高田、佐藤、小浜の関東組は東北本線の会津若松から、関西の山崎は北陸本線の新津から、磐越西線の日出谷駅で合流したのは、朝の7:20であった。落とし紙の置いてある古風な駅のトイレで着替えをすませ、しょぼ降る雨に濡れながら長い長い長走林道のアプローチを開始する。降雨量と流域の保水能力を考えると増水のおそれはほとんどなさそうであるが、気分的に不景気なことこの上ない。
林道終点から踏み後をしばらくたどり入渓。平凡な河原は十分と続かず、いきなり登攀不能の5m滝。滝手前の右の側壁を巻くが、少し戻った方が楽のようだ。
昨夜から雨が降り続いているが、濁りもなく水位もほとんど変わっていない様子。水をかき分けて進むと、20cmクラスの魚影がいくつも走る。竿を持ってこなかったことが悔やまれる。
4m滝では、側壁を走って対岸に飛び移った小浜が、小さなフットホールドに片足立ちになってハーケンを打つという離れ業で突破。続く6m滝では右岸の泥のついた岩にマントリングしてのちびりそうなトラバース。それからも延々渋い高巻きが連続する。ほとんど垂直に近い草つきのずりあがり。 25m滝は、右岸の岩のカンテから垂直の木登り-トラバース。
足並みが揃っているので、四人パーティでも行動は素早い。初日のうちに砂の堆積で浅くなった材木廊下を突破し、ラゲン沢上手の泊地に幕。増水時のエスケープは左岸のルンゼから可能。
一晩中小雨が降り続いていた。真夜中、フライにたまった水を捨てる作業中、高田が奇声を上げて飛び起きる。増水した夢を見たとか。 夜が明けても雨模様はかわらないが、濁りも増水もないのは長走川流域の大きさと保水能力の高さか。
あいかわらず絶悪な巻きが連続する。基本的に大高巻きはないのだが、安全地帯のブッシュまでの距離が遠い上に傾斜が強いという二重苦に苦しめられ、冷や汗たらたら。 ラゲン沢先のゴルジュ内の8mは左岸に刻まれた傾斜チムニーに全身をつっこんでの高巻きから傾斜の強いガリーへ。体中が泥まみれになる。 二股はびっしりと雪渓が詰まっている。下半分をくぐり抜け、右岸から入っているルンゼから雪渓に乗る。資料どおり左岸側の壁から取りつくが、ブッシュも生えていない最悪の泥壁。山崎がダブルアイスハンマーでトライするも5m滑落。二度目のトライで突破。ここは右岸側のかなり手前のルンゼから大高巻きをした方が安全と思われる。 二股から上も悪い小高巻き、懸垂が続くが、全体を通して小さめに巻いたほうが吉のようだ。ザイルも50m×1本で十分事足りる。 とどめは、最後の多段15mである。
源頭は期待(?)に反して藪こぎはわずか。沢がなくなって20分ほどで烏帽子南峰と北峰のコルに出る。コルの真ん中はブッシュが薄かったが、風の通り道になっているので、ブッシュの下手にフライを張った。
下山にかかる前に、最高峰である烏帽子南峰を踏もうと出発したが、肩に立つまでの藪でめげて回れ右。
北峰から慎重に方向を見定めて降りたつもりだったのだが、濃密をきわめるブッシュに幻惑されて降り立ったのは蓬沢右叉だったようだ。二回の懸垂と一回の雪渓渡りをすませ、25m以上の滝にゆくてをさえぎられた地点で左岸のオーサンカイ尾根にとりつく。複雑に尾根が錯綜する下降路のルートファインディングには小浜が大活躍してくれた。ついでだが、蓬沢の途中にはT.S.となるような平地はなさそうである。
いやがらせのようにこの日だけ暑い。尾根をくだるにしたがってぽつぽつと鉈目があらわれ、断続的だった踏み跡が長く続くようになる。誰がどういう目的に使っているのかよくわからないが、主稜線の地面に足が着かないほどの密藪を考えると拝みたくなるほどのありがたさだ。
だが、この山域では最後まで気が抜けないのがお約束。最後の最後、飯豊川本流直前で道がとぎれている。本当に石を投げれば川に届くような場所でザイルをくり出し、懸垂をする羽目になった。
大休止の後、膝下ぐらいの水量の飯豊川を渡渉し、右岸の崩壊しきった側壁を登ると登山道が走っている台地に出る。加治川ダムからの林道は工事のために閉鎖されているため、車を呼ぶには加治川治水ダムまで歩かなければならない。やはり飯豊はあなどれない。
言葉もなく歩き通してダムについたが、このあたりでは携帯も使えないため、ダム事務所で電話を借りて新発田タクシーを呼ぶ。ダム-新発田駅で\7000弱。 銭湯に入り、駅前の飯屋で大乾杯。
記録:山崎