■北ア穂高岳/梓川支流・下又白谷~前穂北尾根4峰正面壁・北条-新村ルート[沢&登攀]

2020/09/19(土)~22(火) 伊佐見(記)、葉狩


2020/09/19(土)

6:40バス~7:10上高地~9:30下又白谷出合~10:50F1取り付き~13:05F1落口~13:45F2取り付き~15:00F2落口~15:50F3取り付き~16:30行動終了

 

沢渡駐車場からバスで上高地へ。お互いバラバラにバス乗り場へ向かったら、迷子になって会えなくなる。沢渡のバス乗り場って足湯の上にあるのか…。反対方向に歩いて行ったんだから止めてくれよな。

 

上高地から徳沢まで歩き、新村橋より下流の橋から下又白谷出合へ。扇状に何本か広がる出合のガレ沢のうち一番北側のものから登って行ったら、茶臼尾根へのびる支沢へ上がってしまい、ササ藪漕ぎで修正する羽目になってしまった。ここは面倒くさがらず、ちゃんと本流のガレ沢からあがるべきだったか。

 

真ん中の沢が下又白谷

 

実はF4はいつも見えていた

 

水の流れる本流を歩いていくと前方に前壁が迫ってくる。両岸に崩れた雪渓があり、雪少なく猛暑だった今シーズンはもうブリッジも無いのかと思ったのだが、沢が右へ90度曲がるとやや小ぶりになったそれが現れる。ブリッジは遠目にF1側と左岸支沢側の2か所に大きく貫通しており、恐る恐るF1を見に行くとF1のすぐ右側にもシュルントが入っていた。ココをくぐって左岸支沢にあがり、そのまますぐ右手にあるカンテ状を灌木が生えているところまで100mほどあがった。

 

ガレ場を登る。すぐ先に水が流れていた。前方に前壁。

 

両岸に雪渓が残るのみと思ったのだが

 

雪渓、残ってた

 

F1と左岸支流側に穴が2つ

 

F1

 

F1のすぐ右にも穴が開いていた

 

ここからF1落ち口に延びている尾根を越えるべく灌木を繋いでヤブ斜面を左上する。出だしから最初の灌木までが悪く緊張した。本流からかなり上がってきており、その後の下降を考慮するとライン取りに迷ったのだが、ドンピシャで先駆者の懸垂下降点(木に巻いた紫と白の残置スリング)に当たった。

 

そこから沢床まで50mいっぱい懸垂。悪いヤブ斜面をロープを出して登る

 

F1の上の様子。奥にF2が見える。

 

F2下段。右手で持っている辺りはボロボロ

 

小滝を登り、F2の下段へ。ツルツルのスラブをフリーで登ったが案外上部の傾斜が強く、フォロー用にロープを出す。上段はチムニー内を20m近く流れ落ちていて手が付けられないので、ホールドの多い左岸のフェースを登り、スロープ状に傾斜が落ちたところでカムとピトンを埋め込んで落ち口までランナウト。岩固く、ピトンを打つのもクライミングシューズのソールをこすりつけるのも気持ちが良かった。

 

F2

 

F2右壁を登る

 

F2を超えると左岸から菱形岩壁への支沢が入り込み、本流は左へ折れる。小滝を越えると沢はまた右へ90度曲がりF3ゴルジュが現れる。

 

F3ゴルジュは3段30mほどで構成されており、両岸切り立っていて逃げ場はない。下段は土砂で埋まって1mほどになっていたので難なく越えられた。中段にはまず右上するクラックが走り、その先が傾斜の強いスラブとなっていたが、全体が水流に覆われていて困難に見えた。カッパを着込み意を決してクラックに取りつく。水圧に抗いながら左足のジャミングを上げていくのが難しく、一瞬持っていかれて落ちそうになった。クラックを登りきるとチムニー状になっており、キャメ1番を決めて一息休憩。冷水を浴びて体が冷えてしまった。この先が問題で本来は右コーナーをカムエイドで登れたようだが、今回は水が流れており、水圧が強く手を出せない。投げハンマーもやってみたが投擲力不足…。水を真正面から受けながら試行錯誤したため冷え切ってしまい、血迷って右後方に走るクラックをカムエイドで試登してみたが、傾斜がやや緩くなる辺りで乗りあがろうとマスターカム青を強引に横引きで上がっていたところコレが抜けて釜へフォール。突然落ちるとビレイヤーは驚いてなかなか下ろしてもらえないもので、下半身が水に浸かったままロープに引かれて身動きが取れず、完全に冷え切ってしまった。戦意喪失。

 

当初の予定もここまでだったからしょうがないかと思いなおし、本日はゴルジュに詰まった土砂の上でビバークとした。寒くなって動けないので葉狩さんが地面をならしてくれ、土砂から抜いた枯れ木で暖をとった。越えられなかった滝がゴウゴウとなる中、憂鬱な気持ちになった。ここまで残置はなく、敗退するのも困難に違いない。唯一の希望はネット記録にあった右壁にあるボロいリスのエイドだが(ココは電波が入った)、かなり不安だった。


2020/09/20(日)

6:30F3取り付き~11:00F3落口~11:30F4取り付き~14:30F4落口~16:30奥又白池

 

深夜雨が降る予報だったが、曇り空のまま降らなかった。

朝からカッパを着込み、やる気をだしてF3中段に取りつく。下部のクラックは水圧を受けつつも案外すんなり登れ、右壁のリスへピトンを打ち込む。ネイリング中は足元に常に水流が当たっているので、安定しないうえに冷たくて体温を持っていかれる。またトラバースであるためなかなか距離が出ない。

 

4本目のピトンを比較的岩が安定していそうなピトンスカーみたいなところに打ち込む。その時アブミをかけていた2本目のピトンがずれ動くのが視界の端に見えたので、3本目に全体重をかけて4本目にアブミをかけようとしたのだが、その瞬間3本目のあたりの岩がはげ、1本目のピトンもろとも釜へフォール…。一晩充電したやる気を消費してしまい、かなり参ってしまった。

 

それでもココは突破しなければならない。ノロノロとまたクラックに取りつく。今回はすんなりとはいかず、割と長く滝に打たれてしまう。再度ネイリングで進み、件の4本目からまたピトンスカーみたいな広めのところへ5本目を打ち込み、抜けないようリスに対して垂直に荷重をかけながら落ち口をマントリングで越えた。手が冷え切ってしまい、感覚が薄くて怖かった。登り切っても全身が冷え切っているので、吐く息さえも冷たかった。

 

F3中段を臨む

 

『岳人100名谷』のF3写真。

通常より水量が多かったのか、以前はなかった岩のせいで流れが変わったのか

 

F3中段。フォールした際残したアブミが見える。

 

F3中段を登攀

 

F3上段は葉狩さんに登ってもらう。一か所マスターカム青を決めたこと以外はすべてナイフブレードの浅打ちというしぶいエイドで登り、後半はヘッドがつぶれた残置ピトンが数本あった。落ち口がバランスクライミングになり悪かった。

 

F3上段

 

F5は巨大なCS滝だが右岸が階段状になっており、簡単に登れた。

 

F4 1ピッチ目

 

F3を抜けると予報外れで晴れた。凍えそうになっていたので日向ぼっこをして回復する。徳沢が見えた。F4(100m)は浮石の多い右岸ルンゼを1ピッチ登り(葉狩)、2ピッチ目ハング帯(伊佐見)は直登できず、左の崩壊しそうなフェースから巻き登った。3ピッチ目(葉狩)は水流を横切り、左岸のスラブを登るが、プロテクションがあまりとれない中で落ち口はバランシーなスラブ登りとなるのでスリルがあった。

 

F4 2ピッチ目

 

F4 3ピッチ目

 

F5

 

4峰正面壁。壁の中ほど右側にある白い面が崩壊面

 

ハイマツテラスから崩壊面

 

4ピッチ目。フォローの荷物は重すぎるので荷揚げした

 

下又白谷はそこからガレ場となり、右手の茶臼のコルに向けて300m登ると奥又白池が目と鼻の先にあった。奥又白池はおいしい湧水もあり、展望もよく、また行きたい場所だった。


2020/09/21(月)

6:00奥又白池~8:00北条・新村ルート取り付き~12:00終了点~15:00前穂高岳~15:20下山開始~16:30岳沢小屋

 

奥又尾根を登り、遭難碑の先にあるケルンからC沢に向かってガレ場をトラバース。下方に登山道があり、落石を起こさないよう慎重に歩く。

C沢のCS滝を越えた先から右の悪い草付きを登るとT1となり、北条-新村ルートの取り付きはすぐ左上にあった。

 

取り付きから右上気味に3ピッチ登ってハイマツテラスに到着。右のフェースが大崩壊しており、春先の地震によるものと思われた。ただしルートはそれを左から迂回するように伸びており、無事であった(もともとルートにならない不安定な部分が崩れただけということか)。4ピッチ目(伊佐見)はハング帯をワシワシ腕力で登る。荷物が重かった。5ピッチ目(葉狩)はピナクルレッジから右へトラバースし、カンテを登っていく。露出感のあるハイライト。それからさらに1ピッチ登ると傾斜が落ちるので4峰まで岩稜を歩き、その先のコルまで。ここから北尾根の核心であり、渋滞の最後尾に着く。どうせ時間がかかるからとロープを出すが、結局ほとんどプロテクションを取らないのでロープを片付けて本峰まで。

 

5ピッチ目

 

北尾根3峰への登り。北尾根ってデカいな

 

頂上からは紀美子平を経て岳沢まで下降。ホシガラスが多く、松ぼっくりをつついている姿は興味深かった。岳沢は初めてで、結構急な沢にあるのは予想外だった。缶ビール500円で祝杯。


2020/09/22(火)

7:30出発~9:30上高地バス~10:00沢渡足湯温泉

 

ゆっくり準備して岳沢トレイルを下る。景色が刻々と変わり、歩いていても飽きない登山道で素晴らしかった。


 

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