との闘い。
7P目のやっかいでもろいセクションでは、迷わずシュリンゲを踏んだ。
スマートさなんかくそ食らえ。このピッチを今日中にこなすことが出来れば敗退はない。
そうやってようやくたどり着いたレッジは狭くて凹凸だらけ。
だがもう見えた。明日はトップアウトできる。
ここで撤退なんて解はない。
支点はブッシュ・ハーケン・クラックといくらでも取れる。水も行動食もある。気温も高いし風もない。
日が暮れて真っ暗だが士気旺盛な二人は邪魔なブッシュをなぎ払い、少しでも快適な夜にしようと
努力している。
これだ。
藪こぎに脆い壁、渋いムーブになんでもありの登攀だったのだ。これにビバークがつけばフルコース。
満漢全席でラッキーというモノじゃないか。
あとは朝を待つだけの簡単なお仕事だ――。
そうしてクライミングを完徹できて最高の気分が味わえた。と結べられれば良かったのですが、
展望台までの藪こぎの辛かったこと。
ほとんど一歩ごとに腿やらふくらはぎがつって涙目。
そして最後の 駐車場までの道ゆきでまっ白の灰になりました。
遠い関東から長駆大台ヶ原まで遠征してきた物好きさと、出発直前であるにもかかわらず快く参加を
受け入れてくれた二人は感謝の言葉もありません。
ありがとうございました。

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