奥只見/袖沢南沢岩穴沢左俣～白石沢スラブ(仮称)

※北貝ノ嵓とする資料あり

メンバー：佐藤、佐野、荒井（敬称略）
日程：2014年10月4～5日
形態：遡行＋クライミング（継続）

「白石沢スラブ」と聞いてピンとくる人はほぼいないに違いない。「『貝の嵓スラブ』の対岸にあるスラブ」と言えば、かなりマニアックな沢屋ならイメージが湧くかもしれない。
奥只見湖にひっそりと佇む高低差200ｍ、スリ鉢状300度に広がる真っ白なスラブは、ところどころ紅葉に色を染めた山々に囲まれ、まさに日本の秘境といった感じだ。
記録上では昨年2013年10月に気鋭の山岳会「童人トマの風」が初登（トマさんは初登と言える程の困難度はないとして、未踏スラブの完登というニュアンスにしている）し、我々が第二登だろう。
スラブ自体の登りは1時間程度、グレードもⅢ級程度であったものの、沢から岩へ、そして沢を降りて山を終えるスタイルは、「山をやったな」という充実感を十分にもたらしてくれる。

≪はじまり≫

2012年10月、佐藤が貝の嵓スラブへ行った際に見た白石沢スラブ、「あっちにもヤバいスラブがあるね・・・」と、そこまでに留めた。貝の嵓スラブでも十分すぎるほどの秘境。アプローチは沢を遡下降、斜度45以上のバックウォーターを延々。ジメジメしたスラブに苦しめられた。イヤというほど「山」を味わった後で、白石沢スラブの計画を立てようなんて人はいないだろう。「この手のヤツは当分ゴメンです！！」これが本音に違いない。
それから1年後、トマさんが人跡を残したことは、佐藤の「熱いハート」に火をつけてしまった。「またアレをやらねば！！」。
さて、普通に考えれば、情報量が極端に少ないこの手のアドベンチャーで一番の課題は同志が集まるかどうか。幸い、山登魂には「記録がない」「良く分からない」「最後は気合でしょ」のフレーズに弱い猛者が少なからずいるのが素晴らしい。佐野、荒井が「何かイイっすね」と参加を申し出る。

≪10/3≫

金曜の夜出発。関越自動車道の小出ICを降り、とある場所で幕営。25時30分くらいから入山祝を始める。佐藤、佐野と言えば、山登魂の重鎮。私は会役員を務めている立場なので、話はいつものアレだ。「山登魂とは何ぞや」。個人山行を可能な限り認めることと、会としてのまとまり、この二律背反のテーマは、山登魂の中核に近づけば必ず突き当たる。いつも酒を飲みながらラビリンスの奥へ奥へと入り、いつの間にか暗い袋小路の中で寝てしまう。

≪10/4≫

雨の中、二日酔いの頭を抱えながらせかせかと準備を始め、昨日の議論は棚の上。良し！今回も我々は山登魂である。
奥只見ダムの駐車場に車を止め、約２時間のアプローチ。袖川沿いの林道は良く整備されているが、南沢の林道は崩壊。ゴーロを歩き、岩穴沢の出合へ。そこから、左俣、左沢へ。ナメが多いが、ヌメる。沢靴はアクアステルスよりもフェルトが吉。悪い滝も２か所ほどあったが、すべて直登で楽しませてもらった。
沢を詰め、ピークへ。この周辺の植物は背が高く、ヤブこぎも大変だが、奥只見湖へ延びる尾根を見つけるのが難しい。右手には広大なスラブがチラチラ見え隠れし、ついつい右手の急傾斜に寄ってしまう。2時間ほどヤブをこぎ、やっと白石沢が見えてくる。急傾斜のスラブが隠れている急斜面では、尾根の末端に出てバックウォーターを歩くのがセオリー。が、みんなに疲労の色が出だす頃、失敗することは何となく分かっているのに、やっぱりこの選択肢を取ってしまう。「うぉ～！！一気に降りるぞぉ～！！」我々は急傾斜を白石沢へ目指して落ちるように下る。そして、スラブに出くわし、登り返し。はい、我々は山登魂です（笑）
白石沢と湖の接するポイントは、ほとんど整地する必要もないくらい平で、おまけに乾いた流木がゴロゴロと転がっている。盛大に炎を上げ、前を見れば大スラブ、後ろを見れば湖の静かな佇まい。これ以上の幕営地はそうそうない。

≪10/5≫

台風が関東に接近するこの日、雲が重く垂れこみ、大スラブにもガスがかかる。スラブ登攀を前にピーカンなら安心感があるが、こうした雰囲気が作り出す秘境感もまた堪らない。白石沢には2か所、巨大なチョック・ストーンが沢を塞いでいたが、ちょっとしたワイド・クライミングと思えば直登で楽しめる。沢のドン突きで顔を上げれば、高低差200ｍ、300度に広がるスラブのパノラマ。ボルトもピトンも、人工物が何もない巨大なスラブ。今までこんな岩に出くわしたことはないし、今後もおそらくないだろう。一か所垂直にえぐられたグルーブになっているラインがあり、興味を惹かれた。しかし、いかにフリクションが良いとはいえ、プロテクションが取れないそのラインに取り付くのは命がけだ。Ⅲ級程度のラインをフリーソロで歩き、1時間程度で最上部。そして時を同じくして雨が降り出してきた。
帰路は右沢を下降。２か所ほど悪そうに見える滝があったが、懸垂はいらない。
沢から岩への継続、そして雨に打たれながら沢を降りて山を終える。秘境、奥只見、存分に味わわせていただきました。