九州・九重山塊、阿蘇山塊縦走

 期日H15.11.12〜15日  メンバー治田敬人(単独)

 九州は火の国、もちろん初めての土地だ。そして計画では二つの山塊を 縦走した後に、仕事で巡り会った研修生の同窓会に出席する予定である。
 まずは九重。熊本空港へは、予定より遅く着いたため、バスは50分後の 高速バス。国内線もイラク問題のテロを警戒してか、荷物の検査が厳しく 皆、時間がかかったのが原因ようだ。
 昼過ぎに岩井川岳を目指す登山口に着く。今日は憧れているハイカーに 沢屋から変身だ。じっくり歩けば落ち葉を足の底が掻き分ける音がいい。 「かさこそ、かさこそ」。
僕は自慢ではないが、荷の量と呼吸が合うと恐ろしく登りが早い時がある。 この調子が落ち葉を踏みしめる音で加速された。陽光もさし、気温は低いが 半袖で楽しもう。一つ目の山頂から九州の阿蘇やその外輪山と知らない町 並みを眺める。誰もいない頂で、独り占めは気持がいい。
 そうそう今回は単独山行の三回目、雨の岩ゲレンデから始まり、静かな谷 の探勝。そしてこの火の国の山巡り。自分探しの旅も終着か。体のガタつき はもう否めないが、それでも、未来の抱負は山ほどある。どれが出来てどれ が不可能か、なんてことは自問自答しても意味はない。最後は「やるだけの ことやるしかないだろう」と答えが出てしまう。
 火山の賽の河原ような歩きやすい道を淡々と進む。九重は一言で言って 山の頂のオンパレードだ。いったい標高が似たような山々が幾つあるのだ ろう。それも九州では最高峰並みの高さである。下勉強済みなので、どれが 何山かは同定できるのがうれしい。西千里が浜はあまりに広い涸れた河原だ。 野球やサッカーができるほどだが、もちろんそんな馬鹿はいない。
晩秋の寂しさと星生山からの凄まじい噴火の蒸気音が大自然を感じさせる。
 本日の泊りは すがもり避難小屋である。
 河原からコルに登り返してその小屋を目にして驚いた。小屋ではないのだ。 石でできた公園風のパーゴラだ。風は吹きぬけ、まともに雨も防げない。 まったくびっくらこいた。ここに泊るのか、どうやって。ツェルトは基本的に緊 急用で支柱はなく、この条件ではとても張れそうにない。
 あきらめて着るだけ着て宴会をして寝ようと腹を決める。‥‥全部着たが 風もビンビンで寒くて宴会どころでない。着いてからこの一時間でガチガチだ。 時は16:30。寒暖計は5℃をさしており、九州のハイクをなめてはいたが緊 急事態だ。数ある経験から推測すればこのままでは大変な夜になる。
 何とかツェルトを張るため火山だらけの辺りを小道具はないかと物色する。 目を血眼にして探す。5分経過で「あったあった」。まず捨てられたトラロープ、 それに朽ちて捨てられた登山道用のでかい丸太杭。
僕の頭の中でツェルトが立体的に組みあがった。早速、岩のパーゴラにトラ ロープを回し片方の支点を作り、もう一方はただでかい丸太を壁に斜めに立 て掛け支点とした。これで御殿は完成。うれしい、とにかく形は悪いがこれで 風と寒さを凌げる。やっと不安なくウイスキーを流し込める。

 翌日は風とガスが濃く、遅い発。まず目の前の三俣山に登る。山頂付近は 名の通り、幾つもピークがあり、視界が悪くコンパスをふって進行する。 坊がツルへは急下降。道は滑りやすく嫌らしい。
 坊がツルはすばらしい平だ。この景観はそうあるまい。標高1300mの悠久 の地、広すぎる枯れ野の原で、川も流れている。余裕があればここで腰を落 ち着け酒でも飲みながら山水を語りたいところだ。
 避難小屋で一休憩。雲行きも怪しく、雨具の用意をしてこれより大船山を ピストン。坊がツルで出会った中高年単独ハイカーと歩き出すが、僕が空身の ため歩調が合わず即失敬し、先行させていただく。
山頂からの3人組の女性パーティに合い、強風のため登頂あきらめの話をきく。 雨がいよいよ降り出し、風もうなり、ギュンギュンくる。やはり山は怖い。 僕は立ちたい強い念のもと、こんなのは屁でもないと言い聞かせ、小さな頂に 足跡を残す。ジンとくる。これを求めて火の国に来たのだ。「頂はいただく」 ナンチャッテ。誰かに誇れるものでもなく、スポーツの記録でもない。その何も ないところの無価値の重みがずっしりと響く。
 また荷物を置いた避難小屋に戻り、冷え冷えとし平の原から再び連峰の最高 峰中岳へ登りだす。雨は小康状態。沢沿いの道だが、滝は伺うことが出来ず 少し寂しい。急坂がなくなると河原状台地だ。最高峰の中の岳に立ち、今宵の 宿を探すが風も強く視界が効かない、弥陀が池への指導標を見てやっと避難 小屋に着いた。昨日の件があり期待していなかったが、ここもひどい。土間で 石を積んだ雨も漏れる掘っ立て小屋だ。おまけにドアもない。
ツェルトに入り、ちびちびやる。外の風の唸りが凄い。先ほど歩いていたから 風の強さは想像できるが、夜突然吹いてきたらこの音でかなりビビルはずだ。
 この日僕は九州で一番高いところで夜を迎えた。翌朝も暗いうちから起床し 準備をしたが、記念すべき一瞬が訪れた。初日の出を拝めたのだ。これもこの 九州で一番だろう。ギンギンに冷える氷点下の中、遠くはるか雲海に飛び出す 待ちに待った太陽。両手を上げて全身で陽を浴びる。
 九重山に立ち、見渡す絶景に雄たけびをあげる。やっとこの山塊の山行を 終えることができそうだ。あとは霜柱を踏みながらガレた急降下で里へと下る。
 タクシーと定期バスで豊後竹田駅へ移動。そこよりさらに高速バスで阿蘇へ と向かう。JRも乗りたいが不便なのでバスにした。 駅前のコンビニで食料と芋焼酎を買い込み、タクシーで檜尾峠へ向かう。
予定の根子岳は明日の天候悪化を予報されたため割愛する。 昨日も今日も最後の登りは水3.5Lが追加され、ハイキングだけど汗の出る 登りとなる。
 1時間半で阿蘇の頂稜部に着いた。強風快晴。遥かにさっき下山した九重 の山並みが伺える。頂で他のハイカーと言葉を交わしたあと月見小屋に泊るため 火口へ下り、クレーターの中で明るいうちから焼酎で乾杯。九州の代表である阿蘇 山塊のさらに真ん中にあるこの地。あぐらをかいて一献傾けるこの幸せ。無上であ る。

 山行最終日は強い風で、天候の悪化を感じるが下山までなんとか持つだろう。 山頂に戻り下降開始。砂千里は海岸の砂浜と勘違いするほど何ヘクタールと広がる。 実にいい。不思議だ。足型がしっかり砂の上に残る。もう腰をすえ辺りの景色を堪能 する。
 観光地の火口を覗き、烏帽子岳に向かうべく舗装道を移動する。 この山は牛の放牧でも有名だ。取り付きが不明でうろうろするが、この行動が気にさ わったらしく、、雄牛と触発しそうになる。小休止で落ち着いてパンをかじっていると突然 後で「ウモー、ブルル」と叫ばれる。慌てて振り返れば、どうも群れのボスらしい牛とが 顔を振って立ち退けとしぐさしている。ヤバいと直感。即ザックをたたみ逃げるように山の斜面 に隠れ、牛の視界から消え登山道へやぶをこぐ、当たり前だがこの山行も僕にとって簡単に逃 げてはいけない道なのだ。
 烏帽子の山頂はノンストップ。展望楽しむ。地元中学の恒例登山と出くわすが、挨 拶をされ、先生と生徒の信頼関係が実に清清しい。
 火山博物館へアッという間の下りで、火の国の山旅は終わった。阿蘇駅前の温泉に 浸かり4日間の汗を流す。
 これから熊本の同窓会だ。気の置けない面々と合うために移動する。もちろん 僕がこんな楽しい山をこなした事はあえて言わない。みんなさほど興味のないことだろう。
僕はこの体験が胸中で熟成していくのを仲間との再会の宴の中からひしひしと感じた。
仲間と飲む酒も最高、クラブで脇の女性と飲む酒もうまい。
ただ、自分が求めた行為と結果に、満足し汲み続ける杯も格別のうまさがあるものだ。
 

コースタイム・旅的で詳細なし
交通機関は高速バスとタクシーを多用。阿蘇と九重の移動はJRよりは高速バスが便利だった。 (また、避難小屋は本州と違い粗末なものが多い)