■南アルプス深南部/寸又峡~逆河内川~鶏冠山[沢]

2023.09.16-20 記録【高橋】【山崎】


【高橋】

 

久しぶりに書いてみたら記録というより紀行文になってしまった。長文注意。

とにかく連日の晴天とパートナー様様でした。


9/15(金)

新金谷駅20:00~寸又峡温泉22:00

 

大井川鉄道新金谷駅で20時に待ち合わせて、寸又峡尾温泉へ。俺は、金嬉老事件を覚えている最後の世代だろうなあ。

明日に備えて車終点を確認すると、温泉街が終わったところに鍵されたゲートがあったので、入口の広い公営駐車場に戻ってテント立てて入山祝いの乾杯。どうぞお手柔らかにお願いします。

今日はテレワークしてフライングしたおかげで寝る時間があるので助かる。自分だけ早くてもしようもないけど今回の相棒は山ちゃんだからノープロブレム。


9/16(土) 晴れ

寸又峡温泉07:30~千頭ダム~逆河内出合~白沢~テンバ16:00

 

ゲートの脇を抜けて、しっかりした道を千頭ダムまで。ダム湖は意外にも満々に水を湛えていた。地形図の破線にかかわらずその先は進めそうな状態じゃなかったので、ダム湖のバックウォーターから遡行開始。

今回全般に、地形図の破線は使えなかった。マッシー、どうなってんのかな?人手と予算不足なんだろうな。

出合いに至るまで、寸又川を何度か渡渉する。本流は見た目と裏腹に流されそうな水勢で、慎重に渡渉ポイントを選定する必要があり、増水時同ルート敗退が容易じゃないことを知った。

逆河内に入るとそんなことはなく、平流が暫し続く。次第に両岸が迫ってくると、黒い岩盤はゴムのフリクションが良く効く。

地形図で最初に右岸に入ってくる水線の白沢を越えて、少ししたところで幕とする。16時。

 

釣れそうな渓相でもなかったけど、何より疲れすぎて竿を出す余裕がなかった。こんな事じゃだめだ。明日、明後日とどんどんギアを落としていかないと。

何しに来たのかになるし、なにより長丁場の体力が持たない。

去る7月、黒蔵谷へ向かう車中で伊佐見から 「マッシーの冬山は"ヘビー&スロー"って自分で言ってましたよ」と聞いて、何てかっこいいんだろうと思った。

ほんとにそう言ったのかは疑問ではあるけど痺れる。強者じゃないと吐けない科白だ。自分は"スロー"の部分だけを取り入れることにした。

 

千頭ダムにMTBとオフロードバイクが停めてあり、白沢までは単独先行者の足跡があった。白沢遡行とは通すぎる。

今回の旅では、焚火跡やら吊り橋の痕跡があり、とどめは明河内出合の立派な林道の橋があった。逆河内に原始の香りはなく、人間との係りの痕跡がそこここにあった。

戸中川方面から山越して釣り人が入ってきてもいるのだろう。逆に言えば、そこまで苦労しても入渓したい魅力に溢れているということだ。


9/17(日) 晴れ

テンバ07:30~柿取沢・大沢・合地沢~明河内出合14:00

 

振り返れば、今日は一日中ゴルジュだった。

延々と続く黒い谷の上には、狭い青い空。光線の入るところの水面がキラキラ透けている。一ヶ所小さく巻いた他は、へつったり胸まで浸かって通過。泳いだり人工したりするところはないけど、くねくねと異様に曲がりくねった沢筋は逆河内の看板。山岳渓流でこんなのは自分は他に知らない。

本日は明河内(アケノコウチ)出合に14時に到着しそこで泊。

タープを設置し、薪を集めてから釣りに出かける。計画時は明河内と岳薙沢に分かれて釣ろうと考えていた(大物が釣れるようであれば更に一泊して翌日は沢を交代して、とまでも考えていた)が、明河内は出合から見ている限りは平川で釣れそうになく、二人でタケナギ方面に入ることにする。山ちゃんの用意ができるのを待っている間、目の前の小さな落ち込みに流すと良型のアマゴがたて続きに二匹。山ちゃんの用意が整ったところで二人で上流に向かうが、50mもいかないうちに十分な釣果を得て終了。これは...いくらでも釣れるけど小さい。勝手にアマゴは尺をイメージして岩魚なら45センチでも上げられるよう1.2号のラインで来たのだが過剰だったようだ(汗)。

岩魚には蕎麦だそうで、山ちゃんがうどんの代わりにもってきたのをヒガシマルうどんスープの素を濃く作り、醤油で色付けしたつけ汁で美味しくいただいた。


9/18(月祝) 晴れ

明河内出合07:00~タケナギ沢1620m地点14:30

 

出発して1時間ほど進むと、通過できない淵に阻まれ右巻き。治さん&鮎はこのすぐ手前で泊ったのではないだろうか。

この淵は大物を予感させるものだったが、最初の三匹までデカいのがかからなかったので、大物は引っ込んでノーチャンスに。その後魚止めの滝はもちろん、その上でも釣果はあったが釣りは終わり。ここなら40cm間違いないだろうと夢想して家で飲んでる時が一番良かったなあ。谷の奥に静かに眠る壮麗な50m滝を右から巻いて落ち口に降り、水流の多い火打沢を分け岳薙沢の水線が消えた先1620mで泊。

 

薪が豊富で翌朝の焚火も簡単に起こせたのはここまでの二晩と同じだが、ここは標高を上げた分眺めがよくて乾燥した最高の泊地であった。

「今日からジフィーズかあ」と悲しんでいたら、山ちゃんが持ってきたのがライスパックだったので「値段はこっちが高いだろ」と一個交換してもらい、湯であっためて塩焼の身をほぐしたのをおかずにして食べた。これまでの生涯最高の山飯。飯盒で生米を炊いても、ここまで美味しいごはんにはならないよ。

水と燃料が心配ないとこではこれからはライスパックだ!敬愛するヘビー&スローにも近づけるかな。


9/19(火)晴れ (稜線時々ガス、雨がパラッ)

タケナギ沢1620m地点05:30~中ノ尾根山10:00 ~鶏冠山北峰13:00~西尾根最下部ビバーク地20:00

 

これまで貯めてきた体力を吐き出す日だ。4時に早起きして6時前に出発。

最後の三又は、水が多く且つ山頂に近い左の沢を選択。なにせ今日は最後の水場で持てるだけの水を担がなければならない。高橋2L、山崎2L&ペット0.8L。

 

稜線にでて笹を踏み分けて、40年ぶりの中ノ尾根山。山頂に木で組んだ櫓が立っていた記憶だったが、あれは違う山だったのか無くなったのか。

さて、まずは北の三俣山に歩を進めなければ始まらない。あんまり疲れたので三俣山に着いたら、勝手知る梶谷川に下りもう一泊するのを検討しなければ、とゼイゼイ歩いていたら、先に着いていた山ちゃんが高橋の姿を確認したら、稜線を鶏冠山のほうへ進んでいってしまった。ありゃ、検討に余地なしだ。

風がわたる針葉樹と笹の深南部稜線を、幸せを噛みしめて歩く。鶏冠山南峰と北峰のギャップがガスにまかれると少し不安になるところだ。無事北峰に到達。深南部主稜線の個人的空白区間「三俣山〜鶏冠山」を埋めることができた。そしてなんと、期待していた通りの踏み跡が西尾根方面についているではないか。これでやっと下山路にたどり着いたわけだ。

山ちゃんはもう終わった気で「最終バス16:40に間に合わへんかなあ」と言ってるので「それは無理」と返しておいた。続いて「今夜は集落に入らないで手前の林道で泊ろうか」と場所を検討しているので「そんなことは降りてから考えればいいことだし、そもそもヒル地帯の林道では泊らない」のは、はっきり言わしてもらった。

下るに従い踏み跡は薄くなり、ヘッデンを付けて集落の明かりが見えた時には径を完全に失い、作業道が入り組み今日中に頑張って降りる意味を消失していた。

仕方なく、林道跡でタープを敷いてオープンビバーク。雨が降っても地面に直接寝るよりましだ。タープに上がり込んだときはお互いに何匹かついていたが吸われる前に蛭ファイターで退治。周囲に噴射して横たわった。

「山ちゃん、バスに間に合わなかったね」「そやね、あれがあれだし明日はそれで大丈夫ちゃうかな」

言霊にビビッて景気のいい話は出来なくなってしまった。


9/20(水)晴れ

最終ビバーク地07:00~道の駅遠山郷~平岡駅(JR飯田線)~豊橋駅(レンタカー)~寸又峡15:30

 

明るければ何でもないので、集落に続く舗装道路にひと時で降り立った。道の駅からの始発の乗り合いバスに間に合った。

運転手の兄ちゃんが、松茸狩りで家を建てた話をしてくれた。副業が猪・シカ猟&乗り合いバス運転手みたい。

平岡駅から日本秘境駅ランキングNo.3を擁する飯田線に乗って、終点豊橋駅まで。

ここでガッツレンタカー借りて寸又峡へ。なぜかというと始発のバスに乗ったにも関わらず、公共交通では寸又峡着が明日昼前になることが判明したからだ。

大井川鉄道が昨年の台風の被害で一部バス代替区間となってしまった影響が大きいのだが、入山口・下山口が大きく離れてるってことだ。

寸又峡で本日中にレンタカーを返す山ちゃんと別れ、大井川沿いの街道をしみじみ下った。


【今回の装備】

40mロープ、タープ、ストック、ウェットタイツ(高橋のみ) 、沢登り一般

※遡行の参考なら18年前、2005年の治さん&鮎島の記録が役立ちます。

 


【山崎】

 

9/16(土) 晴れ

寸又峡温泉07:30~千頭ダム~逆河内出合~白沢~テンバ16:00

 

寸又川右岸の林道を歩く。

観光吊り橋があるので、人もそれなりに多く。

その先を歩いているとパトロールの車に出会う。

千頭ダムには、入渓した釣り師のものとおぼしきバイクと電動チャリンコが各一。

ダムからしばらくは、左岸の旧道を行く。かなり崩壊が進んでいるので河原を歩いてもあまり変わらなかったかも。

大きな山抜けの所から川に降りる。

寸又川の水位は平水~やや少な目か。

ほぼ水平の河原を歩き、何度か渡渉。水位が高いと渡渉は苦労するやも。ストックが非常に有効。

本流を分け逆河内に入ると水量が減るが、その分川幅も狭くなるので水深はあまり変わらず。

左右への渡渉がなんべんもあり、頭を使う。

白沢を過ぎると大系の記述の通り巨岩が出てくるが、屋久島を経験した身にはそこまででかいとは思えず。

百名谷の遡行図にある「石小屋」付近で泊。

それまでに焚き火跡が三つ。


9/17(日) 晴れ

テンバ07:30~柿取沢・大沢・合地沢~明河内出合14:00

 

焚き火で朝食作り。

昨日食った分軽くなっているはずなのだが、そうは思えず。

柿取沢までも(遡行図には描かれていないが)川幅が狭まり、関西の沢では立派なゴルジュ。

遡行図でゴルジュとなっている逆さエリアに入ると緊張する。

 

第一の通らず。右岸をヤツメウナギ。足が着かないのは数メートル。

第二の通らず。ブリッジから右岸のちょいしわいへつり。

第三の通らず。2005年治鮎コンビはかなりシビアなフリーで突破した場所だが、今回は右岸側に大きな流木が引っかかっており、一分で突破してしまった。

第四の通らず。右岸へつり。

第五の通らず。右岸巻きで10m懸垂。

 

このあたりで「逆さ」部分は突破か?

「大系」「百名谷」共にゴルジュ記号がなくなるが、どう見ても狭くてゴルジュ。多分、ゲジゲジ記号を書くのが面倒くさくなったのだろう。

アケ河内との二叉でタープを張り竿を出す。二人で各二匹を釣り今晩の食い扶持を稼ぐ。

持って上がったソバを湯がいてざるそばとし、うまうまと食す。


9/18(月祝) 晴れ

明河内出合07:00~タケナギ沢1620m地点14:30

 

4時頃霧雨が降るも一時間もせずに止む。その後は終日好天。

増水等全くないのだが、薪が濡れて朝食に手間取る。

釜淵の始まりとおぼしき4mは、ガレガレの右岸を小さく巻く。

 

次の10mは右岸から小尾根を跨ぎこむようにして大きめに巻く。

次の8m(「大系」「百名谷」では3m?)は左岸から巻き上がり、テープが二本巻いてある木から懸垂。

魚止めで竿を出し、二匹確保。

魚止めの先でもしっかりと魚影は走り、さらに一匹確保。

大滝40mは右岸から小さく巻いて落ち口直前に降り立つ。

CS4mはCSの右からなら容易。

「押し出し」上の「キャンプ好適地」は天国だが、明日の行程を考えて歩を進め、タケナギ沢1630m付近に泊。

重い思いをして担ぎ上げたパックご飯とイワナの塩焼きで幸せ。


9/19(火)晴れ (稜線時々ガス、雨がパラッ)

タケナギ沢1620m地点05:30~中ノ尾根山10:00 ~鶏冠山北峰13:00~西尾根最下部ビバーク地20:00

 

タケナギ沢に入ってからは流木も多く、荒れている印象。

また、水流の中に水苔が増殖しているのか滑ってしまうことが多い。

下の三つ叉は、左岸の尾根にとりついてガレたルンゼを下降。

上部三つ叉は、右俣に入っている記述が多いが、左又に入る。

三つ叉からすぐ、沢身が右に屈曲しているところに奇跡のような幕営適地あり。

その上でいったん伏流になるが、また水が出てくる。

最後の二叉で真ん中の尾根に取りつき、あまり苦労も藪こぎもなく中ノ尾根山。

そこから先の主稜線は倒木多数かつ獣道が交錯していてわかりにくいが、南アの景色を堪能できる。

鶏冠山南峰の頂上直下はわかりにくい。

鶏冠山北峰から西尾根に入る。

地形図では1600mから登山道記号が入っているが、踏み跡程度。

1175mから先はそれもわかりにくくなる。

1020mのT字登山道など影も形もなく。

途中で出てきた林道(最新の地形図にも表記されておらず)を水平に移動するも途中で途切れ、870m付近で泊。


9/20(水)晴れ

最終ビバーク地07:00~道の駅遠山郷~平岡駅(JR飯田線)~豊橋駅(レンタカー)~寸又峡15:30

 

林道を逆戻りし、地形図の登山道記号のあたりから(何もない植樹エリアを)下降。

ようやくアスファルト林道に行き当たり、かぐらの湯まで徒歩移動。

かぐらの湯からは乗り合いタクシーで平岡駅まで。

乗り合いタクシーは定時運行(誰もいなくても走る)とお客が電話した時にも走ってくれる。

料金は共に600円で、リクエストの時は一時間前に連絡した方が良い。


 

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