■北ア/上高地〜天狗原〜涸沢〜奥穂高岳扇沢

2003.04.26-.28
寺本久敏、山崎洋介
 寺本とGWに槍穂漫遊スキーに行くことになって考えこんでしまった。「漫遊」などと銘打ってはいるが、氏は山登でも名うてのスキーの名手である。ただで済むわけはない。あまりの歩行性の悪さに放っておいた兼用靴(ダハシュタイン)の埃をはらうことにした。


扇沢で休憩する。
 とはいえ、ガンダムの足のような初期の兼用靴で長いアプローチをこなす根性はない。上高地から横尾までサンダルで歩いて受け(呆れ?)をとった。  補給のヘリがひっきりなしに飛ぶ横尾でスキーを履き、出発。
 思い出したように現れる雪の切れ目に難渋したが、槍沢ロッジにつくころには沢筋もほぼ埋まってくれる。
 ロッジからは右岸にルートを取り、避難小屋近くで泊。
 今晩は豚汁の予定だが、寺本が困惑している。ボンベを忘れてしまったらしい。
 山崎のボンベだけで四日の山行をこなすのはかなり心もとない。相談の結果、槍登頂はあきらめて一日短縮することにした。

 明け方に一瞬雨がツェルトを叩いたものの、回復傾向にある空は明るい。食欲のない山崎はお茶だけ。
 大曲り手前からデブリが谷を埋めはじめるが、スキー歩行を困難にするほどではない。左岸から谷の中央通しに進む。
 天狗の池には大きく回り込むようにしてトラバース。
夏道よりやや上ぐらいか。斜面がかなり急峻なので、途中で板を脱ぐはめになる。
 天狗の池におりてくる支尾根を回り込み、カールの際を登高してコルへ。
どんどん回復している空の下でビンディングを締める。
 滑降開始の急斜面に一瞬腰が引けるが、滑りこんでしまえばこっちのもの。快適な斜面にターンを刻む。立ち止まるのは息が切れたときだけ。
 コースを左岸斜面にとり、カールが最後にすぼまるあたりでデブリを突っ切って右岸へ渡る。
 涸沢出会いまで雪面は続いているが、登りかえすのもしんどいので涸沢左岸台地を巻き込みながら涸沢小屋をめざす。横尾沢最下部にある小ルンゼの横断で多少てこずった。
 眼下の登山道にはアリかピラミッド建築の労働者のごとき大行列。それを見下ろしつつひたすらトラバースする。小屋が見えだすあたりで登山道と合流、アリさんの一員となって涸沢小屋着。
 まだ日も高いので奥穂の小屋まで行けないことはないが、ビールと宴会の誘惑に負けてここまでとする。
 時間が余ったので適当な斜面を滑ろう、と寺本を誘うがあっさり断られてしまう。
 仕方ないので一人で行く。
 六峰直下の易しげな斜面をもそもそと登る。直下の小屋めがけて滑る滑る。転げていた石を避けるために二度ほど崩れたが、なかなかきれいなシュプールが描かれている。満足。
 テン場代として一人あたま五百円を徴収される。赤いポールで区切られたエリアからはみ出ていたテントは移動を命じられたようで、不満たらたら。  午後遅くは荷揚げのヘリ到来。ギャラリーが多いのに発奮してかいろいろと芸を披露してくれる。みんな大喜び。
 夕食は、餃子なべ関東だき風。

 山登としては信じられないことに345。いくらか冷え込んだのかツェルトが凍っている。
 雲に巻かれているザイテングラートを登る。
クラストしてはいるが、ステップが縦横無尽についているので階段登りのようなものである。涸沢ベースの軽装でアタックする登山者を横目で見つつシートラーゲンなり。
 奥穂の小屋までは寒くて仕方なかったが、ピークに立つころにはまた暑いほどの陽気に戻った。
 ピークへの登りではアイゼンをつけたが、ベルグラもなく必要なかったようだ。
 毎年来ている人の話では今年は雪がずいぶん少ないとのこと。
 最初の計画では前穂まで縦走し、重太郎新道をいくらか下降して滑り込むつもりだったのだが、新道沿いのルンゼが細くて怖そうなのと、兼用靴で吊尾根上を行動するのがつらそうだったので奥穂の頂上直下からとする。
 扇沢に直接突っ込むか、一本前穂側の細いガリーから滑り込むかで迷ったが、だだをこねた山崎が勝って扇沢案が採用になる。さてと……。下が見えない。スキーを履き、兼用靴のバックルをとめる手も震えている。怖いのだが、現実感がない。胃の半分ぐらいがどっかにいってしまったような気分だ。息をのんで突っこむ。遊園地のジェットコースターだ。違うのは、こっちは自分でやることがいっぱいあり、やりそこねたら数百メートルも転げ落ちて、転げ落ちたらたぶんあの世行きであるということだ。
 相変わらず胃袋をどっかにやったままターンをくり返す。滑っても滑っても終わりが見えないような気がする。
 クレバスを避け、左手気味に滑りつづける。
今日はもう一人滑っているらしく、先行のシュプールが刻まれている。
 急に沢が狭くなったかと思うと、いきなり雪が切れ水が流れている。その部分の長さは3mぐらいか。
 右岸側に残った雪をたどって後ろ向きツボ足下降で突破。ここで寺本のアルミアイゼンが壊れて時間を食う。
 スノーブリッジを渡って左岸にある半島状の露岩の向こう側へ下降。今日は開口部が小さくて助かったが、ぎりぎりのタイミングだったようだ。  再び板を履いて滑り出す。高度が下がったのと気温が上昇したことで雪がどんどん腐っていく。おまけにどんどん雪面の凹凸が激しくなって、華麗なターンなど思いもよらない。
 ようやく斜度が落ちたと思った瞬間、デブリの向こうにカラフルなものが見えた。テントだ。どうやら終わったらしい。
 視界を覆っていた右岸尾根の末端の向こうには岳沢ヒュッテ。
除雪機のディーゼルの音も聞こえる。
 がくがくいっている膝でしゃがみ込み、まだ震えている手でビンディングをはずす。
 ヒュッテで大休止し、岳沢下部をしばらく滑ってから板をはずし、トレースへ。
 しかし、どこをどう間違ったか藪漕ぎやら迂回やら。
 他人のトレースを無批判に信じてはいけないという見本である。連続するゴジラに二人して青筋をたてつつ下降。いずれにせよ、登山道は岳沢下部を横切っているので必ず行き当たる。登山道が埋まるほど雪が積もっているなら、スキーで降りられる。
 まだ実感の湧かない心と、重い足取りを引きずりつつ到着した上高地は別世界。

 バス停にころがりこみ、水浸しの兼用靴を脱いでやっと実感がわいてきた。

4月26日
 上高地7:00→横尾10:00→途中スキー遊び→ババ平15:00
4月27日
 ババ平6:30→大曲→天狗池9:30→横尾尾根コル10:10→涸沢14:00
4月28日
 涸沢5:00→穂高山荘8:00→奥穂高9:45→滑降開始11:30→岳沢ヒュッテ14:00→上高地15:30


記 山崎
寺本記
 いやはや、何ともボロボロになりながらも久々に充実した山行だった。しかし、共同装備のボンベを忘れるという大失態を犯し、計画変更にまで及んでしまった事は反省すると共に相棒の山崎には大変申し訳なく思っています。

 ・・・で、山行のほうはと申しますと、素足にサンダル履き、ジャージを膝までまくり上げ、まるで潮干狩りにでも行く様な格好で雪解け水ジャブジャブの道を進む山崎とは他人のフリをして、一定の距離を置きながら横尾までトコトコ歩く。
 休憩の後、スキーに履き替えさらに前進。途中、昨夜までの大雨で増水した沢の渡渉があり兼用靴の中はビチョビチョ。
 結局、最終日上高地へ戻るまで乾く事は無くツエルトの中で怪しい芳香を放ちまくっていた。

 槍沢を詰める多くの登山者と別れ天狗池を目指す。それにしても槍沢上部にはすばらしい斜面が広がっており計画変更が悔やまれる。(山ちゃんゴメン)  横尾尾根コルから見下ろす横尾本谷右俣は高度差もありワクワクものだが、下部のデブリがうっとおしそうだ。  雪質はザラメでまずまず。軽快にターンを繰り返し、あっという間に左俣との出会い。ここから涸沢まで黙々と斜面のトラバース。途中でサングラスが無くなっているのに気付いたが、まっいいか。
 鯉のぼりのあがる涸沢ヒュッテで休憩していると、山崎から1本滑りに行こうと誘われるが丁寧にお断りする。
 タフな山崎は体力があり余っているようだ。シールも付けずにスキーで北尾根側の斜面を登っていく。それもかなりの高さまで。華麗な滑りにヒュッテから拍手がパチパチ。
 休んでいると奥穂直登ルンゼ方向から大きな雪崩が発生、あんなのに巻き込まれたらひとたまりもないだろう。
 ヒュッテで高級ビールを購入して乾杯。いつものギョーザ鍋をバクバク喰らい、あり余った酒をグビグビ飲み干す。明日は早いのに・・・。

 高度を稼いでいくと眼下には涸沢カールの雄大な景色が広がっていく。テント村がゴマ粒くらいになってくるとやっとコルに到着。風が結構あり寒いが奥穂の山頂に付く頃は快晴で360°の大展望。久しぶりに来たがやっぱ良い眺めだ。  滑降コースをいろいろ検討した結果、山頂から扇沢コースに決定。下には赤い屋根の上高地が小さく見えている。
 出だしは結構と言うかかなりの急斜面。全装備を担いでの滑降はつらいし危険が伴う。慎重に高度を落としていくと急に沢が狭まり、ここで一旦スキーを脱ぐ。急で狭いルンゼの下方は雪がパックリ割れゴーゴーと水が流れ、あまり気持ちの良い物ではない。ここで、先行した優しい山ちゃん、しっかりとステップを刻んでくれる。ありがたやありがたや。
 下るにつれデブリがひどくなり疲れも出てきてコケまくる。岳沢ヒュッテには何人か見物人もいて、最後だけはカッコ良く滑った(つもり)。
ヒュッテ付近から見る前穂から奥明神沢あたりも雪の付が悪いようで、今年は雪が少ないのが分かる。岳沢下部で苦労したものの上高地の林道に出てガッチリと握手。河童橋付近は花柄ワンピースやハイヒールのオネーチャンたちがいて何故か緊張してしまう。そそくさとバスターミナルへ向かいバスに乗り込む。  松本駅近くの山崎行きつけの居酒屋で下山祝い。治さんに下山連絡入れたら一人寂しくカウンターで飲んでるって。
 山行の余韻をかみしめ会話も盛り上がり、調子に乗ってバンバン注文してたら財布がカラッポになってしまった。
 10:30過ぎに別れを惜しむ・・フリをして兵庫、埼玉へそれぞれ帰途に着きました。  山崎さん、いろいろありがとう。