■奥秩父/笛吹川西沢渓谷上部ゴルジュ(七ツ釜五段の滝〜不動の滝)

2011.7.9
鮎島、伊佐見

七ツ釜五段の滝F1と登攀ライン

七ツ釜五段の滝F3〜F5 と登攀ライン

七ツ釜五段の滝F1を登るイサミ

七ツ釜五段の滝F4を登るイサミ

七ツ釜五段の滝F5を登る鮎島

不動の滝を登る鮎島
 西沢渓谷。
 幾度か写真で見るにつれ、その美しさに惹かれるのは私だけではないだろう。特に、七ツ釜五段の滝は日本の滝百選というのもうなずけるぐらい、名瀑だと私は思う。しかも、観光地であるという障害を除いて、ただの登攀対象としてみれば、決して登れない滝ではないところがまたニクい。しかし、ここは観光地。このような観光地、とくに山梨県でも多くバスツアーが組まれるほどの人気観光地であれば、人の目というのが一番厄介となり、登攀対象という視点にはなかなかなりづらい。
 ところが、私はひらめいた。観光客から晒し者となるのが問題なら、彼らが来る前にやっちまえばいいじゃん!ということに。そう、これまで、ゴルジュはあったかくなるときに取り付くという概念があったが、発想を転換して、早朝から取り付けば、人がいなくて静かなクライミングができるわけだ。
 昨年、蛇喰渓谷で単独で試し、その有効性を確認。今年も、奥多摩随一の観光ゴルジュである「神戸岩ゴルジュ」でもう一度、その作戦が有効であることを再確認。その後、最終的な目標をこの西沢渓谷に定めることにした。
 例会にて、プランを出せば、トウェルブクライマーのイサミが付き合ってくれるという。いやーうれしいね。意外と早く、チャレンジする機会が訪れたわけだ。
 前夜、毎度のごとく、「音入庵」(ただの公衆トイレ)の駐車場でテントを張って、早朝出発に備え、酒も飲まず、就寝するが、直後に探検部かWVかわからんが、ハイエースで若者集団が来て、騒ぎやがる。うるせぇぞ、このやろ。お前ェらはどうせ、東沢で出発に余裕があるんだろうけれど、うちらは西沢なんじゃ、ぼけ。観光客がぎょうさん来る前に登りたいんじゃ、ぼけ……とは、もちろん言わないが、まぁ、しょうがない。

 朝、3時起床で3時15分出発。15分で準備できるって早いでしょ。これが大学山岳部出身者の実力です。

 暗闇の中、ヘッドランプをつけてそそくさと歩く。イサミは、午前中で終わるであろう西沢渓谷だけじゃもったいないとのことで、「おかわり」で東沢釜の沢を遡行する(イサミにとっては東沢の足慣らしで西沢渓谷をやろうとしてたのかもしれないが…)ため、東沢出合に泊り装備をデポ。なおも、暗くてよくわからない西沢渓谷遊歩道を進み、1時間ちょっとで工事中の方丈橋についた。ここが、七ツ釜五段の滝の取り付きである。
 ちょうどよく、空が白みはじめ、登攀具を準備、いらない荷物はデポし、ちょっと進むと、西沢渓谷七ツ釜五段の滝F1があった。…あれ。当初の目論見では、8mぐらいかな…と踏んでいたけれど、で・か・い!12mぐらいあるんですけど。。。。。


●七ツ釜五段の滝F1(12m)

 前夜、車の中で話していた通り、イサミがリードすることにする。
 右壁から取り付き、ナイフブレード一本打って、中間テラスへ。ここまで一歩が悪い。なにせ、この沢の岩質は花崗岩なのだが、花崗岩の沢特有のヌメりが甚だしく、ほぼフリクションは信用できない。
 中間テラスに、残置ハーケンがあったらしいが、手で触ったら抜けた。でも、中間テラスでナイフブレードとエイリアンで中間支点をしっかりとって、核心部へ。…っと、す・すげぇ〜。レイバックしている!こんな、ヌメヌメの岩質で、レイバックかよ!さすが、トウェルブの実力はすげぇな!イサミ、がんばっっ!!
 っと、案の定(?)、足のスタンスが“ツルっ”と滑りフォール…。まぁ中間テラスでのランナーがバチで効いていたため、問題なし。
 気を取り直して登りなおしていくが、フリーで登るのはあきらめたらしい。レイバックで登ろうとしていたガバに、しっかりエイリアンを決め、2手ほどA0して、後は慎重に登って行った。やるなー。特に、落ち口はフリクション勝負で、高度感もあって怖かっただろうな。
 なお、イサミはフェルト靴装着だが、わたしはステルスラバー靴。…このヌメヌメは、さらに相性が悪い。フォローでも怖かった!

●七ツ釜五段の滝F2(5m)
 当初からF1はちょっとシビアなクライミングになるだろうと思っていたが、このF2は楽勝だと思っていた…。しかし、F1を越えてみると、F2は明らかに弱点がない。右?左?どうすんの?という感じ。まぁ、右かな…ということで進むが、大きな釜を持っており、ヌメヌメ右壁をヘツりトラバースするのも少しイヤらしい。
 っで、右壁は70度くらいのスラブ。ところどころ”しわ”があり、頑張れば…と思わなくはないが、かなり厳しいクライミングになること必至で、さらにヌメヌメが追い討ちをかける。リスは見る限りないしなー。…いやー、ボルト打てば、楽勝なんだけれどね。というわけで、巻いちゃうことにした。まぁ左岸まきなので、右岸にある遊歩道は一切使っていないので、念のため。途中、悪い潅木になるので、いちおうロープを出した。

●七ツ釜五段の滝F3(1m)
 まぁ、ここは右岸を行けば簡単に行けそうだったけれど、一度、沢にズリズリ下りるのも面倒だったので、そのまま左岸を巻いちゃった。ただ、今となっては、面倒がらず、ちゃんと右岸をヘツればよかったなぁーとちょっと後悔。まぁ、明らかに簡単なんで、どっちでもいいけどね。

●七ツ釜五段の滝F4(4m)
 このF4が、日本の滝百選に選ばれた七ツ釜五段の滝の中でも一番美しい滝であろう。かつ、突破に関しても一番の核心だ。登るとすれば、左壁しかないが、釜は渦を巻いているし、壁そのものにリスはあんまりなさそうだし、ちょっとハングしているし、見る限りなかなか厳しそうだ。ただ、そのハング壁を3mほど登れれば、中間テラスがあって、その上は登れそう…。
 時間はまだ6時半。ちょっと、水は冷たいので、ウェットを着込み、ライジャケもつけて、前晩の車内での約束どおり、鮎島が突破口を切り開こうとするが、、、、うーん。わからん。左壁にリスはあるんだけれどな、足は立たないし、渦巻きの流れが速すぎて、泳ぎながらハーケンを打つという芸当はできない!2〜3度トライしてみたものの、ダメで、選手交代。
 っと、イサミ選手、入水!……すると、「ここ、立てるじゃないですか」と左壁の中で一箇所立てる場所を発見、ずり上がった。っっえ、マジで?ガーン。
 しかし、立てたものの、その上には、イサミの身長ではギリギリ手を伸ばしたところにしかリスがなく、なんとかナイフブレードを打ったものの1cmしか入らないらしい。それでもタイオフ用スリングを巻いて、アブミに乗っても落ちない!あー、よかったね☆(^○^)
 そこで体を安定できれば、その10cm上にロストアローバチ効きのリスがあるので、安心。しかし、問題はこの上。リスがまったく無いらしいのだ。ラープを差し込んだり、いろいろ試していたが、本当によいのがないらしい。幸い、手を伸ばしたところに、いいリップがあるそうなのだが……ということで、スカイフック登場!
 下から見ているこちらとしては、「うっふぉ〜。ま〜じ〜で〜」という感じで、ドキドキです。なにせ、スカイフック、本気の場面で使っているヤツ、クライミングをはじめて12年だけれど、始めてなのです。断じてないのです。そう、わたしのスカイフックは、購入後8年、一度も使われていなかったのです。こんな場面でようやく、私のスカイフックに日の目が当たるとは…、他人のクライミングながらドキ☆ドキ★(○゚▽゚)o)なのです。
 話を戻そう。イサミは、かのスカイフックにアブミを掛けたのだった。そして、立ちこんだ。
 ――わたしはその瞬間を忘れない。後ろから見ているだけだったけど、たいそうシビれたのだ。皆さん、わかりますか。ヒロシはその瞬間、確実にとても輝いておりましたデス!そうやって、中間テラスにたどり着き、あとは、慎重に登って、滝上まで。いやーやったね!GJ(グっジョブ)ですよ。
 フォローは、情けないけど、ユマーリングで。いやー、けっこうカブってるのね。
 ともあれ、いいものを見た。イサミ、ありがとう。(@⌒▽⌒@)

●七ツ釜五段の滝F5(3m)
 まぁ、見た目はF4のおまけみたいだが、実際に登るとなれば、これもけっこう渋い。ここは、今日、まったく出番のない鮎島がリード。
 これまたヌメヌメの左壁を右トラバース。最後、水流左を登るが、傾斜は緩いスラブだけれど逆層やんけ!それにヌメヌメやんけ!まぁ、リスがあるので、ナイフブレードを打つが、中途半端にしか入らない&ハーケンの向きが抜ける方向ということで、アブミに乗り込むときは、ちょっと嫌な感じやね。それでも、滝上に届かず、もう一本、ナイフブレードを打つが、こちらはさらにも増して、グラグラ…。まぁ、それでも乗るしかないからね。そんな感じで、なんとかビビりながらも、登れましたわ。あぁ、ダメだなぁー、おれ。


 時間はまだ7時半過ぎ。当初の予定でも、まぁこんな感じかな、と思ったが、イサミはまだまだ遊び足りない様子。もう少し、上流の様子を見てみませんか?ということで、5分ほど平凡な渓相を溯るとで、大きな釜を持った4m滝が出現した。左岸上には廃墟と化した建物があり、エアリアには不動小屋跡という文字があった。なるほど、この滝は不動の滝と言うらしい。。


●不動の滝(3m)
 とにかく、大きな釜を持っており、泳いで取り付くなんて絶対に無理。しかし、右壁には、ずっとクラックが走っているので、それを使えば、突破できそうだ。ということで、鮎島がリードで取り付く。
 エイリアン青からキャメロット#1.0をすべて総動員。これでもか!と駆使して、10mほど左アブミトラバース。いやー、快適快適!ここはキャメロット#2.0とかがあっても使えただろうね〜。落ち口にナイフブレードを叩き込み、慎重に越す。残置もない中、心地よいトラバースができるぜ。


 地図を確認したら、不動の滝で西沢渓谷は終了らしい。
 というわけで、終了。イヤーよかったね。右岸を適当に登って、遊歩道に登り、方丈橋のデポ地点へ。途中見る七ツ釜五段の滝はやっぱりすごいね。大満足。

 今回、目標とした七ツ釜五段の滝の2段目と3段目は巻いちゃったけど、イサミ選手のおかげで、なんとか、格好つく形で登れ、私としては満足です。でも、F3はともかく(誰でも登れる)、F2の直登はちょっとどうするんだろうね。まぁ、そこは後続のイマジネーションに任せるとしたい。
 しかし、今回、初登かなと思ったが、F1にハーケンがあったことにビックリだし、逆になんとなく、同じことを考えていた人がいるということで、うれしい。でも、残置はとにかくなく、楽しいクライミングとなること請け合いなので、東沢のホラノ貝ゴルジュとセットで楽しむというスタイルもありなのかな、と私は思う。しかし、早朝ゴルジュというスタイルは間違ってなかったと思うけどね。

 なお、今回、おかわりで「不動の滝」も登ったことで、西沢渓谷上部を結果的に登ったことになった。となれば、次は中部・下部ゴルジュ突破だね☆っということで、来る途中は、暗闇でまったく見れなかった、中部・下部の滝や淵を下山の際にオブザーベート。
 …正直に言います。下部(魚止めの滝〜三重の滝)、中部(竜神の滝〜貞泉の滝)は…とてもとてもムリッす。少なくとも、我々二人には明らかにレベルが高すぎるように見えました!!なにせ水量が多く、見るからに流れが強い上に、弱点が見当たりません。下部ゴルジュの三重の滝下…笑っちゃうぜ。中部の竜神の滝…オイオイオイ、まじかよ。
 結局、「西沢渓谷といえば、日本の滝百選の七ツ釜五段の滝でしょ」という思い込みだけで、七ツ釜を目指したのだが、登攀的目標としても結果的にも正しかったようだ。我々の実力の範囲内で遊べるのも、上部ゴルジュだけだったみたいですわ。ま、頑張れるひと、頑張ってくださいな☆。中部・下部は絶対にもっと厳しいよ。

 というわけで、我々は途中から、渓谷見物から、すれ違っていく観光ハイカー見物に変更。
「今の山ガール、可愛かったッスね〜。東京来て、本当に山ガールいるんだなぁと感激ですよ。オッッ。また山ガールだ…。………。うー、なんだ…。オバサンじゃないですか…。オバサンが山ガールファッションはちょっと似合わないですよね…。(オバサンなんて、ワークマンのドカヤッケ着てればいいんですよ)」
 誰の発言とはいわないけれど、私はそうは思わないことだけは、この際、明記しておきます。※()内は実際には言っていないものの、明らかに雰囲気的にね。

2011.7.11 鮎島 筆

【記録】
7月9日(土)晴
 駐車地0315、七ツ釜五段の滝F1下0430、七ツ釜五段の滝F4下0600、不動の滝下0750、終了0850、駐車地1100

【使用装備】
 ロープ30m×1、ハーケン(ナイフブレード、ロストアロー)数枚、カム(エイリアン青〜赤、キャメロット紫〜赤)、スカイフック、アブミ1s各自、ユマール、ライフジャケット各自
※花崗岩独特のヌメヌメがあるため、足回りはフェルト靴の方が良いと思う。
※不動の滝はキャメロット#2.0、#3.0も有効だが、なくても何とかなる。
※ウェットスーツとライフジャケットは、あってもなくても良い。水に浸かるのは五段の滝F4のみ。ただし、F4の釜の巻き込みは強いので要注意。



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