■谷川岳 一ノ倉沢本谷下部〜4ルンゼ[溯行]

2007.10.24
高田貴、高橋弘、鮎島仁助朗、寺本久敏

滝沢出合のスラブ
 紅葉のシーズン、土日は登山センターのゲートで遮られるが、平日は一の倉出合まで車で入れるのでずいぶん楽できる。楽ついでにテールリッジまでは通常の巻き道をつかう。前回忠実に遡行したときは沢足袋では残置スリングを掴んでしまうところがあってすっきりしなかったし、ここはいつでもたどれるのでこれでいいのだ、ということにする。それに今日はくそ寒く(帰路中芝新道の下りでは日陰になっているところは氷が張っていた)、巻き道をたどりながら体をあっためなければ体が動かない。水没したら目も当てられない。
 明るくなってから出合を出発し、巻き道の懸垂を終え、テールリッジ末端のスタート地点に立つ。わずかに登ると水流沿いはつるつるの樋状となって遡行不能になる。前回本谷の雪が完全に消えた2004年に高田・高橋でトライしたときは、ここで先行パーティが対岸(左岸)のドロ付き逆層スラブの高度感満点のラインをトラバースしているのをみて、ビビって戦意喪失してしまった因縁のポイントである。さて今回は事前に記録を読んでいたおかげで右岸にルートを探すとなんてことはないずっとましなバンドが続いているではないか。対岸をトラバースするなんてバカだね。先行パーティにつられてそこしか見えなかった我々はもう問題外だった。ロープをつけて高田さんがリードする。バンドにはなっているのだが草付きですべりそうでハーケンも深くささらず見た目より悪い。全ルート中の核心であった。10Mくらいでトラバース終了。ここがポイントだと思っていたので、あとは気が楽になって美しいスラブを余裕を持って適当にたどる。
 おおー、ここが二の沢出合か。はじめてたどり着いた。
 さて本谷はいよいよゴルジュが近づいてくるが威圧感はない。覗き込むと驚いた。
 ゲッ、雪あるじゃん!大滝のあたりにスノーブリッジになって2つの氷化した塊が転がっている。この冬谷川は異常に雪が少なかったので、今年は完全に雪が消えていると4人とも信じ込んでいた。一番肝心な点が未確認だったのだ。いやー来て見ないとわからないもんだ。SBをくぐってみると大滝の取り付きはシュルントになって下から登攀可能だ。ホッ。先行パーティは高田さんが登り始めている。この滝は雪が消えて登攀可能になるのが何年に一度という、本谷下部の華であり肝であるので寺さんとジャンケンで真剣勝負。勝った。寺さんスミマセンが恨みっこ無しということで。それにしても寒い。ロフト入り中間着を着ても寒い。もう今年は完全に雪が消えることはないだろう。見あげれば空はこんなにも青かったのかというような青い空。この滝を越えればスラブに陽が当たっているのが見える。早くあそこにたどり着きたい。滝を越えたあとの1Pはノーロープで右からトラバースして越えたが、ここは気持ちだけにしかならないがザイルがあったほうがよかったかも。あとは本谷バンドまで明るく白いスラブ床をどこでも自由にラインを取って登っていける。左に滝沢スラブ、正面に中央奥壁、右に烏帽子奥壁がぐるりと屏風をめぐらす谷底の素晴らしさよ。滝沢方面にいたっては1,000メートル近く立ち上がっているのだろうか。フリクションばりばりで全く不安がないのが快感だ。しかし結構な高度を稼ぐので、いい加減脚のつりが心配になるころ本谷バンドに到着して大休止する。平日の今日は南稜に2人組がとりついているばかりで、一ノ倉を独占しているようで贅沢この上ない。
 4ルンゼは何年か前に奥壁が崩壊して以来いい噂を聞かないこともあって、寺本・鮎島コンビはせっかくの機会なので3ルンゼを登りたいという意向もあったがせっかくの機会というのであれば4ルンゼこそそうで、今回を逃せばまず登ることはないということに落ち着いた。出合から深く食い込む4ルンゼは本流の風格充分で、ルンゼに入ってから狭間から見下ろす本谷方面は急な斜度で落ち込み、意外なほど迫力があり、こういうのを目にできて幸せだ。滝場を越えた後は一ノ倉尾根までスラブをたどる草付きのない快適なルートだった。
 今回ザイルを使ったのは、@テールリッジ先の右岸トラバース、A幻の大滝、B4ルンゼF3(鮎島: チムニーをシャワー&ザック引き上げ)、C4ルンゼF4(高橋:左ルート。右から越える記録が多いようだが自然に左にみちびかれた。2P目は寺本がスラブに出てから右上して水流に戻る)の4箇所のみであった。岩というより沢?どっちでもいいけど名ルートであり絶品と思う。

 それにしてもだ。23日火曜日の予定が前日月曜日に天候悪化を受け急遽24日水曜日に順延になっても4人集まるというのは、夫々の会社での立場が知れるようで感慨深いものがある。自分のことはわかっていたが、やっぱりそうですかって感じで苦笑いしかない。山は深い。クライミングは恐ろしい。

高橋 記
【記録】
10月24日(水)晴
 一ノ倉出合発0600、本谷バンド0930、一ノ倉岳山頂1330、中芝新道、一ノ倉出合着1630

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