■立山/称名川 称名滝

2026年9月19~20日
丸山(記)、井上(G登攀クラブ)
称名滝の全容の写真
夫れこの瀧を仰に、
猶、高くしてその源を見えず。
また見下すに、その瀧壺知る人なし。
誠に銀河の九天より布を晒すとは、
この御手洗の御瀧なり。
──『立山手引草』1854年

 魔法カード『午後年休』発動…!午後の勤務時間を墓地へ送り、23時前に富山着。快挙。ラスコン(最終コンビニ)のセブンが道の駅並みに広い駐車場で、しかも一部屋根付きなのでそこでビバークしようとしていると、なにかを察したクセ強い店員に、「パトカーが夜中何台も巡回で来るんすよ」とか、「コンビニで車中泊とか非常識で普通にヤバいと思わねえすか?思いますよねえww!」と、東リベのマイキーばりのテンションで牽制してきたので、近くの地鉄の駅に移動することした。

 『称名滝』といえば、実は幼少の時分、一度だけ観光で連れて来てもらったことがある。その当時はクライミングは疎か登山すら知らなかったので、「わァ…滝ィ!」って感想くらいなものだったが、まさかコレを登りに来る日が来るとはね。人生分からないもの。一体どこで道を間違えたんだか……。いや否、思えばあの邂逅の瞬間から、脳髄の奥深くには圧倒的な水煙を噴き上げる、美しく豪壮雄大、威風堂々、滅浄妙理、身の毛も逆立つ「勝妙の瀧」の威容が刷り込まれていたに違いない。「これこそが日本一の滝である。」という確信は(何を基準にするかはさておき)、揺るぎない真実として幼心に刻み込まれていたのだ。沢ヤとなった今、これを登りに来るのはむしろ必然。定められた運命だったのだッ。たぶん。

 ちなみに、称名滝は、毎秒数トン~数百トンとも云われる圧倒的な水量に削られ、現在もなお年間約10cmというハイペースで後退している説があるのだとか(ってことは10年で1m?!)。近年も大規模な崩落があったようで、写真を見比べるとその規模に驚愕する。そしてその四段目はいずれ分裂し、将来五段目ともなりうる“水の跳ね上がり”が見られるようになっている。地球は生きている。称名滝も生きている。まったく壮大な話だ。この大地の躍動に比べたら一沢ヤのなんとちっぽけなことか。まあ、登攀には全然関係ない余談だけど…。(四段目だけに)


9/19(土):晴れのちガス
 翌朝、桂台ゲート前で着替え、パッキング等を済ませて7時の開門を待つ。荷物は切り詰めて2人分で40ℓ。軽い。これならイける!気合い十分で出発するも、断崖の陰から300m有余の巨身が顔を覗くと、流石にちょっとビビる。こ、コイツが本当にヤれるってのか?!観光客の目を避けつつ、橋の袂から沢床に下りる。#上は、居ても立っても居られず先週も滝下まで偵察に来たらしい。ビビる素振りも見せず嵐の取り付きに向かってさっさと歩いていく。到着しこちらを振り返り、興奮からかニヤニヤ(というか常時?)している#上とリードジャンケン。ビビって一瞬負けろ~とか思ってしまったがそういう事思うから勝っちゃうわけ。うげっ。ってことは俺が3p目かよ。

〈四段目〉
1p 丸 Ⅴ (45m)
 泥と外傾したスタンスが嫌らしいが見た目に反してヌメリは少ない。しかし、プロテクションは渋め。この前沢で使ったTCProがカチコチに縮んでて足がキツく、なんか馴染まない。これ何とかならないもんか…。朝イチのランナウトにビビりつつもフリーで登りきり、クラックセクションの入口で切る。
称名滝四段目1p目の取り付きの井の写真
嵐の1p目取り付き
称名滝四段目1p目をリードする丸の写真
1p目をリードする丸
2p 井 Ⅳ A2 (35m)
 取り付きから見て、細い右上クラック(左)とガチャついたクラック(右)の2本見えていた。登りやすいのは右かと思っていたがラインは自然と左に収束する。前半は優しくフリーで行けるが後半が難しい。右上するパートがテクくてこれを通してフリーで登るのはなかなか大変そう。後半はエイド職人が降臨していた。
称名滝四段目2p目をリードする井の写真
2p目をリードする井
称名滝四段目1p目をフォローする丸の写真
2p目をフォローする丸
3p 丸 Ⅵ A2 (40m)
 直上〜右上ラインと真横に5mトラバースして直上するラインがありそうだったが後者を選択。足元にカム決め絶妙に繋がるホールド拾ってトラバースしそこから顕著なガチャガチャしたクラックをエイドで直上。傾斜は垂直。デカい岩が平気で動く。もげそうで恐。アブミに立ち込んで手の届く範囲にピン取れないところもありムーブと織り交ぜて行く。フォロー時、幾つかのカムは引っ張っただけで抜けたらしい。垂直部を抜けたら丸いカンテ状のスラブとなる。ここがヤバかった。少し登った後左へトラバースすれば簡単なラインに入れそうだったが濡れている、かつ足下2mに決めたのはキャメ#0.0だいぶランナウトしているのもあって突っ込めず、そのまま乾いたカンテ部分を直上。軍手ではホールディングできず最後は素手でめっちゃカチった。
称名滝四段目3p目をリードする丸の写真
3p目をリードする丸
4p 井 Ⅴ- (30m)
 徐々に傾斜は緩むものの全然侮れない。水流の流れているところがラインだが、草でホールドスタンス、プロテクション決めれるリスが見えにくく、ヌメリもやや増している。だが一瞬逡巡した後、安定した登りで抜けていった。そういえばここのビレイ点(3p目終了点)には、Petzlスピリットの現行最新モデル(3つの穴が開いたやつ)とウィリアムが残置されていた。しかもどうやら下降した痕跡。ってことは少なくとも2023年以降に誰かが登りに来てここで敗退したのだろうか?3p目抜けて敗退も考えにくいので、まさか冬季?
称名滝四段目4p目をフォローする丸の写真
4p目をフォローする丸
5p 丸 Ⅲ (25m)
 あとは斜度もだいぶ緩んでおり簡単。水流(湧水なのかめっちゃ冷たい)から草をワシワシ登ると取水バンドに飛び出た。
称名滝四段目5p目をリードする丸の写真
5p目をリードする丸
手を振られたから四段目落口から振り返している写真
観光客が手を振ってたので振り返してる

〈三段目〉
6p 井 Ⅳ+ A1 (45m)
 荷物置いて大休止したあと三段目にロープを張りに行く。一段登ったところからスタートし、左のリッジから草付き下のバンドを大きくトラバース。ここも油断するとデカい岩がもげそうで怖。ワンポイントA1。フォローで回収して、明日のユマールに備えて直上ライン(厳密にはやや右上)に張り替えておいた。こっちのラインにもボロボロのピトンが連打してあり、昔は登られていたのだろうか。手で捻ったらもげた。
称名滝三段目6p目の登攀ラインの写真
6p目の登攀ライン

 取水バンドに戻り、整地して寝床を設営。ちなみに、この道が大戦時に掘られた取水バンドと言うのは大西本で知った情報だが、人工物っぽいものは岩を穿った通路の形状以外に残されていない。通路は三段目の滝壺に向かってぷつりと途切れており、滝壺はそのまま四段目となって遥か眼下に膨大な水の束を放っている。さっきまで眼下にみえていた滝見台はガスに包まれ見えなくなっていた。なんだか別世界に迷い込んでしまったよう。

 暮れゆく中、轟轟と流れ続ける水の束を見つめていると、ふいに吸い込まれそうな恐怖を覚える。山に居て夜が来るこの時間が一番好きだ。焚火ができなかったのは残念だったが、薄いシュラフに潜り込みわずかなウイスキーをチビチビとやって就寝。夜半にバラバラと雨。ツェルトを伝って侵入した雨水でシュラフはびしょ濡れ。軽量化でマットを削ったら夜背中が痛くなった。
取水バンドのビバーク地の写真
取水バンドのビバーク地
通路の先にみえる三段目の滝壺の写真
三段目滝壺


9/20(日):ガス
7p 丸 Ⅲ (45m)
 朝イチで6p目をユマールしてスタート。三段目は水線を通過するため晩の雨での増水が心配だったが、特に増えている気配は無かった。7p目はまず水流際やや上をトラバース。途中で水流に降り水流の中の階段状をシャワークライム。抜け口は水圧をもろ受けるスラブで厳しくどこかで左壁に移る必要があるが、左壁に移るならもう少し手前が良かったかもしれない。スラブ手前の飛沫を避けれる岩陰で切る。(後から記録を見たら成瀬さんも佐藤さんもこのスラブを登っていた。やっぱ半端ない。)
称名滝三段目7p目をリードする丸の写真
7p目をリードする丸
称名滝三段目7p終了点でギア整理する井の写真
7p終了点でギア整理する井
称名滝三段目7p終了点先の登れなかったスラブ面の写真
登れなかった水流際のスラブ

8p 井 Ⅴ- (35m)
 左壁に移るのがワンポイント難しい。浅打ちのピトンを決めながら、上手くトラバースも交えつつ三段目落口へ抜ける。ここは広い広場となる。「二段目下の河原が長すぎるので、称名滝を一つの滝と言い切るのは無理があると思うんですよねー」と力説していた某友人T(大恋愛中)の顔がふと浮かんだ。

 だがなんというか、この空間に佇み、幾万もの水の糸の絡み流れ落ちていく様を見ていると、そんな事は全くどうでも良いとさえ思われてくる不思議がある。どれが何段目だとか、正確な落差が何メートルだとか、どれもこれも人間が勝手に定めたことだ。一つの滝の定義然り、メートルの単位然り、極論「称名滝」という名前すらも。この滝は、ただこの滝として、無限の天地の狭間で、何千年も、何万年も、この膨大な水の束を虚空に吐き出す営みを続けているだけなのだ。誰に見られていても、見られていなくても、休むことなく延々と・・・。いや、別に常時そんな過激な事思ってるわけじゃないっすよよ。なんとなく、この空間に存在していると、ね・・・。

 例の岩小屋?と思われるところは入口付近に巨岩が散乱していた。潰れたのかもしれない。中は確認していない。
称名滝二段目滝壺を振り返った写真
二段目滝壺。 R.I.P.

〈二段目〉
9p 丸 Ⅳ+ (45m)
 正面の垂壁を避けるように左壁にルートを求める。草と泥で覆われているうえリスがぴったり閉じていてピトンが入らない。ペッカーなども決めながら、泥臭くルーファイ命な感じのトラバースを経て広いスラブ面へ。
称名滝二段目9p目の登攀ラインを振り返ってた写真
9p目を振り返って

10p 井 Ⅴ (30m)
 易しそう…に見えたがそんな事ないスラブ。正面がラインかと思ったが、プロテクション渋かったのか左の草付きを交えながら登っていった。傾斜が増すガチャガチャした核心部の下で切る。天気はますますガスが濃くなり、滝がまるで雲の中から湧き出て落ちて来るみたいだ。
称名滝二段目10p目をリードする井の写真
10p目をリードする井

11p 丸 Ⅴ- (40m)
 如何にも捥げそうなフレークが突き刺さった壁。節理(というより剥がれ掛けた岩の割れ目?)は豊富でカムは取れる。明らかヤバそうなフレークは触れずに登ったつもりだったがロープが掠っただけで1つ崩落し、また#上を殺しかけてしまった。不死身の#上は、間一髪の神回避をしてくれてセーフ。その際、岩がロープには当たっていて1本切れてしまった。
称名滝二段目11p目をリードする丸の写真
11p目をリードする丸

〈一段目〉
12p 井 Ⅴ (40m)
 暴風テラス。ここから一段目。例の2本選べるクラックであるが、左はこれまた簡単に落ちそうな岩が挟まっている。先程のこともありとりあえず右に取り付く。が、この壁がまー汚い。苔で覆われているとかの次元でなく、まず2~3cmの泥が表面全体に塗りたくられていてそこに青々とした苔が茂っている。ねちょ~っとした感触がもう異次元。結局、良いリスも掘り出せず左に転進。もうロープ1本で後がなく、いつデカフレークがもげて井上かロープに当たるのではないかとビレイしていてもひやひやしたが、華麗にフリーで抜けていった。
暴風テラスにて称名滝一段目12p目登攀前にセルフ軽量化を図る井の写真
暴風テラスにて12p目登攀前にセルフ軽量化を図る井
称名滝一段目12p目の分厚いドロと苔に覆われた右のクラックの写真
分厚いドロと苔に覆われた右のクラック

13p 丸 Ⅳ- (45m)
 ウイニングラン。部分的に悪い箇所もあるが、ここまで来れば精神的にはかなり楽だ。なるべく水線に寄って行き、最後は落口ドンピで抜け、カムで支点を作ってオフビレイ!
称名滝一段目13p目をリードする丸の写真
13p目をリードする丸

 眼前には、恐ろしき称名廊下の入口があった。そして有名な「称名ジャンプ」。なるほど…。確かに、ここで左岸に渡れば左岸を簡単に歩いて称名廊下の内部に侵入できる。これをやる日は・・・、まあ来ないだろうな。とりあえず、今のところは・・・。
 しばし休憩を取り、称名廊下から溢れ出てくる聖水で身を清めたり、ガスに包まれて見えない眼下を眺めたりする。それにしても、これのフリーソロは正直ヤバすぎる。中嶋徹さんとは、共通の友人を介して今期沢登りの計画を立てたりしていたが、この次元で闘う御方だったんですね・・・。遠い背中だ。
 だがまあ今回の称名滝は、圧倒的な登攀力を持つ上級者とではなく、そこそこ力量の近しいパートナーと登ることができた。しかもボルトを打ったり残置を残したりせずクリーンに。それが今は嬉しい。
称名滝一段目落口に立つ井の写真
落口に立つ井
称名滝一段目落口に立つ丸の写真
落口に立つ丸
称名廊下の入口の写真
称名廊下の入口


 大休止後、まだまだ気の抜けない大日平までの登攀を開始する。ちょうど真っ二つになったロープがあったので、それでコンテで登ることにする。少し登ると斜度が緩んだのでロープを解いてヤブ漕ぎ。例の泥壁は“いかにも”な見た目。再びアンザイレン。泥壁というよりは、ヤバい垂直の木登りという内容だが、25mいっぱいで傾斜が強い部分は抜けられ、そのままロープを引きずっていくと、斜度は一気に緩み大日平に到着。あとはGoogle Earthの衛星写真を見つつ、ヤブの薄いところを狙ったり微沢を利用したりしつつ進む。最後のササ原に出れば、木道はもうすぐそこだった。
ガスガスの大日平の写真
ガスガスの大日平…
大日平の木道の写真
完。

【コースタイム】
9/19:称名平駐車場(7:00)─取り付き(7:35-7:45)─1p目終了(09:10)─2p目終了(10:50)─3p目終了(12:55)─4p目終了(14:10)─取水バンド(14:30-15:00)─6p目fix終了(16:30)─取水バンド(16:45)
9/20:取水バンド(6:00)─三段目終了(07:50)─二段目終了(暴風テラス)(10:50)─一段目終了(12:30-13:10)─大日平(14:30)─登山道合流(15:20)─大日岳登山口(16:00)―称名平駐車場(17:00)

【★TIPS★】
・予備軍手があってよかった。泥と苔の掃除で一日でボロボロになってしまった。
・運動量少なく腹減らないので、行動食は少なくてよかった。かなり余った。
・大日平のヤブ漕ぎは航空写真てを見て薄いところを狙って行くと楽(山菜取りテツ君のアドバイス)
・登攀具は、ナイフブレードたくさん、ロストアロー、スモールカム、ナッツ、トライカムが特に有効。

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