佐藤、佐野
2014年11月8日
たまにはハイキング&温泉で癒されようと話していたはずが、だんだんハードな案にシフトしていき、これと決めたところを地図まで買って相談したのに、最後にぽそっと出てきた案は明星山頂上岩壁だった。
なにそれ?面白そう!でも、全然知らない。いや、そういえば鮎島の記録を見たような…。調べるから少し待ってくれ。
明星山といえばP6南壁で私には対象外と思っていたが、そんな視野の狭いことではいけない。頂上だってあるはずだし、そこに岩壁から登れるなら魅力的だ。
調べると言っても資料は登山大系と鮎島の記録 「明星山頂上岩壁第二ガリー」 しかない。登山大系は頂上岩壁の大まかな位置と雰囲気のみだし、鮎島の記録も山岳詩人モードで結局何が何だかわからない。 でも、今読んでみるとかなり詳しく書いてあるじゃないですか。まあ、事前に見てもわからないことには変わりはないけど。
しかし、今の時代便利なものでネットで航空写真を見た結果、おおよそのイメージができた。それでも岩壁の登攀ラインまではわからない。ルートらしきものは唯一、鮎島が単独で登った第二ガリーだけだが、それにはこだわらない。その場に立ち、我々の五感の赴くままに登った結果、同じところを登ることになるかもしれないし、俺たちのラインになるかもしれない。自由だ。頂上を目指し沢からアプローチして壁を登る。細かいルートの情報なんていらない。いいね!これでいこう。
今シーズンはこの種の山を何度かやってきて慣れているので調度良い。ってことで翌日OKした。
佐藤「頂上って言葉に弱いのよ」
佐野「ははは、そっか。 じゃあ行ってみますか!」
よし、やるぞ。
上信越道で日本海にでて糸魚川経由でアプローチ。明星山P6南壁前の駐車場で泊。我々はわざわざここに泊まる必要はないのだが、なんとなく。月明かりにP6南壁が浮かび上がっている。
暗いうちからクライマーがガチャガチャと準備しているが、我々は二度寝し、さらに鍋を火にかけてもう一寝入り。我々がアプローチに向けて移動するころには、すでにフリースピリッツ(たぶん)のクライマーのトップは3P目(たぶん)を登っている最中だった。それにしてもたくさんいる。観光案内板に「ロッククライマーRock Climber」と名物のように絵が入っているのもうなずける。
アプローチの発電所に近い集落をうろうろして車の置き場を決め出発。歩いていると、工事の車が何台も通り過ぎて行った。しまった、出発がおそすぎたか。声をかけられ、通さないとか言われるのかと思ったら、熊がいるから気をつけろとのこと。親切にありがとうございます。
さて、林道を経由し、アイツ沢出合いを通過、出合いでは水量がそれなりにあるが、そのまま林道で上部に回り込み、再び出合うと、水は無い。そのかわり一面の藪。それも山の稜線近くの藪とは違う、里の藪のような感じ。木ではなく、草の藪。蜘蛛の巣や、とげのある草や、蛇や、毛虫に悩まされそうな痒い感じの藪。 それはともかく、ここから頂上岩壁が良く見える。今回の秘密兵器の双眼鏡で観察したが、とくに何かがわかるわけでもなかった。
意を決して藪につっこめば、なんのことはない、縦横無尽に走る獣みちが助けてくれる。ときどき人間にはやさしくないところもあるが、それでも藪をまともに漕ぐことに比べれば10倍ましだ。 アイツ沢自体は地形図から読める通り、浅い沢で、滝などの悪場はない。反面、谷筋がはっきりしないので見上げればとにかく藪で、よく俺たちめげないな、と思う。というか口にしていたけど、もちろんこんなことでめげるはずはない。わざわざよくわからん山に来ているのだから、これぐらい覚悟のうえだ。前を見るとそんな感じだけど、後を見ると、どこかの集落が雨飾山や焼山をバックに美しい。一見の価値ありだと思う。マッターホルンみたいだ。春に登った雨飾山南尾根が思い出される。あれも楽しかった。
だんだんと急傾斜になっていく、つい左寄りに進路をとってしまっているが、これは正解だったと思う。上部では、右側は頂上岩壁の右側のルンゼから吹き出す石で航空写真からもはっきりわかるほどのザレザレ、ゴロゴロ地帯だからだ。
結果、最後まで樹林ぽいところを辿って、それほど苦労せずに頂上岩壁に着いた。さて、どこを登るか。一見して「ここ」というところは見えたが、鮎島の登った第二ガリー(仮)を偵察に行く。しかし二人とも、最初からそっちは気が乗らず、結局もとの方にもどって取り付くことにした。やっぱり最初のインスピレーションは大切だ。
どっちが先に行く?との問いに、俺が行くと答えたのは、「見た感じ簡単そう。へへへ、見えてる分1ピッチ目の方が気楽だしな。あとはよろしく」くらいのノリだったのだが、後悔した。アプローチから見た感覚より、実際は傾斜が強い。一見どこでも登れるように見えるが、よく見るとそうでもなくて、ここしか無いというところを登った。
2P目の途中から鮎島と同じラインに入ったと思われる。彼の記録に右へ右へと書いてあるように、我々も右へ右へだった。その後、確かに二俣があり、我々も右股に入った。最後は藪を20m登り、稜線へ、そしてさらに激藪を50mくらいで山頂だ。ここの藪はシャクナゲで、山の藪らしい藪だが、僅かな距離とはいえ堪える。鮎島の記録には山頂直下の藪なんて書いてなかったけどなあ。 山頂も藪っぽいが展望はきく。白馬岳も雨飾山も焼山も雪がついている。青海黒姫のこちら側は切り取られてしまっている。なんとなくはるか彼方に見えている陸地は能登半島か。
さて、時間が押しているのでさっさと降りよう。下山道は2つあるのでどちらにするか迷ったが、早そうな西側のサカサ沢のルートへ。しかし、落石もあったし結構悪かった。しかも降りた後、我々の駐車地まで3kmの歩きだ。どうにか真っ暗になる前に駐車地へたどり着けた。
「なんじゃこりゃあ」というのが最初の感想だった。藪をこぎ、壁を登り、ガレ場を詰めて、さらに藪をこいで山頂に立った。確かにやり遂げたが、欲を言えばもうちょっとすっきり頂上に出られたら良かったのにな、というところか。
翌日、改めて明星山を見に行く。まずは高浪の池へ。高浪の池へ案内する看板には「日本のスイス」とかおかしな文言が書かれているが、確かにそんな感じだ。そこからの戻り途中の集落から東面を見て、昨日登ったルートを確認する。小雨がぱらつく天気だけど頂上岩壁ははっきりと確認できた。やったね。うれしいね。こうして余韻に浸るとじわりじわりと喜びがわいてくる。 ついでに、興味を引かれるのは南山稜だな。あれは楽しそう。いつか登れるかな。
この山登りはなんだったんだろう、と思う。鮎島は記録で「....この充実感は何物にも代えられない。それは、自分の描いていた以上のもの、いや何も描いていなかったからこそただ無心に頂上へ、頂きへと導かれるままに進むという動作、この単純な作業がたまらなく快感だったからに他ならない。」と言っているが、そうなのだ、その場で自分たちの五感を頼りに頂上を目指す原始的で自由な山登りをしたのだ。記録の少ない未知なる山というよりは、自由な山だ。 ここを提案してくれて、そして一緒にやり遂げた佐野さんには感謝だ。もっと想像力を働かせて対象を広げていきたい。より自由な山登りを目指して。
小滝瀬野田集落駐車地0800 - アイツ沢の藪突入0830 - 取り付き1130 - 山頂1430 - 小滝川 1610 - 駐車地1650
ロープ40m、ハーケン3、沢靴、クライミングシューズ
※カムは使えず。ボルトは敗退用なので未使用。双眼鏡は途中で持っていることすら忘れた。
2014.11.21 佐藤益弘