道具魂 Vol.1 沢タビ&沢靴(フェルト)&アクアステルス靴


沢靴いろいろ
 夏に向けていよいよ沢登りが本格化。さて、問題は足ごしらえ。山道具屋に行くといろんな靴があってどれを選べば良いか迷います。
 靴の種類はメーカー各種いろいろありますが、大きく分けて沢タビ、沢靴(フェルト底)、そしてアクアステルス底の沢靴の3つに分類できると思います。それぞれ簡単に紹介しますと・・・

<沢足袋(沢タビ)>
 地下足袋にフエルトを付けた本当の「沢タビ」も存在するが、山の世界で「沢タビ」と言えばアッパー(本体)は主にネオプレーン、ソールはフエルト製で、沢登り用は足先が親指と人差し指で二又に分かれているものである。
 価格としては大体6千円前後で、サイズはcmではなくL とかMとかの大雑把な分け方。
 なお、薄いミッドソールが入ってはいるがコンクリートの上を歩くとやっぱり足裏が痛くなる。

<沢靴(沢シューズ)>
 ハイキングシューズの底にフエルトを付けた、くらいに考えると理解しやすいか。もちろん水抜きの工夫がなされていたりして、各社のどの製品も「沢靴」と名乗るに足りる性能を持っている。
 サイズは沢タビと違ってcm刻みなので選びやすい。価格帯としては大体1万〜1万5千円。

<アクアステルス(アクアステルス沢靴)>
 沢登りの革命児。かつて、ファイブテン社が沢用ソール「アクアステルス」を搭載した「ウォーターテニー」発売したが時代を先取りしすぎてあまり流行らなかった。
 しかしその後、老舗の秀山荘がアクアステルス沢靴「忍者」を発売。初代はあまり売れなかったがモデルチェンジ後認知され売れるようになったとのこと(店員談)。
 現在沢登りの主流となりつつある。各社から同ソール採用モデルが発売されており、大体1万3千円前後。写真では分かりにくいが靴底に丸い凸凹がついている。


 今回、沢タビ派として治田さんを、アクアステルス派として高橋さんを迎え、その魅力と弱点を語ってもらいました。

<治田氏、沢タビについて語る>


●私の沢の足ごしらえの歴史
 1983年から沢をやり始めました。今まで細かい数は数えていませんが、大小350本以上の沢をこなしてきたと思います。
 スタートは、地下足袋にわらじでした。それが数年続きました。次に少しは日持ちのよいフエルトわらじ。これは気まぐれ程度でした。
 先の地下足袋&わらじに平行しながら、つり用のウエットタビ(編注:先割れしていないことを除けば沢用とほぼ同じ)を沢に使いはじめました。当時の先端(?)だったかも知れません。昔、在籍した会では、異論はありましたが、私自身具合が良くこれからは、改良されれば文句なくこれが主流になるグッドな物と感じていました。それで数十年、今に至っています。掃きつぶした沢足袋は、恐らく20足はくだらないと思います。

 雑な歩き方をしない方で、けっこう持ちも良かったですが、毎年買い足していました。補修しながら使い込み、大体2、3年でおしまい。もちろん一足ずつを順番に潰したのでなく、新品とガタのきたものを沢によって使い分けて、とことん使いこんでおしゃかにしました。
 また、初めはフエルトの交換も何足かしたのですが、結局、本体のウエット地(編注:ネオプレン製のアッパーの事)の破れ・穴あきなどガタが来るので、非効率に感じそれは止めました。

 さて、本題です。沢タビの良い点、弱点、そして他の靴との比較をまとめました。

●沢足袋の良さ
@柔らかい
…そのためソフトに岩や土に接することができる。たまに沢靴なんて履くと異常な底の固さに驚いてしまう。はだしに近い感覚で、岩や小突起をつつんでしまう歩き方ができる。
A万能
…全天候・どんな場面でも最強ではありませんが、ほぼ全ての場所で平均以上の歩きと登りの感触は保てる。実際岩場のアプローチにもかなり使っている(例:谷川岳一ノ倉沢、越後佐梨川奥壁など)
B軽量&しまいやすさ
…突き詰めると靴下も要らないし、さほど嵩張らないのでザックに入れ易い。

●沢足袋の弱点
@柔らかさ
…良さとは逆に、足裏の強さと感覚が出来ていないと柔らかいために、強い傾斜では立ちこみができない。つまり価格は安いが初心者には向かないということ。
Aサイズ
…S・M・Lなどという曖昧なサイズしかなく、各自の微妙なサイズにマッチしない。これを歩きこみと技だけで解決させるには、大きな疑問がある。
B良い物がない
…これは一番の弱点にしたいところです。洗練されてはいるものの、安い品というイメージから最高の物が続かない。私自身、年のせいか膝と腰がガタが起こり始めてショクアブソーバー付き(編注:着地時の衝撃を吸収するにフエルト底と本体の間に設けられるミッドソールの事と思われる)の足袋が出始めたので嬉しい限りでしたが、今一です。ICIのホワイトウォーターが過去最高に良かったのですが、現在廃品。キャラバンも中間ゴム付き(編注:フエルト地と本体との間の白い部分の事と思われ、要はミッドソール)で出してはいるが、これは底が少し硬すぎる。足袋なのに靴に近い感覚になってしまう。でもキャラバンの利点は接着の良さだ。磨り減っても、はがれもズレもなく健在ある。逆に先のICIの足袋はとにかく接着が弱かった。ICIだけで4足は掃いたがそのどれもが接着補強をせざる得なかった。
C見た目
…んま、一言でダサい、かっこ悪い。沢も今流の見方で見れば、フアッション性もそれなりに必要か?足袋は一昔のスタイルと受け取れるかも。

●他の沢の足ごしらえとの比較
@沢靴との比較
 秀山荘の昔のタイプのウオ−ターシューズは一足履き潰し、プロタイプも履きましたが、どうも足袋が性に合っているのか、転換できないでいます。知っている人で、足袋派の人がスーパープロ(編注:秀山荘から出ている沢靴の高級モデル、)に転向して足袋から靴に変わった人もいます。沢靴を絶賛しているベテランも多々います。足の保護は靴の方が上だし、雑に置いても斜面を抑える強さも上かもしれません。
Aアクアステルス底の靴
 これは私自身5.10の靴しか履いていないので、多くは語れません。アクアソールはその摩擦力が条件により、最大トップのときと悪く出たときの差が大きいなとは痛感しています。単純に強いときはフエルト底がどうにもならないスラブをグングンいけるし、弱いときは緩傾斜でも滑りだすということ。さらに倒木にも弱い。でもこの特性をしっかり把握して使いこなせば鬼に金棒という声も強い。特に雪国の沢では圧倒的な支持が多い。逆に沢足袋一筋のワイは忍者なども掃いておかないと、沢登りの主流において置かれそうで不安が多々あります。

<高橋氏、アクアステルス沢靴について語る>


●私の沢の足ごしらえの歴史
 アクアステルス底の出現はわらじからフェルトへの移行を軽く凌駕する革新性で、"ナメをひたひたと、厚い苔を踏みしめて奥秩父"の国からは出てきようのない黒船襲来だった。わらじからフェルトへの切り替えの時代を生で体験してきた私が言うのだから間違いない。
 あの日、フレンド(編注:荻窪の登山用品店「マウントフレンド」のこと)のオヤジにファイブテンのウォーターテニーをこれからはこれしかない!″とすすめられてそうかあ″と妙に納得してすぐ買ってしまった自分は、実は、わらじからフェルトへの切り替えがなかなかできなかったのだ。
 即買いしたのはヨセミテの花崗岩の香りを漂わせるただごとではないテニーちゃんのカッコよさにぽーとなってしまったからだが、その後のアクアステルスは老舗秀山荘の手にかかって日本的な姿に落ち着いてしまったのが残念。

 現在、自分はアクアステルスと沢タビを使い分けているが、実は沢タビは会に入ってオツルミズに行くことになった時、越後の草付きは皆が履いているタビじゃないととビビって買ったのが初めてで、自分にとってはアクアステルスのほうが歴史は古い(笑)。

 そんな自分の経験からアクアステルス(ここでは秀山荘忍者について)の長所・短所をば下に。私の場合、沢タビと使い分けているのでその比較になります。

●アクアステルスの長所
@岩登りができる
 細かいスタンスに立てる。初代テニーがジョギングシューズのように先が捲れあがってたのと違い忍者はクライミングシューズのようだ。
Aヌルヌルじゃない滝・ゴルジュ・スラブには足袋より絶対いい。
B草付きに蹴りこめる。草付きが楽。
 やっぱりここでもスタンスに立てるのは楽だし、泥でも足袋の親指をねじ込むよりはいいような気がする。
C巻きの時、笹の上でもフェルトより滑らない。
 足袋の先割れで挟み込むってのは冗談にしか思えない。
Dつま先を傷めない。
 私は沢タビで何回も岩を蹴って親指の爪をはがしたことがあります)

●アクアステルスの短所
@奥多摩・丹沢のヌルヌルには全く効かないし危険。
 用心してそんなとこに履いていったことがないので実経験はなし (※編注:マジで滑ります。)
Aベルグラにも全く効かないし危険。
 これは経験あり。(編注:「だからといってフエルト底だとベルグラも安心」という意味ではない。幾分かマシという意味。)
B着脱が面倒
 この要素は自分ではとても大きい。この点において沢タビは最高。ベルクロ締めアクア待ってます。
B足型が合わない
 忍者の場合。ウォーターテニーのローカット&ベルト締めは履きやすかった。けど、今は捻挫を知ってしまったのでローカットは履かない。
C泳ぎは沢タビに負ける。

●その他
 コストパフォーマンス、見映えは両者同じようなものだと思っている。
(編注:沢タビは安い代わりに1〜2シーズンでだめになるが、アクアステルス靴は長持ちする。ちなみに沢靴もソールの張替えができるためCPは意外とGOODだが張替えは結構手間がかかる)

 上記長所が発揮されるのはスラブと草付きの発達したところで、自分は上越・飯豊・朝日に行く際にアクアステルスが基本です。絶対と言い切れないのは上流部・源頭部の滝登りをしない釣りの場合は泳ぎ・着脱の要素から足袋で行くと思ったからです。
 ぬめぬめの丹沢・奥多摩はごまかしのきく沢タビで、またどんな所かわからないところもやはりそれなりにどこでも対応できる沢タビでいきます。沢タビ+クライミングシューズが=アクアステルスとならないとが悩ましいところでもあります。

 今回アクアステルスに関する記事を指名されたのでネットで見てみたらキャラバンがテニーちゃん復活のようなのを出してたりで、是非誰か履いてレポートして欲しいものです。このジャンル、まだまだ進行中。
 ということで、初めて買う人に薦めるのはフエルト底の沢靴かな(笑)

 最後になりますが、スイス女性パメラさんがお試しで沢登りに一緒行った際にギャー、沢足袋、素敵い。ニンジャみたい(沢足袋のことで秀山荘忍者の事ではない)。こんなのヨーロッパにないわ ラブ″と言ったことが忘れられません。素足にわらじでパフォーマンスすれば卒倒したかもね・・・俺も無事で戻れなかったろうけど。
 あ、脚色し過ぎました。嫁さんが2回履いてほっぽり出してあったキャラバン沢シューズを貸したら、そっちの方がいいと言っただけだったような気がしてきました。大体そんな英語理解できないし表現できないです。

<編集より>

 結論としては、用途によって使い分けるのが一番と思われる(笑)。
 高橋さんもチラッと言及しているが、沢タビの滝場における登攀力の低さを補うために、クライミングシューズを持って行って滝の前で履き替えるという手も結構行われる。コケが生えていない限りは、滝でもクライミングシューズは圧倒的な登攀力を発揮してくれる。
 両氏とも書いていないが、サイズ調節と保温のために沢用の靴下も買いましょう
(靴タイプはネオプレンの靴下―3mm厚ならワークマンで激安―、足袋タイプは山道具屋で売ってる化繊の靴下がオススメ)

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