■南アルプス/甲斐駒 尾白川本流ゴルジュ(敗退)[沢]

2020年8月9日(日)ナベ・イデ


06:20 尾白川渓谷駐車場~06:40 千ヶ淵20m滝~09:30 神蛇の滝~11:20 不動滝~12:55 不動滝上~15:30 7mCS滝右上~18:00 左岸のロープ外せる傾斜に脱出~18:50 尾白川左岸林道(幕営) ⇒ 翌朝下山


ザクロ谷を狙っていたが日本海側の天気がはっきりしないので、天気のよさそうな尾白川に転進し前夜泊。ハイカーが滅茶苦茶多くてびっくり。

軽トラの上にテント張る人なんかいて、山の遊び方も多様化しているなあと思う。

我々はゴルジュ遊びというマニア道一直線。今日もウェット・ライジャケという変態装備で出発。


神社で安全登山を祈願したのち、神社の裏の吊り橋から入渓してすぐ圧倒的水量のF2(千ヶ淵の滝)に巻きを強いられ、出鼻を挫かれる。

不動滝までは白く明るい花崗岩帯で、大渓谷を満喫できる。横に遊歩道があるからという理由で敬遠するのはもったいない内容。

泳ぐところが多いが、都合の良いホールドがあったり、意外と立てたりする。崩壊の影響で砂が多く、堆積で埋まる一方、水量が多いため完全には埋まらず、深いところが短い。また、巨岩帯が印象深い。乗り越えたりルーファイするのに疲れるが、洞窟ごっこできたりして楽しい。一ヶ所、滝の右壁登って草付きに入ったらワルかった。結構太い木がフレキシブルで、足もズルズル、痺れた。

 

千ヶ淵の滝。しばらく降ってないはずなのにすごい水量。巻き。

 

巨岩が多い。

 

 

右壁登って草付きでハマった滝。

 

渓相がいい。渓谷道があるという理由でパスするのはもったいない。

 

泳ぎあり。

 

ジャンプあり。

 

洞窟あり。雪渓処理と草付き処理以外の沢登り要素が詰まっていて、結構おススメです。

(草付き処理も、我々のように読み違えると出てきますが…)

 

 

神蛇の滝。観賞用(登れない)滝も多いが、奇麗なのでOK。

 

で、いよいよ不動滝。

予定ではコイツを登ってフィックスして、翌日上部のゴルジュ、だったが、なにしろ昼前に着いてしまった。しかもハイカーが何人もいる。

 

不動滝


先に進んで明日早めに帰ろう、ということでいったんもどって左岸の支流(渓谷道)から高巻きに入り、岩壁基部のバンドを快適に進むが最後にルンゼで断絶。もうあと少しで滝上なのだが…

 

再度戻って、吊り橋下辺りで出合う支流の辺りから滝右岸高巻きに入る。途中でピンクテープ発見するが、踏み跡はないに等しい。そのままトラバースをかけていくと良い感じで滝に近づいていくが、こちらもあと一歩のところでエグい斜面になる。行けなくは無いが高巻きでここまで危険を犯すことはなかろうと、尾根に上がる。この辺りでウエット着たままの我々はオーバーヒート気味。水もない。休み休み高度を上げ、トラバースをかけられそうな斜面を見つけたのでそこからトラバース。腐った倒木を跨ぐ箇所が少々ヤバかったが問題なくクリア。やっと沢が見えた。腐った&ぶっ立ったルンゼの下の方に沢が見える。

懸垂一発(30mロープ2本)ではギリ届かなさそうだがGO。途中に立ち木はあるがことごとく断崖にあり、懸垂のセットがかったるそうに見えたので、とりあえず末端まで下りてみる。案の定10メートルくらい足りなかったが、なんとかクライムダウンできそうだ。イデやんを迎え、イデやん発案で岩壁にへばりついた根っこにロープを回して、補助にしながらクライムダウン。

 

前方は、全く逃げ場のないゴルジュに白濁した小滝。おそらく大西さん「渓谷登攀」トポの7mCS滝。後ろは2mS字か?白い大岩が印象的だ。ロープが30×2しかないので、後方の不動滝を降りるのは難しいだろうし、今降りたルンゼを登るのはちょっと考えにくい。最も、右岸左岸含め全ての側壁で一番マトモそうではあるが…

まあなんとかなるでしょ、ととりあえず泳いで小滝に突っ込んでいく。右壁のクラックにカムを決めて一休みしてから突っ込んでいくが、下部と違い全然浅いところがない。秘密兵器のファイントラックの手びれを動員するが、たくさんの水をかける=腕力が必要で、元から相当な水泳力がないと激流では意味ないアイテムと発覚(ダム湖泳ぎなんかには良さそう)。

 

仕方なくトポに従いナベが右壁のクラックをA1。イデやんは岸からビレイ、一旦クラックの出だしまで荷揚げした。

こんなモロエイドになるとは思ってなかったのでギア不足。ヌンチャクが全然足りないし、スモールカムはもう1セットあっても良かった。何度もバッククリーンして牛の歩みで横クラックの中の柱状部分まで。柱には残置スリングがある。ちなみにこの手前、クラックはカム3番サイズで、3番など持ってきてないのでチョックストーンにアブミでちょい痺れた。

残置があると言うことは懸垂か?荷揚げ&イデやんを迎える。

ここに、最初の泳ぎトライ含めて2時間以上かけてしまい既に15時半…

 

7mCS滝に突っ込むナベ

 

右壁をエイドで突破する

 

協議し、とりあえず一段下までナベだけ懸垂。これも振り子気味の懸垂でトリッキー。

一段下からは予想通りの絶望的風景しか見出だせず、上をみても、ビレイ点から先にはバンドなど見えない。ただの急傾斜の草付きしかない。だいぶ上方に木が見えるので、あそこまで登ってトラバースか?しかし、午前中に登った草付きより遥かに悪そう…ほぼ垂直である。

 

先の様子。降りた先、水流沿いは無理そうなので、右壁に都合のいいクラックがあったりするんだろうか?

(なかったらどうすんだ?)

 

イデやんが行ってくれると言うので託す。カム4個くらい決めてエイドトラバース。いよいよクラックが途切れたので草付きを直上。時折土砂が落ちてくるが、いつイデやんが一緒に落ちてくるか気が気ではなかった一方、「俺の番じゃなくて良かった!」とも若干思った。(なお、土砂が落ちてきたのは、岩を掘り出してプロテクション決められる所を探したためです)

 

だんだん日が陰ってきて、「このまま一旦林道に上がって明日また下降するか」とか考えていると、やがてロープが引かれたので解除し、荷揚げ。つっかかったので、メインロープが引かれるのを待ってフォローし、荷揚げザックを下から小突きながらフォローするが…いやー、ヤバイですこの傾斜。午前の草付きよりなぜか滑らないが、太い木が全然ない上、傾斜が強い。そんななかでもイデやんは必死こいて泥を掘って、カムやらハーケンやらを決めていた。ハーケンはロープテンションしないと抜けませんでした…その後はユマーリングしてしまったので難しさは俺には分からないが、マジで死んでもおかしくない場所だったことは断言できる。というか、掘ってみたらスラブじゃなくて良かったなあ~。

 

クラックの途切れたところから直上するイデ。

この先プロテクションとるためには土木工事、しかも運が悪ければ掘っても何も出てこない…

 

ビレイ点で合流。

 

ナベ「ナイスクライミング!生きてて良かった!」

イデやん「いやーマジでヤバかったっす。このまんま林道に上がりません?もう敗退でいいっす」

ナベ「俺ももうこんなとこ二度と拝みたくねえよ!」

 

と言うことでエスケープに入る。尚も油断ならないので2ピッチロープを出す。適当に登りやすそうな所を登っていると水が滴っており、4時間ぶりの水。かなり回復。林道まで標高差残り50mをヒイヒイ言いながら上がり、林道に着いたときはもうヘッドランプギリギリだった。

林道で幕とし、翌日下山。

 

(記:ナベ)


【イデ感想】

 

ザクロ、行きたいでござる。と押さえきれない気持ちを抱きつつ天気予報を睨み日本海側の低気圧を北へ逸らすべく念を送る平日を過ごしたにも関わらず、ナベさんの「ハンノキ滝出現したな」に心を砕かれ、もう近いところでいいやと半ば投げやり気味に尾白川ゴルジュへの転進となった。

沢登りを始めてから3回目くらいに黄連谷を遡行したこともあってまぁなんとかなるやろと、ろくにトポも読まずに軽い気持ちでむしろかなり舐めて尾白川へ向かった。

 

須玉で降りると大型のスーパーがあり、早い時間に前乗りすると前泊はかなり充実する。おしゃんを気取り、最安値の甲州ワインと胡麻豆乳鍋の具材を買い込み無料駐車場へ乗り込んだ。なかなか充実した宴会を開催し早めに就寝した。

翌日は5時に起床し、久しぶりのガチな沢装備に若干もたつきながら装備を整えたが、久しぶりの沢泊だったので色々忘れた。反省してます。。。

 

とりあえず歩き始めると、すぐに駒ケ岳神社が見えてくる。一応手を合わせてから、即入渓。

朝一なので水は冷たいが、岩は綺麗だし水量も豊富で気持ちいい。やはり泳げる沢の方が好みだな。

 

程よいゴルジュや巨岩帯を楽しんで、無駄にアブミ使ってエイドしたり、ショルダーしたりして遊んでいるとあっという間に不動滝に着いた。

まだ昼前で、ここで幕とするのは早すぎると思い軽い気持ちで先へ進んだ。

 

不動滝の高巻はかなりしんどかったが降りれそうな尾根を少々下り、左脇のルンゼから懸垂で沢床(おそらく2mS字と7mCSの間。ただ今になってトポを眺めると写真とは明らかに異なり、合っているか不明)へ降りると、まるでザクロのような風格のゴルジュであった。興奮してテンション上がるものの、尾白川の水量でこの狭さはヤバイだろ常孝と内心ビビっていた。

案の定水量がヤバくて水線は無理。釜というか淵があってハンマーも届く距離じゃない。トポに従い右壁クラックをエイドする。

 

1p目はナベさんが登り、2p目をイデが登った。

トラバースラインが途中で切れており、クラック沿いにトラバースは出来なかった。仕方なく草付きに直上する凹角のラインが見えたのでそこを登ることにした。

岩から草付きに変わるセクションで明らかに傾斜が強くなる。また手掛かりにできる植生は全くなく、岩に被さる草付きを剥がして慎重にプロテクションをセットしてからクラックムーブを探る。ハンドジャム、フィンガージャム、フットジャム、ガストンなど、およそ草付きで起こすことのないムーブを全て使った。

 

草付きではランナウトを避けられないので、ジャミングで身体を安定させて草付きを剥がし浮き石を落とし、プロテクションをセット、それからムーブを探り、身体を持ち上げる、をひたすら繰り返し12,3m程登る。

そこから徐々に傾斜が寝始め、草付きが暑くなり、細い植生が現れ始める。マントルを返すように草付きに乗り込み、慎重に身体を引き上げ、植生からプロテクションを取る。木が現れたところでロープいっぱいとなりピッチを切る。痺れた。

 

会心のクライミングをし、この一本でヘロヘロになった。

この時点でその後のゴルジュをこなす自信は無く、敗退することをナベさんに提案した。

 

あとは尾根筋から林道を目指した。

めちゃくちゃ疲れた。

 

(記:イデ)


【テクニカルインフォメーション】

 

「渓谷登攀」を読んで、ゴルジャーがこの夏、大挙(?)して押し寄せるだろう。

正解ラインを教えて欲しい、知りたい、と言う気持ちと、他の奴も敗退しねえかな~(笑)という気持ちがせめぎ合っているが(笑)、上記の通り敗退しようにも命懸けで、本当に死んでもおかしくなかったので、何点かテクニカルインフォメーションは展開する。

 

1.敗退を考えると、安全に敗退するためには不動滝の下降しかないと考えられる。そのためには50メートルロープのダブルがマスト(初下降は50×2だったそうだ)。

2.前進用には打つべきではないが、もしもの下降を考えるとやっぱりボルトも持っていくべき。

3.エイドセクションで、ギアが足りず時間食った。我々はアルパインヌンチャク4、ヌンチャク2くらいしかもっていかなかった。かつ、軽量化のためにカラビナに2~3個まとめてラッキングしていたが、これがギア不足に拍車をかけた。我々のようにカラビナに複数カムをラッキングするなら、ヌンチャクは7本くらい欲しい。なお、カムはキャメz4(#0、1)、マスターカム(#1~3)、キャメC4(0.4~2)を各1+ナッツ一式、ボールナッツ#1・2を持っていった。ナッツはあまり決まらないが花崗岩なので決まるとボンバー。これ以上なく安心する。スモールカムは重くないので2セットあってもいい。ナベはクライミングシューズに履き替えたが、ずっとエイドだったのであまり効果なかった。とはいえ、フリーに切り替える場合もあるかも?

4.不動滝は左壁の三日月状コーナークラック~フェース~ハングに押さえられながら抜け口へ右トラという明瞭なラインが見えるが、これを登るなら3番まで2セットは欲しい。

5.不動滝の上のゴルジュに昼ないし午後から突っ込むのは無理がある。朝から取りつくべき。

6.神社~不動滝までの区間は、若干巨岩帯がかったるいものの、バラエティに富み楽しい。水圧だけ注意すれば危険個所はないので、キャッキャ言いながら遊びに行くのもいいかも。混みまくる丹沢の小川谷廊下よりは楽しいと思う。

(記:ナベ)

 

トポを見て多くの沢屋が尾白川に入るだろうが、舐めて上部ゴルジュに入ると死体かボルトを残置することになりかねないので、入るなら心して入ってもらいたい。

大西さんは、4段14aを登る一流のクライマーで、称名廊下をワンプッシュかつノーボルトで登る絶人とも言うべき超一流の沢ヤなんだ。常人じゃない。

尾白川ゴルジュは残置もほとんど無く非常に美しい。安易にボルトを打ってこの美しい沢を汚して欲しくない。

またいつか強くなってからリベンジしたい。

(記:イデ)


 

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