■紀伊/大峰山脈 北山川支流 立合川本流[沢]

2020年9月20日(日)~22日(火) ナベ(記)、ハッシー、スガヤン


【前書き】

 

当初は朝日連峰(山形県)の三面川岩井俣沢に行く予定であったが、天気悪く紀伊に転進。こちらもスッキリ、というほどではなく、初日に小雨が降る予報。3日目も怪しい。候補は色々あったが、増水の場合はさっさとその辺の大滝に転進すればいいやと言うことで立合川をチョイス。

 

なお、今回のテーマは「対ヒル・ダニ」。

というのは、近年の紀伊での沢の記録に、あまりにも泊まりの記録が少ない。

立合川は池郷川に次ぐ沢と言われているが、ネットで探すと、上まで抜けているのはなんとか片手を満たす程度。多くは幻の大滝見てから遊歩道に上がって日帰り、みたいな記録である。

この傾向は池郷川も同様で、記録はほとんどが途中で遡行を打ち切って林道に上がり、次回(場合によっては次の日)に打ち切った所から再度入渓するパターンが多い。

池郷の場合はゴルジュ突破要素が多いので、泊まり装備を荷揚げしたり担いで泳いだりしたくない、言い換えれば、遡行スタイルより登攀スタイルを優先させたい、ということなんだろうが、それに加えて「泊まるとヒル・ダニに食われる」というイメージも影響している、と考えられる。

 

そこで今回我々は、ヒル・ダニに関する情報や過去の遡行記録、そして我々自身の体験から、「小石が積み上がったような河原ならまずヒルは出ないし、ダニも出ないだろうから、そういうところで幕とする」という仮説・方針を立て、さらにディート10%配合の虫除けを三人で200ミリ持参し、ヒルの気配がするところや、寝る前に使用した。

 

結論から言うと、上記仮説・方針は今回に限ってはほぼ正しかった。毎回正しいとは限らないが、それなりに対策すれば大きな被害は出ない、くらいのことは言い切っていいのではないか。

 

以下、ヒル・ダニ対策に重点を置いて記録する。

なお、沢登り的記録に関しては、「日本の渓谷97」に掲載されている大阪わらじの会の吉岡章さんが書いた記録&遡行図が完璧で、我々が何か言う必要はない。というか、あまりに完璧すぎて、体感グレードが下がること必至。この遡行図のおかげでルーファイが楽すぎて、少なくとも5級はないなと思った(楽をしたい向きは頑張って入手しましょう!)。それにしても、大きい支流がなく現在地が同定しにくいこの大きな谷を、GPSのない時代にこれだけ正確なルートファインディングしながら最短距離で登っている吉岡氏らの力量にビビりますわ。


9/19(土)東京→23時ごろ道の駅 熊野・板屋九郎兵衛の里


9/20(日)小雨のち高曇り

06:30ごろ立合橋のハシゴより入渓 ⇒ 08:10幻の大滝~10:00第三ゴルジュ入り口(右岸大高巻き)~13:15うしお滝下~14:30ごろ第5ゴルジュ手前左岸にて幕

 

立合橋西側の駐車スペース(3台ほど)に駐車し、そこにあるハシゴから入渓。以降、泳いだり高巻いたりしながら、素晴らしく変化に富んだ渓谷美を堪能。

左岸高巻きで遊歩道に上がった際にヒルに集られたが(若干パニクりつつ)ディート噴霧しまくって幸い被害無し。幻の大滝も見られたし満足。吉岡氏の遡行図では「うしお滝」とされている大滝(大系では40m大滝)も迫力があった。しかしあまりにもヌルヌル過ぎて、昼過ぎ頃からモンベルのゴム底靴を履いているスガヤンのスピードが落ちてきた(モンベルのゴム底サワタビを履いているハッシーはヌルヌル対策に、タビの上から靴下を被せている。それなりに効果ありとのことだが昼を過ぎる頃には大穴が開いていた)。

「うしお滝」を過ぎて若干長い河原で、二つ目の極上物件を発見、明日中に下山し1630頃上葛川発のバスに乗るためにはもう少し進んでおかないと間に合わないが、あまりにもいい幕場であったことと、水責め&ヌルヌルで結構ヨレてしまっていたこともあって安易に妥協。

水流横の河原には小石で一段高い平地が形成され、その背後には大量の薪が見える森がある。ここならば河原で焚火&ゴロ寝でき、雨が降れば(ヒル・ダニが出そうだが)背後のさらに一段高い土手(森)に張ったタープに逃げられる。まさに理想的な幕場。早速避難用タープを張ったり薪を集め火を起こすが、この際にヒルを3匹ほど発見、すりつぶして焚火に放り込んでやった。薪を取りに森に入ったときに「お持ち帰り」したと思われる。なお、飲み始めたころスガヤンの首から流血、ヒル一匹が吸血&逃亡に成功した模様だ。スガヤンはこれが初ヒル被害とのこと。

薪には杉が多く、良く燃える。

 

滑り止めで靴下を沢タビ(モンベルのゴム底沢タビ)の上から履くハッシー

 

ナメで喜ぶ男たち

 

激流系ではないが、よく泳ぐ

 

幻の大滝

 

ゴルジュ高巻き中

 

よく泳ぐ

 

泳ぎたくないので流木渡り

 

こういうのも出てくるがたいてい難しくはない

 

ゴルジュ→ナメの連携がすごい。渓谷美が凝縮。

 

きれいだな~

 

ヌメリに苦戦するスガヤン

 

いかにも大魚がいそうだが、魚は「ムツ」しかいない

 

また流木

 

ボルダリング

 

うしお滝(スガヤン撮影)

 

テンバにて。ヒルにやられました。

 

テンバ(翌朝撮影)


9/21(月) 06:40ごろ幕場発~12:00ごろ最後の17m滝ゴルジュ~14:30ごろ奥の二股手前にて幕

 

今日も何回か泳ぐが、「流れに逆らってクロール」的な泳ぎではないので、寒さだけが問題。また、昨日ひどかったヌメリは、第6ゴルジュを越えた辺りから改善されてきたとのこと。第8ゴルジュ抜けた後の17メートル滝はハッシーリードで突破。ゴルジュ突破要素はこの部分くらいだったが、最後にこういうのができて良かった。

ここまで来てしまうと沢全体がかなりの傾斜で、なかなか良いところがない。土手も含めれば三人くらいまとまれるところはあるのだが、我々はあくまで土の上は拒む。なんとか渇れた沢の上に焚火を囲えるスペースを見つけ、その近くの河原に分散して寝る。ハッシーとナベの寝た場所は河原と土手のミックスといった趣で若干の不安があり、寝る前は首や顔面にディート噴霧。おかげでか?ダニに食われなかった。ヒルは標高的にこのあたりには出ないのかも知れないし、気温的に動けなかったのかもしれない(朝方は10℃くらいに冷え込んだ)。相当土手の上を薪取りに動いたにも関わらずヒルは見なかった。本日も盛大な焚火。 

 

 

いい幕場(第六ゴルジュ抜けたところ)。

ここまで来ていれば2泊目に終バスに間に合う時間に抜けることが可能。

 

以下写真を適当に。

 

 

 

 

 

 

以下、 最後の17m滝。

 

 

 

営林小屋跡。水さえあれば最高なのだが…

 

奥の二俣手前で幕


9/22(火)06:30幕場発~07:40笠捨山~09:50ごろ上葛川バス停

 

本日はツメと下山のみ。

奥の二股を左にとり、すぐ先の二股も左にとる。急なガレ谷は落石しそうで怖く、滝っぽいところから左手の尾根に上がり、岩峰をかわしながら登っていくとやがて蛇崩尾根に出た。笠捨山を踏んで、葛川辻から上葛川へ下山。何ヵ所か崩壊しており、あやしい桟道も散見されたが、日中にクライマーが降りるなら特に問題はないレベルだった。

上葛川で一休みしていると、集落の方(厳密には実家を維持しに時々戻られているとのこと)からお茶をいただく。

奇麗な沢で、最後に人情のダメ押し。いい沢ができた。

なお、最終的に、三日間でダニ0、ヒルは8匹程見て1匹に食われた。


【インフォメーション】

 

○『「ダニ・ヒル対策」=ほぼ幕場選定』と言える。

上記のように幕場に気を使ったことで、被害を最小限に抑えることができた。テンパるとたくさん使いたくなるので、ディートはもう少しあっても良かったかも(今回は10%を300ミリ)。

毎回今回のように行くとは限らないが、参考にしてほしい。

 

2013年のぶなの会・みつおさんらの記録では、特にダニ・ヒル避けの参考にさせていただいた。この場を借りて感謝したい。初日にダニに就寝中に集られても心が折れないのがスゴい…自分なら帰ってます…

 

○幕場はゴルジュ間の河原に点在している。寝られればいいならどこにでもある。今回のようにヒル・ダニ対策として厳選するなら…

1.第4ゴルジュ抜けた後大滝(うしお滝)手前の左岸にホテルみたいな極上物件あり。遡行図どおり。前夜発で寝てない場合はここを目指したい。

2.大滝を抜けた後~第5ゴルジュ手前の河原はそこそこ長く、この間に極上物件が二ヶ所。遡行図どおり。

3.第5ゴルジュ越えたところにまあまあの幕営適地が一ヶ所(96年の大阪わらじ吉岡氏らの幕場)。

4.遡行図には書いていないが、第6ゴルジュ越えたところの中洲周辺もいい幕場。枯れている右側の沢泊・降ったら中洲エスケープで十分。大増水したら不明。

5.第8ゴルジュ手前は、覚えていないが遡行図によると幕場適地ありらしい。ヒル・ダニ的にOKかは不明。ぶなの会・みつお氏らもここに泊まった模様。

 

○八丁河原は完全に伏流しており、我々は幕場を探すという意識で見ていなかったので覚えていないが、あれだけ平らなんだからどこかしら幕場はあると思われる。

ただし当然水はない。途中で汲んでくればいいだけの話だが、水場が近くにない場合の焚火は慎んだ方がいいと個人的には思っている。まあ河原のど真ん中なら大丈夫だろうけど絶対は無い。延焼は本当に怖いですよ…(特にこの八丁河原は、右岸が植林で、ここに飛び火したら山火事必至)

 

○八丁河原周辺での幕場参考記録:沢ヤカ男のブログ『立合川(たちあごう)リベンジ』

数少ない上まで抜けている記録。珍しく笠捨山ではなく茶臼山に抜けている。

この記録では八丁河原に注ぐ支流から給水した?と思われる。それができれば最高と思われる。ここからなら上葛川の昼のバスにちょうどいいし。

 

2020年9月現在、上葛川からのバス(瀞八丁線、田戸橋バス停下車)は日に二本。12:30ごろと16:30ごろ。これが幕場の選定をさらに複雑にしている。

我々は想定外に早く下山してしまい、バス停近くで作業されていた方に挨拶したところお茶などご馳走になり、それでも時間をもてあまし、金で解決(つまりタクシー)しようとしたものの、十津川村唯一のタクシーは「今出払っている」とのこと(金で解決できないことがあるってことだ!)。歩いていたら親切なカヌーイストの方に拾っていただき、スガヤンだけ車の鍵もって下山、車回収して残り二人をピックアップした。

林道にチャリデポがシンプルでいいかも知れない。登り返しは最後に国道に上がるとき位だった気がする。

それにしてもこのコロナ禍にあり、お茶を振る舞ってくださった方や載せてくださった方がいらっしゃる。ありがたいことだと思う。お茶を振る舞ってくださった方からは「また来なよ」と言われたが、ハッシーは来週も池郷川の予定(さすがに物好き過ぎて言い出せなかった)。

ちなみにこの方から昔話を聴いたところ、子供のころ、上葛川から八丁河原まで杉の苗をボッカ(40キロ)するバイトをされたとか…昔の人は強かった、としか言いようがない。

 

○魚は、ハヤみたいな小魚(上記の地元の方は「ムツ」とおっしゃってました)が群れでいます。歯磨きしてペッてやったらそれに集ってきたくらいなんで、悪食外道の旨くない魚と思われる。体長もマックス7センチくらいしかなかった。天ぷらなら旨いかも(地元の方は「うーん、あんま食わねえな」とのこと)。

 

○今回初めて液晶のついていないカメラ(キャノン・FV-100)を使ったら、一回スマホと同期しないと時計機能が働かず、撮影日時不明。いつも画像の撮影日時から記録を起こしているのだが、細かい時間が不明となってしまった。


【あとがき】

 

ジジイになったらもう一回行ってもいいくらいの、簡単すぎず難しすぎず、それでいて超絶奇麗な沢だった。

ゴルジュ、ナメ、キレイ系河原と変化に富み、それが飽きないタイミングで来る。名渓。下部だけで帰るのはもったいない。

ダニ・ヒル対策して泊まりで行くことをお勧めする。

そしてダメ押しの上葛川での歓待、乗せてくれたカヌーイスト、道の駅おくとろの温泉&飯。うん、やっぱりもう一回行ってもいいっすわ。(ナベ)

 

橋の上から見る立合川は、深い森に覆われており、こんなところ渓谷があるのかと疑いたくなるような雰囲気であるが、沢に下りると一変。ゴルジュの多い沢旅が始まる。

全体的にゴルジュ→ゴーロorナメ→ゴルジュという感じで、各ゴルジュのメインの滝は、通常は巻くことになる。

巻き上がると、石作りの古道なども出現し、歴史ある山であることがうかがえる。

各ゴルジュ内のメインの滝前後は、泳いだり、ボルダリングしたりして超えるので楽しい。

また、各ゴルジュは、ナメが綺麗で癒し系の沢の側面もある。

沢全体的に大理石のような岩質で磨かれており、かつヌメっており、フエルトのほうが良いと思う。

快適さを選ばなければ、各ゴルジュ間どこでもビバーク可能。

薪も簡単に集まる。ただ、ヒルが出るので寝る場所は、河原の方がよいだろう。

国土地理院の地図からは読み取れない興味深い沢と感じた。

総じて、大峰の沢のポテンシャルは高い。

また、人もいい。下山後には上葛川の集落の人にコーヒーをごちそうになった。ありがとうございました。

また来たいと思う。(ハッシー)

 

非常に変化に富んだ沢で、今まで登って来た沢の中で1番綺麗で楽しかった沢でした。

唯一の失敗はラバーソールで行ってしまった事。南紀の暖かさからなのか水中でもツルツルの岩があったり、全くフリクションが効かない所が多数あり。

ビバークポイントではヒルに血を吸われてしまった。初吸われでしたが、吸われた事に待ってく気付かず…

遠出した甲斐がありました。機会があればまた関西の沢に行きたいです。(スガヤン)


 

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