会越/御神楽岳 霧来沢 前ヶ岳南壁V字第二スラブ

【日程】

2015年5月17日(日) 前夜発日帰り

【メンバー】

佐藤、佐野

【報告】

前ヶ岳南壁V字スラブ。快適な時期は初夏か秋だろう。夏は暑くて地獄。紅葉の時期が魅力だけど、そういえば昨秋に考えたときは雪が予想されたので却下となったのだった。 初夏は雪渓利用でさくっと取り付き、きもちよくぐいぐいとスラブを登るのがいい。時期が早いとスラブに雪が残ってしまうが、今年は雪解けが早そうなので調度いいだろう(これがそうでもなかったわけだが)。 そういうわけで、金曜の深夜に佐野さんからフリーの予定が無くなったのでどうかと聞かれれば、トレーニングの予定など放り出してここに即決した。

つくば駅1900集合。途中で晩飯を食べたりしながら、那須塩原から国道400号で、ナビで適当にセットしていた本名駅に0時前着。本名駅は集落の中で、車も停められない。登山口への林道に入ってみるが、じめじめしていて、霧が漂っていて、あまりいい感じじゃないので、結局少し戻って見つけた大きな駐車場で泊。この林道のじめじめと霧は、雪渓からのもので、「まさかこんなところから雪かよ」とは思ったものの、計画段階ではむしろ雪が少ない可能性を問題にしていたので、まあいいんじゃないかと気にせず飲んで寝る。

5時起床の予定も、二度寝して5時半起床。林道に入ってみると、途中で何台か駐車している車があった。山菜採りだろうか。案外奥まで入れるのだろうかと思って進むと、やはり橋が途切れていたので、そこに駐車する。そこに居たジムニーのおじさんによれば、「橋が落ちていて通れない、過去何度も橋が落とされている」とのこと。通過するときに下を見ると文字通りコンクリートの橋がそのままの形で落ちていた。

林道を歩いていくと、じきに雪に埋まる。橋が落ちていなかったとしても、車はそれほど奥まで入れなかっただろう。それよりも、二人とも「あれ?雪多くない?」と思ったはずだ。

雪の上を歩いていくと、唐突に「御神楽岳登山口」の立派な看板があった。ここから登山道のようだ。眼下の霧来沢は雪代の濁流で流れも速い、とくに八乙女滝のあたりはすごい迫力だ。八丁洗の坂と呼ばれるナメで沢に降りてみたがヌメヌメですべるし、水がものすごく冷たいのですぐに道に戻った。このあたり沢と新緑がとても美しい。しかし、この登山道は、デブリに埋まった谷をトラバースしたり、沢を渡渉したり、泥壁のトラバースがあったりと気が抜けない。帰りに風呂であった地元のおじさんの話では、以前は小学校の5,6年の遠足で登ったと言うのだから驚きだ。

登山道が沢を離れ始めたので、沢に下降する。すると、すぐに二又。たき火の跡があった。ここから谷は雪に埋まり雪渓歩きとなる。これは目論見通りで、不安定なスノーブリッジなどは無く、ざくざくと進んでいく。

雪渓を歩いていくととすぐに、奥壁スラブの気配。「ここを曲がると見えるかも」と進むと、バーンと出ました。しかし、でーんと雪渓が。下部の雪渓はともかく、中間部にある割れ目だらけの巨大な雪の塊がいただけない。佐野さんがすかさず「あれじゃないよね」と言ったが、気持ちはわかる。でも、事実は曲げられない。「あー、こりゃだめだ」「敗退かあ」。でも、近づいていくと、遠目に見るより、傾斜もなく安定しているようだ。それから、遠くからは大きく、いやらしく見えた出合のチョックストーン滝も、小さく容易に登れそうだ。ならばもう少し進んでみるか。

チョックストーン滝付近は、見た目より悪く感じたが、今年初めての沢登りのせいだろう。このセクションを超えると再び大きな雪渓。沢靴の雪渓登りは結構しんどいし怖い。実際滑落すれば一番下まで止まらないだろう。このあたりから、改めて中間部の雪の塊を観察すると、右岸側のスラブをずっと進めば、支障はなさそうだということがわかった。

雪渓が切れるところからスラブに乗り移り、思い思いに登っていく、巨大な雪の塊が乗っていたのはV字の広場のあたりで、ここは左側からやりすごし、第四スラブ出合で中央に戻る。第四スラブからはときおり落石があり、恐ろしい。第四スラブ出合付近をトラバース中、佐野さんの頭の50cm左を小石がブンブン音を立てながらかすめ飛んでいった。

ここで休憩し、クライミングシューズに履き替える。流水のあるところから登れそうだが、ロープが欲しい。もっと右のルンゼへ回り込めば容易に登れそうだがそこまでのトラバースが怖い。さっさとノーロープで行こうとしている佐野さんを止めて、ここから登ることにしてロープを引いて行って貰う。流水のあるコーナーから取り付き、リングボルトのあるスラブを直上し、ブッシュ伝いにロープ一杯まで。残置ハーケン1つとリングボルトが2つあった。どれも相当年期が入っている。ここはロープ出して正解。核心部だった。もう1ピッチ、ブッシュの中をアンザイレンしたまま進んで、快適なスラブに出た。このピッチはロープ不要だった。

この先は、階段状の快適なスラブとなり、ぐいぐいと登る。ただし、傾斜は増してくるので、調子に乗って進むと進退窮まりそうになる。でも、楽しかった。ここがハイライトだ。

そろそろ詰めかというところの草付きテラスで休憩し、沢靴に履き替える。詰めは、本流らしきところは急傾斜な草付に雪渓が乗っかっているので、左のガリーから。ここは脆いスラブで、沢靴に履き替えたせいもあるが、悪かった。掴めるホールドがないので意味はないが、今日初めて軍手を外した。

稜線に出ると藪こぎだ。他の記録では楽そうに書いてあったが、堅い灌木で、短いが油断ならない藪こぎだった。数々の藪に耐えてきたジャージについに穴が空いてしまった。1145mのピークを越えると雪渓があって、広々としたところに新緑のぶな林が美しい。雪渓をさくさくと快調に進んで登山道に出て小屋に着いた。

本名御神楽山頂を往復。稜線はひんやりとした風がここちよい。山頂は晴天にも恵まれ周りの山々がよく見える。見慣れない山々が新鮮だし、まだらに残雪が残る山肌が春だなあ、という感じで気持ちがいい。

登山道を下山中、前ヶ岳南壁が見えるので、登ったところを確認する。でかく、ぶったって見えて、なかなか見栄えがいい。もちろんV字スラブが目立つが、スラブ群全体が雰囲気を創り出していて、迫力をアップさせている。

期待以上のスラブだった。雪の下になっていた部分は多めだったかもしれないが、それは些細なこと。十分楽しめた。下山中の登山道から、「おお!あそこを登ったのか、すごいじゃん!」と眺められるのがまたいい。前半は雪の多さと沢の濁流に「本当に行けるのだろうか?」と不安で一杯だったが、それも山登りの面白さだ。新緑の森と沢、残雪の山並みが美しく、周囲の山と沢に興味が涌いてくる。今回も新鮮な、いい山登りが出来た。佐野さんありがとう。

それにしても、鮎島の往復4時間弱って、どうなってるんだ? 早すぎるなんてものじゃない。ブヨにくいつかれない速度ということか。すごすぎる。我々は順調に登ったつもりだけど9時間。しかも、いつも以上に疲れた気がするので結構ハードだったのだと思う。ブヨにも喰われまくり、数日たった今でもかゆい。

2015.5.19 佐藤益弘

【記録】

大石田沢出合付近駐車地07:00 - 御神楽岳登山口07:20 - 二又08:50 - V字スラブの沢出合09:20 - 稜線12:45 - 避難小屋13:10 - 本名御神楽岳13:30 - 御神楽岳登山口 15:40- 駐車地16:00

【使用装備】

ロープ40m、ハーケン1
※雪渓でルートの取り方に制約を受けることがあるのでロープは必要だろう

【風呂】

湯倉温泉の共同浴場 ※お湯がとてもよい。石けん、シャンプーの備え付けはない。

【写真】